Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【言語著作物の侵害性】ダイエット本の侵害性が問題となった事例

▶平成26829日東京地方裁判所[平成25()28859]▶平成27225日知的財産高等裁判所[平成26()10094]
() 本件は,原告が,被告Aが著作し,被告会社が出版する被告書籍(題号「1日1分から 1本のバンドですっきりスリム 巻くだけでやせる!」及び題号「腰痛・肩こり・ひざ痛 巻くだけで痛みをとる!」)の発行は,原告の著作した書籍(「原告書籍」題号「バンド1本でやせる!巻くだけダイエット」)の著作権(複製権,翻案権)及び著作者人格権(同一性保持権,氏名表示権)を侵害し,又は不正競争防止法2条1項1号若しくは2号の不正競争に当たると主張して,被告らに対し,原告書籍に係る複製権,翻案権,同一性保持権又は氏名表示権に基づき,被告書籍の複製及び頒布の差止めなどを求めた事案である。

1 争点1(著作権・著作者人格権侵害の成否)について
(1) 総論
著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),対象物件がアイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,当該物件の作成は当該著作物の複製にも翻案にも当たらない(最高裁平成13年6月28日判決[江差追分事件]参照)。
そこで,原告書籍と被告書籍とで同一性を有すると主張する部分(侵害を主張する部分)が表現上の創作性がある部分といえるか,創作性のある部分について,被告書籍から原告書籍の本質的特徴を直接感得できるかについて検討する。
(2) 表紙画像(別紙対比表No.1)について
ア 原告書籍の奥付を見ると,【カバーデザイン】及び【撮影】の担当者の氏名が表示されており,原告書籍のカバーデザインや女性モデルの写真について,原告が著作権を保有しているのか否かは必ずしも明らかでない。
イ 上記の点をひとまず措いて,原告書籍の表紙画像と被告書籍1の表紙画像とを対比すると,両書籍は,①上半身裸で下半身に白色の着衣をつけた女性モデルが写っていること,②女性がピンク色のバンドを斜めに巻き付けていること,③背景が白色であること,④題号の主要部分を黒色の文字で二段に表示していること,といった点で共通するが,①原告書籍では女性の首から上は写っていないのに対して,被告書籍1では女性の鼻から下の部分が写っていること,②原告書籍では,女性は原告バンドを向かって左上から右下に向けて巻き付け,さらに腰部でX字状に巻き付け,左上は画面外に消えているのに対して,被告書籍1では,女性は被告バンドを向かって右上から左下に向けて巻き付け,右上は右肩から前方に回され,左下は画面外に消えていること,③原告書籍の題号の主要部「巻くだけ/ダイエット」(斜線は改行を示す。以下同じ)は書籍の左右寸法一杯に文字を配置しているのに対し,被告書籍1の題号の主要部「巻くだけで/やせる!」は左側に寄せ,右側に余白を残していること,といった相違点がある。
上記のような相違点の存在にも鑑みると,仮に原告が原告書籍の表紙画像や写真について著作権を有していたとしても,原告書籍の表紙画像と被告書籍1の表紙画像が,表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。また,被告書籍1の表紙画像から,原告書籍の表紙画像の本質的特徴を直接感得することもできない。
【控訴人は,控訴人書籍の表紙画像と被控訴人書籍1の表紙画像とを対比すると,上記(2)イで適示した相違点①ないし③は表紙画像の本質的な特徴に関わるものではなく,各表紙画像は,むしろ,「スリムアップされた女性の裸の後背部をクローズアップしている点」及び「同系色のバンドを裸の後背部に巻き付けている」という点で酷似しており,これらと上記(2)イで適示された①ないし④の共通点を併せ考えれば,両画像は表現上の創作性のある部分が共通すると主張する。
しかし,「スリムアップされた女性の裸の後背部をクローズアップしている」という点が共通しているといっても,原判決別紙対比表No.1のとおり,控訴人書籍では,女性が真後ろを向いた状態で後背部が写っているのに対し,被控訴人書籍1では,女性は左肩を撮影者側に向けて体をねじり,斜めになった状態の後背部が写っているのであり,具体的な表現内容は異なるし,「同系色のバンドを裸の後背部に巻き付けている」という点も,前記のとおり,控訴人書籍では,バンドを女性モデルの左上方向から右下方向に向けて巻き付け,さらに腰部でX字状に巻き付けているのに対し,被控訴人書籍1では,女性モデルの右上方向から左下方向に向かって巻き付け,腰部には巻き付けていないのであり,具体的な表現方法はまったく異なっている。控訴人が上記において酷似していると主張する内容は,控訴人書籍の表紙画像のうち具体的な表現それ自体ではないアイデアの部分であり,これらをもって,表現上の創作性がある部分で共通しているとはいえないから,控訴人の主張によっても,前記認定判断は左右されない。】
ウ 原告書籍の表紙画像と被告書籍2の表紙画像とは,①女性モデルが写っていること,②女性がピンク色のバンドを斜めに巻き付けていること,③背景が白色であること,④題号の主要部分を黒色の文字で二段に表示していること,といった点で共通するが,①原告書籍では女性は後ろを向き,首から上,大腿部より下は写っていないのに対して,被告書籍2では女性は前を向き,鼻から下,腰から膝の部分が写っていること,②原告書籍では,女性は原告バンドを向かって左上の女性の左脇部から右下の女性の右腹部に向けて巻き付け,さらに腰部でX字状に巻き付け,左上は画面外に消えているのに対して,被告書籍2では,女性は被告バンドを向かって右上の女性の左肩部から左下の女性の前腹部に向けて巻き付け,右上は女性の背部を通じて女性の右腰部から前腹部に巻かれ,女性の前腹部で2本を斜めX字状に交差させていること,といった相違点がある。
上記のような相違点から明らかなとおり,原告書籍の表紙画像と被告書籍2の表紙画像は一見して大きく異なり,表現上の創作性ある部分で共通しているとは到底いえない。また,被告書籍2の表紙画像から,原告書籍の表紙画像の本質的特徴を直接感得することもできない。
【控訴人は,被控訴人書籍2の表紙画像も,女性がバンドを体に巻き付けているという独特のポージングをとっているという控訴人書籍の表紙画像の本質的特徴を感得させると主張する。しかし,前記のとおり,控訴人書籍の表紙画像の女性モデルは真後ろを向いた状態で,その後背部が写っているのに対し,被控訴人書籍2の表紙画像の女性モデルは前を向いた状態で,その体の正面が写っている上,バンドの体への巻き方も異なっており,具体的な表現内容において大きく相違するから,両画像が表現上の創作性がある部分で共通しているとは認められず,控訴人の主張を採用することはできない。】
(3) 付録のゴムバンドの巻き方(別紙対比表No.27)について
原告書籍と被告書籍は,ゴムバンドの巻き方において共通する部分があるが,その具体的な記述文言は異なっている。
著作権法は,ダイエット法等のアイデアを保護するものではなく,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,ゴムバンドの巻き方において共通するところがあるとしても,表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。
原告書籍と被告書籍は,ゴムバンドの巻き方を,女性モデルがバンドを巻いている写真で示すという表現をとっている点で共通するが,いずれもありふれた表現であって,表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。
【控訴人は,例えば,控訴人書籍の「たすきがけ巻き」についての記述は,そのアイデア自体画期的なだけではなく,「バンドを8の字にして」,「両腕を上げて,バンザイします」などの説明表現がその言葉の選択において個性的であり,画像も独特であると主張する。しかし,バンドを一定の巻き方で巻くということ自体は,控訴人も自認するとおりアイデア(思想)であるから,著作権法上の保護の対象となるものではないし,控訴人書籍の具体的な記述をみても,「バンドを8の字にして,両手首にかけます」,「両腕を上げて,バンザイします」という説明表現は,説明対象となる一連の動作を表現するための表現としては,ごくありふれており,創作性がある表現とはいえない。また,同記述に付された画像も,モデルが両手首にバンドを8の字状にかけたり,その手を頭上に挙げているポーズを撮影したもので,当該巻き方を表現するためのポーズとしてはごくありふれたものであり,ポーズ自体が創作性のある表現とはいえない。したがって,控訴人の主張は理由がない。】
(4) エクササイズの方法(別紙対比表No.814)について
原告書籍と被告書籍は,エクササイズ方法において共通する部分があるが,その具体的な記述文言は異なっている。
著作権法はダイエット法等のアイデアを保護するものではなく,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから,エクササイズ方法において共通するところがあるとしても,表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。
原告書籍と被告書籍は,エクササイズ方法を,女性モデルの写真で示すという表現をとっている点で共通するが,いずれもありふれた表現であって,表現上の創作性ある部分で共通しているとはいえない。
(5) 以上によれば,原告書籍と被告書籍は,表現上の創作性ある部分において共通しているとはいえないから,被告書籍を作成することは,原告書籍の複製とも翻案ともいえないし,原告の同一性保持権及び氏名表示権を侵害するともいえない。
[控訴審同旨]