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著作権判例セレクション

【著作権侵害総論】ゲートボールの競技規則書の侵害性(依拠性)が問題となった事例

▶昭和590210日東京地方裁判所八王子支部[昭和56()1486]
2 原告規則書(一)は、競技人員、グランド、運動具、競技法について説明した「ゲートボール競技の仕方」(但し、実質的には競技規則に相当する部分も存する。)、運動具、グランド、競技に関する規則並びに附則を26ケ条にまとめた「ゲートボール競技規則」から構成されており、巻末に運動具とグランドの図面が添付されている。原告規則書(二)は、レクリエーシヨン運動普及の必要性とその一助としてのゲートボール競技を紹介、説明した「レクリエイシヨン的軽スポーツとしてのゲートボールの推奨について」、ゲートボール競技の発祥及びゲートボール競技の特徴について説明した「ゲートボールについて」、原告規則書(一)とほぼ同内容の「ゲートボール競技の仕方」及び「ゲートボール競技規則(26ケ条)」から構成されている。原告規則書(三)は、「はしがき」、ゲートボール競技の発祥及びゲートボール競技について簡単に説明した「ゲートボールについて」、競技用具、コート及び用具配置、競技人員、競技、反則、審判に関する規則及び附則を612ケ条にまとめた「ゲートボール競技規則」並びに昭和28510日に設立された日本ゲートボール協会の規則を定めた「日本ゲートボール協会規約」から構成されている。そして、原告規則書(四)及び(五)は、原告規則書(三)の「はしがき」及び「ゲートボールについて」と同旨の「御挨拶」及び「ゲートボールの発祥について」、競技人員、グランド、競技法等について説明した「ゲートボール競技の仕方」(但し、実質的には競技規則に相当する部分も存することは原告規則書(一)及び(二)と同様である。)、「ゲートボール競技規則(26ケ条)」、「大会時に於ける審判に関する事項」、「応用競技の一例」からそれぞれ構成されている。
なお、原告各規則書中の競技規則に関する部分もすべてAの独創に係るものであり、基本的には同趣旨のものであるが、規則の構成、体裁内容は順次修正されており、それぞれ若干の差異がある。
三 以上の認定事実によれば、原告各規則書は、Aが考案したゲートボール競技に関して、ゲートボール競技のいわれ、レクリエーシヨンスポーツとしての意義、競技のやり方、競技規則等の全部ないし一部を固有の精神作業に基づき、言語により表現したものであり、その各表現はスポーツという文化的範疇に属する創作物として著作物性を有するというべきである。
この点に関し、被告は競技規則を表現した部分は思想、感情抜きで機械的に表現されているから、その著作物性には問題があると主張するけれども、新たに創作されたスポーツ競技に関し、その競技の仕方のうち、どの部分をいかなる形式、表現で競技規則として抽出、措定するかは著作者の思想を抜きにしてはおよそ考えられないことであり、本件原告各規則書の規則自体もAの独創に係るものであることは前認定のとおりであつて、それは文化的所産というに足る創作性を備えているのであるから、その著作物性を否定し去ることはできないというべきである。
四 そこで、次に、被告の著作権侵害行為の有無について検討するに、そもそも著作権侵害とは既存の著作物に依拠し、これと同一性或いは類似性のある作品を著作権者に無断で複製することによつて生ずるもので、仮に第三者が当該著作物と同一性のあるものを作成したとしても、その著作物の存在を知らず、これに依拠することなしに作成したとするならば、知らないことに過失があつたとしても著作権侵害とはならないものと解すべきである(昭和5397日最高裁第一小法廷判決)。従つて、依拠した結果同一性或は類似性のあるものを作成すると侵害行為となるが、たとえ依拠した場合でも換骨奪胎して同一性或は類似性のないものを作成したとすれば、侵害行為は該当しない。
そうだとすると、著作権侵害を判断するに当つては、先ず既存の著作物に依拠したか否かの点が前提となり、依拠した場合に同一性或は類似性を判断することになる。但し、第三者が既存の著作物と同一或は類似のものを作成した場合、それは依拠したことを推認する資料となるうるのであつて、それが酷似すればする程その度合は強くなるといえる。
このような観点から、以下に検討する。
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(四)そして被告規則書(一)の競技規則に関する部分を除く著述は原告各規則書と、その内容及び表現が全く異なつており、右部分は被告が独自に著述したものであり、また原告各規則書と被告各規則書とを対比すると、これらがいずれも競技規則を含むゲートボール競技に関する著作物であるという点において共通するものの、コートの広狭、先攻の順番の決定方法等、双方規則化されているその内容も細部においてかなりの差異があるのみならず、前者においては「競技の仕方」等競技規則以外の説明の文章中にある内容を後者においては規則の内にとり入れ、或は逆に前者において規則とされている部分が後者においては規則として採用されていないなど、その実質的内容も相当程度異なるほか、文章表現、著述構成、その表現形式も両者は明らかに異なつている。
以上の事実を認めることができ、被告代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。なお、本件において被告が被告各規則書を著作、出版するにつき原告各規則書のすべてもしくはその一部を直接参照したことを認めるに足りる証拠はない。
2 右認定の事実によれば、被告規則書(一)は県協会(もしくはその前身たる市協会)制定の競技規則を参考として制定されたものであり、原告各規則書を直接参照し、これを取り入れているとは認め難い。もつともゲートボール競技自体、原告の創作、考案に係るものであり、その規則の基本的骨子部分がすべて原告の発想、アイデアに由来するものであることは前記二1に認定のとおりであるから、被告規則書(一)の土台とされた県協会制定の規則が少くとも原告各規則書の影響の下に作成されたであろうことは容易に推認することができ、ひいては被告規則書(一)も原告各規則書の影響を受けているということもできるけれども、被告規則書(一)が著述、出版された昭和52年当時においては、既にゲートボール競技が全国に発展普及し、各種団体が乱立し、しかも団体ごとに横の連絡がとれていなかつたため、別個の規則が制定されていつたわけであり、既にその時点では、いわば競技そのものが原告の手を離れ、独立して一人歩きを始めていた状況にあつたのであるから、新たに規則を制定するにあたつても当初の原告各規則書とは別に実施されている競技の体験を踏まえ、これに創意工夫を加えて新たな規則書を作ることが充分可能な状況にあつたと推認されるから、被告規則書(一)が原告各規則書の影響を受けたからといつて、これをもつて、被告規則書(一)が原告各規則書に依拠して作成されたということはできない。
そしてこのことは被告規則書(二)についても同様であり、被告規則書(二)が前記四団体の審議の結果作成されたもので、その際直接原告各規則書を参照にし、これを取り入れたという事情が認められない以上、これについても依拠性の存在は否定されざるをえないというべきである。
3 以上のとおりであるから、被告各規則書が原告各規則書の著作権を侵害しているということはできない。