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著作権判例セレクション
【著作物の定義】万年カレンダーの著作物性を否定した事例
▶昭和59年01月26日大阪地方裁判所[昭和55(ワ)2009]
第一 著作権に基づく請求について
一 (証拠等)によれば、以下の事実が認められる。
1 原告は昭和47年ころカレンダーとは別に索引表を設けた万年カレンダーを考案し、本件カレンダーを創作し、昭和47年4月6日本件カレンダーにつき特許出願し、右出願は実用新案に切り換えられ、その後本件実用新案として登録された。
2 従来のカレンダーとしては当年限りの各暦月と暦日、七曜の表示に止まるものが一般的であり、万年暦としては回転式、スライド式、或いは複雑な換算表や計算表を用いたり、各月毎に七曜表の文字と日付の数字をぎつしり羅列したものがあつたが、本件カレンダーのような索引表を設け色彩で分類した万年カレンダーはなかつた。
3 本件カレンダーは、甲第一号証が最上段に「numberless COLOR CALENDAR 1917~2084」、中段に万年暦、下段に索引表を設ける構成になつており、右索引表は「カレンダーの見方(知りたい年月日即ち年号(横の数字)と月(上欄の数字)の交点の色を下のカレンダー(数字が印刷されたもの)の色にあわせて見て下さい。)」の文字の下に赤色、橙色、黄色、緑色、青色、藍色、紫色に塗られた各月の第一日目が日曜日、月曜日、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、土曜日から始まる七つの月を設けており、前記万年暦は、左欄に1917年から2000年までを28年ごとに三列に配し(ただし、一部昭和の表示を併記し、うるう年には特別な記号を付している)、右欄にも同様に2001年から2084年を三列に配し、中央上段に1月から12月までを表示し、年を横軸とし、月を縦軸とし、その交差する所に索引表と同じ色で塗られた長方形を配しており、甲第二号証はカレンダーの左欄に大文字で「色でみるふしぎなカラーカレンダー」その右横に小文字で「過去・未来にわたつて168年間つかえるカレンダーです。楽しかつた思い出や将来のご計画などにいつまでもご愛用ください。」と表示し、その下に各祝日を記載し、カレンダーの中央に甲第一号証と同じ万年暦を表示し、その下に「カレンダーのみかた 知りたい年号(横の文字)と月(上段の数字)の変わる色をさがし、右側にあるその色のついたカレンダーを見ます。たとえば、あなたの誕生日が1945年(昭和20年)1月1日なら橙色の色のカレンダーを見ます。一日は月曜日です。」と表示し、更にカレンダーの右欄には甲第一号証と同じ索引表(ただし、カレンダーの見方を除く)を設けその下に各月の誕生石が記載されている。
4 被告のカレンダーは別紙目録記載のとおりであり、本件カレンダーとは索引表の色彩の一部や文字の一部が異なつているものの、万年暦の構図、対象年数、うるう年の表示の方法は同一である。
二 そこで、本件カレンダーの著作物性について判断する(以下この項中「法」とあるのは著作権法をいう。)。
1 著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(法2条1項1号)が本件カレンダーが文芸或いは音楽の範囲に属しないことは明らかであるからまず美術の著作物にあたるか否かについて検討するに(原告は美術の範囲に属すると主張している)、法所定の美術の著作物とは純粋美術の作品や一品製作でつくられる美術工芸品のような鑑賞の対象となるものに限られるものと解すべきところ、本件カレンダーは前認定のとおり原告が本件考案に基づく実施品として作成したものであつて、その考案の一要素である標識体に色彩を採用したことによつて、中段部分の長方形の配列が七色に彩られ、下段部分の七個の月暦が七色に塗り分けられることとなつて、一応看者に綺麗な感じを与えるけれども、とうてい純粋美術の作品といえるものではないし、その長方形の色分け(どの個所をどの色にするか)は右本件カレンダーが本件考案の実施品であり、その標識体に色彩を採用したことに因つて固定的に決まつてしまうものであるから、その美的構成において作者の美術的個性が発露される一品製作性を有するものでもなく、これを鑑賞の対象となる美術工芸品とも目することはできない。そうして、本件考案において必要とされる七個の標識体を色彩によつて区別しようとすれば、本件カレンダーの如き虹の七色に類する七色を採用することは何人も思いつくことであつて右色の選択にも何ら独創性を見出すことはできない。
してみれば、本件カレンダーは法にいう美術の著作物に属さないものといわざるを得ない。
2 次に学術の著作物に属するか否かについて検討するに(甲第九号証の原告の被告に対する警告書の中で原告は、本件カレンダーは法10条1項6号の「地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物」に該当する旨述べている)、本件カレンダーの万年暦と索引表の組合わせ、左右に暦年を配し、上段に各月を配し、その交点に長方形の色彩を配する万年暦の構成は、回転型式やスライド型式で既知のものとなつている万年暦の構想を、索引表と標識体の組合わせによるカレンダー方式に置き換えただけのものであつて、右既知の万年暦の思想を伝達するものとして特に学術的な創作的表現といい得るかどうかには、それが実用新案法上、新規な考案として認め得るにしても、いまだちゆうちよを覚える。
のみならず、前記本件カレンダーの構成は、本件考案が実施された結果の具体的表現形態そのものであり、本件カレンダーは結局のところ本件考案の一実施例品というべきものである。そうだとすると、左様な考案を考案それ自体として実用化した作品は、たとえその考案が学術的なものであり、新規独創性を有するにせよ、単なる実用品であつて当該思想(考案)を「創作的に表現する」著作物には該らない(右考案の内容を説明するための記述や図表は学術思想の表現として著作物性を有するが、考案の実施である作品そのものには著作物性がない)ものと解すべきである。
3 以上のとおり本件カレンダーはこれを法10条1項4、6号のいずれの著作物にもあたらず、他に著作物性を見出すべき根拠はないといわざるを得ないのであるが、それは、本件において原告が著作物性を有すると主張するものが、前認定の(証拠)の構成要素の共通項として把握される万年カレンダーの構成及びその標識体に色彩を採用した着想(アイデア)そのものに帰着するところ、法はかかる着想(アイデア)そのものには著作物性を与えていないために他ならないからである。
したがつて、カレンダーとは別に索引表を設ける考案が実用新案権の対象となることは別として、本件カレンダーに著作物性を認めることはできない。
三 よつて、本件カレンダーが著作物であることを前提とする原告の請求はその前提を欠き理由がない。