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著作権判例セレクション

【差止請求】著作権に基づく差止請求権の代位行使を認めなかった事例

▶平成140131日東京地方裁判所[平成13()12516]
1 争点1(原告が,Aの著作権に基づいて差止請求権を行使できるか)について
(1) 前記争いのない事実等及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア フィンランド在住の人形作家Aは,フィンランドなどで語り継がれているトントゥの寓話から,トントゥのオリジナル人形を創作した。オリジナル人形は,幅,奥行き,高さ各約3ないし6㎝ほどの石膏製の人形で,1体1体手作りされており,Aが上記のようなトントゥの寓話を基に自らの感覚でその容貌,形状,色彩を具体化して人形としたものである。オリジナル人形は,A自身がトントゥの寓話から受けるイメージを造形物として表現したものであって,その姿態,表情,着衣の絵柄・彩色等にAの感情の創作的表現が認められ,かつ美術工芸品的な美術性も備えているもので,Aが著作権を有する著作物である。
本件ぬいぐるみは,オリジナル人形の容貌,姿態等の特徴を模して,被告○○が中国の工場で製作させたもので,オリジナル人形の複製物である。
イ 被告○○は,被告▽▽の本件クリスマスキャンペーンに使用する目的で,本件ぬいぐるみを製作させた。
(2) 原告の地位
ア 原告とAの間で平成12年(2000年)9月29日に締結された英文の契約書は,「著作権管理契約書」(Copyright Management Agreement)と題するものであり,Aの有するオリジナル人形の著作権に関して合意されたものであるが,次のような条項を含む。
第1条「Aは,イノップに対し,日本国内において,本契約書に定められた条件でライセンシーに対しAの著作権の利用許諾を与える権限を授与し,イノップはこれを受諾した。」( entrusts to Inoppu, and Inoppu accepts, the right to transfer her copyright to licensees in Japan on terms stated in this agreement.)
第3条「日本国内においてAの著作権の利用許諾をライセンシーに授与する権限は,イノップに独占的に帰属する」(The right to transfer 's copyright in Japan belongs exclusively to Inoppu.)
第9条「イノップは,Aに対し,著作権利用許諾のロイヤリティを次のとおり支払うものとする。
ライセンシー1社から第4条に記載された企画の1つについて暦年1年間(1月1日から12月31日まで)に支払われるロイヤリティが30万円以下の場合には,イノップはAにその受領したロイヤリティの50%の額を支払う。
ライセンシー1社から第4条に記載された企画の1つについて暦年1年間(1月1日から12月31日まで)に支払われるロイヤリティが30万円を超えた場合には,15万円(30万円の50%)に30万円の超過額の70%を加算した額を支払う。
ロイヤリティの支払は,イノップがそれを受領した年に属するものとして取り扱う。」
第10条「イノップは,ライセンシーからロイヤリティを受領してから30日以内にAにロイヤリティを支払うものとする。その際には,ライセンシーの名称,対象となる企画,対象期間,販売ないし配布された商品の数量,その他ロイヤリティの計算の基礎になる情報を開示する報告書を添付するものとする。」
第12条「イノップはAの著作権を侵害する可能性のある者には,利用許諾を与えてはならない。イノップが日本においてAの著作権の侵害又は侵害のおそれを発見した場合には,イノップはAに通知し,当該侵害から著作権を防御するようすべての可能な手続を進めるものとする。侵害の場合には,本契約の当事者は,著作権を防御するために合理的な手段を講じるよう協力しなければならない。」
イ 上記の契約書の条項によれば,原告との間の契約については,①「著作権管理契約書」と題されたものであり,②Aが原告に対してオリジナル人形の著作権の利用許諾をライセンシーに与える権限を授与する旨の条項(1条,3条)のほか,ライセンシーへの許諾についての細目を定める条項が置かれているが(2条,4条,5条,8条,11条),原告自身がオリジナル人形の複製物を製造又は販売することを前提とした条項は全く置かれておらず,③原告は,ライセンシーから受領した使用料の中から,一定割合の金銭を自己の報酬として控除した残額をAに送金することとされており(9条,10条),日本におけるオリジナル人形の著作権の利用による売上げの多寡について,原告自身は全く危険を負わないこととなっている。
これらの点に照らせば,オリジナル人形の著作権につき,原告が上記契約によりAから授与された権限は,日本におけるライセンシーを開拓し,ライセンシーに対してAに代わって著作権の利用を許諾し,ライセンシーからロイヤリティを受領してAに送金するということに尽きるものであって,原告自身がオリジナル人形の複製物の製造ないし販売をすることにつき許諾を受けることは全く内容とされていない。
(3) 著作権に基づく侵害差止請求権の代位行使の可否
ところで,著作権者から著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者については,著作権者に代位して当該著作物の著作権に基づく侵害差止請求権を行使することができるという見解が存在する。これは,特許権における独占的通常実施権者が特許権者に代位して特許権に基づく侵害差止請求権を行使することができるとの見解にならって提唱されているものと解されるが,著作物の独占的使用許諾を得ている使用権者であれば,特許権における独占的通常実施権者と同様に,当該著作物の模倣品の販売等の侵害行為により直接自己の営業上の利益を害されることから,独占的使用権に基づく自らの利益を守るために,著作権者に代位して侵害者に対して著作権に基づく差止請求権を行使することを認める余地がないとはいえない。
しかしながら,本件においては,原告は,上記認定のとおり,オリジナル人形につき,著作権者から著作権の独占的な利用許諾を得ている者ではなく,単にライセンシーに対する許諾付与業務及びライセンシーからのロイヤリティの徴収業務を委任されているというだけであり,オリジナル人形の著作権を侵害する模倣品等が販売されたとしても,それにより直接自己の営業上の利益を害される関係にあるものではない。したがって,原告が,Aに代位してオリジナル人形の著作権に基づく差止請求権を行使することは,認められないというべきである。
(4) なお,仮に,原告とAの間の上記契約12条を,Aの著作権に基づく侵害差止請求権を原告が行使することを認めた条項と解することができるとしても,そのように著作権に基づく差止請求権について著作権者が契約により他者に行使させることを認めることは,弁護士法72条において弁護士以外の者の法律事務の取扱いが禁じられ,信託法においても訴訟信託が禁止されていること(信託法11条),及び,著作権等管理事業法上,著作権等の管理事業を営もうとする団体が登録制とされて種々の義務を負うなど事業上一定の制約を受けるものとされていること等の法制度の趣旨に反するものといわざるを得ない。したがって,上記契約の条項を根拠に,Aから契約上その権限が付与されているとして,原告がAの著作権に基づく差止請求権を行使することも,認められない。
したがって,いずれにしても,原告がAの著作権に基づく差止請求権を行使することは認められないというべきである。
(5) そうすると,原告がトントゥのオリジナル人形の著作権者でないことは当事者間に争いがない以上,原告が著作権に基づく侵害差止請求権を行使し得る根拠は存しないというべきであり,原告の請求は理由がない。
2 争点2(原告が,被告▽▽に対して差止請求権を行使できるか)について
なお,原告は,当初,被告○○に対して著作物の使用許諾をしたと主張していたもので(訴状),これによれば被告▽▽は複製の許諾を得た被告○○から複製物の譲渡を受けた者となると解されるところ,被告▽▽ンから著作権法26条の2第2項1号の消尽の主張がされるや,原告は,前言を翻し,被告○○は被告▽▽の代理人であって,原告が著作物の使用許諾をした相手方は被告▽▽であると主張するに至った(原告準備書面)。
しかしながら,証拠及び弁論の全趣旨によれば,オリジナル人形の著作権の利用につき原告の許諾を受けた被告○○から,被告▽▽が本件ぬいぐるみを買い入れた事実が認められるところであり,原告の被告▽▽に対する請求は,著作権法26条の2第2項1号の点からも,失当であることが明らかである。
 原告の主張は,上記のとおり証拠により認められる客観的事実に反するばかりでなく,当庁に係属する原告の被告○○に対する別件訴訟(当庁平成13年()第8305号事件)における原告の主張とも矛盾し,同訴訟における請求の根拠をも否定しかねないものであり,これらの事情に照らせば,原告の主張は,場当たり的で一貫性を欠くものであることが明らかである。原告の本訴請求は,主張それ自体からして,その信用性を疑わせるものと言わざるを得ない。
3 結論
以上によれば,その余の点について検討するまでもなく,原告の被告らに対する請求は理由がない。