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著作権判例セレクション

【著作隣接権】レコードにかかる著作隣接権の保護範囲が争点となった事例
▶平成110909日大阪地方裁判所[平成9()715]
() 本件は、別紙レコード目録記載の各レコード(「本件各レコード」)に別紙原告第一ないし第四ジャケット目録記載の各図柄(「原告各図柄」)のジャケットを付して、フレッシュ・サウンド・レーベルで製造、販売しているとする原告らが、本件各レコードに別紙被告第一ないし第四ジャケット目録記載の各図柄(「被告各図柄」)のジャケットを付して製造、販売していた被告らに対し、本件各レコードの著作隣接権、原告第二図柄の著作権及び不正競争防止法に基づいて、被告商品の製造、販売の差止、損害賠償等を請求した事案である。
本件各レコードに録音されている音源は、もともと、米国においてジャズを専門に扱う「エベレスト社」が1954年から1960年にかけて、いずれも米国ニューヨーク州で固定したものであり、同社は、右音源に基づいてレコードを製作し、独自に作成した図柄のジャケットを付して製造、販売していた(以下、これらのレコードを「エベレスト盤」という。)。
スペインに在住する原告Aが経営するフレッシュ・サウンド社は、本件第一レコードに原告第一図柄を、本件第二レコードに原告第二図柄を、本件第三レコードに原告第三図柄を、本件第四レコードに原告第四図柄をジャケットとして付して製造、販売している(以下、これらの商品を「原告商品」という。)。原告各図柄とエベレスト盤に使用されていたジャケットを比較すると、原告第一、第三及び第四図柄はほぼ同一であり、原告第二図柄については、題名を含め、全く異なるものである。なお、本件第二レコードは、エベレスト盤とは曲名、曲順の一部も異なっている。
被告Vは、少なくとも平成8年末まで、本件第一レコードに被告第一図柄を、本件第二レコードに被告第二図柄を、本件第三レコードに被告第三図柄を、本件第四レコードに被告第四図柄をそれぞれジャケットとして付して製造して、平成9213日ころまでこれらを販売し(以下、これらの商品を「被告商品」という。)、被告Tは、少なくとも平成9213日まで、被告Vから委託を受けてこれらを販売していた。
被告各図柄は、原告各図柄とそれぞれほぼ同一であり、したがって、被告第一、第三、第四図柄はエベレスト盤に使用されていたレコードジャケットとほぼ同一である。また、少なくとも被告第二図柄は原告第二図柄から複製したものである。

一 争点一(本件各レコードの著作隣接権)について
1 争点一1(著作隣接権の保護範囲)について
() 著作権法改正の経緯
(1) 平成6年法律第112号「著作権法及び万国著作権条約の実施に伴う著作権法の特例に関する法律の一部を改正する法律」(以下「平成6年改正法」という。)により、著作権法84[注:現5]が改正され、レコードでこれに固定されている音が最初に世界貿易機関の加盟国において固定されたものについて、現行著作権法の施行時、すなわち昭和4611日以降に録音固定されたものに限って、新たに著作隣接権による保護が与えられることとなり(右保護対象の限定は、平成8年法律第117号による改正前の著作権法原始附則232号で、「この法律の施行前にその音が最初に固定されたレコード」については、新著作権法中著作隣接権に関する規定を適用しないと規定されたことによる。)、同改正規定は平成811日に施行された(同改正法附則1条、平成7年政令第40号)。
(2) その後、平成8年法律第117号「著作権法の一部を改正する法律」(以下「平成8年改正法」という。)により、現行著作権法原始附則23項は削除され、レコードの著作隣接権は、世界貿易機関の加盟国に係るレコードについても、その音を最初に固定した時に始まり、その日の属する年の翌年から起算して50年間、保護の対象とされることとなり(著作権法1012号)、同改正法は、平成9325日に施行された(同改正法附則1条、平成9年政令第23号)。
() ところで、平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったレコードで右改正法施行前に作製された複製物(以下「施行前複製物」という。)の取扱いについて、著作権法上は明示的に規定されていないが、これらのレコードは右改正法施行までは著作隣接権に関し自由利用に供されていたものであるから、その施行期日前の複製、頒布行為について著作隣接権侵害の問題は生じ得ないのは明らかであり、また、施行期日後に施行前複製物を頒布する行為も、著作権法11312号にいう「・・・・・・著作隣接権を侵害する行為によって作製された物・・・を・・・頒布・・・する行為」に該当しないから、同規定により著作隣接権を侵害する行為とみなされる余地はなく、その他、施行前複製物の頒布を著作隣接権侵害に当たると解する根拠は見当たらない。
そうすると、平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったレコードについて、右改正法の施行期日前に複製する行為、また、右施行期日の前後を問わず、施行前複製物を頒布する行為は、いずれも、著作隣接権を侵害するものではないと解される。
()(1) 前記記載のとおり、本件各レコードに録音されている音は、1954年から1960年にかけて、それぞれ米国において固定されたものであり、米国は世界貿易機関の加盟国であるから、本件各レコードの著作隣接権は、平成8年改正法により新たに著作隣接権の保護の対象となったものである。
したがって、平成8年改正法施行期日(平成9325日)前の本件各レコードの複製行為及び施行前複製物の頒布行為は、いずれも本件各レコードの著作隣接権を侵害するものではないということになる。
(2) (証拠)及び被告V代表者本人尋問の結果によれば、被告Vは、平成812月末日以降、被告商品を製造しておらず、また、被告らは、平成9213日以降、被告商品の販売を中止していることが認められる。
したがって、被告らによる過去の被告商品の製造、販売行為は、本件各レコードの著作隣接権を侵害するものではない。
2 争点一4(差止めの必要性)について
() 1で判断したところから明らかなように、被告らの過去の被告商品の製造、販売は、本件各レコードの著作隣接権(これが何人に帰属するかはひとまず措くこととする。)を侵害するものではない。しかし、被告らが今後本件各レコードを複製する場合には、本件各レコードの著作隣接権を侵害することになる。
() そこで、被告らが将来、本件各レコードを複製した上で頒布するおそれがあるかを検討する。
前記1()(2)で認定したとおり、被告Vは、平成8年改正法施行期日前に被告商品の製造、販売を中止している。(証拠)によれば、被告らが被告商品の製造、販売が許諾を受けた適法なものであるとの主張の根拠として提出する被告Vとインタープレイ社との間の契約書には、契約の存続期間は平成912月末日までとされていることが認められ、仮に被告らの許諾を受けたとする主張が事実であったとしても既に許諾期間は経過していること、前記のとおり本件各レコードの著作隣接権が平成9325日以降は著作権法による保護の対象となり、新たに本件各レコードを複製する行為が本件各レコードの著作隣接権を侵害するものとなったこと、被告らもそのことを認識していることを考え併せれば、被告らが、本件各レコードを今後新たに複製して販売するおそれがあると認めることはできない。
そうすると、原告Aが本件各レコードの著作隣接権を有しているか否かを判断するまでもなく、右原告が被告らに対し、本件各レコードの著作隣接権に基づいて、本件各レコードの製造、販売の差止めを求める部分については理由がないといわざるを得ない。
二 争点二(原告第二図柄の著作権)について
1 争点二1(著作物性・権利濫用)について
() (証拠等)によれば、原告第二図柄は、原告Aが独自に作成したものであることが認められる。
被告らは、原告第二図柄は創作性を欠き、原告Aの著作物ではないと主張する。そこで検討するに、(証拠等)によれば、原告第二図柄の背景図柄は、楽器(ドラム)を前にした演奏家(本件第二レコード収録曲の演奏家のリーダーであるドラマーのG)の写真であること、右写真の著作者は原告Aではないことが認められるが、前掲各証拠によれば、原告第二図柄は、演奏家の写真を背景図柄として使用しているのみならず、右上部分に黄色のデザイン化された文字で「G」と、また、その下に赤色のやや小さめの文字で「SEXTET」と題名が表示され、さらに、中段右寄りに白色の文字で三列にわたり六名の演奏家の名前等が表記されていることが認められ、題名の構成、題名、演奏家名等の表示の配置、背景写真とこれらの位置関係等において、なお、思想又は感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するもの(著作権法211号)ということができるから、原告第二図柄は原告Aの創作した著作物であると認められる。
() 被告らは、原告第二図柄は写真家の著作権、演奏家の肖像権を侵害するものであって、これに基づく請求は権利濫用であると主張する。
しかし、()で認定判断したとおり、原告第二図柄それ自体が著作物であるところ、仮にこの著作物に他人が著作権を有する写真が許諾なく使用されていたとしても、著作権法の観点からは、原著作物を翻案したものとして二次的著作物(著作権法2111号)として原著作物の著作権に服することがあるとしても(同法28条)、当該二次的著作物の著作権者が二次的著作物の複製権に基づいて差止めを請求することがただちに権利濫用となるものではない。
また、原告第二図柄の利用行為が写真の被写体である演奏家の肖像権を侵害するものであるか否かは本件全証拠によっても明らかでなく、この点を措くとしても、右の点は原告第二図柄の作成者である原告Aと演奏家本人との関係で処理されるべき問題であって、被告らの原告第二図柄の複製、頒布を正当化する根拠となるものではなく、また、原告第二図柄の著作権に基づく請求が権利濫用になるものではないと解するのが相当である。
したがって、被告らの主張はいずれも採用することはできない。
2 争点二2(許諾)について
被告らは、本件各レコードの複製、頒布についてエベレスト社から許諾を受けた米国法人インタープレイ社から、複製、頒布の再許諾を受けていると主張する。
しかし、原告第二図柄は、原告Aが作成したものであることは前記認定のとおりであり、エベレスト社が原告第二図柄の複製、頒布につき何らかの権限を有すると認めるに足りる証拠は存しないから、被告らの主張に理由がないことは明らかである。
3 争点3(差止めの必要性)について
前記一1()(2)及び一2()で認定判断したとおり、被告Vは、平成812月末日以降、被告商品を製造しておらず、被告らは、平成9213日以降、被告商品の販売を中止しており、さらに、本件各レコードを今後新たに複製して販売するおそれがあるとは認められない。
しかし、右の販売中止時点において既に製造していた被告商品のうちの本件第二レコードの処分については、本件全証拠によっても明らかでない。これらは、施行前複製物であって、前記のとおり、その販売行為は本件第二レコードの著作隣接権を侵害するものではなく、被告らが主張するインタープレイ社との間の許諾期間が既に経過していることを考慮に入れたとしても、なお、被告らが将来これらを販売するおそれはあるというべきである。
そして、遅くとも本件口頭弁論終結時点においては、被告らは、右の既に製造されている被告商品のうちの本件第二レコードが、原告Aの有する原告第二図柄の複製権を侵害する行為によって作成されたものであると認識しているものということができるから、これを将来頒布する行為は原告Aの著作権を侵害する行為とみなされることとなる(著作権法11312号)。
したがって、原告Aが被告らに対し、被告第二図柄を付した本件第二レコードの販売を差し止める必要性は認められる。
三 争点三(不正競争)について
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