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著作権判例セレクション
【美術著作物】「傘立て」の著作物性を認めなかった事例
▶平成30年10月18日大阪地方裁判所[平成28(ワ)6539]
(注) 本件は,家庭日用品の企画,製造,販売等を目的とする株式会社である原告が,雑貨品等の輸入,販売等を目的とする株式会社である被告が,「被告ごみ箱」並びに「被告傘立て」を輸入,販売したことに関し,所定の請求(意匠権に関する請求,不正競争防止法に関する請求,一般不法行為に関する請求,著作権に関する請求)をした事案である。
1 被告ごみ箱関係(争点1)について
(略)
(2) 一般不法行為の成否(争点1-3-1)について
ア 上記(1)イのとおり,被告が平成27年2月1日から同年6月14日までの間に被告ごみ箱を販売した行為(被告ごみ箱販売2)については,不正競争行為に当たらないし,本件意匠権侵害について過失があったとは認められないところ,原告は,被告ごみ箱販売2については公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから,一般不法行為を構成すると主張する。
イ しかし,現行法上,創作されたデザインの利用に関しては,著作権法,意匠法及び不正競争防止法等の知的財産権関係の各法律がその排他的な使用権等の及ぶ範囲,限界を明確にしていることに鑑みると,創作されたデザインの利用行為は,各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。
したがって,原告の主張が,被告が原告ごみ箱の商品形態を模倣した被告ごみ箱を販売したことが不法行為を構成するという趣旨であれば,不正競争防止法で保護された利益と同様の保護利益が侵害された旨を主張しているにすぎないから,採用することはできない。
ウ また,これと異なり,原告の主張が,被告が被告ごみ箱を販売することによって原告の原告ごみ箱に係る営業が妨害され,その営業上の利益が侵害されたという趣旨であれば,上記の知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということができる。しかし,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業上の利益が害されたことをもって,直ちに不法行為上違法と評価するのは相当ではなく,他人の行為が,殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされた場合のように,自由競争の範囲を逸脱し,営業の自由を濫用したものといえるような特段の事情が認められる場合に限り,違法性を有するとして不法行為の成立が認められると解するのが相当である。
そして,本件では,原告の主張を前提としても上記特段の事情があるとは認められない。
エ したがって,被告ごみ箱販売2が一般不法行為を構成するという原告の主張は採用できない。
(略)
2 被告傘立て1関係(争点2)について
(略)
(2) 著作物性の有無(争点2-2-1)について
ア 原告傘立て1が傘立てとして実用に供されるためにデザインされた工業製品であることは当事者間に争いがないところ,原告は,これを前提に,原告傘立て1が美術の著作物として保護を受けると主張する。
イ
この点,著作権法2条2項は美術工業品が美術の著作物として保護されることを明記したにすぎず,それ以外の実用的機能を有する美的創作物を一切保護の対象外とする趣旨とは解されないものの,著作権法による保護と意匠法による保護との適切な調和を図る見地からすれば,それに著作物性が認められるためには,その実用的な機能を離れて見た場合に,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていることを要すると解するのが相当である。
この観点から見ると,傘立てが,玄関等に置いておいて傘を立てて入れておくための家具であることに照らせば,有底略角柱状の容器である原告傘立て1の基本的形状は,傘立てとしての実用的機能に基づく形態である。また,原告は,原告傘立て1の側壁のデザインが鑑賞の対象であると主張するが,そこではタイルが壁面に格子状に貼付された様になっているにすぎず,これは壁状のものによく見られる形状であって,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。したがって,原告傘立て1について,美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。
(3) 一般不法行為の成否(争点2-3-1)について
上記(1)及び(2)のとおり,被告が被告傘立て1を販売した行為については,不正競争行為に当たらないし,著作権侵害行為にも当たらないところ,原告は,被告傘立て1を販売する行為についても公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから,一般不法行為を構成すると主張する。
しかし,上記1(2)のとおり,その主張が知的財産関係の各法律の保護法益と同様の法益の侵害を主張するものであれば失当である。また,その主張が営業上の利益を侵害するとの趣旨であるとしても,被告による被告傘立て1の販売行為が市場において利益を追求するという観点を離れて,殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてなされたような特段の事情が存在しない限り,一般不法行為を構成することはないところ,原告の主張を前提としても上記特段の事情があるとは認められない。
したがって,被告による被告傘立て1の販売行為が一般不法行為を構成するという原告の主張は採用できない。
3 被告傘立て2関係(争点3)について
(略)
(2) 著作物性の有無(争点3-2-1)について
原告傘立て2が傘立てとして実用に供されるためにデザインされた工業製品であることは当事者間に争いがないところ,原告は,これを前提に,原告傘立て2が美術の著作物として保護を受けると主張する。
しかし,上記2(2)イで言及した傘立ての実用的機能に照らせば,有底略円筒状である原告傘立て2の基本的形状は,傘立てとしての実用的機能に基づく形態である。また,原告は,原告傘立て2の外周面のデザインが鑑賞の対象であると主張するが,そこでは円弧状に凹没する環状凹条が多数かつ水平にわたって上下方向に等間隔に連続して形成され,全体として略蛇腹形状とされているにすぎず,これは筒状ないし管状のものによく見られる形状であって,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているとはいえない。
したがって,原告傘立て2について,美術の著作物としての著作物性を認めることはできない。
(3) 一般不法行為の成否(争点3-3-1)について
上記(1)及び(2)のとおり,被告が被告傘立て2を販売した行為については,不正競争行為に当たらないし,著作権侵害行為にも当たらないところ,原告は,被告傘立て2を販売する行為についても公正な自由競争秩序を著しく害するものであるから,一般不法行為を構成すると主張する。
しかし,上記2(3)と同様,この主張を採用することはできない。