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著作権判例セレクション

【二次的著作権と原著作権】原作原稿のある連載漫画の二次的著作物性と原著作者(原作原稿執筆者)の二次的著作権者に対する権利

▶平成11225日東京地方裁判所[平成9()19444]▶平成120330日東京高等裁判所[平成11()1602]
二 本件連載漫画が原告の創作に係る原作を原著作物とする二次的著作物であるかどうかについて
1 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件連載漫画の制作経過等に関し、以下の事実が認められる。
(一)本件連載漫画は、昭和4911月ころ、当時講談社との間で専属契約を結んでいた被告Bの「なかよし」における新連載として企画され、「なかよし」編集部によって、原作者を付すことが決められ、その原作者として原告が人選された。そして、そのころ、原告、被告B、担当編集者の間で、「あしながおじさん」や「赤毛のアン」などのいわゆる名作物のように、孤児の少女が逆境にめげずに幸せになっていくという、本件連載漫画のストーリーの基本的な構想が決められた。
(二)その後、本件連載漫画は、毎月の連載回ごとに、おおむね以下のような手順により制作された。
(1)原告が、各回ごとの具体的なストーリーを創作し、これを400字詰め原稿用紙30枚から50枚程度の小説形式の原稿にして担当編集者に渡す。その際、担当編集者が原稿をみて要望を述べ、それに応じて原告が手直しをする場合もある。
(2)右原稿のコピーを担当編集者が被告Bに渡す。被告Bは、右原稿を読み、漫画化に当たって使用できないと思われる部分を除き、その他の部分に基づいて、紙面にコマ割を行い、絵を簡略化した形で描き、吹き出しの台詞などを加えた「ネーム」と呼ばれる漫画の草案を作成する。この段階で、出来上がった「ネーム」を担当編集者にみせて打ち合わせを行い、必要があれば被告Bが手直しを行う。
「ネーム」作成の段階で、原稿が分量的に一回の連載に収まり切らない場合には、担当編集者から原告にその旨連絡して、原告の了解を得る。その際、新しい終わり方について、原告が新しいアイデアを出したり、原稿の修正をすることもある。
(3)このようにして出来上がった「ネーム」に基づいて、被告Bが鉛筆で漫画の下書きを作成し、その際に人物の服装や背景等が決められる。その後、被告Bが右下書きにペンを入れ、最後に鉛筆の下書きを消して漫画が完成する。
(4)原告は、当該回の漫画のゲラ刷りをみた上で、それに続く次回連載分の原作原稿を作成し、当該回の原稿が一回の連載に収まり切らずに途中で終わる場合には、その部分から始まる次回用の原作原稿を新たに作成する。
(三)本件連載漫画の各連載回の扉頁、本件連載漫画の単行本(講談社発行)及び文庫本(中央公論社発行)の各巻の表紙には、いずれも「原作 A」という形で、原告のペンネームが表示されている。
また、これまで、第三者によって本件連載漫画の二次的利用がされる場合には、原告も本件連載漫画の著作権者あるいはその原作著作物の著作権者として契約当事者となっており、平成71115日には、原告と被告Bとの間で、本件連載漫画の二次的利用に関して、双方の同意を要すること、使用料を一定の割合に応じて配分することなどを内容とする契約が締結された。
2(一)原告作成に係る原作原稿の内容とこれに対応する本件連載漫画の内容とを、証拠に現われた範囲で対比すると、以下のとおりのことが認められる。
(1)本件連載漫画の各連載回ごとの具体的なストーリーの展開、すなわち、いかなる時と場所において、いかなる人物が登場し、いかなる意図の下に、いかなる行動をして、場面が展開していくかについては、おおむね原作原稿の内容に沿ったものとなっている。原作原稿にある場面が省略されていたり、原作原稿にない場面が付加されていたり、場面展開の順序が原作原稿と異なったりする部分も一部にみられるが、それによってストーリーの基本的な展開が異なるとまで評価できるものではない。
(2)本件連載漫画中の登場人物の吹き出しの台詞や内面における思考・心情の記述については、原作原稿の記載をそのままあるいは同趣旨の内容を多少表現を変えて用いているものが多く、原作原稿にないものを付加していたり、原作原稿にあるものを省略している部分もみられるが、それによってストーリーの基本的な展開に変更を来すようなものではない。
(3)人物の表情・服装・動きや風景については、原作原稿中に指示があり、これに基づいて漫画が作成されている部分もあるが、原作原稿中に格別の指示がない部分もある。
(二)右の対比結果は、本件連載漫画のうちの一部の連載回に関するものであるが、原告本人尋問の結果に前記1のような本件連載漫画制作の経過等を併せて考慮すれば、本件連載漫画の内容と原告作成に係る原作原稿の内容との関係は、他の連載回も含め全体として、おおむね右対比結果と同様のものであると認められる。
3(一)以上のとおり、本件連載漫画は、当初から原告が作成した原作原稿を被告Bが漫画化するものとして「なかよし」編集部によって企画され、実際にも連載の各回ごとに原告が小説の形式で原作原稿を作成し、これを被告Bが漫画化するという手順で制作が行われたものであり、本件連載漫画とこれに対応する右原作原稿の各内容を対比してみても、前記のとおり、本件連載漫画はおおむね原作原稿の記載内容に沿って具体的なストーリーが展開され、登場人物の吹き出しの台詞や思考・心情の記述もその多くが原作原稿中の記載に基づくものと認められる。また、出版物における著者の表示や二次的利用の際の権利関係の処理においても、原告は、終始、本件連載漫画につき原作者としての権利を有するものとして処遇され、被告Bもこれを容認してきたものである。
これらの事情を総合すれば、本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原告の創作に係る小説形式の原作原稿という言語の著作物(右原作原稿が、思想又は感情を言語によって創作的に表現したものであって著作物性を有することは、連載の一部の回に係る原告原稿である(証拠)から明らかである。)の存在を前提とし、これに依拠して、そこに表現された思想・感情の基本的部分を維持しつつ、表現の形式を言語から漫画に変えることによって、新たな著作物として成立したものといえるのであり、したがって、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作原稿という著作物を翻案することによって創作された二次的著作物に当たると認められる。
(二)被告らは、前記記載のとおり、本件連載漫画が原告作成の原作原稿を翻案した二次的著作物であることを否定し、その根拠として、①原告作成の原作原稿は当初より完成した一つの話として出来上がっていなかった、②被告Bは原告作成の原作原稿を大幅に変更して本件連載漫画を作成しており、本件連載漫画の基本部分やストーリーの骨子は被告Bが創作した、と主張する。
しかしながら、前記(1)(二)のとおり、本件連載漫画は、連載の各回ごとに、原告がその回に連載されるストーリー部分を小説の形式で原稿に記載し、これに依拠して被告Bが当該連載分の漫画を作成するという手順を繰り返すことによって制作されたものであり、連載の各回ごとの漫画がそれに対応する分の原作原稿を翻案したものということができるから、結局、本件連載漫画全体が、原告の創作に係る原作原稿全体を翻案した二次的著作物と評価されるものというべきである。原作原稿は、本件連載漫画の作成前に、完結した作品として存在したものではないが、このようなことは例えば連続テレビドラマの制作過程における脚本とドラマ撮影の間などにおいても生ずることであり、原著作物があらかじめ完結した作品として存在することが、それに基づく二次的著作物が成立するための要件となるものではない。右のとおり、被告らが主張する右①の点は、本件連載漫画が原告作成の原作原稿の二次的著作物であることを否定する理由とならない。
右②の点については、前記2(一)のとおり、原告作成に係る原作原稿の内容とこれに対応する本件連載漫画の内容とを対比しても、一部において、場面の省略、付加、順序の入れ替えなどが認められるものの、ストーリーの基本的な展開において、被告Bが原告作成の原作原稿を大幅に変更して本件連載漫画を作成したとは認められず、本件連載漫画のストーリーの骨子を創作したのが被告Bであるとは到底いえない。なお、この点に関し、被告らは、乙号証として提出した本件連載漫画の一部とこれに対応する原作原稿とを対比し、その相違点について縷々主張するが、いずれも物語の細部における変更にすぎず、ストーリーの基本的な展開を変更するものとはいえない。また、被告らは、右主張の中で、人物の容姿・表情・服装、背景について原作原稿中に具体的な指示がなく、専ら被告Bがこれらを創作したことを指摘するが、右のような点は、言語の著作物を漫画の形式に翻案するに当たって、本来漫画家が創作性を発揮すべき作画表現の問題というべきであるから、このような点について原作原稿中に具体的な指示がないとしても、それによって、本件連載漫画が原告作成に係る原作原稿の翻案であることを否定する理由にはならない。
したがって、右①及び②のような事情を根拠として、本件連載漫画が原告作成の原作原稿を翻案した二次的著作物であることを否定する被告らの主張は、採用できない。
三 本件コマ絵について
1 請求原因のうち、本件コマ絵が「なかよし」に掲載された本件連載漫画の一コマであることは当事者間に争いがないところ、前記二のとおり、原告は、本件連載漫画について、これを二次的著作物とし、その原作を原著作物とする原著作者の権利(著作権法28条)を有するものと認められるから、本件連載漫画の一部である本件コマ絵についても、右同様の権利を有するものといえる。
2 請求原因の事実は当事者間に争いがない。
3 したがって、原告と被告らとの間において、本件コマ絵につき、原告が右漫画を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める原告の請求は、理由がある。
四 本件表紙絵について
1 請求原因のうち、本件表紙絵が、本件連載漫画の連載期間中に被告Bが作成し「なかよし」の表紙に掲載された絵であって、本件連載漫画の主人公キャンディを描いたものであることは当事者間に争いがない(本件表紙絵は、これを本件連載漫画中のキャンディの絵と対比しても、容貌や髪型などの特徴に照らし、本件連載漫画におけるキャンディを描いたものであることは明らかである。)。そうすると、本件表紙絵は、本件連載漫画のどの場面の絵に対応するものであるかを特定するまでもなく、本件連載漫画のキャンディの絵の複製に当たるというべきである。
他方、前記二のとおり、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作の二次的著作物に当たるものであるから、本件連載漫画のキャンディの絵の複製物である本件表紙絵についても、やはり原告の創作に係る原作との関係において、二次的著作物に当たるというべきである。
したがって、原告は、本件表紙絵についても、これを二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利(著作権法28条)を有するものといえる。
2 請求原因の事実は、当事者間に争いがない。
3 したがって、原告と被告らとの間において、本件表紙絵につき、原告が右絵を二次的著作物とし本件連載漫画の原作を原著作物とする原著作者の権利を有することの確認を求める原告の請求は、理由がある。
五 本件原画について
1 前記二のとおり、原告は、本件連載漫画につき、これを二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者の権利を有し、したがって、本件連載漫画の利用に関し、その著作者が有するものと同一の種類の権利を専有するから(著作権法28条)、本件連載漫画の絵について複製権を有する(同法21条)。
2 請求原因の事実は当事者間に争いがない。
3 請求原因のうち、本件原画が本件連載漫画の主人公キャンディを描いたものであることは当事者間に争いがない(本件原画は、これを本件連載漫画中のキャンディの絵と対比しても、容貌や髪型などの特徴に照らし、本件連載漫画におけるキャンディを描いたものであることは明らかである。)。そうすると、本件表紙絵の場合(前記四1)と同様に、本件原画も本件連載漫画のキャンディの絵の複製に当たるというべきである。なお、被告Bは二次的著作物たる本件連載漫画の著作権者であり、被告○○は本件原画の複製につき被告Bから許諾を受けた者であるが、二次的著作物の著作権者であっても、原著作物の著作権者の許諾なく二次的著作物を利用することは許されない(本件において、本件原画の作成ないしその複製につき、被告らが原告の許諾を得ていないことは、当事者間に争いがない。)。
4 したがって、被告らに対し、本件連載漫画を二次的著作物としその原作を原著作物とする原著作者として有する本件連載漫画の複製権に基づいて、本件原画の作成、複製、又は配布の差止めを求める原告の請求は、理由がある。
5 被告らは、本件連載漫画における登場人物の絵が専ら被告Bの独創によるものであり、そこには原告の創造性が全く介入していないとして、原告には、本件連載漫画の登場人物につき被告Bが新たに書き下ろす絵については、その作成等を差し止める権利はない旨を主張する。
被告らの右主張の趣旨は、要するに、本件連載漫画における絵の部分は専ら被告Bが創作したのであるから、本件連載漫画を絵という表現形式においてのみ利用することは、被告Bの専権に属するというにある。しかしながら、前記認定のとおり、本件連載漫画は、原告の創作に係る原作という言語の著作物を、被告Bが漫画という別の表現形式に翻案することによって、新たな著作物として成立したものであり、右翻案に当たっては、漫画家である被告Bによる創作性が加えられ、特に絵については専ら被告Bの創作によって成立したことは当然のことというべきであるが、このようにして成立した本件連載漫画は、絵のみならず、ストーリー展開、人物の台詞や心理描写、コマの構成などの諸要素が不可分一体となった一つの著作物というべきなのであるから、本件連載漫画中の絵という表現の要素のみを取り上げて、それが専ら被告Bの創作によるからその部分のみの利用は被告Bの専権に属するということはできない。そして、前記のとおり、本件連載漫画が原告作成の原作との関係において、その二次的著作物であると認められる以上、原告は、絵という要素も含めた不可分一体の著作物である本件連載漫画に関し、原著作物の著作者として、本件連載漫画の著作者である被告Bと同様の権利を有することになるのであり、他方、本件原画のような本件連載漫画の登場人物を描いた絵は本件連載漫画における当該登場人物の絵の複製と認められるのであるから、これを作成、複製、又は配布する被告らの行為が、原告の有する複製権を侵害することになるのは当然である。

[控訴審]
当裁判所も、被控訴人の控訴人に対する請求は認容すべきであると判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の説示のとおりであるから、これを引用する。
一 本件コマ絵について
控訴人は、漫画のコマ絵には、漫画のストーリーを表しているコマ絵と、ストーリーを表していないコマ絵とがあり、漫画の物語作者と絵画作者とが異なる場合、後者のコマ絵は、物語原稿に依拠しておらずその翻案とはいえないから、物語原稿の二次的著作物には当たらず、原著作者の権利は及ばないと主張する。
しかしながら、著作権法28条は、「二次的著作物の原著作物の著作者は、当該二次的著作物の利用に関し、この款に規定する権利で当該二次的著作物の著作者が有するものと同一の種類の権利を専有する。」と規定しており、この規定によれば、原著作物の著作権者は、結果として、二次的著作物の利用に関して、二次的著作物の著作者と同じ内容の権利を有することになることが明らかであり、他方、控訴人が、二次的著作物である本件連載漫画(本件連載漫画自体が被控訴人作成の物語原稿の二次的著作物であることは、原判決の認定するとおりであり、控訴人も、当審においてはこれを争っていない。)の著作者として、本件連載漫画の利用の一態様としての本件コマ絵の利用に関する権利を有することも明らかである以上、本件コマ絵につき、それがストーリーを表しているか否かにかかわりなく、被控訴人が控訴人と同一の権利を有することも、明らかというべきである。
控訴人は、本件コマ絵につき被控訴人が権利を有するか否かを、それが物語原稿のストーリーを表しているか否かを基準として判定すべき旨を、物語原稿への依拠の有無と結び付けて強調するが、採用できない。二次的著作物は、その性質上、ある面からみれば、原著作物の創作性に依拠しそれを引き継ぐ要素(部分)と、二次的著作物の著作者の独自の創作性のみが発揮されている要素(部分)との双方を常に有するものであることは、当然のことというべきであるにもかかわらず、著作権法が上記のように上記両要素(部分)を区別することなく規定しているのは、一つには、上記両者を区別することが現実には困難又は不可能なことが多く、この区別を要求することになれば権利関係が著しく不安定にならざるを得ないこと、一つには、二次的著作物である以上、厳格にいえば、それを形成する要素(部分)で原著作物の創作性に依拠しないものはあり得ないとみることも可能であることから、両者を区別しないで、いずれも原著作物の創作性に依拠しているものとみなすことにしたものと考えるのが合理的であるからである。
念のため付言すれば、本件コマ絵にはキャンディが初めて「アードレー家の本宅」を見た場面のコマ絵であることを示す吹出しが記載されており、これが控訴人のいう「漫画のストーリーを表しているコマ絵」に該当することに疑問の余地はない。
二 本件表紙絵及び本件原画について
1 控訴人は、キャンディのキャラクター原画(キャンディ原画)は、それが生まれるいきさつに照らし、控訴人が物語原稿に依拠することなく独自に創作したものというべきであり、本件表紙絵及び本件原画は、いずれもこのキャラクター原画を複製(あるいは翻案)したものとみるべきである旨主張する。
しかしながら、本件連載漫画が絵画のみならずストーリー展開、人物の台詞(せりふ)等が不可分一体となった一つの著作物であることは原判決が正当に認定判断しているとおりであり、また、本件表紙絵及び本件原画がいずれも本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものであることは、控訴人も認めるところである以上、仮に、控訴人主張のいきさつが認められるとしても、本件表紙絵及び本件原画が本件連載漫画を複製(あるいは翻案)したものと評価されなければならないことは当然であって、このことは、控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵をキャンディのキャラクター原画とみることができるとしても、それにより変わるところはないものというべきである。換言すれば、控訴人主張のいきさつが認められ、かつ、本件表紙絵及び本件原画の中に、控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵を複製(あるいは翻案)したものとする要素があるとしても、それらは、本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものである限り、本件連載漫画の複製(あるいは翻案)としての性質を失うことはあり得ないものというべきである。すなわち、仮に、本件表紙絵及び本件原画がキャンディ原画の複製(あるいは翻案)であるということが許されるとしても、そのことは、それらが本件連載漫画の複製(あるいは翻案)であることを排斥し得ないものというべきであり、本件表紙絵及び本件原画が本件連載漫画を複製(あるいは翻案)したものではないというためには、それらが本件連載漫画の主人公であるキャンディを描いたものではないという必要があるというべきである。控訴人の主張は、結局のところ、仮に、控訴人主張のいきさつで控訴人主張のラフスケッチあるいは新連載予告用の絵が創作されたにせよ、現実には、その後に、絵画とストーリーとが不可分一体となった一つの著作物としての本件連載漫画が成立し、これが広く公表されているにもかかわらず、他の者との関係においてではなく、本件連載漫画の物語作者との関係において、この事実を全く無視しようとするものであって、原著作物の著作者の二次的著作物の利用に対する権利を律する著作権法28条の解釈として、これを合理的なものとすることはできない。
2 この点について、控訴人は、漫画の物語作者と絵画作者とが異なる場合、キャラクター絵画の利用に関して物語作者に原著作者の権利を認めると、結果として、絵画作者は、以後、物語作者の許諾がない限り、当該キャラクター絵画を一切作成することができなくなるのみならず、類似するキャラクター絵画までも作成できないことになりかねないという、不当な結果を招くと主張する。しかし、そのようにはいえない。
まず、漫画の物語作者と絵画作者とは、互いに協力し合う者同士として、当該漫画の利用につきそれそれが単独でなし得るところを、事前に契約によって定めることが可能である。明示の契約が成立していない場合であっても、当該漫画の利用の中には、その性質上、一方が単独で行い得ることが、両者間で黙示的に合意されていると解することの許されるものも存在するであろう。
次に、契約によって解決することができない場合であっても、著作権法65条は、共有著作権の行使につき、共有者全員の合意によらなければ行使できないとしつつ(2項)、各共有者は、正当な理由がない限り、合意の成立を妨げることができない(3項)とも定めており、この法意は、漫画の物語作者と絵画作者との関係についても当てはまるものというべきであるから、その活用により妥当な解決を求めることも可能であろう。
また、確かに、同一の絵画作者が描く複数のキャラクター絵画が類似することは容易に考えられるところであるが、あるキャラクター絵画が、他の物語作者の作成に係るストーリーの二次的著作物と評価されるに至った以上、絵画作者は、新たなキャラクター絵画を描くに当たっては、右二次的著作物の翻案にならないように創作的工夫をするのが当然であり、それが不可能であるとする理由を見出すことはできない(例えば、二次的著作物の登場人物と目鼻立ちや髪型などがほとんど同じでも、別の人物という設定で描くことは可能であり、そのときには、右人物の絵の翻案とはならないであろう。)。
三 以上のとおりであるから、被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決は正当であって、本件控訴は理由がない。

[参照:最高裁]