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著作権判例セレクション

【引用】教科書に準拠した国語テストの適法引用性が問題となった事例

▶平成120911日東京高等裁判所[平成12()134]
() 本件は、小学校用国語教科書に掲載された各著作物の著作権者である抗告人らが、教科書に準拠した国語テストを制作、販売する相手方らに対し、相手方らが、その制作、販売に係る国語テストの問題として、右各著作物を採録していることが、抗告人らの複製権を侵害するものであるとして、国語テストの頒布等の差止めなどを求めた事案である(以下、相手方らが制作、販売する教科書に準拠した国語テストを「本件国語テスト」という)。

一 争点1について
1 申立ての全趣旨によれば、本件国語テストについて、次の事実が一応認められる。
() 別紙記載の平成11年度二学期用の本件国語テストは、それぞれ、特定の教科書出版会社の制作した小学校用国語教科書のうちの、3ー2若しくは5ー2の各著作物又は3ー3、4ー2、4ー3、5ー1、5ー3、6ー3、6ー5、7ー2、9ー2、9ー3若しくは9ー4の各著作物が掲載された部分(単元)に対応するものとして制作されたものであって、いずれも、一葉の用紙の表裏二面をもって構成されている。その表面の上段には、「次の文章を読んで、問題に答えなさい。」との文言、その他これと同旨の文言に続き、右各著作物のそれぞれ一部が収録掲載され(ただし、詩である4ー2の著作物についてはその全部が収録されている。また、これを除き、右各著作物のうちの右国語テストに収録された部分は、当該教科書に掲載された部分の一部でもある。)、その収録部分を、四角の枠で囲んで他の部分と区分してある。表面下段には、当該著作物の収録部分に関する問題が記載され、その解答欄が設けてあり、裏面には、通常、当該著作物の内容と直接関係のない、漢字の読み書きや文法等に関する問題とその解答欄が設けられているが、当該著作物についての感想を記す欄、当該著作物の教科書に掲載された部分であって、当該表面に採録された部分以外の部分の読解等を問う問題文とその解答欄、当該著作物に関連した記事等の欄が含まれているものもある。
() 表面上段の各著作物の収録部分は、前示のとおり、4ー2の著作物を除き、その一部であり、字数にして概ね200字前後ないし500字前後であって、その部分のみでは、各著作物である童話等の全体の構成や筋立てまでは把握しきれないが、当該収録部分のみで表現される情景や登場人物(擬人化された動物等を含む。以下同じ。)の言動、その気持ち・心理等を理解することは可能である。
表面下段の設問は、該収録部分に即した、いわゆる読解に係る問題が大部分であり、該収録部分中の語句を特定するなどして、情景や登場人物の言動等を正確に読み取ることができるか、登場人物がある言動に至った理由や、その気持ち・心理等を理解できるか等を問い、その解答を、直接記載させたり(該収録部分中の語句を用いて記載することを指示するものもある。)、いわゆる穴埋め式により、解答文に設けた空欄を埋めさせたり、選択肢から選ばせたりする形式の問題等で構成されている。その設問の数は、四問ないし九問程度である。
2 ところで、公表された著作物を引用して利用することが許容されるためには、その引用が公正な慣行に合致し、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われなければならないとされている(著作権法321項)ところ、この規定の趣旨に照らし、ここでいう「引用」とは、一般に、報道、批評、研究その他の目的で、自己の著作物中に、他人の著作物の原則として一部を採録するものであって、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるとともに、両著作物間に、引用する側の著作物が主であり、引用される側の著作物が従である関係が存する場合をいうものと解すべきであって、本件国語テストと本件各著作物とに関しても、これと別異に解すべき理由はない。
しかるところ、前示認定のとおり、引用する著作物に当たる平成11年度二学期用の本件国語テストにおいて、引用される著作物に当たる前示各著作物の一部又は全部は、四角の枠で囲んで他の部分と区分して収録されており、引用する著作物の表現形式上、引用する側の著作物と引用される側の著作物とを明瞭に区別して認識することができるものと一応認めることができる。
しかしながら、前示各著作物の収録部分(表面上段)と設問部分(表面下段)とについて見ると、該各著作物(教科書に掲載された部分)からの国語テストに収録する部分の選定、設問部分における問題の設定及び解答の形式の選択(穴埋め式の解答文や選択肢の設定を含む。)、その配列、問題数の選択等に、児童による教科書の理解及びその理解度の測定等を目的とした、相手方らの創意工夫があることは認められるものの、その場合における教科書の理解とは、具体的には、教科書に掲載された前示各著作物に表現された思想、感情等の理解ということに他ならず、したがって、右問題の設定、配列等における相手方らの創意工夫も、直接には、児童に該各著作物の収録部分を読解させること、すなわち、前示各著作物の一部又は全部に表現された内容それ自体をいかに正確に読み取らせ、また、それをいかに的確に理解させるかという点に収斂するものであって、該各著作物の創作性を度外視してはあり得ないものであると言わざるを得ない。そして、このことに、前示各国語テストにおける前示各著作物の収録部分とそれ以外の部分(表面下段の設問部分及び裏面の設問等の部分)との量的な割合等を併せ考慮した場合には、引用される著作物の部分を、前示各国語テストにおける、各著作物の収録部分(表面上段部分)に限ってみたとしても、引用する側の著作物が主であり、引用される側の著作物が従であるという関係が存するものとは到底認めることができない。
したがって、平成11年度二学期用の本件国語テストに前示各著作物の一部又は全部を採録したことが、著作権法321項所定の引用に当たるとすることはできない。