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著作権判例セレクション
【著作権の制限】事件の当事者による記者会見での複製頒布について、法41条適用の可否が争点となった事例
▶平成24年09月28日東京地方裁判所[平成23(ワ)9722]
(注) 本件は,宗教法人である原告が,その代表役員の配偶者である被告に対し,別紙目録記載の各動画映像(「本件各霊言」。本件各霊言を収録したDVDを「本件DVD」という場合がある。)について,原告の著作権(複製権,頒布権)が侵害された旨主張して,①著作権法112条1項に基づく差止請求として,本件DVD,その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止,②不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
4 本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるかについて
(1) 被告は,本件各霊言による名誉毀損事件という時事の事件の当事者(被害者)として,事件報道に従事する報道機関等に対し記者会見を開催して事実関係を説明し報道を促すに当たり,当該事件を構成する著作物たる本件各霊言を収録した本件DVDを提供したものであるから,自ら報道の目的上正当な範囲内において著作物を複製したものとして,著作権法41条の適用を受ける旨主張する。
そこで検討するに,著作権法41条は,時事の事件を報道する場合には,その事件を構成する著作物を報道することが報道目的上当然に必要であり,また,その事件中に出現する著作物を報道に伴って利用する結果が避け難いことに鑑み,これらの利用を報道の目的上正当な範囲内において認めたものである。このような同条の趣旨に加え,同条は「写真,映画,放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合」と規定するのであるから,同条の適用対象は報道を行う者であって,報道の対象者は含まれないと解するのが相当である。
そうすると,被告は,本件記者会見を行ったことが認められるものの,本件記者会見についての報道を行った者ではないから,著作権法41条の適用はないというべきである。
(2) 被告は,本件のような場合に,報道機関が情報を入手する経路を著作権侵害として差し止めることが可能となれば,著作権法41条は実質的に有名無実に帰し,ひいては自由な報道や言論が妨げられると主張する。しかしながら,本件の場合,被告が開催した本件記者会見によって,報道機関は必要な情報を入手することが可能であったと認められるから,被告の主張は当たらない。
また,被告は,本件複製頒布行為は,名誉毀損の態様にかかわる「霊言」の特殊な形式を理解し,また名誉毀損の全体像を理解するうえで必須のものであるから,「報道の目的上正当な範囲内」のものにとどまる旨主張する。
しかしながら,本件各霊言が「霊言」という特殊な形態と内容により行われたものであっても,前記のとおり,本件各霊言全体を視聴しなければ,被告の訴え提起の内容及びその趣旨について正確な報道ができないとは解されない。
したがって,本件複製頒布行為が「報道の目的上正当な範囲内」であるとは認められないから,被告の主張は理由がない。
(3) 以上のとおり,本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるとは認められない。
また,被告は,著作権法41条の適用がないとしても,同条の準用又は類推適用があるなどと主張するが,上記 (2)のとおり,本件複製頒布行為が「報道の目的上正当な範囲内」であるとは認められないから,同条の準用又は類推適用があるかなどを判断するまでもなく,被告の主張は理由がない。