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著作権判例セレクション
【引用】記者会見での著作物の複製頒布行為が適法引用に当たるかが争点となった事例
▶平成24年09月28日東京地方裁判所[平成23(ワ)9722]
(注) 本件は,宗教法人である原告が,その代表役員の配偶者である被告に対し,別紙目録記載の各動画映像(「本件各霊言」。本件各霊言を収録したDVDを「本件DVD」という場合がある。)について,原告の著作権(複製権,頒布権)が侵害された旨主張して,①著作権法112条1項に基づく差止請求として,本件DVD,その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止,②不法行為に基づく損害賠償金等の支払を求めた事案である。
被告は,平成23年2月24日,原告代表役員及び原告に対する名誉毀損を理由とする損害賠償請求訴訟(当庁同年(ワ)第6077号事件,以下「本件名誉毀損訴訟」という。)を提起し,同月25日,本件訴訟の被告訴訟代理人である弁護士(「被告代理人」)を伴って,都内のホテルにおいて,本件名誉毀損訴訟の提訴記者会見を行なった(「本件記者会見」)。本件記者会見には,20数名のマスコミ(テレビ局4社,週刊誌記者,フリージャーナリスト等)が出席し,訴状の概要を記した書面が配布され,被告及び被告代理人による口頭説明が行われたが,本件名誉毀損訴訟において証拠として提出された本件DVD及びその活字起こし文書については上映や配布などは行われなかった。その後,被告は,本件DVDとその活字起こしのワープロソフトデータファイルが収められたCD-Rを複製し,平成23年2月26日付け書簡を同封した上で,宅配便により本件記者会見の出席者全員に対して本件DVDとCD-Rを送付して頒布した(以下「本件複製頒布行為」という場合がある)。
1 本件各霊言の著作物性の有無について
(略)
2 本件各霊言の著作権が原告に帰属するかについて
(略)
3 本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるかについて
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実がそれぞれ認められる。
ア 被告は,平成23年2月24日,本件記者会見に先立ち,新聞社,テレビ局,週刊誌等の合計32の報道機関に対し,「Aは,幸福の科学総裁B氏及び同教団に対し,名誉毀損等に基づく損害賠償請求の訴えを提起いたしました。この件に関しご説明のため,…記者会見を行いますので,ご参集賜りますようお願い申し上げます。」との文書をファックス送信した。
同日,原告の広報局長から被告に宛てた内容証明郵便による通告書が配達され,同通告書では,本件各霊言の動画映像DVDあるいはその活字起こしを複製し,週刊誌記者等のマスコミ等に配布する行為を即刻中止し,配布物を責任をもって回収することが申し入れられていた。したがって,同日までの時点において,被告は,本件各霊言の内容を視聴しており,前記本件各霊言の冒頭における原告代表役員の発言内容等から,本件各霊言が原告教団内部の信者宛てに作成されたものであることを認識するとともに,上記内容証明郵便の内容から,本件各霊言の内容を一般に知られることを原告が望んでいないことを認識していた。
イ 本件記者会見は,平成23年2月25日午後2時から午後3時まで,東京都千代田区内のホテルにおいて,被告及び被告代理人が出席して行われ,記者,カメラマン,ライター等の25名が参加した。被告は,本件記者会見の参加者に対し,受付時に,説明資料として別紙訴状の概要(以下,括弧を付して単に「訴状の概要」という。)を配付した。「訴状の概要」は,本件名誉毀損訴訟において提出した訴状のうち,目録,添付書類等が除外されているものの,請求の趣旨及び請求の原因について全文を掲載したものである(ただし,一部人物の固有名詞を伏せ字にした箇所がある。)。
ウ 本件記者会見では,まず被告代理人が訴え提起の報告とその内容についての説明を行う旨を述べた後,被告及び被告代理人が以下のとおり説明した。
(ア) 被告は,原告代表役員との夫婦関係悪化に端を発して,原告や原告代表役員との係争が発生,拡大した経緯全般を説明した。具体的には,平成16年に原告代表役員が心不全で入院して以降夫婦関係が変化してきたこと,平成19年当時,原告代表役員の女性関係をめぐり夫婦仲にひびが入り,平成20年4月以降,追い出されるようにして別居状態に至っていたこと,そのとき,原告から激しいバッシングを受け,自殺衝動にかられて病院に通院していたこと,衆議院議員選挙に際し一時期幸福実現党党首として活動したが,選挙後再び関係が疎遠になり,平成22年3月に離婚届に判を押すよう求められたことなどを説明した後,別居中の建物からの退去を求められて立入禁止仮処分の申立てを行っていること,離婚訴訟が係属していることなどを説明した。
(イ) さらに,被告は,平成22年10月から同年11月にかけて,原告が収録し,信者向けに配信した本件各霊言のなかで,原告代表役員が被告の守護霊である文殊菩薩を原告代表役員に降霊させてしゃべらせ,それを被告の本心であるかのように語っているのを知るに及び,「“これはいくらなんでもひどい”ということで,何とか損害賠償などの救済措置を講じられないかと思い,提訴しました」と説明した。
この点について,被告代理人は,「霊言は,Aさんの個人攻撃と目される表現に終始している」と指摘し,例えば,被告が原告代表役員に対して,自分の方が能力的に優位だと主張して原告代表役員を貶めているのだとの表現や,被告が自分こそ原告を大きくした最大の功労者だと主張しているのだと装っている箇所が多数あると説明し,他にも,過去に被告と原告代表役員が結婚した経緯について事実を偽っていること,原告関係の大きな事件として,講談社のフライデーに対するネガティブキャンペーンが発生した経緯について,被告が私怨のためにやったのだと自白しているように話す場面があること,これらが名誉毀損的な言質だと認識していることを説明した。
さらに,被告代理人は,霊言の席に,原告代表役員と被告との長男,長女を同席させ,被告の「霊」と罵り合わせたり,被告の「霊」が,オウム真理教を例に出して特定の人物を,「ポアした方がいい」「殺した方がいい」としていること,「核ミサイル,ぶっぱなしてみたい」などと語っていることが問題であるとし,霊言により,被告の社会的評価とともに,被告の主観的な名誉感情も侵害されていると説明し,これらの精神的苦痛に対する慰謝料として1億円の請求を行ったと説明した。
エ 以上の説明の後,若干の質疑応答が行われ,被告代理人は,外部に向けて行う表現行為には制約が伴うと指摘し,霊言という特殊な表現行為が隠れ蓑に使われてはならず,宗教的行為であっても許されるべきではないと指摘した上で,午後3時頃,本件記者会見は閉会した。
(2) 以上に基づいて,本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるかについて検討する。
ア 被告は,本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用に当たるとして,本件記者会見における説明,批判,反論等(説明資料である「訴状の概要」を含む。)が引用表現であり,本件各霊言が被引用著作物である旨主張する。
著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が,報道,批判,研究等の引用するための各目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
本件においては,引用する側の表現であると主張する本件記者会見における(配布資料を含む)説明,批判,反論等と被告が引用される表現であると主張する本件各霊言及びその活字起こしファイルとは,同時ではなく1日又は数日の時間的間隔を置いて伝えられたものであり,また伝達媒体としても異なるところから,これらを理由として,著作権法32条1項の「引用」に当たらないと解する余地もあると考えられるが,以下においては,仮に「引用」に当たるものとして,同項の他の要件について検討する。
イ まず,引用の目的上正当な範囲で行われたものか,すなわち,引用して利用する方法や態様がその目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるかについて検討する。
上記(1)のとおり,本件記者会見では,約1時間にわたり,「訴状の概要」を説明資料として,本件名誉毀損訴訟に至る経緯,内容等について説明されたものと認められる。そして,その中心的な内容である,本件各霊言による被告の名誉毀損については,「訴状の概要」において,1頁を25行で構成し,1行当たりの文字数37文字で構成された同書面の6~15頁において,丸数字で示されている。その丸数字の箇所は,本件霊言1につき28箇所,本件霊言2につき38箇所(本件各霊言の合計で179行)であり,1行文字数37字で換算すると,6623字である。これに対し,本件霊言1は103分の動画映像,本件霊言2は117分の動画映像であり,その間,登場人物がほとんど間隙なく,通常の会話の速度で,質問とこれに対する回答という形式で話し続けているものであり,その反訳文(1行当たり40文字のもの)において,本件霊言1は約7万3000字,本件霊言2は約7万4000字であり,その合計は約14万7000字である。なお,「訴状の概要」自体において,本件各霊言における原告代表役員の発言がその言語的表現として引用されているから,本件各霊言のうち,「訴状の概要」に記載されている部分は既に引用済みであり,その後本件DVD等が配布されたからといって,その部分については,新たに引用されたものとは認め難い。しかし,「訴状の概要」において引用された言語的表現部分においても本件DVDではその音声部分や映像部分が新たに利用されていると考えられるから,既に「訴状の概要」において引用されていた言語的表現部分を除いた本件DVD全体について,引用の要件を検討することとする。また,本件DVD映像の言語的表現部分を活字起こししたCD-Rにおける表現については,言語的表現部分のみであるから,「訴状の概要」で引用された部分については引用には当たらないことになり,その他の部分について引用の要件を検討することになる。
上記の量的な対比からも明らかなとおり,「訴状の概要」を含む被告の説明,批判,反論において名誉毀損として具体的に摘示されている箇所は本件各霊言全体であるとは認められず,むしろその一部分にとどまる。しかも,前記1(2)のとおり,本件各霊言中には,被告が名誉毀損と主張する内容とは直接関係のない内容のものが多く含まれている。
このように,被告が名誉毀損と主張する部分が,本件各霊言の一部にすぎないことや,名誉毀損とは関係のない内容も多数含まれていることからすれば,本件各霊言全体を複製・頒布して利用した本件複製頒布行為について,上記の説明,批判,反論等の目的との関係で,社会通念に照らして正当な範囲の利用であると解することはできない。
これに対し,被告は,本件各霊言が「霊言」という特殊な形態と内容により行われ,動画映像の視聴によって初めてその趣旨や権利侵害の事実を正確に理解し得るといえること,名誉毀損的言辞がほぼ全編にわたって貫かれていること等からすれば,本件複製頒布行為が説明と反論という引用の目的上当然に正当な範囲内のものと認められるべきである旨主張する。
しかしながら,本件各霊言が「霊言」という特殊な形態と内容により行われたものであっても,被告が名誉毀損と主張するのは,個々の言語的表現であり,本件各霊言全体を視聴しなければ,被告が指摘する名誉毀損の箇所を理解できないものではない。また,被告は,本件記者会見において,「訴状の概要」を配布したほか,口頭での説明も付加しているのであるから,本件各霊言の全体の趣旨についても口頭で説明することが可能であったと認められる。そうすると,被告が主張するような理由によって本件複製頒布行為が「引用の目的上正当な範囲内」であるとは認められない。
被告は,引用の同一機会に,同一の伝達手段で提示されたものではない本件のような場合には,分量論は意味をもたないと主張する。しかしながら,たとえ同一の機会等でないとしても,原告において被引用著作物が引用著作物と関連づけて理解されるものであると主張する以上,引用の正当性を判断するに当たって,その両者の分量を考慮の一要素とする必要があると考えられるから,被告の主張は採用できない。
ウ 次に,原告の主張する引用が公正な慣行に合致するものであるかについて検討する。
本件DVD等は,被告の主張によれば,「訴状の概要」を含む被告の説明,批判,反論がされた本件記者会見の翌日に,原告の主張によれば本件記者会見の翌週に,記者会見に参加した報道関係者等に配布されたものである。しかも,被告の陳述書によれば,被告は,記者会見終了後に,記者会見の出席者が原告代表者が行う「霊言」というものをきちんと理解してもらえたかという気がかりを生じ,その気がかりを解消するために本件DVD等を報道関係者等に送付する必要を感じ実行したものと認められるから,本件記者会見の席上においては,本件DVD等を,後日,記者会見における説明等に必要なものとして配布する旨を述べていなかったものと認められる。
このような本件DVD等の配布の時期,本件記者会見当日における説明内容に照らせば,本件複製頒布行為が公正な慣行に合致するものと認めることもできない。
被告は,例えば,相手方当事者の著作物が自らの著作権その他何らかの権利を侵害しているとして訴訟を提起し,提訴会見を開くような場合に,相手方当事者の著作物を複製して開示し,侵害の具体的態様や自らの主張するところを説明することは,日常,当然のように行われているところであり,記者会見における配付資料として,自己の権利を侵害する著作物を配布し利用することは,世上極めて頻繁に目にするところであり,明らかに公正な慣行に合致するものである旨主張する。
被告の主張は,提訴者が著作権侵害であると主張する相手方当事者の著作物について,提訴会見における複製・開示行為全般を公正な慣行に合致すると主張するものと解されるが,そのような複製・開示行為について限定を付することなく許容する公正な慣行は存在しないというほかないから,被告の主張は理由がない。
(3) したがって,本件複製頒布行為が著作権法32条1項の引用の要件を満たし,適法に行われたものであるとは認められない。
4 本件複製頒布行為が著作権法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるかについて
(略)
5 原告の著作権の行使が権利濫用に当たるかについて
被告は,①本件各霊言が全体として被告に対する極めて悪質な誹謗中傷に終始し,それ自体として被告の名誉権侵害行為を組成していること,②被告による著作物の利用は,かかる権利侵害を訴え出て,報道機関による報道等を通じて社会に公知のものとし,原告代表役員や原告の行為を批判,批評し,反論するという正当な目的に出たものであること,③原告の権利主張の目的は,著作権もしくは著作権法が想定する著作物の財産的価値の維持・擁護に向けられたものではなく,もっぱら被告の正当な言論活動,それも原告が著作権を標榜する名誉毀損的言辞に対する反論を,表面上著作権行使に名を借りて抑圧,妨害する目的に出たものであることなどを指摘して,原告の著作権の行使が権利濫用である旨主張する。
そこで検討するに,本件各霊言は,被告の指摘(「訴状の概要」参照)に従っても名誉毀損が本件各霊言全体にわたるものとは解されないし,原告の権利主張が被告の言論活動を抑圧,妨害する目的であったことを認めるに足りる証拠もない。そして,たとえ本件各霊言において名誉毀損と評価される箇所があったとしても,それゆえに原告の著作権の行使が直ちに否定されるものではなく,名誉毀損については,被告が原告及び原告代表役員に対して名誉毀損を理由として権利行使することによって対処すべき事柄である。
また,前記3(1)のとおり,平成23年2月24日,原告の広報局長から被告に宛てた内容証明郵便による通告書が配達され,同通告書では,本件各霊言の動画映像DVDあるいはその活字起こしを複製し,週刊誌記者等のマスコミ等に配布する行為を即刻中止し,配布物を責任をもって回収することが申し入れられていたのであるから,被告は,このような通告書を送付されながら,あえて本件複製頒布行為を行ったものと認められる。
以上に照らすと,たとえ本件複製頒布行為が原告及び原告代表役員の行為を批判,批評し,反論するなどの目的から行われたものであったとしても,その他に原告の著作権の行使が権利濫用に当たる事情は認められないから,被告の主張は理由がない。
6 著作権侵害のまとめ
前記1~5のとおり,本件複製頒布行為は,原告の有する著作権(複製権,頒布権)を侵害するものと認められるから,本件DVD,その活字起こし文書及びワープロソフトデータファイルの複製又は頒布の禁止を求める著作権法112条1項に基づく差止請求は理由がある。
また,本件複製頒布行為は,原告の有する著作権(複製権,頒布権)を侵害する不法行為であると認められるから,後記7において,原告の損害及び損害額を検討する。
7 原告の損害及び損害額について
(1) まず,原告は,事前の通告を全く無視した本件複製頒布行為の後,被告代理人から「(本件DVDの複製・頒布は)何の問題もない,複製頒布を中止させるつもりはない。」という趣旨の応答を得たため,本件各霊言がインターネット等に流出する危険が極めて高いと判断して,インターネット監視業者に対し,昼夜を分かたない対応を依頼し,その費用は,上記監視業者に支払った具体的金額だけでも,平成23年3月1日から同年5月5日まで,合計金28万3500円である旨主張する。
しかしながら,被告代理人から「(本件DVDの複製・頒布は)何の問題もない,複製頒布を中止させるつもりはない。」という趣旨の応答があったことを認めるに足りる証拠はない。
もっとも,被告が平成23年3月4日付け内容証明郵便で原告代理人弁護士宛てに送付した回答書には,「本件霊言は犯罪行為を組成したものにほからず,これらについて教団やB殿に著作権その他如何なる法的権利も認められる余地はなく,著作権法違反を言われる貴信のご主張は自ずから失当というべきです。」「著作権法上は,時事事件の報道に当たり,当該事件を構成する著作物等は報道の目的上正当な範囲内において複製し,報道にともない利用することができるとされています。」という記載がある。
そこで検討するに,確かに,被告は,本件各霊言又はその活字起こし文書を複製して配布する行為の中止を求める通告書を送付されながら,あえて本件複製頒布行為を行ったものと認められ(前記5),かつ,回答書には上記のような記載がある。このような被告の回答内容からみれば,被告は既にした本件複製頒布行為の正当性を主張し,その配布物の回収をする意思がないことが認められる。
しかし,たとえそのような応答があったとしても,そのような応答自体によって既に行われた本件複製頒布行為によって本件各霊言がインターネット等に流出する危険性が高まるわけではない。
そこで,本件複製頒布行為によって配布された本件DVD等によって,本件各霊言の内容がインターネット等に流出する危険性があったかについて検討する。原告は,そのような危険性があったことを示すものとして,フリーライターのブログに,被告が配布したとみられる本件DVD映像の一場面を静止画像としたものが使用されていた事実を挙げる。
しかし,被告が配布の対象としたのは報道機関の記者,カメラマン,ライター等であり,本来報道目的で配布したものである。そのような配布を受けた報道機関関係者が報道目的とは離れて安易にインターネットに本件DVDの内容等を流出させるものと認めることはできない。原告が挙げるライターのブログも,報道目的で静止画1枚のみを掲載したものであり,そこから,音声を含む本件DVDの内容等がインターネット上に流出する危険性が高かったと認めることもできない。
そうすると,原告の主張する監視費用の損害について,被告の違法行為である本件複製頒布行為との間に相当因果関係のある損害と認めることはできない。
(2) また,原告は,本件DVDは,いずれも「霊言」という原告の宗教行為の中核部分にかかわるものであり,これを頒布等することは全く想定されていないなどとして,著作権法114条の5を適用して,相当な損害額の認定を求める。
そこで検討するに,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件各霊言は,頒布を予定して製作されたものではなく,実際に原告の信者等に対しては衛星配信されたものの,DVD映像等として有償で頒布されるようなこともなかったことが認められる。他方で,本件複製頒布行為によって,本件各霊言が記者,カメラマン,ライター等の25名に対して頒布されたことが認められる(前記3(1)イ)。
このように,本件各霊言は頒布を予定されたものではないものの,これを一般に頒布するとすれば,それなりの対価を得て頒布されるものと認められるから,本件複製頒布行為によって原告に損害が発生したことが認められる。
そして,本件各霊言は本来は頒布を予定して製作されたものではないことなどを考慮すると,「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」(著作権法114条の5)に当たるというべきである。
そこで,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づくと,相当な損害額としては30万円を認めるのが相当である。
(3) 最後に,弁護士費用相当額について検討するに,本件訴訟の内容,進行等に加え,著作権法112条1項に基づく差止請求が認容され,不法行為に基づく損害賠償請求として弁護士費用相当額を除いて30万円が認められていることを考慮すると,被告が負担すべき弁護士費用相当額としては30万円を認めるのが相当である。
以上のとおり,不法行為に基づく損害賠償請求は60万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成23年4月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。