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著作権判例セレクション

【映画著作物の侵害性】放置系RPGアプリゲームの侵害性が争点となった事例

▶令和3218日東京地方裁判所[平成30()28994]▶令和3929日知的財産高等裁判所[令和3()10028]
() 本件(控訴審)は,控訴人が,被控訴人が別紙被告ゲーム目録記載のゲーム(「被告ゲーム」)を制作及び配信する行為が,控訴人が関連会社2社(北京COM4LOVES及び香港COM4LOVES)と共有する別紙原告ゲーム目録記載のゲーム(「原告ゲーム」)に係る著作物(ゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せ,プログラム)の著作権(複製権,翻案権及び公衆送信権)の侵害に当たる旨主張して,被控訴人に対し,著作権法112条1項及び2項に基づき,被告ゲームの複製等の差止め及び記録媒体からの記録の削除を求めるとともに,著作権侵害の不法行為による損害賠償金等の支払を求めた事案である。
原審は,控訴人が原告ゲームの著作権(「本件著作権」)の共有持分権を有することは認められるが,被告ゲームは原告ゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せを複製又は翻案したものであるとはいえず,被告ゲームに係るソースコードは原告ゲームに係るソースコードを複製又は翻案したものであるともいえないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。そこで,控訴人は,原判決中,著作権侵害の不法行為による損害賠償請求を棄却した部分のみを不服として本件控訴を提起した。また,控訴人は,当審において,被控訴人による上記行為により控訴人の法的保護に値する営業上の利益の侵害を被った旨主張して,一般不法行為による損害賠償請求を選択的に追加する旨の訴えの変更をした。
(原告ゲーム)
原告は,平成29年3月24日以降,原告ゲーム(放置少女~百花繚乱の萌姫たち~)を,App Store及びGoogle Play等を通じて配信している。
原告ゲームは,中国の三国志の時代の世界観をベースにし,これに登場する武将をモチーフとした女性キャラクターを戦闘等を通じて育成していくという内容の,いわゆる放置系RPGのジャンルに属するゲームである。
放置系RPGとは,プレイヤーが,実際にプレイすることなくアプリを閉じていても,ゲームが自動的に進行し,経験値を獲得してキャラクターを育成することができる機能(フルオート機能)を有し,ゲームを再開した際に,プレイヤーが何らかの利得を得ることができ,あるいは放置することで楽しめるジャンルのロールプレイングゲームを意味する。
(被告ゲーム)
被告は,平成30年7月9日以降,被告ゲーム(戦姫コレクション~戦国乱舞の乙女たち~)を,App Store及びGoogle Playを通じて配信していたが,令和元年7月21日,被告ゲームの配信を一時停止した。
被告ゲームは,日本の戦国時代の世界観をベースにし,これに登場する武将をモチーフとした女性キャラクターを戦闘等を通じて育成して天下統一を目指すという内容の,いわゆる放置系RPGのジャンルに属するゲームである。

2 争点1(原告が本件著作権の共有持分権を有するか)について
()
3 争点2(被告ゲームの制作・配信行為が本件著作権を侵害するか)について
⑴ ゲームの複製・翻案該当性の判断基準
ある創作物が著作権法による保護の対象となるためには,それが「著作物」であること,すなわち,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であることを要する。
また,著作物の複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),かかる著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成するか,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解するのが相当である。
さらに,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいい,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との共通性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものといえることが必要である。
そして,創作的に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作成者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,表現がありふれたものである場合には,当該作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現であるということはできないというべきである。
そして,本件のような携帯電話機等を用いたゲームについては,通常の映画とは異なり,システムないしルールが決められ,プレイヤーはシステムないしルールに基づいてプレイするところ,このようなゲームのシステムないしルール自体はアイデアそのものであり,著作物ということはできず,システムないしルールに基づき具体的に表現されたものがある場合に,初めてその創作性の有無等が問題となるというべきである。
また,このようなゲームは,プレイヤーが参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため,プレイヤーが必要とする情報を表示し,又はプレイヤーの選択肢を表示するための画面(ユーザーインターフェース)を表示する必要があり,また,ディスプレイ上に表示される画面は常に一定ではなく,プレイヤーが各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる画面に遷移し,これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっているところ,一連のまとまった表現として把握される複数の画像が,プレイヤーの操作・選択により,又はあらかじめ設定されたプログラムに基づいて,連続的に展開することにより形成されている場合には,一連のまとまった表現を構成する各画像自体の創作性及び表現性のみならず,その組合せ・配列により表現される画像の変化も,著作権法による保護の対象となり得る。もっとも,このようなゲームにおける各画像及びその組合せ・配列については,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から機能的な面に基づく制約を受けざるを得ないため,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず,上記制約を考慮してもなおゲーム作成者の個性が表現されているものとして著作物性(創作性)を肯定し得るのは,他の同種ゲームとの比較の見地等からして,特に特徴的であり独自性があると認められるような限定的な場合とならざるを得ないものというべきである。
以上を前提にして,原告ゲーム(基本的構成,具体的構成,利用規約及びゲーム全体)及び原告ソースコードについて著作権侵害の成否を検討する。
⑵ ゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せについて
ア 基本的構成について
前記1の認定事実によれば,原告ゲーム及び被告ゲームは,①歴史をテーマにし,歴史上の武将を美少女化し,フルオート機能(プレイヤーが,実際にプレイすることなくアプリを閉じていても,ゲームが自動的に進行し,経験値を獲得してキャラクターを育成することができる機能)を備えた放置系RPGゲームである点,②サーバー内のプレイヤー同士でグループを作り,ボス等に挑戦することができる「同盟」機能,キャラクターのステータスや装備を好みに合わせて強化育成できる「強化育成」機能,サーバー内のプレイヤー間や同盟を結んだプレイヤー間で情報交換をすることができる「チャット」機能を備えている点において共通している。
しかし,上記①及び②の共通点は,いずれも両ゲームのシステムないしこれに対応する機能であって,アイデアにすぎないというほかなく,そのような点が共通するとしても,複製又は翻案に当たらない。
イ 具体的構成について
キャラクターの名称,構成,機能について
前記1の認定事実によれば,原告ゲームと被告ゲームは,①キャラクターが「主将」と「副将」から構成される点,②「主将」の職業は,初めてゲームを開始する際に,「筋力」をメインの能力とするもの,「知力」をメインの能力とするもの,「敏捷」をメインの能力とするものの3つの中から選択する点,③「副将」は,歴史上の人物が女性化して登場し,一定の条件を満たすと,当該副将が使用できるようになり,レベルが上がるにつれて副将の数を増やすことができ,副将を「出陣」させたり,「応援」させたりすることができる点,④各キャラクターは,画面上で華麗にゆらゆらと動いており,キャラクターをタッチすると,キャラクターのボイスを聴くことができる点において共通している。
しかし,上記①ないし③の共通点は,いずれも両ゲームのシステムないしこれに対応する機能であって,アイデアにすぎないものであり,また,上記④の共通点も,各キャラクターの動きやボイスの機能をいうものであってアイデアにすぎないから,これらの点が共通するとしても,複製又は翻案には当たらない。
各画面の名称,構成,機能について
前記1の認定事実及び前記⑴の判断基準を踏まえた,原告ゲーム及び被告ゲームの各画面の名称,構成,機能に関する共通部分に関する判断は,別紙「ゲーム画面対比表」の「裁判所の判断」欄記載のとおりであ る。
すなわち,被告ゲームの各画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームの各画面と同一性を有するにすぎないものであり,また,具体的表現においても相違するものであって,これに接する者が原告ゲームの各画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,複製又は翻案に当たらない。
ウ 利用規約について
前記1の認定事実によれば,原告ゲーム及び被告ゲームの利用規約は,別紙「利用規約対比表」記載のとおり,会社名を除き,同一の文言であることが認められる。
しかし,一般的に,ゲームの利用規約は,法令や慣行により,形式及び内容が定型的なものとなり,その創作性が認められるのは,それにもかかわらず作成者の個性が発揮されたといえるような極めて限定された場合に限られると考えられる。しかして,弁論の全趣旨によれば,原告ゲームの利用規約は,LINEゲームの利用規約と相当程度に類似しているものであることが認められる。そして,原告ゲームと被告ゲームの利用規約に係る上記共通部分をみても,いずれも定型的なものの範囲にとどまっており,上記の限定された場合に当たるものとみられるものは存しない。そうすると,上記共通部分については,いずれも創作性が認められないものというほかなく,そのような点が共通するとしても,複製又は翻案に当たらない。
エ ゲーム全体について
前記⑴で説示したとおり,原告ゲーム及び被告ゲームのような携帯電話機等を用いたゲームは,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から,その画面遷移等の構成には機能的な制約があるため,創作性の認められる範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず,特に特徴的であり独自性があると認められない限り,創作性を認めるのは困難というべきである。
そして,前記説示のとおり,原告ゲーム及び被告ゲームは,いずれも,携帯電話機等を利用する歴史をテーマとする美少女育成型の放置系RPGであり,「ホーム」,「戦場」,「陣営」,「倉庫」,「チャット」,「同盟」の各画面を主要画面とし,ホーム画面上にボタンが表示される「競技」,「ショップ」ないし「商店」,「鋳造」,「任務」,「特典」,「チャージ」の各画面その他各種イベントに関する画面を中心とする構成であるところ,これらのゲーム内容及び各画面等については,基本的構成,具体的構成及び利用規約のいずれにおいても,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において共通しているにすぎず,また,具体的表現においては相違するものである。
そして,上記のような性質のゲームを採用した場合,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から,各画面の機能ないし遷移方法については,ある程度似通ったものにならざるを得ないことをも踏まえると,原告ゲーム及び被告ゲームにおける各画面の機能ないし遷移方法を具体的にみても,特に特徴的であり独自性があるということはできない。
そうすると,被告ゲーム全体の構成・機能・画面配置等の組合せ(画面の変遷並びに素材の選択及び配列)についても,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームのそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告ゲームの画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないとみるべきであるから,複製又は翻案に当たらないというべきである。
これに対し,原告は,原告ゲーム全体の構成・機能・画面配置等の組合せには選択の余地があり,創作性が認められるところ,被告ゲームは,原告ゲームと合計84画面の構成・機能・画面配置等が全て共通しており,原告ゲームをほぼデッドコピーして制作されたものであることは明らかであるから,両ゲームの個別の画面を逐一比較するまでもなく,ゲーム全体について複製又は翻案が成立することは明らかである旨を主張する。
しかし,著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告ゲームと被告ゲームの共通部分が表現といえるか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益かつ必要なことであって,その上で,ゲーム全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することが,正当な判断手法ということができるところ,両ゲームの各画面等の共通部分は,アイデアや創作性のないものにとどまることは,前記説示のとおりである。そして,著作権法上,著作物として保護されるのは,画面の選択や配列に関するアイデア自体ではなく,具体的表現であるから,画面の選択や配列に選択の余地があったとしても,実際に作成された表現がありふれたものである限り,それが共通することを理由として,複製又は翻案が成立するということはできないし,具体的な表現が異なることにより,表現上の本質的な特徴が直接感得できなくなる場合があり得るところ,前記説示のとおり,本件において,被告ゲームの画面の選択や配列から,原告ゲームのそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないものである。
他方で,原告が主張するように,証拠及び弁論の全趣旨によれば,①被告ゲームのテスト版では,「サーバーデータ取得エラー26002」という原告ゲームと同じエラーメッセージが用いられ,被告ゲームの通貨は「判金」であるにもかかわらず,イベント画面において原告ゲームで用いている「元宝」(中国の貨幣)の名称が用いられていること,②被告ゲームには,該当する名称の機能等が存在していないにもかかわらず,原告ゲーム内の機能等の名称である「同盟争覇戦」,「訓練所」,「遊歴」,「神将交換」,「高速戦闘」,「弓将」,「総力戦」,「神器」の用語がそのまま用いられており,チャット機能において,原告ゲームと同じバグが存在していること,さらに,③被告ソースコードには,原告ゲームの開発担当者の名前が残されたままとなっていることが認められる。
しかし,上記の事実から,被告ゲームが原告ゲームを参考にして制作されたことが認められるとしても,その共通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現において相違し,デッドコピーであるとは評価できないのであるから,被告ゲーム全体が,原告ゲーム全体の複製又は翻案に当たるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
() また,控訴人は,当審において,原判決は,全体として一つのゲームを一画面一画面に分断し,分断した画面ごとに共通する部分(アイコン等の配置等)について,個別に創作性を判断し,その結果として,共通する部分全体の創作性を否定したものであり,一連の流れのあるゲームの著作権侵害を判断しているのではなく,画面の著作権侵害を判断しているにすぎないから,このような原判決の判断手法によると,他社のゲームをデッドコピーしても,キャラクターやアイコンのデザイン等を多少変更さえしてしまえば,著作権侵害を免れることになり,不合理であるとして,被告ゲームは原告ゲームを複製又は翻案したものに当たらないとした原判決の判断手法は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告ゲーム全体と被告ゲーム全体の共通部分が創作的表現といえるか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益かつ必要なことであり,その上で,ゲーム全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,表現上の創作性を有するか否かを判断することは,合理的な判断手法であると解される。
そして,前記()のとおり,原判決は,被告ゲームと原告ゲームの共通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現において相違し,デッドコピーであるとは評価できないから,被告ゲーム全体が,原告ゲーム全体を複製又は翻案したものに当たるということはできないと判断したものであり,その判断手法に誤りはない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。】
⑶ ゲームのプログラムについて
【ア 控訴人は,】被告ゲームの「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムは,原告ゲームの「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラムを複製又は翻案して作成されたものであり,原告ソースコードに係るプログラム著作権をも侵害している旨を主張し,これに沿う証拠を提出する。
そこで検討するに,前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告ゲーム及び被告ゲームは,携帯電話機等を用いて配布・実行されるゲームアプリ(Androidの場合にはGoogle Play,iOSの場合にはApp Storeを介して配布)であり,サーバー側のプログラムとネットワークを介して通信しながら実行が進められるものであることが認められる。また,前記1の認定事実によれば,原告ゲーム及び被告ゲームには,任務(ミッション)画面(メインミッション画面,デイリーミッション画面,功績画面)が存在し,これらは,主に①「メインミッション」ボタン,②「デイリーミッション」ボタン,③「功績」ボタン,④「ヘルプ」ボタン,⑤「戻る」ボタンという5つのボタンと,上記①ないし③のボタンにそれぞれ対応した表示項目で構成されていることが認められる。
この点,被告は,そもそも,原告ゲームに原告ソースコードが存在すること,被告ゲームに被告ソースコードが存在することを争っているが,仮に原告の主張を前提とした場合,原告ゲームのゲームアプリ(sanguo_Google_34_1.200.34.apk)及び被告ゲームのゲームアプリ(戦姫コレクション_v1.0.68.apk)は,主として,①オープンソースのゲームフレークワーク(ゲームの基本的な処理を行うプログラムであって,これに含まれる各種「処理」を呼び出すゲームのソースコードを記述することで,グラフィック描画,キャラクターの動作,ネット通信等のゲームプログラムにおいてよく使用される機能を簡単に実現することができる。)であるCOCOS2D-X,②原告ゲームにつき473個,被告ゲームにつき555個のLuaファイル(Lua言語で記述されたソースコード)等から構成されていると考えられる。そして,原告ゲームの上記473個のLuaファイルのうちの「MissionMainPage.lua」(「任務(ミッション)」に係る画面の切り替え等の機能に関するプログラム)のソースコード(原告ソースコード)とこれに対応する被告ゲームのプログラムのソースコード(被告ソースコード)は,それぞれ別紙「ソースコード対比表」の「原告ソースコード」欄及び「被告ソースコード」欄記載のとおりであると認められ,その大部分(「AUTHOR」欄の開発担当者の氏名や作成日付を含む。)が一致していることが認められる(原告ソースコードの行数が182行,被告ソースコードの行数が190行であり,これらのうち165行が共通しており,類似度は90.66%である。)。
【イ ところで,著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解される。すなわち,プログラムの具体的記述において,指令の表現自体,その指令の表現の組合せ,その表現順序からなるプログラムの全体に選択の幅があり,それがありふれた表現ではなく,作成者の個性が表れていることが必要であると解される。
これを原告ソースコードについてみるに,前記ア認定のとおり,原告ソースコードは,原告ゲームの473個のLuaファイルのうちの1個である「MissionMainPage.lua」であり,原告ソースコードに係るプログラムは,「任務(ミッション)」に係る画面(メインミッション画面,デイリーミッション画面,功績画面)の切り替えに関する処理及び表示内容の更新処理を行うプログラムである。
そして,原告ソースコードの記述は,原判決別紙「ソースコード対比表」の「原告ソースコード」欄記載のとおりであり,個々の記述の意味は,同表の「裁判所の認定」欄記載のとおりである。
原告ソースコードの記述は,いずれも単純な作業を行うfunction(ローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等)が複数記述されたものであり,ソースコードによって記述される機能が上記のとおりローカル変数やテーブルの宣言及びモジュールの呼び出し等の単純な作業を行うことである以上,表現の選択の幅は狭く,その具体的記述の表現も,定型的なものであり,ありふれたものであると言わざるを得ない。
また,個々の記述の順序や組合せについても,ゲームの機能に対応させたにすぎないものであり,ありふれたものである。
そうすると,原告ソースコードの具体的記述に控訴人の思想又は感情が創作的に表現され,控訴人の個性が表れていると認めることはできないから,原告ソースコードに係るプログラムは,プログラムの著作物に該当するものと認めることはできない。
したがって,被告ソースコードの大部分が原告ソースコードと共通しているとしても,原告ソースコードに係るプログラムの著作物性は認められないから,被告ソースコードの制作は,原告ソースコードに係るプログラム著作権(複製権又は翻案権)の侵害に当たらない。
⑷ 編集著作権の侵害について
控訴人は,当審において,①原告ゲームは,素材である個々の画面(84画面)の選択,その画面遷移等の配列,素材である各画面内におけるアイコン,ボタン,キャラクター等の選択又は配列に作成者の個性が発揮されているから,素材の選択又は配列によって創作性を有する編集著作物である,②原告ソースコードも,個々のソースコードの書き方,各ソースコードの順序,変数の名称等の素材を選択して組み合わせたことに作成者の個性が発揮されているから,素材の選択又は配列によって創作性を有する編集著作物である,③被告ゲームは,編集著作物である原告ゲーム(原告ソースコードを含む。)を複製又は翻案して制作されたものであるから,被告ゲームの制作及び配信行為は,原告ゲームについて控訴人が有する編集著作権(複製権,翻案権及び公衆送信権)の侵害に当たる旨主張する。
しかしながら,控訴人の上記主張は,原告ゲーム又は原告ソースコードにおける個々の素材の選択又は配列にいかなる創作的表現がされているのか,その創作的表現が被告ゲーム又は被告ソースコードにおいてどのように利用されているのかについて具体的に主張するものではないから,その主張自体理由がない。
⑸ 小括
以上によれば,被控訴人による被告ゲームの制作及び配信は,原告ゲームの複製権,翻案権,公衆送信権及び編集著作権の侵害に当たるものと認められないから,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の著作権侵害による損害賠償請求は理由がない。】

[控訴審]
4 争点5(被控訴人の被告ゲームの制作及び配信による一般不法行為の成否)について(当審における追加請求関係)
⑴ 控訴人は,多大な費用,時間と労力をかけて原告ゲームを制作し,これを配信して営業活動を行っていたところ,被控訴人は,原告ゲームの各種データをほぼ全面的にデッドコピーした上で,各画面のキャラクター,アイコン等や用語を一部改変して被告ゲームを制作し,控訴人の販売地域と競合する日本国内において配信し,これによって本来必要となる多大な費用,時間と労力を免れたものであり,このような被控訴人の行為は,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為に当たり,著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的保護に値する控訴人の営業上の利益を違法に侵害したものというべきであるから,控訴人に対する一般不法行為を構成する旨主張する。
しかしながら,控訴人の主張する法的保護に値する控訴人の営業上の利益とは,原告ゲームの各種データを独占的に利用して,営業を行う利益をいうものと解され,当該利益は,著作権法が規律の対象とする著作物の独占的な利用の利益にほかならず,これと異なる法的保護に値する利益であるものと認めることはできない。
また,本件においては,被控訴人による被告ゲームの制作及び配信行為が,自由競争の範囲を逸脱し,又は控訴人の営業を妨害し,控訴人に損害を加えることを目的とするなどの特段の事情は認められない。
したがって,控訴人の上記主張は,採用することができない。
⑵ 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,控訴人の当審における追加請求は,理由がない。