Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【映画著作物の著作権の帰属】「映画製作者」の該当性が争点となった事例
▶平成15年1月20日東京地方裁判所[平成13(ワ)6447]▶平成15年09月25日東京高等裁判所[平成15(ネ)1107]
(注) 本件は,原告が被告らに対し,別紙記載アニメーション映画(「本件テレビアニメ」)について,原告が著作権を有することの確認,及び原告が本件テレビアニメを公に上映すること等の妨害行為の差止を求めた事案である。
1 主位的主張について
まず,主位的主張について,本件テレビアニメについて,その全体的形成に創作的に寄与した者が誰であるかを中心に検討する。
(1) 事実認定
(略)
(2) 判断
ア 上記認定した事実に基づいて,原告の主位的主張の当否を判断する。
原告は,P及びQが,本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与した者であり,同人らは,原告の業務に従事する者として,本件テレビアニメを職務上作成したのであるから,原告が,本件テレビアニメについて著作者人格権及び著作権を取得すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記認定のとおり,本件テレビアニメの制作に関与した主なスタッフは,プロデューサーのP,現場プロデューサーのQ,総監督のR,シリーズ構成者のT,キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV,メカニックデザイナーのS・U,音響監督のW,メカ作画監督のZらであった。このうち,シナリオの作成からアフレコ,フィルム編集に至るまで本件テレビアニメの現場での制作作業全般に関わり,その出来映えについて最終的な責任を負い,実際にも,動画の作成,戦闘シーン等のカットに関する最終的な決定,撮影後のラッシュフィルムのチェック,フィルム編集等に関する最終的な決定を行っていたのは,総監督のRであるから,同人は,監督として本件テレビアニメの「全体的形成に創作的に寄与した者」に当たると認められる。これに対して,プロデューサーであるP及び現場プロデューサーであるQは,主として,スポンサー,テレビ局,広告代理店との交渉等を担当しており,創作面での具体的な関与はなく,スタッフに対して指示を与えたこともなかった。
イ 以上のとおり,P及びQは,本件テレビアニメの全体的な創作に寄与したものということができないから,原告の主張は,その前提を欠く。したがって,原告は,法15条1項の規定により,本件テレビアニメについての著作者人格権及び著作権を取得したとはいえない。
2 予備的主張について
次に,予備的主張について,本件テレビアニメの映画製作者が誰であるかを中心に検討する。
(1) 事実認定
1の(1)のとおりである。
(2) 判断
ア 本件テレビアニメの映画製作者について
(ア) 本件テレビアニメは,もともと被告スタジオNが企画したものを,被告BのOがスポンサーの確保やテレビ局での放送枠の確保に努力し,毎日放送でのテレビ放送が決まった段階で,毎日放送の要望によりアニメ制作に実績のある原告に対し制作が依頼された。同依頼を受けて,原告は,昭和57年4月,毎日放送との間で,本件テレビアニメを制作する旨の契約を締結し(契約書を締結したのは同年9月),子会社のアニメフレンドをして同年5月からアニメ制作作業を開始させた。実際の制作作業は,アニメフレンド,被告スタジオN,アートランドらのスタッフが行ったが,原告が制作に関与するようになった後は,制作費用はすべて原告が支払った。原告は,毎日放送との間で締結した上記契約により,同契約で合意された納品スケジュールに沿って,本件テレビアニメを制作し,納品する義務を負い(一方,被告らは毎日放送に対して,そのような義務を負担しない。),本件テレビアニメの制作の進行管理及び完成について責任を負うことになった。
以上によれば,原告は,毎日放送と上記制作契約を締結することにより本件テレビアニメの制作意思を有するに至ったものであり,また,自ら制作費用を負担して自己の計算により本件テレビアニメの制作を行い,本件テレビアニメの制作の発注者である毎日放送に対して,その制作の進行管理及び完成についての責任を負っていたのであるから,原告は,本件テレビアニメの製作に発意と責任を有する者であるということができる。
以上のとおり,本件テレビアニメの映画製作者は原告であると認められる。
(イ) これに対し,被告らは,①本件テレビアニメを企画したのは被告スタジオNであり,被告BのOがこれを完成させようとしたのであるから,本件テレビアニメの製作を「発意」したのは被告らである,②毎日放送から原告に支払われた1話550万円の制作費は,被告Bが毎日放送に支払った放映料月額4800万円から支払われ,放映料の支払責任は被告Bが負っていたから,本件テレビアニメの製作に責任を有するのは被告Bである,と主張する。
しかし,被告らの主張は,以下のとおり,いずれも理由がない。
まず,映画の製作に「発意」を有するとは,必ずしも最初にその映画の企画を立案することを要するものではなく,第三者からの働きかけによりその映画を製作する意思を有するに至った場合をも含むものと解すべきであり,原告は,前記のとおり,毎日放送との上記制作契約によって,本件テレビアニメを製作する意思を有するに至ったものと認められる。したがって,被告らの①に関する主張は採用できない。
また,原告が毎日放送から制作費の支払を受けたのは,昭和57年10月以降であること,前記認定のとおり,原告は,同年5月に本件テレビアニメの制作を始めた直後から,制作作業に従事したスタッフに対し報酬を支払っているのであるから,約5か月間,原告の制作費用の支払が先行していること,毎日放送の制作費の支払は,後払いであるから,本件テレビアニメの制作については,常に原告の支払が先行していること,原告が毎日放送を通じて受け取る放映料分(その原資は,被告Bが広告主等から支払を受ける広告料)だけでは,原告が負担する制作費用として十分でないため,原告は被告らとの間で前記商品化権等に関する覚書を締結し,制作費用の回収を図ろうとしていること等の事実に照らすならば,本件テレビアニメの制作に関して経済的な危険を負担しているのは原告であると判断するのが相当である。したがって,被告らの上記②の主張も採用できない。
イ 参加の約束について
前記認定のとおり,本件テレビアニメの制作は,プロデューサーのP,現場プロデューサーのQ,総監督のR,シリーズ構成者のT,キャラクターデザイナー兼キャラ作画監督のV,メカニックデザイナーのS及びU,音響監督のW,メカ作画監督のZらが担当しているが,本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与したのは,総監督を担当したRであるというべきところ,Rは,原告が毎日放送との制作契約に基づいて本件テレビアニメを制作することを知った上で,総監督として本件テレビアニメの製作に参加しており,制作作業に対する報酬も原告からアニメフレンドを通じて受け取っていたのであるから,これらの事実によれば,Rは,映画製作者である原告に対し,本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものと認定するのが相当である。
ウ 小括
以上のとおり,原告は,法29条1項の規定により,本件テレビアニメについての著作権を取得したといえる。なお,被告らは,法14条所定の著作者の推定を云々するが,前記認定に照らして採用できない。
3 妨害排除請求権の当否
原告は,「原告が別紙目録記載1ないし36のアニメーション映画を公に上映し,その複製物により頒布することを妨害する」ことの差止めを求め,その理由として,被告らが,原告に対して,本件テレビアニメの基礎となった図柄に係る著作権が被告らに帰属する旨の訴訟を提起した行為が妨害行為に該当する旨主張する。
しかし,図柄に係る著作権が被告らに帰属する旨を求めて訴訟提起する被告らの行為が,本件テレビアニメに係る原告の著作権の行使を妨害する行為であると評価することはできないから,原告のこの点の主張は理由がない。
4 結論
以上のとおり,本件テレビアニメに係る著作権(著作者人格権を除く。)は原告に帰属する。よって,原告の請求は,著作権(著作者人格権を除く。)の確認を求める限度で理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととする。
[控訴審同旨]
当裁判所も,原判決と同じく,被控訴人の著作権(著作者人格権を除く。)確認請求は理由がある,と判断する。その理由は,次のとおり付加するほか,原判決の記載のとおりであるから,これを引用する。
1 原判決の判断の骨子
著作権法16条は,「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定し,著作権法29条1項は,「映画の著作物(第15条1項,次項又は第3項の適用を受けるものを除く。)の著作権は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と規定し,同法2条1項10号は,「映画製作者」につき,「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいう。」と規定している。
原判決は,①本件テレビアニメにつき,その「製作に発意と責任を有する者」である「映画製作者」に該当するのは被控訴人であること,②本件テレビアニメの全体的形成に創作的に寄与したのは,総監督を担当したEであり,Eは,映画製作者である被控訴人に対し,本件テレビアニメの製作に参加することを約束していたものであること,を理由として,被控訴人は,著作権法29条1項の規定により本件テレビアニメについての著作権を取得した,と判断した。
2 被控訴人の「映画製作者」該当性について
控訴人らは,本件テレビアニメにつき,その「製作に発意と責任を有する者」である「映画製作者」は被控訴人である,とした原判決の上記判断は,誤りである,と主張する。
(1) 映画の著作物の「著作権」(著作者人格権を除く。)は,「映画製作者」に帰属する,とする著作権法29条が設けられたのは,主として劇場用映画における映画会社ないしプロダクションを映画製作者として念頭に置いた上で,①従来から,映画の著作物の利用については,映画製作者と著作者との間の契約によって,映画製作者が著作権の行使を行うものとされていたという実態があったこと,②映画の著作物は,映画製作者が巨額の製作費を投入し,企業活動として製作し公表するという特殊な性格の著作物であること,③映画には著作者の地位に立ち得る多数の関与者が存在し,それらすべての者に著作権行使を認めると映画の円滑な市場流通を阻害することになることなどを考慮すると,そのようにするのが相当であると判断されたためである(当裁判所に顕著な事実)。
「映画製作者」の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2条1項10号)とは,その文言と著作権法29条の上記の立法趣旨からみて,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者のことである,と解すべきである。
(2) 被控訴人は,放送事業者である毎日放送との間で,本件テレビアニメの第1話ないし第21話の製作と放送について,昭和57年9月30日付けで次の内容を含む契約を締結し,昭和58年3月10日付けで,第22話ないし第36話の製作と放送について同様の契約を締結した。
ア「乙(判決注・被控訴人。以下同じ。)は甲(判決注・毎日放送。以下同じ。)の放送のため甲の台本,配役,音楽に関する意見を尊重し,且つ,台本およびラッシュフィルムに関しては予めその考査を得ることを条件として放送時間30分枠21回分を16ミリカラートーキーフイルムにより制作する。」(第1条)
イ「甲は本映画を日本国内において独占的にテレビジョン放送(他局販売を含む)(以下放送という。)する権利を取得する。」(第2条1項)
ウ「甲は乙に対し本映画の制作費として1本につき,金5,500,000円也を,乙が甲に毎月20日までに納品した本数分に相当する金額を翌月15日に支払うものとする。」(第3条)
エ「本映画の乙から甲への納品及び甲から乙への支払いのスケジュールは次の通りとする。(中略)(第4条)
オ「本映画の放送開始予定は昭和57年10月第1週とし,原則として毎週1回放送するものとする。
乙は前条所定のスケジュールに従って本映画のプリント各1本を放送の10日前までに甲に納入する。」(第5条1項,2項)
カ「本映画の制作・放送および前条の上映にかかわる著作権,監督,声優等一切の諸権利に対する処理については,すべて乙の責任と負担において行う。」(第8条)
キ「甲または乙のいずれか一方が本契約に違反したときは相手方に催告のうえ本契約を解約し,且つ,被った損害の賠償を請求することができる,前項の乙の契約違反により第5条1項に規定する甲の放送が不能になった場合,乙は甲に対する前項の損害賠償の責に任ずる。」(第15条1項,2項)
(3) 上に認定した本件製作契約の契約内容によれば,毎日放送は,被控訴人に対し,本件テレビアニメの製作費用として,1話につき550万円を支払う義務を負うものとされていること,被控訴人は,毎日放送に対し,本件テレビアニメを約定の期限までに作成して納品する義務を負い,この義務に違反した場合には,損害賠償の責を負うものとされていることが明らかである。
(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,本件テレビアニメの製作に参加してからは,製作作業をしたアニメフレンド,控訴人スタジN,アートランド等に対し,製作作業に対する報酬を支払っていた(アニメフレンド以外の者に対しては,アニメフレンドを通じて支払っていた。)ことが認められる。
上に述べたところによれば,被控訴人は,本件テレビアニメの製作意思の下に,毎日放送に対し,本件テレビアニメを製作する法律上の義務を負っており,かつ,本件テレビアニメの製作を行う法的主体として製作に関する収入・支出を被控訴人の計算において行っているということができるから,本件テレビアニメの「製作につき発意と責任を有する者」である「映画製作者」に該当すると認めるのが相当である。
3 控訴人らの主張について
(1) 「製作主体」の主張について
控訴人らは,控訴人Bの前の代表者であったAが,本件テレビアニメにつき,製作費を調達し,放送枠を確保し,アニメーション化作業を行うプロダクションを選定してテレビアニメ化を進めた行為を行ったことを根拠に,控訴人Bが,本件テレビアニメの「製作主体」であって,「映画製作者」に当たると解すべきである,と主張する。
しかしながら,本件テレビアニメの「製作主体」であるか否かは,その製作意思を有するか否か,その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か,製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として,製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであることは前述のとおりである。このことを離れて,「製作主体」か否かを論じることは意味のないことである。
(2) 「発意」の主張について
控訴人らは,「発意」の点について,控訴人スタジオNからの働きかけを受けて,本件テレビアニメを完成させようとしてスポンサー探しや放送枠の獲得のために奔走し,アニメーションの製作について被控訴人に参加するよう働きかけをしたた控訴人Bが「発意」し,そこに,アニメ製作会社である被控訴人が「参加」しているとみるべきである,と主張する。
前記原判決引用に係る認定事実によれば,控訴人Bが控訴人スタジオNの働きかけを受けて本件テレビアニメを完成させようとして,スポンサー探しや放送枠の獲得をし,アニメーションの製作について被控訴人に参加を働きかけたことは,控訴人らの主張のとおりであり,本件テレビアニメの企画を最初に立案したのは控訴人スタジオNないし控訴人Bであるということができる。
しかしながら,映画の製作に「発意」を有すると認められるのは,最初にその映画を自ら企画,立案した場合に限られると解すべき理由はなく,他人からの働きかけを受けて製作意思を有するに至った場合もこれに含まれると解するのが相当である。被控訴人は,最初に本件テレビアニメの企画を立案した者ではないものの,控訴人Bからの働きかけに基づいて,毎日放送に対し,本件テレビアニメの製作義務を負うことを内容とする上記契約を締結することにより,本件テレビアニメの製作意思を有するに至ったものであるということができる。この意味において,被控訴人が本件テレビアニメの製作に「発意」を有するということができることは,明らかである。
控訴人らは,本件テレビアニメの完成,供給については,控訴人Bが毎日放送と契約したものであり,この基本的な枠組みの中で被控訴人と毎日放送との契約が存在するにすぎない,と主張する。しかしながら,本件全証拠を検討しても,控訴人Bが,毎日放送との間で本件テレビアニメの完成,供給についての契約を締結したと解すべき根拠となる資料を見いだすことはできない。
控訴人らの主張は採用することができない。
(3) 「責任」について
前記引用認定事実及び(証拠)によれば,控訴人Bは,毎日放送との間で締結したラジオ・テレビ広告放送に関する「覚書」に基づき,本件テレビアニメの放映期間中,放送の翌月末日に,月額4800万円(同金額から同控訴人の手数料524万2600円を控除した4275万7400円)を,放映料(制作費,電波料,マイクロ費)として支払う義務を負っていたこと,その支払の担保として5000万円を毎日放送に提供していたこと,控訴人Bは,上記放映料を,広告主(スポンサー)から回収した広告料から支払うことを予定していたものの,毎日放送に対しては,広告主からの広告料の回収の有無にかかわらず,上記放映料を支払う義務を負担していたこと,毎日放送は,被控訴人との間で締結した本件製作契約に基づき,被控訴人に対し,本件テレビアニメの製作費として1話につき550万円ずつを納品の翌月に支払う義務を負っていたこと,が認められる。
控訴人らは,上記事実を根拠に,「映画の製作につき責任を有する者」であるか否かは,当該映画についての実質的な資金の負担者がだれであるかによって決せられるべきであり,本件テレビアニメの製作について実質的に資金を負担しているのは,被控訴人ではなく,控訴人Bであるから,同控訴人が本件テレビアニメの著作権の帰属主体である「映画製作者」に該当する,と主張する。
確かに,上記事実によれば,本件テレビアニメの製作費については,控訴人Bは,広告主から広告料を回収し,この回収した金員を原資として毎日放送に放映料4275万7400円を支払い,毎日放送は,この支払を受けた放映料を原資として被控訴人に製作費550万円を支払うことが予定されていた,ということができる。
しかしながら,そのことは,毎日放送がどのようにして被控訴人への支払の原資を取得しようとするかに係ることであって,本件テレビアニメの製作自体についての,被控訴人の法的立場にも,控訴人らの法的立場にも,かかわりのないことである。毎日放送と控訴人Bとの間に上記のような関係があるにせよ,ないにせよ,被控訴人は,本件テレビアニメを自己の責任において製作して毎日放送に納め,毎日放送から製作費の支払を受ける立場にあることに何の変わりもない(例えば,製作に要する費用,製作できなかった場合の毎日放送への損害賠償,何らかの理由により毎日放送から支払を受けられなくなった場合の損失などは,上記のいずれであるにせよ,被控訴人の負担となるのであり,これらを控訴人Bが負担することはない。)。
控訴人Bは,広告主から広告料を回収することができない事態が生じた場合にも,同控訴人は,毎日放送に対し放映料を支払う義務を負っており,そのための担保も提供することによって,資金負担の危険を負っていたことを,同控訴人が本件テレビアニメの製作についての実質的な資金負担者に当たる,とする根拠として挙げる。しかし,控訴人Bがこのような危険を負っていたとしても,それは,毎日放送に被控訴人との契約を成立させる上で貢献することはあっても,被控訴人と毎日放送との契約が成立した後の,本件テレビアニメの製作自体についての被控訴人の立場にも,控訴人Bの立場にも,何らの変更をもたらすものではない。
控訴人らは,本件テレビアニメが製作された後に,放送されないことになった場合でも,被控訴人が前払した製作費は,最終的には控訴人Bが資金を負担することを約束している,と主張する。しかしながら,本件全資料によっても,このような資金負担の約束があったことを認めるに足りる証拠を見いだすことはできない。
控訴人らは,原判決の論理では,映画の製作主体が実際の製作作業を第三者に委託する場合には,著作権を確保するため,常に前払をしなければならなくなってしまう,と主張する。しかしながら,原判決は,被控訴人が前払を受けずに製作資金を負担したことだけを根拠に,被控訴人を「映画製作者」と認めたものでないことは,原判決の記載自体から明らかである。控訴人らの主張は,原判決の正しい理解に基づくものとはいえない。
控訴人らの主張は,いずれも採用することができない。
(4) 控訴人らは,本件テレビアニメから発生する諸権利の帰属及びその権利から発生する利益の配分について控訴人ら及び被控訴人との間で締結された覚書において,控訴人Bが本件テレビアニメの国内商品化権や番組のリピート販売において,少なくない収益の分配を受けるとされていること(①商品化権については,控訴人Bが手数料及び残額の30%,被控訴人が33%,控訴人スタジオNが12%,毎日放送が25%,②出版物については,控訴人Bが30%,被控訴人が40%,控訴人スタジオNが30%。ただし,中学生以上を対象とする出版物については,控訴人Bが30%,被控訴人が30%,控訴人スタジオNが40%,③音楽に関する諸権利については,控訴人Bが40%,被控訴人が60%,④国内におけるリピートの番組販売については,控訴人Bが50%,被控訴人が50%。)を,同控訴人に本件テレビアニメの著作権を認めるべきであるとの主張の根拠として挙げる。
しかしながら,上記合意は,本件テレビアニメの著作権の帰属について定めたものではないことは明らかである。控訴人Bが,本件テレビアニメの商品化権等について,上記のとおり被控訴人とほぼ同程度の利益の分配を受けるとされていることは,本件テレビアニメの製作及び放映の実現について同控訴人が重要な役割を果たしたことを示すものであるとはいえても,そのことだけで,同控訴人が本件テレビアニメの製作自体について法律上の権利義務の主体となることを示すものではないことは,明らかである。
(5) 控訴人らの主張は,要するに,控訴人Bが,控訴人スタジオNの企画を取り上げ,本件テレビアニメの製作を実現するために,広告主と交渉して広告費の支払を了承させ,毎日放送と交渉して本件テレビアニメの放映を約束させ,控訴人B自身が毎日放送に対し放映料の支払義務を負う旨の契約を締結し,放映料支払義務の担保として保証金を毎日放送に提供するという一連の行為を行ったからこそ,被控訴人と毎日放送との間で本件製作契約が締結され,本件テレビアニメの製作及び放映が実現したのであるから,このような重要な役割を果たした控訴人Bにこそ本件テレビアニメの著作権を認めるべきである,ということに帰する。
控訴人Bが本件テレビアニメの製作及び放映を実現するについて,重要な役割を果たしたことは,控訴人らの主張するとおりである。しかしながら,映画の著作権の帰属主体である「映画製作者」の要件である「映画の製作につき責任を有する者」に該当するか否かは,その製作自体についての法律上の権利義務の主体であると認められるか否か,製作自体についての法律上の権利義務の主体であることの反映として,製作自体につき経済的な収入・支出の主体ともなる者であると認められるか否かによって決せられるべきであること,このような法律上の権利義務の主体となるのは本件製作契約の当事者である被控訴人であり,控訴人Bが本件テレビアニメの製作について法律上の権利義務の主体となることはないことは,前に述べたとおりである。控訴人Bが本件テレビアニメの製作,放映について果たした役割は,本件テレビアニメの製作の責任主体との関係でいえば,結局のところ,本件製作契約の成立という形で,本件テレビアニメを製作すること,及び,その製作の責任の主体を被控訴人とすることが確定するに至るまでのいきさつにおけるものであるにすぎない,とみるほかなく,そのことによって,控訴人Bが本件製作契約締結後において映画の製作につき責任を有する映画製作者に当たると認めることはできないというべきである。