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著作権判例セレクション

映画著作物の著作者】一連の「宇宙戦艦ヤマト」(映画の著作物)の著作者が誰かが争われた事例

平成140325日東京地方裁判所[平成11()20820]
(前提となる事実)
原告は,著名な漫画作家であり,「男おいどん」「銀河鉄道999」などの漫画,アニメーションほか数多くの漫画,アニメ作品を著作,発表している。
被告は,音楽,舞台・ショー製作,アニメ作品のプロデューサーであり,アニメ作品「山ねずみロッキーチャック」「ワンサくん」などをプロデュースした。
本件各著作物は,「宇宙戦艦ヤマト」の活躍をテーマとした一連のアニメ作品であって,本件著作物1,4及び7はテレビ用,本件著作物2,3,5,6及び8は劇場用の作品であり,いずれも「映画の著作物」に当たる。
※本件著作物1…全26話合計13時間(実写時間約9時間30分)に及ぶテレビ版である。
※本件著作物2…テレビ版である本件著作物1を基に,2時間10分の劇場用に編集した劇場用映画である。
雑誌「財界展望」(平成11年5月号)の「『宇宙戦艦ヤマト』の著作権は誰のものか」と題する記事において,被告は訴外Yに宛てて,以下のような手記を送った旨が記載されている。
「MRが,原作,著作を名乗るなど,恥を知るものの振る舞い,とはとても考えられません。今,ここを先途と対外的に語られ,2001年にヤマト,復活編を造る,自分に著作権がある,とは何を指して云われているのでしょう・・・原作云々等と言っている時点では,可愛い冗談で済ませても,著作権,つまり,ヤマトを製作する権利を含めて,著作権があるという事は絶対許せない事です。これは私が許せない,という事だけではなく,参加した,スタッフの一員としても許せぬ話しであります・・・企画書は私に帰属するものであり,これがすべての宇宙戦艦ヤマトの源著作物,著作権のすべてはNに帰属している・・・」(明らかな誤字も含めて原文のままである)。

1 本件著作物1の著作者 について
(1) 被告の寄与の程度
ア 事実認定
本件著作物1の製作について,被告の寄与の程度について検討する。
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下のとおりの事実が認められる。
() 本件著作物1製作の契機及び本件企画書の作成
被告は,昭和48年4月から同年9月まで,アニメ作品「ワンサくん」を製作し,同作品はテレビ放映された。被告は,同作品の放映が終了した昭和48年9月ころから,Yとともに,次のアニメ作品の準備を開始した。
 被告は,ハイラインの著作「地球脱出-メトセラの子ら」における,「地球の危機的状況から脱出して宇宙に移住の地を求める」話(SF版ノアの箱舟)に刺激されたこと,自らプロデューサーを担当したアニメ作品「ワンサくん」で,映像と音楽を融合させる試みをしたことなどから,次のアニメ作品について,映像,音楽及び人間ドラマを融合させた,宇宙を舞台にした冒険アクションSF娯楽大作を製作しようとした。被告は,SF「アステロイド6」の著者であるTの参加を得て,同人において,SFの設定やアイデアプロットを作成した。さらに,被告は,ブレーンスタッフとして,I(SF),F(脚本),S(イラスト),T(美術)らの参加を得て,被告を中心に,企画段階でのメインスタッフによるブレーン・ストーミングのための会議を開き,仮称「アステロイド・シップ」の企画作業を進行させた。
企画の具体的な進行について,被告は,すべての会議を主催して,自ら,骨格となる具体的な方針,ストーリー及びアイデア等を提示し,また,スタッフが着想したアイデアを取捨選択し,SF設定,SFアイデア,エピソード及び銀河系の模式図(ドラマの舞台となる銀河系宇宙の図を資料に基づいて描いたもの)などを具体化した。被告は,Tの原案のうち,敵役を「コンピュータ」から「ラジェンドラ星人」(後のガミラス星人)に,作品の中心となる「アステロイド・シップ」を「戦艦大和」に由来する「宇宙戦艦ヤマト」に(なお,当初の段階では,宇宙戦艦「コスモ」とか「イカルス」とされていた。),その乗組員を全員日本人に,変更した。
被告らは,昭和49年3月ころ,このような作業を経て,本件企画書を作成した。
なお,同月ころ,本件著作物1における登場人物の図柄を完成させるには至らなかった。すなわち,被告は,登場人物の図柄作成について,○○に協力を依頼したが,同人から断られたため,暫定的にYS及びTが,図柄を描いていた。
被告は,本件企画書を持ち込んで,よみうりテレビと交渉した結果,同局において,昭和49年10月6日から,週1回全39回(39話)を放映することが決まった。
() 本件企画書の概要
()
本件企画書には,登場人物(キャラクター)の性格付け,人物像,図柄等が示されている他,企画意図,製作仕様,エピソード,ヤマトの詳細な説明等が記載されている。
() 本件企画書と本件著作物1との比較
()
() 製作体制の確立,スタッフの選定
被告は,ジェネラル・プロデューサーに就任して,製作に関して決定権限を一元化する体制を整え,被告の企画方針を実現するためのスタッフを選定することにした。
すなわち,①アニメ製作においては,シナリオ,絵コンテ,作画,撮影,編集,録音及び試写等の各製作パートに分担する必要があること,②本件著作物1は,視覚化された原作は存在しなかったこと,③本件著作物1は,各話完結でなく,全体として1つのストーリーからなり,しかも,ドラマ,映像及び音楽の3要素を融合させた作品を目指していたため,作品全体のイメージを統一する必要があったこと,④1週ごとに放映されるテレビシリーズであるため,作画部門を4班に分けて,同時進行させる体制を採る必要があったこと等の事情から,被告は,自身が製作のすべてに関与し,全体的な観点から具体的な指示,決定を行うべく,すべての決定権限を集中させる体制を採った。そして,被告は,練馬区桜台にスタジオを借り,常駐して製作を続けることにした。
被告は,ドラマ,映像,音楽の3要素の融合という企画方針を実現できるように,主要なスタッフの人選をした。すなわち,①ジェネラル・プロデューサー(スタッフタイトルは「企画・原案・原作・総指揮」とされた。)として被告自身を,②監督としてYを,③映像に関しては,チーフディレクターとしてIを,背景監督としてTを,作画監督としてO(総作画監督),ASKを,その下に作画作業班を置き,④音響に関しては,音響監督としてTを,音楽担当としてMを,効果(効果音)担当としてKを,それぞれ起用した。
() 原告の起用
製作を開始した後の昭和49年4月ころ,宇宙空間などの色彩を的確に表現できるスタッフが必要となった。被告は,①原告の「アナクロ的なメカニックデザイン(アナログ的計器類)」や「女性像」が本件著作物1のイメージに合致すること,②Nが原告を推薦したことから,原告に対して,メカニックデザインやキャラクター設定をはじめとする「美術・設定デザイン」の担当を依頼し,原告はこれを承諾した。
昭和49年6月末以降,監督のYが海外ロケに出かけるため,本件著作物1の製作に関与できなくなった。Yは,既に,「鉄腕アトム」や「ジャングル大帝」等のテレビアニメを製作し,アニメ界で実績があったため,Yが欠けることはテレビ局との関係でも支障が生じた。被告は,原告が,アニメ製作についての実績はないが,有名な漫画家であり,作品に話題性を与える効果が期待されたため,原告に対して,監督の就任を依頼した。原告は,連載漫画を多数引き受けていたことや,アニメへの初参加で監督を務めるのは能力を超えることを理由に固辞したが,被告やYからの説得を受けて監督を引き受けた。このような事情から,被告は,実際には,プロデューサー兼監督として,自ら指揮して,本件著作物の製作を進めることにした。
() 基本設定書等の作成
被告は,一連のストーリーを大別し,「ヤマト出発シリーズ」「太陽圏突破シリーズ」「銀河突破シリーズ」「バラン植民地解放シリーズ」「マゼラン基地撃破シリーズ」「イスカンダル発見シリーズ」「ガミラス攻略シリーズ」「イスカンダル到達シリーズ」及び「地球帰還」の9つに分け,YFの協力を得て,「宇宙戦艦ヤマト自体チャームポイント」「宇宙戦艦ヤマト戦闘史」「ガミラスの指揮官」「宇宙戦艦ヤマトの航海予定」「宇宙戦艦ヤマト艦長の病状と艦内の空気」「古代進の境遇」及び「島大介の境遇」に関する設定対比表を作成した。
また,被告は,Yの協力を得て,ドラマ全体の起承転結を明確にし,各話におけるプロットを盛り込んだ「各話別基本設定書」を作成した。
 被告は,同設定書を基礎に,被告のアイデアを説明した上,脚本,設定,デザイン,美術等の担当者に具体的な作業内容を指示した。
() シナリオの作成
被告は,シリーズ全体のシナリオ作成に当たり,脚本家,SF作家等との間でブレーンストーミングを行い,「銀河系の中心に行くのではなく,銀河系の外に旅立つ,壮大な話にしたい」「相手方のラジェンドラ(イスカンダル)は二重連星とする」「異星人側もヒューマノイドタイプとする」「敵,大敵は,ナチスドイツを想定し,かつ,第二次世界大戦の連合軍ヨーロッパ侵攻作戦を下敷きに考える」「戦略,戦闘に太平洋戦争,ミッドウェイ,レイテ等の海戦の戦略を参考にする」など具体的な指示を出して,シナリオ作成作業を進めた。そして,被告の作成した前記「各話別基本設定書」を踏まえて,Fにおいて,「宇宙戦艦ヤマト設定ストーリー(全3稿)」を作成し,これらに基づいて,FT及びYが脚本を作成することとした。被告は,シナリオ作成を依頼するに当たって,「主人公たちの成長」や「ライバル関係」や「食事をするといった日常的な情景」をドラマに入れて,視聴者が登場人物に共感を持つような作品にするよう,留意事項を挙げ,できあがったシナリオについて何回か修正を加えた上,被告においてシナリオを確定した。
() 設定デザイン,美術,キャラクターデザイン
被告は,絵コンテ作業の前提となる,設定デザイン,美術,キャラクターデザインの作成作業について,詳細な具体的指示を与え,被告においてデザイン等を確定した。
a 設定デザイン
「設定デザイン」のうちには,主要なものとして「場の設定」がある。すなわち,舞台となる惑星の「場の設定」として,「惑星全景」「惑星4分の1」「列島レベル」「都市レベル」「主要な都市建造物」「基地」「メカニック」,「基地の内部」がある。
 設定デザインは,従来は美術監督の担当分野であったが,被告は,設定デザイン部門を独立させ,設定したデザインを美術部門の「カラーボード」(通称「美術ボード」と呼ばれた。)「背景」の原図としてそのまま活用できるように組織編成をした。
 被告は,デザイン担当と入念に打ち合わせをした上で,各場面の「設定デザイン」「その切り返し」「三面図」等のラフを仕上げ,被告において原案を確定した。
b 美術等
美術スタッフが打合せを行い,場面設定の要所を指定した上で色彩を施して,ミニボードを作成する作業がある。被告は,担当者に対して,シーンの色彩イメージについての指示を出し,最終的に確定した。原告は,登場人物,メカの色彩の指定を行ったが,いずれも最終的には,被告が決定した。
また,様々なドラマが展開される「大場設」(大きな場面設定),「宇宙空間各種」「敵方の惑星」「大要塞」等については,被告の指示に基づいて大きな「美術ボード」が作成され,これを美術スタッフ全員で見てイメージを統一するという方法が採られた。
このように,美術については,被告の発想とデザインコンセプトに従ってラフを起こし,被告が最終的に決定した。
c 登場人物,メカニック
登場人物については,被告と総作画監督であるOが,登場人物の性格付け(キャラクター設定)を行い,これに基づいて,Oが「古代進」「真田志郎」「古代守」「デスラー総統」を,岡迫と芦田豊雄が共同で「島大介」を,原告,O及びAが共同して,「沖田十三」「森雪」を,原告が「スターシャ」「アナライザー」及び「佐渡酒造」を,それぞれデザインし,クリーンアップ作業を経て完成した後,被告が原案を確定した。
また,「宇宙戦艦ヤマト」本体のデザインについては,原告が担当した。被告は,原告に対して,①実物の戦艦大和を基礎に,原形を崩さずに使用すること,②横向きのシルエットについては,艦橋,砲塔,イカリ及びカタパルトに至るまで,実物の戦艦大和と同型とすること,③本件企画書にある断面図におけるイラストを出来る限り使用すること等のデザインコンセプトを明確に指示し,被告が原案を確定した。
() 絵コンテ
前記の確定したシナリオに基づいて,映像化するための絵コンテ作業について,被告は,単独で,あるいはM映画監督やYらと共に,絵コンテ担当者に対し,個別に指示説明をして,作成させた。その際,1つの絵コンテについて複数の絵コンテ案を作成させ,一番良いものを採用するという方法を採った。
絵コンテ作業は,演出,カメラワーク,カット割り,それぞれのカットの秒数(尺数)の決定(秒割り),音楽の入る位置,全体尺(長さ)を考慮に入れなければならず,何度も変更(リテーク)の指示を出した上で,被告において,最終的に絵コンテを決定した。
() 作画
作画作業は,①アニメーター(作画担当者)による,カットの基本となる画面の構成(レイアウト),登場人物等のポーズや表情の描画(原画),原画と原画の間をつなぐ絵の描画(動画),②背景美術の担当者(背景マン)による背景の描画,③これらの全体が絵コンテの演出方針どおりであるかのチェック(演出チェック),④完成された動画を透明なセル板にトレースして,指定された色を塗られる作業(セル画)の各作業からなる。
被告は,チーフアニメーションディレクターと演出方針の打合せ,及び総作画監督,作画監督,主原画家,美術監督,美術設定デザイナー等の担当者と打合せを行った後に,各スタッフが打合せの結果に基づいて作画作業を行った。また,被告は,原画担当スタッフとチーフディレクターとの間で行われる「作画打合せ」にも必ず立ち会い,ドラマ上の重要なカット,「心情芝居」「人情」「男女の機微」「戦闘」「戦略」「戦術」の設定など重要なカットやシーンについては,自ら直接,担当者に対して指示をした。さらに,被告は,各アニメーターが分担した各部分の相互の関連などについて,アニメーターに説明し,詳細な指示を与えた。
被告は,仕上がった背景やセル画のうち,重要なものについて,自らチェックし,作画を確定した。
() 撮影・現像・オールラッシュ試写
作画段階で描かれた「背景」に「セル画」を重ねて,1コマごと撮影して,これを現像・プリントして「フィルム」(ラッシュフィルム)を作成し,これを絵コンテに従ってカット順に並べ換えて,棒つなぎにして「オールラッシュ」を完成させて,各製作パートの責任者が参加してオールラッシュ試写を行い,各作業の出来具合をチェックする。 被告は,試写に欠かさず立ち会って,自己が指示したとおりにオールラッシュが仕上がっているか否かを確認し,自己の感性やイメージに沿わない部分については修正させた。
() 編集
オールラッシュ試写後の作業として編集がある。編集作業は,映像の流れにメリハリやテンポをつけたり,各登場人物等の動きとセリフや効果音・音楽との調整を図ったり,オールラッシュフィルムを放映時間の長さに合わせたりする目的で,カットを削除,付加したり,また,オープニング,エンディングを付けたり,CMを挿入する場所を指定したりする作業である。被告は,編集作業について,具体的な指示を出し,放映用の作品の映像部分を完成させた。
() 音楽,録音(アフレコ)
まず,オープニング及びエンディングに流される主題歌の作詞作曲は,絵コンテの作業と並行して行われた。
被告は,企画意図や作品のイメージを具体的詳細に伝えた上で,Aに作詞を,Mに作曲を依頼した。
()
BGM(背景音楽)について,被告は,音響監督であるTと打合せを行って,弦楽器を多く取り入れたシンフォニックでスケール感のある曲を用いることとした。そして,このような方針に沿って,Mが,各場面でどのような曲が必要かについて,被告からの詳細な注文を受けて,100曲を超える曲を作曲し,Tにおいて,これらを整理して保管し,アフレコの過程で,これらの曲から選定して使用した。
このように,音響作業については,形式的には,Tが決定権限を有していたが,実際には,被告は,自らの感性に沿って,意見を出したり,決定したりする例が数多くあった。
イ 被告の寄与に関する結論
以上の事実を総合すると,被告は,本件著作物1について,本件企画書の作成から,映画の完成に至るまでの全製作過程に関与し,具体的かつ詳細な指示をして,最終決定をしているのであって,本件著作物の全体的形成に創作的に寄与したといえる。
(2) 原告の寄与の程度
ア 事実認定
本件著作物1の製作について,原告の寄与の有無及び程度について検討する。
(証拠等)によれば,以下のとおりの事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
() 原告の参加の時期
本件著作物1の本件企画書を作成していた段階では,原告は製作に全く関与していなかった。被告は,製作を開始した後,著名な漫画家である原告に対して「美術・設定デザイン」の担当を依頼した。その後,当初監督に就任していたYが,海外ロケーション等の日程の都合上,製作に関与できなくなったため,作品の話題性を高めるために,原告に対して監督を依頼したが,実質的な監督は,被告が担当した。
() 原告の関与の程度
原告は,第1話から第3話までについては,時間的な余裕があったため,構成シナリオ,設定の打合せ等に参加したが,その後は,各話の設定デザインの作業等に追われて,スタジオでの打合せにはほとんど参加しなくなった。
原告は,本件著作物1の製作に関与した昭和49年4月ころから最終回の放映された昭和50年3月30日までの間,各月ないし隔週で,20を超える漫画作品の連載を担当していたため,本件著作物1の製作に関して,スタジオに赴き,他のスタッフに詳細な指示を与えることはなかった。原告は,26話での打ち切りが決まった時期以降は,スタジオに赴くこともなく,専ら,自宅において設定デザインに関する作業をすることが多くなった。
() 設定デザイン,美術,キャラクターデザイン
設定デザインについては,原告が,その一部(背景,敵方の異星人の居住する星及び基地,メカニック等のデザイン)を担当した。しかし,原告が作成したデザインは,すべて,被告が作成した「設定対比表」「各話別基本設定書」に基づいて行い,かつ,被告が最終的なデザインを決定した。
原告がデザインした登場人物のうち,被告がそのまま採用したのは,「スターシャ」「アナライザー」及び「佐渡酒造」のみであった。その他の登場人物,すなわち「森雪」や「沖田十三艦長」などについては,原告が原案を作成したが,ドラマ全体のイメージに沿った劇画的なものにするべく,O総作画監督がリライトの指示を出し,被告が最終的に決定した。
原告は「宇宙戦艦ヤマト」本体のデザインを担当したが,「デザインコンセプト」は被告の指示に基づいて行い,かつ,被告が最終的な決定をした。
原告は,登場人物,機械的構造物の色彩指定などをしたが,いずれも被告の決定を経ていた。
() 絵コンテ
絵コンテについて,原告は,戦闘シーン等や第1話の絵コンテの中の一部のみを担当し,演出のIが修正するという共同作業で進められた。しかも,このような形式で,原告が絵コンテに関与したのは全26話中8話だけであった。
() 音楽
作曲について,原告は,Mに主題曲に関する意見を述べたこともあったが,ドラマの基本的なイメージを伝えて,指示をしたのは被告であり,最終的に決定したのも被告であった。
()
() その他
原告は,作画打合せ,オールラッシュ試写,編集作業には関与していない。その他の製作過程について,原告が積極的に関与したことはない。
() 事後の事情
後記2に認定するとおり,原告は,本件著作物2の製作には一切関与していないが,本件著作物2が大ヒットしたため,原告は,被告に対して本件著作物2についても権利を主張した。昭和52年8月17日,原告と被告とは,本件著作物2は,本件著作物1のフィルムを基にして新たに製作された作品である旨,原告は「設定・デザイン」を担当したメインスタッフとして,本件著作物1により発生している本件著作物2についての二次使用料1000万円(構成料・デザイン料等)を被告から受ける旨合意した。しかし,同契約は,本件著作物1について,原告が著作者であることを認めて,その二次使用料の支払を受けるという趣旨を合意したものでないことは明らかである。
イ 原告の寄与に関する結論
以上認定した事実によれば,原告は,本件著作物1の製作について,設定デザイン,美術,キャラクターデザインの一部の作成に関与したけれども,原告の関与は,被告の製作意図を忠実に反映したものであって,本件著作物の製作過程を統轄し,細部に亘って製作スタッフに対し指示や指導をしたというものではないから,原告は,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したということはできない。
ウ 原告の主張に対する判断
() 原告は,本件著作物1の製作過程において,①原告が,アニメ映画製作において最も重要な作業というべき設定デザインを担当したこと,②原告が,機械的構造物,宇宙空間を海にたとえた自然現象の表現,色彩の指定,宇宙キロ,宇宙ノット,次元波動理論,宇宙波動理論,波動砲,波動エンジン等のアイデアを提供したこと,③原告が,波動理論や登場人物を創作したこと,④これらが本件著作物1の特徴となっていることなどを根拠に,原告が全体的形成に創作的に寄与した者である旨主張する。
しかし,前記(2)において認定したとおり,原告の関与した作業内容は,美術及び設定デザインの一部であって,ドラマ,映像及び音楽から構成される本件著作物1の全体からみれば,部分的な行為にすぎないといえるから,原告がこれらの作業を担当したことによって,全体的形成に創作的に寄与したということはできない。
確かに,アニメ映画においては,映像が作品の重要な特徴として認識される面があることは否定できず,原告が,美術・設定デザインを担当し,「宇宙戦艦ヤマト」や主要な登場人物のデザインを作成したために,本件著作物1の映像や画面構成に原告の個性が発揮されているのは当然であるといえるが,そのことのゆえに,映画の著作物である本件著作物1を原告が著作したとはいえない。
()
(3) 結論
以上によれば,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したのは,専ら被告であって,原告は部分的に関与したにすぎないから,本件著作物1の著作者は,被告であって,原告ではない。
2 本件著作物2の著作者について
(1) 事実認定
証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
本件著作物1のテレビ放映は,昭和49年10月6日から開始された。当初全39話の予定であったが,被告らの期待に反して視聴率は低迷し,テレビ放映は,全26話で打ち切られ,昭和50年3月に放映を終了した。
被告としては,精魂込めて製作した「宇宙戦艦ヤマト」を不本意な形で終了したことがあきらめられず,本件著作物1を劇場上映することを企画して,本件著作物2の製作を開始することにした。
そこで,昭和50年春から昭和52年春までの2年間,被告は,MYらの協力を得て,本件著作物1を編集し直し,結末について新たな創作部分を加えて本件著作物2を完成させた。
原告は,本件著作物2の製作には一切関与しなかった(当事者間に争いがない。)。
(2) 判断
以上によれば,本件著作物1の全体的形成に創作的に寄与したのは,被告であり,原告は一切関与していないから,本件著作物2の著作者は被告であって,原告ではないということができる。
原告は,本件著作物2は本件著作物1の「焼き直し」であるから,本件著作物1の著作者である原告は当然に本件著作物2の著作者であるかのような主張する。しかし,前記認定のとおり,本件著作物1の著作者は,被告である以上,原告の主張は前提において失当である。
3 本件著作物3の著作者について
()
(2) 結論
以上認定した事実によれば,本件著作物3の全体的形成に関与したのは被告であり,原告の関与は部分的なものにすぎないというべきである。本件著作物3の著作者は被告であって,原告ではない。
4 本件著作物4の著作者について
()
(2) 結論
以上の事実によれば,本件著作物3における被告の関与の程度,本件著作物4の製作意図に照らすと,本件著作物4の全体的形成に関与したのは被告であって,原告ではないと解すべきである。
5 本件著作物5の著作者について
()
(2) 結論
以上の事実によれば,本件著作物5の全体的形成に関与したのは被告であって,原告ではないと解すべきである。
6 本件著作物6の著作者について
()
(2) 結論
以上認定した事実によれば,本件著作物6の全体的形成に創作的に寄与したのは被告であり,原告ではないと解すべきである。本件著作物6の著作者は被告であって,原告であるということはできない。
7 本件著作物7の著作者について
()
(2) 結論
上記認定した事実,及び,被告がこれまでの宇宙戦艦ヤマトシリーズにおいて各作品を製作した経緯とをあわせ考慮すると,本件著作物7の全体的形成に寄与したのは被告であって,原告ではないと解される。
8 本件著作物8の著作者について
()
(2) 結論
以上の事実によれば,本件著作物8の全体的形成に関与したのは被告であって,原告ではないと解される。
9 著作者人格権侵害行為及び名誉毀損行為の有無について
ア 前記1ないし8認定の事実によれば,本件各著作物の著作者は被告であり,原告ではない。その余の点を判断するまでもなく,前記記載の被告の行為等が,著作者人格権侵害及び名誉毀損を構成することはない。
イ のみならず,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,同事実を前提としても,原告の名誉を毀損する不法行為に該当するとはいえない。すなわち,
() 被告はその経営する事業に失敗し,平成9年破産宣告を受け,次いで,覚せい剤取締法違反,銃砲刀剣類等所持法違反で逮捕され,東京拘置所に収容された。平成11年には,被告は,下肢麻痺に罹患し,体調を悪化させている。
() 原告は,本件各著作物が製作されてから,平成10年に至るまでの間,本件各著作物について,自らが著作者であることを主張したことはなかった。
ところが,平成10年に至って,原告は,「新潮WEB」「サンケイWEB」上で,「ヤマトのファンの皆さんご安心下さい。『破産』『逮捕』のNは『ヤマト』とは無関係であり,すべての権利は,私--M-が持っておりますから-」という趣旨のコメントを述べた。また,雑誌やその他のマスメディアにおいて,「ヤマト」について原告が原作者であり,かつ,すべて原告が創作,設定したものであるとの趣旨を述べ,平成12年には「新ヤマト」を製作公開すると発表した。
() これに対し,被告は,Yに宛てて,「MRが,原作,著作を名乗るなど,恥を知るものの振る舞い,とはとても考えられません。今,ここを先途と対外的に語られ,2001年にヤマト,復活編を造る,自分に著作権がある,とは何を指して云われているのでしょう・・・原作云々等と言っている時点では,可愛い冗談で済ませても,著作権,つまり,ヤマトを製作する権利を含めて,著作権があるという事は絶対許せない事です。これは私が許せない,という事だけではなく,参加した,スタッフの一員としても許せぬ話しであります・・・企画書は私に帰属するものであり,これがすべての宇宙戦艦ヤマトの源著作物,著作権のすべてはNに帰属している」との手記を送った(同手記が掲載を前提としたものか否かは明らかでない。)。
() なお,被告は,被告本人尋問において,「私自身の不祥事によって『宇宙戦艦ヤマト』のイメージを傷つけたことに関して,この法廷の場を借りて,「ヤマト」のファンの方もおられるでしょうし,またMさんもそうでしょうし,そういったことに関して深くおわび申し上げたいと。それと,もう1つは,「ヤマト」のファンは決してこのような訴訟は好まないでしょう。早くきちんとした形をもって,まあ,私自身も罪を償い,「ヤマト」のイメージのいい作品を作って,将来またMさんと仕事ができる機会があればいいなというふうに思っています。それが私のメッセージです。」と供述している。
以上認定した事実によれば,被告がYに宛てて手記を送付したことについて,その背景事実,経緯,記載内容,記載の動機等に鑑みると,被告の同行為が社会通念上,原告の名誉を毀損する不法行為に該当すると解することはできない。
10 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がなく,被告の請求は理由があるので,主文のとおり判決する。