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著作権判例セレクション
【映画著作物の著作権の帰属】映画の著作物の共同著作者性及び映画製作者の該当性が争われた事例
▶平成30年3月19日東京地方裁判所[平成29(ワ)20452]
(注) 本件は,別紙記載の映画(「本件映画」)の共同著作者であり,同映画の著作権者であると主張する原告が,本件映画の監督である被告が本件映画のマスターテープ(「本件マスターテープ」)を引き渡さずに行方をくらませた行為は,原告が有していた同マスターテープの所有権を侵害する不法行為であるなど主張して,被告に対し,著作権法112条1項に基づき,本件映画の上映等の差止めを求めると共に,本件マスターテープの所有権侵害の不法行為による損害賠償請求権等に基づき,損害金等の支払を求めた事案である。
1 認定事実
(略)
2 争点1(原告は,本件映画の共同著作者であるか)について
原告は,原告が,被告及びCとともに,本件映画の共同著作者であると主張する。
映画の著作物における著作者とは,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者をいうところ(著作権法16条),前記認定事実によれば,本件映画については,脚本及び監督を被告が,撮影をCが担当し,撮影後の編集作業も被告及びCが行っているから,被告及びCは,本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者といえるが,原告は,自らがプロデューサーを担当することが決まったなどと主張するにとどまり,本件映画の全体的形成に創作的に寄与したことを基礎付ける具体的な事実関係を主張しているとはいえないし,そのような事実関係を認めるに足りる的確な証拠もない。
この点について,原告は,原告と被告との間で何度も脚本の改訂を行ったと主張し,原告本人が「サスペンスの脚本にしてくれということは言っています。」と供述するほか,原告の陳述書には,原告が被告に対し,役名を役者の本名ではなく役名を用いるべきこと,劇団Tのワークショップに参加している者を出演させるべきことなどを指示した旨が記載されているが,仮に,これらの事実が認められるとしても,そのことをもっては,原告が本件映画の全体的形成に創作的に寄与したというに十分でない。
したがって,原告が,本件映画の共同著作者であると認めることはできず,原告が本件映画の共同著作者であることを原因とする請求は,いずれも理由がない。
3 争点2(原告は,本件映画の映画製作者であり,被告及びCは,原告に対し,本件映画の製作に参加することを約束したか)について
原告は,原告が本件映画の映画製作者であり,かつ,被告及びCは,原告に対し,本件映画の製作に参加することを約束したから,著作権法29条1項の規定により,原告が本件映画の著作権者となる旨主張する。
著作権法29条1項の「映画製作者」とは,映画の著作物の製作に発意と責任を有する者をいい(同法2条1項10号),より具体的には,映画の著作物を製作する意思を有し,当該著作物の製作に関する法律上の権利義務が帰属する主体であって,そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入支出の主体ともなる者と解される。
本件についてこれをみると,前記前提事実によれば,原告は,本件ワークショップが開催された当時,「劇団T」の構成員が出演する劇場公開映画を製作することを考えており,本件映画の脚本と監督を被告に依頼しているから,本件映画を製作する意思を有していたということができる。しかし,前記前提事実によれば,原告は,本件映画の製作に要した費用の一部を支払い,さらにその一部を自らの事業の経費として確定申告を行っているが,他方で,被告も,撮影機材,劇中曲,著作権フリー音声及び映像,小道具・衣装,映画祭への出展,レンタカー等に要した各種費用を支払い,これらの費用については,「劇団T」宛の領収証により,原告が精算したものがあったが,そのような精算が行われないものもあったのであり,本件映画の製作に要する経費について,原告,被告をはじめとする関係者に明確な合意ないし方針があったとは認め難く,本件映画のキャスト及びスタッフは,いずれも報酬を受け取っていないこと,映画祭「TIFFCOM
2006」への出展は,被告が設立した合同会社Sが行ったことなども併せ考慮すると,原告が,本件映画の製作全体につき,法律上の権利義務が帰属する主体であるとか,製作に関する経済的な収入支出の主体であるとの状況にあったと認めることは困難である。
この点について,原告の陳述書には,原告が被告に対し,本件映画は劇団Tの自主映画製作プロジェクトの一環として行うものであり,予算,配役,スケジュール管理,プロモーション,宣伝活動,劇場公開及び配給は劇団Tが行うこと,製作にまつわる経費は劇団Tが支払うことなどの条件を提示し,被告がこの条件を受け入れた旨の記載があるが,本件全証拠によっても,原告ないし劇団Tが,予算,配役,スケジュール管理,プロモーション,宣伝活動,劇場公開,配給及び経費の支払のすべてを現実に行ったと認めることはできず,他に原被告間でこのような合意がされたことを認めるに足りる的確な証拠はないから,上記陳述書の記載は,にわかにはこれを信用することができない。
以上によれば,原告が,本件映画の製作に発意と責任を有するものであったと認めるには至らないから,本件映画の「映画製作者」ということはできず,原告が,著作権法29条1項により,本件映画の著作権を取得したということはできない。
したがって,原告が本件映画の著作権者であることを原因とする請求は,いずれも理由がない。
4 争点3(原告は,本件マスターテープの所有権を有していたか)について
原告は,本件映画の映画製作者は原告であるから,本件マスターテープの所有権は,本件映画の完成時に当然に原告に帰属すると主張するが,原告が本件映画の映画製作者と認めるに至らないことは上記3において認定説示したとおりであるから,原告の主張は採用することができない(なお,原告は,原被告間で,本件映画が完成した際には,被告が本件マスターテープを原告に引き渡す旨の合意をした旨の主張もするが,当該事実と本件マスターテープの所有権の帰属との関係は明らかとはいえないし,原告が主張するところの原被告間の合意を認めるに足りる的確な証拠もない。)。
したがって,被告が,原告の有する本件マスターテープの所有権を侵害したことを原因とする損害賠償請求には理由がない。
5 結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,本件請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。