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著作権判例セレクション

【損害額の推定等】PV数と「受信複製物の数量」(1141)は一致するか

▶令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]
() 本件は,一審原告が,一審被告会社は,自らが運営するウェブサイト(本件各ウェブサイト)に,一審原告が著作権を有する本件各漫画を無断で掲載し,一審原告の著作権(公衆送信権)を侵害したと主張して,一審被告会社に対し,民法709条及び著作権法114条1項に基づき,損害賠償金等の支払を求めるとともに,一審被告会社の現在の代表取締役である一審被告Y1及び同年8月25日まで代表取締役であったY3(同日死亡。以下「亡Y3」)が,一審被告会社の法令順守体制を整備する義務に違反して,一審被告会社が上記著作権侵害行為を行う本件各ウェブサイトを運営することを許容したとして,一審被告Y1及び亡Y3を相続した同人の配偶者である一審被告Y2に対し,会社法429条1項に基づき,一審被告会社と連帯して,上記同額の損害賠償金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
原判決は,一審原告の請求を,一審被告らに対し,損害賠償金219万2215円及びこれに対する平成30年7月7日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し,その余の請求を棄却した。
原判決に対し,各当事者は,それぞれ,敗訴部分を不服として控訴した。

3 争点6(損害額)について
⑴ 一審原告の主張は,原判決が法114条1項ただし書に基づき,本件各漫画のPV数[注:PV(ページビュー)とは,ウェブサイト内の特定のページが開かれた回数を表し,ブラウザにHTML文書(ウェブページ)が1ページ表示されることにより1PVとカウントされる。]に本件各同人誌の利益額を乗じた額から9割を控除したことについて,原判決の認定判断の不当を種々の観点からいうものである。
しかしながら,一審原告の主張は採用することができない。その理由は,次のとおりである。
ア 公衆送信行為による著作権侵害の事案において,法114条1項本文に基づく損害額の推定は,「受信複製物」の数量に,単位数量当たりの利益の額を乗じて行うものとされている。そして,本件のように,著作権侵害行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合,「受信複製物の数量」とは,公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本文),単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく,ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。ところが,本件においては,公衆が閲覧した数量であるPV数しか認定することができないのであるから,法114条1項本文にいう「受信複製物の数量」は,上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならない。
また,本件において,一審被告会社は,本件各ウェブサイトに本件各漫画の複製物をアップロードし,無料でこれを閲覧させていたのに対し,一審原告は,有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたものであり,一審被告会社の行為と一審原告の行為との間には,本件各漫画を無料で閲覧させるか,有料で購入させるかという点において決定的な違いがある。そして,無料であれば閲覧するが,書籍を購入してまで本件各漫画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは容易に推認し得るところである(原判決において認定されているとおり,本件各同人誌の販売総数は,本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが,これも,本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは,無料であれば閲覧するが,有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである。)。
イ そうすると,本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法114条1項の計算の前提となる数量)は,PV数よりも相当程度少ないものと予想される上に,ダウンロードして作成された複製物の数の中にも,一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから,これらの事情を総合考慮した上,法114条1項の適用対象となる複製物の数量は,PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である。この点につき,一審原告は種々主張しているが,上記の点に照らし,その主張を採用することはできない。
⑵ 一審被告らの主張は,法114条1項に基づく損害額の認定を行うこと自体の不当をいうものであるが,PV数と受信複製物数の違いを念頭に置いた上で,更に一審原告が販売できないとする事情を考慮して損害額算定の基礎となる数量を算定し,これに一審原告の利益額を乗じる手法が不合理であるとすべき事情は見当たらないから,法114条1項に基づく損害額の認定は相当であり,「損害額を立証するために必要な事実を立証することが当該事実の性質上極めて困難であるとき」として法114条の5を適用する必要はない。
したがって,一審被告らの主張は採用することができない。