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著作権判例セレクション

【損害額の推定等】ストリーミングの再生回数は法114条1項にいう受信複製物の数量となるか

平成28421日東京地方裁判所[平成27()13760]
() 本件は,原告が,被告に対し,原告は別紙記載の映像作品(「本件著作物1」などという)の著作権を有するところ,被告が本件著作物1及び2のデータを動画共有サイトのサーバーにアップロードした行為が公衆送信権(著作権法23条1項)の侵害に当たると主張して,民法709条及び著作権法114条1項(主位的)又は3項(予備的)に基づき,損害賠償金等の支払を求めた事案である。
被告は,本件著作物1及び2につき,いずれもインターネット上の動画共有サイトである「FC2アダルト」(「本件動画サイト」)のサーバー上にそのデータをアップロードした。本件動画サイトは動画をストリーミング配信するウェブサイトであり,これを視聴する者のパソコン等に一時的に上記データが蓄積されるが,視聴すると直ちに消去されるので,データをダウンロードした場合のようにウェブサイトに再度アクセスせずに映像を再度視聴することはできない(以上、前提事実)

1 著作権法114条1項に基づく損害額について
(1) 原告は,①ストリーミングの再生回数が受信複製物の数量に当たること,②本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数はダウンロードの回数と同視できることなどからすれば,本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数が著作権法114条1項にいう受信複製物の数量となる旨主張する。
(2) そこで判断するに,受信複製物とは著作権等の侵害行為を組成する公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物又は実演等の複製物をいうところ(同項),本件においてはダウンロードを伴わないストリーミング配信が行われたにとどまり,本件著作物1又は2のデータを受信した者が当該映像を視聴した後はそのパソコン等に上記データは残らないというのであるから,受信複製物が作成されたとは認められないと解するのが相当である。
また,前記前提事実のとおり,本件動画サイトは動画をストリーミング配信するウェブサイトであるところ,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件動画サイトにアップロードされた動画をダウンロードすることは不可能ではないが,そのためには特殊なソフトウェアを利用するなどの特別の手段を用いる必要があることが認められる。
以上によれば,本件著作物1及び2の本件動画サイトにおけるストリーミングによる動画の再生回数が受信複製物の数量に当たるということはできないし,これをダウンロードの回数と同視することもできない。したがって,著作権法114条1項に関する原告の上記主張は失当である。
2 著作権法114条3項に基づく損害額について
(1) 後掲証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア 本件動画サイトがストリーミング配信する動画には,無料動画と会員向けの有料動画(会費は1か月当たり1000円又は1年当たり6000円)がある。本件動画サイトにおいては,配信される動画ごとに「再生数」が表示されている。
本件著作物1は,平成25年10月5日に本件動画サイトに有料動画としてアップロードされ,同月6日時点における「再生数」は1万3292回と表示されていた。本件著作物2は,同月4日に本件動画サイトに有料動画としてアップロードされ,同年11月29日時点における「再生数」は2万4539回と表示されていた。
本件動画サイトの会員でない者が有料動画を視聴しようとするとサンプル動画が数秒間再生されるところ,上記の「再生数」にはこのサンプル動画の再生数も含まれる。本件著作物1及び2に係る「再生数」の内訳は不明である。
被告がアップロードした本件著作物1及び2のデータは,平成26年3月頃までに本件動画サイトから削除された。
イ 本件著作物1は,動画配信サイト「DMM.com」にて有料でインターネット配信されており,その価格は,平成25年10月5日時点において,HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2480円,ダウンロードとストリーミングのセットが1980円,HD版ストリーミング(7日間)が390円であった。また,本件著作物2も同様に配信されており,その価格は,同年11月29日時点において,HD版ダウンロードとHD版ストリーミングのセットが2980円,ダウンロードとストリーミングのセットが2480円,DVDトースターが2800円であった。
インターネット配信の上記各価格は,配信時期やキャンペーンの実施等によって変動し,本件著作物1に係る平成28年1月15日時点のHD版ストリーミング(7日間)が273円,本件著作物2に係る平成27年9月28日時点のHD版ストリーミング(同)が300円となっていた。
ウ 原告は,取引先との間で,コンテンツ提供基本契約を締結し,取引先に対して原告の映像等のコンテンツの配信を許諾しているところ,ある取引先との契約では,原告がその対価として●(省略)●を受け取ることが定められている。
(2) 原告は,①本件著作物1及び2が本件動画サイトにおいて上記「再生数」に記載の回数配信され,②これらが正規に配信された場合の価格はそれぞれ372円,2362円であり,③この場合原告は●(省略)●を受領できたとして,著作権法114条3項に基づく損害賠償を請求する。しかし,上記の事実関係によれば,①上記「再生数」の正確性を裏付ける証拠が何ら提出されていない上,全体の再生回数のうち有料のストリーミング配信の回数は,事柄の性質上,無料のサンプル動画の再生回数より大幅に少ないと考えられる。また,②本件著作物1及び2のストリーミング配信の正規の価格は時期等によって変動するがおおむね1本当たり270~390円程度であり,さらに,③原告は自らが使用許諾をした場合の対価につき契約条項の大半を抹消した契約書の写しを提出するのみであり,現実にいかなる収入を得ていたかは明らかでない。本件におけるこれらの事情を総合すれば,被告による本件著作物1及び2の公衆送信権の侵害に対して原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額は,それぞれ50万円とするのが相当である。
3 弁護士費用相当額の損害について
本件における弁護士費用相当の損害額は合計10万円(本件著作物1につき5万円,本件著作物2につき5万円)と認められる。
4 まとめ
以上によれば,原告は,被告に対し,民法709条及び著作権法114条3項に基づき,110万円及びうち55万円に対する本件著作物1に係る不法行為の日である平成25年10月5日から,うち55万円に対する本件著作物2に係る不法行為の日である同月4日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。