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著作権判例セレクション
【プログラム著作物】テレビゲームのソフトウエア・プログラムの著作物性及び侵害性が争点となった事例
▶昭和57年12月06日東京地方裁判所[昭和54(ワ)10867]
二 右争いのない事実と証人Bの証言によれば、本件プログラム[注:記号語(アツセンブリ言語)を用いて表示された、テレビ型ゲーム「スペース・インベーダー・パートⅡ」の内容にかかるソフトウエア・プログラムのこと]は、本件ゲームの内容を本件機械の受像機面上に映し出すことを目的とするものであつて、本件ゲームの内容は、従前原告が販売していたテレビ型ゲームマシン・スペース・インベーダーのゲーム内容を改良したものではあるが、これを複雑化した独自の新規なゲームであり、本件プログラムも右ゲームのため従前のゲーム用のソフトウエア・プログラムとは別個独立に新たに作成されたものであること、本件プログラムは、まず、受像機面上に表現されるインベーダー等種々の影像並びにその数、大きさ、配列、順序、ミサイルの飛行速度、ビーム砲基地の大きさ、間隔、ビーム砲の大きさ、運動経路等の決定(仕事の分析)、次いで、右に決定された各種の影像を受像機面上に影像として映し出す情報としてROMへ収納するデータ情報の構成及びそのアドレスの決定、本件機械にコインが投入される前におけるデモプレイ時、コインが投入されゲームが開始された場合、並びにゲーム終了という一連の過程における影像の変化の基本的構成に関する解法の発見、すべての影像について、そのそれぞれを構成するための解法の発見、インベーダー、UFO、ミサイルその他受像機面上において変化運動する影像について、その進行方向、速度等についてそれぞれの解法の発見、これら相互間の処理の順序に関する解法の発見(仕事の設計)、右により発見された解法に従つた簡略なフローチヤートの作成、フローチヤートに基づき記号語によるプログラムの作成(プログラミング)という一連の過程を経て完成したものであること、本件プログラムに使用されている記号語は、アツセンブリ言語と呼ばれているもので、その理解にある程度の専門的知識と経験を必要とするとしても、作成者の表現内容を第三者に伝達する機能を有するものであることが認められる。
右の事実によれば、本件プログラムは、本件ゲームの内容を本件機械の受像機面上に映し出すことを目的とし、その目的達成のために必要な種々の問題を細分化して分析し、そのそれぞれについて解法を発見した上で、その発見された解法に従つて作成されフローチヤートに基づき、専門的知識を有する第三者に伝達可能な記号語(アツセンブリ言語)によつて、種々の命令及びその他の情報の組合せとして表現されたものであり、当然のことながら右の解法の発見及び命令の組合せの方法においてプログラム作成者の論理的思考が必要とされ、また最終的に完成されたプログラムはその作成者によつて個性的な相違が生じるものであることは明らかであるから、本件プログラムは、その作成者の独自の学術的思想の創作的表現であり、著作権法上保護される著作物に当たると認められる。
(略)
四 請求の原因4(一)の事実は当事者間に争いがない。
ところで、証人Bの証言及び弁論の全趣旨によれば、本件機械のコンピユーター・システムのROMに収納されている本件オブジエクトプログラムは、本件プログラムに用いられている記号語(アツセンブリ言語)を、開発用コンピユーター等を用いて、コンピユーターが解読できる機械語(本件の場合二個の一六進数を単位として表現される。)に変換した上、これを電気信号の形で本件機械のROMの記憶素子に固定して収納されていること、右記号語から機械語への変換は、右両言語が一対一の対応関係にあるため機械的な置き換えによつて可能であり、そこに何ら別個の著作物たるプログラムを創作する行為は介在しないこと、このROMに電気信号の形で固定して収納されている本件オブジエクトプログラムは、ロムライター等の複製用具を用いて、他のROMに電気信号の形で収納することができるものであり、訴外電商サービスらは、右の手段で本件オブジエクトプログラムを他のゲームマシンのROMに収納したこと、そしてROMは、プログラムを収納すると、一定の操作によつてこれを消去しない限り、プログラムを記憶し続け、右ROM内の情報(プログラム)はコンピユーター・システムの電源スイツチが入ると中央演算装置(CPU)によつて読みとられ、CPUが順次その命令を実行し、ゲームマシンの受像機面上に本件ゲームの内容を映し出すものであることが認められる。
右事実によれば、本件オブジエクトプログラムは本件プログラムの複製物に当たり、訴外電商サービスらの本件オブジエクトプログラムを他のROMに収納した行為は、本件プログラムの複製物から更に複製物を作出したことに当たるから著作物である本件プログラムを有形的に再製するものとして複製に該当する。
そして、被告会社が注文を受けた顧客のゲームマシンのコンピユーター・システムの基板を取り外して、これを訴外電商サービスらに持ち込み、右基板に取り付けられたROM又は必要に応じて追加したROMに本件オブジエクトプログラムを収納せしめた行為は、右訴外人らを被告会社のいわば手足として使用したもので、被告会社自身が本件プログラムの複製行為をしたものと評価できる。
右収納行為をした当時被告Aが被告会社の代表取締役であつたことは当事者間に争いがなく、被告会社代表者兼被告本人尋問の結果によれば、被告Aは、昭和54年8月ころ、原告が当時新製品として発売した本件機械の定価が50万円を超えており、ゲームマシンを設置ないし賃貸している業者が既存のゲームマシンを安価に本件機械に改造することを希望していたことから、その改造を計画し前記の複製行為をしたことが認められる。
右事実によれば、被告会社が右複製行為をするにつき、被告会社代表取締役であつた被告Aは本件プログラムが原告あるいはその他第三者の作成にかかるものであることを知り、又は少なくとも過失によつてこれを知らなかつたことが認められるから、右複製行為は故意又は過失によつてされたものというべく、被告らは不真正連帯の関係で、右不法行為によつて原告が被つた損害を賠償すべき義務がある。被告らは、本件プログラムが著作物であり、その複製に原告の許諾が必要であることを当時知らなかつた旨主張するけれども、右は法の不知というべく、被告らの右賠償責任の成立に消長を来たさない。