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著作権判例セレクション
【表現形式が異なる著作物間の侵害性】舞妓の写真vs舞妓の絵画(日本画)(複数人の過失が競合して起きた著作権侵害事例)
▶ 平成28年7月19日大阪地方裁判所[平成26(ワ)10559]
(注) 本件は,日本画家である原告が,同人の撮影した舞妓の写真を利用して日本画を制作し,その日本画を展覧会に出展した日本画家である被告に対し,著作権(翻案権,展示権)及び著作者人格権(同一性保持権,公表権)侵害を理由として侵害行為の差止等を求めるとともに,不法行為に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。
1 争点(1)(本件写真の著作物性及び著作権の帰属主体)について
(1) 本件写真が原告撮影に係る写真であることは当事者間に争いがないが,被告は,本件写真の著作物性を否認するとともに,著作物性が認められたとしても,原告が著作権者ではないとして争っている。
ところで写真が著作物として認められ得るのは,被写体の選択,シャッターチャンス,シャッタースピードの設定,アングル,ライティング,構図・トリミング,レンズの選択等により,写真の中に撮影者の思想又は感情が表現されているからであり,したがって写真は,原則として,その撮影者が著作者であり,著作権者となるというべきことになる。
(2) これにより本件について見ると,本件写真①は,舞のポーズをとった舞妓を,やや斜め左前の位置で,舞妓をごく僅かに見上げる高さから撮影したものであるが,舞を踊るポーズを取る舞妓の表情及び全身を捉える撮影位置,撮影アングル,構図を選択したのは撮影者の原告であり,本件写真①は,このことにより撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから,これによりその著作物性が肯定され得る。
本件写真②は,黒髪の舞を踊る最中の舞妓を,ほぼ正面の位置で,舞妓とほぼ同じ目の高さから連写の方法で撮影したものであるが,舞の最中の舞妓が視線を落とした一瞬を切り取り,舞妓を正面からほぼ同じ目の高さで撮影するという,撮影位置,撮影タイミング及び撮影アングルを選択したのは撮影者の原告であり,本件写真②は,このことにより,撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから,これによりその著作物性が肯定され得る。
本件写真③は,舞を踊る最中,座った姿勢となった舞妓を,舞妓の左正面約45度の方向から,座った姿勢の舞妓とほぼ同じ目の高さで撮影したものであるが,舞を踊る舞妓が座った一瞬を切り取り,これを斜めの位置からほぼ同じ目の高さから撮影するという,撮影のタイミング及び撮影位置,撮影アングルを選択したのは撮影者の原告であり,本件写真③は,このことにより撮影者である原告の思想又は感情が創作的に表現されているといえるから,これによりその著作物性が肯定され得る。
したがって,本件写真は,いずれも著作物足り得るものであり,撮影者,すなわち著作者である原告が,著作権者であると認められる。
(3)ア 被告は,上記(被告の主張)のとおり主張して本件写真が著作物であることを否認する。被告の主張は,被写体である舞妓の影像が本件写生会の会員全員の共有であるなどと主張して,同じ舞妓のポーズを皆が撮影する限り,個々人が撮影した写真に創作性が生じないように主張する。
しかし,同じ舞妓の同じポーズを被写体として複数の者が同時に撮影するにしても,そのポーズをとった舞妓をいかなる撮影方向,アングル,構図で捉えるかなどの点で写真には撮影者の個性が現れ得るから,個々人の撮影した写真それぞれが著作物足り得ることは明らかであって,これに反する被告の主張は失当である。
イ また被告は本件写真が著作物とするなら,その著作権が原始的に帰属するのは,P3であると主張するが,そもそもP3は本件写真①,③の撮影時にその場に居合わせていないのであるから,それら写真についてP3の創作行為を観念する余地はない。また本件写真②の撮影の場には居合わせているけれども,撮影位置,撮影タイミング及び撮影アングルの選択など具体的撮影行為をしたのが原告である以上,P3が本件写真②の創作行為に関与したということはできず,いずれにせよ,被告の主張は,準共有となる旨の主張を含めて採用の余地がない。
ウ なお被告の主張は,上記ア,イで検討した点を含めP3が被写体となる舞妓にポーズの指示をしたことが写真の創作であるとの前提で主張するものと理解されるが,芸術作品の題材足り得る舞妓の姿(ポーズ)の美しさは舞妓自身の修練の結果身に着けた所作に由来するものであって,P3がポーズについて何らかの指示を与えたとしても,絵画の題材足り得る舞妓のポーズを創作したものといえないし,また他の写生会の参加者もそうである。またそもそも,写真の著作物性は上記のとおり撮影方法における撮影者の創作性に由来するのであって,被写体そのものの創作性に由来するものではないから,いずれにせよ,被告の主張は失当である。
2 争点(2)(被告の本件絵画の制作行為等は,本件写真の著作権及び著作者人格権を侵害する行為であるか。)について
(1) 翻案権侵害について
ア 本件写真①について
被告が,本件写真①に依拠して本件絵画①を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真①と本件絵画①とを対比すると,本件絵画①は,その全体的構成が本件写真①の構図と同一であり,本件写真①の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真①の撮影方法と同じく,正面の全く同じ位置,高さから見える姿を同じ構図で描いていることで本件写真①の本質的特徴を維持しているが,その背景を淡い単色だけとし,さらに舞妓の姿が全体的に平面的で淡い印象を受ける日本画として描かれることにより創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これに接する者が本件写真①の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真①を翻案したものということができる。
したがって,被告による本件絵画①の制作行為は,原告の本件写真①に係る翻案権を侵害する行為である。
イ 本件写真②について
被告が,本件写真②に依拠して本件絵画②を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真②と本件絵画②とを対比すると,本件絵画②は,その全体的構成は本件写真②の構図と同一であり,本件写真②の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真②の撮影方法と同じく,正面の全く同じ位置,高さから見える姿を同じ構図で描いていることで本件写真②の本質的特徴を維持しているが,その背景を淡い単色だけとし,さらに舞妓の姿が全体的に平面的で淡い印象を受ける日本画として描かれることにより創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これに接する者が本件写真②の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真②を翻案したものということができる。
したがって,被告による本件絵画②の制作行為は,原告の本件写真②に係る翻案権を侵害する行為である。
ウ 本件写真③について
被告が,本件写真③に依拠して本件絵画③,④を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真③と本件絵画③,④とを対比すると,本件絵画③,④は,いずれともその全体的構成は本件写真③の構図と同一であり,本件写真③の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真③の撮影方法と同じく,正面斜め前の全く同じ位置,高さから見える舞妓の姿を同じ構図で描いていることで本件写真③の本質的特徴を維持しているが,本件絵画③は,これに背景色に明るい単色を用い,さらに舞妓の姿も本件写真③よりも明るく淡い雰囲気となるよう表現した日本画として描かれることにより,また本件絵画④は,本件絵画③とは異なり背景色に暗い色を用い,さらに舞妓の着物の色を本件写真③とは異なる青味のものとした上,その輪郭をぼかして淡く光るように描くことで,背景から舞妓の姿を浮かびあがらせるよう表現した日本画として描かれることにより,それぞれ創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これらに接する者がいずれも本件写真③の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真③を翻案したものということができる。
したがって,被告による本件絵画③,④の制作行為は,原告の本件写真③に係る翻案権を侵害する行為である。
(2) 展示権侵害について
本件写真は,いずれも発行されていない写真であるから,著作者である原告は展示権を専有する。
そして,上記(1)認定のとおり,本件絵画は,いずれも本件写真を翻案して制作された本件写真の二次的著作物に当たるから,原告は,二次的著作物である本件絵画についても展示権を専有するところ,前記記載のとおり,被告は,本件絵画を,不特定多数人が訪れる展覧会に出展して展示したというのである。
したがって,被告の本件絵画展示行為は,原告の本件絵画に係る展示権を侵害する行為である。
(3) 同一性保持権侵害について
本件絵画は,前記(1)認定のとおり,それぞれに対応する本件写真との相違点があるから,被告は,本件写真の表現を改変したものというべきである。
そして,原告が,被告に対して本件写真を利用した絵画の制作を許諾していなかったことは,後記3(2)のとおりであるから,被告による本件写真の上記改変は著作者である原告の意に反するものというべきである。
したがって,被告の本件絵画制作行為は,原告の本件写真に係る同一性保持権を侵害する行為である。
(4) 公表権侵害について
本件写真は,いずれも公表されていない写真であるから,本件写真の著作者である原告は,公表権を有する。
そして,上記(1)のとおり,本件絵画は,いずれも本件写真を翻案して制作された本件写真の二次的著作物に当たるから,原告は,その二次的著作物である本件絵画についても公表権を有するところ,被告は,本件絵画を不特定多数人が訪れる別紙記載の各展覧会に出展し,公表したというのである。
したがって,被告の本件絵画公表行為は,原告の本件絵画に係る公表権を侵害する行為である。
3 争点(3)(原告が被告に対して著作権及び著作者人格権を行使することを妨げる事由はあるか。)について
(1) 被告は,原告がP3に本件写真を交付することによりその著作権を放棄した旨主張する。
しかし,そのことを直ちに認め得る証拠はないことはもとより,証拠によれば,原告がP3に対して本件写真を含む写真を多数交付したのは目を患っているP3の絵画制作を援助するためという人的関係に基づくものであって,その写真がP3から第三者に交付され利用されることは予定されていなかったこと,そもそもP3は写真を模写したような絵画を制作するわけではなく,ただ絵画制作時の参考資料として利用するにすぎないこともあって,その当時,原告とP3の間で本件写真の利用に伴う著作権に及ぼす影響が明確に意識されていなかったものと推認されることなどからすると,原告が本件写真をP3に交付するに伴い,本件写真の利用につき原告が一切異議を述べることができなくなるような効果をもたらす著作権放棄を黙示的にしたものと認めることもできない。
(2) 被告は,原告がP3に本件写真の利用を許諾しており,被告は,P3から本件写真の利用の許諾を得ているから,被告の行為は著作権侵害にならないように主張する。
しかし,原告がP3に対して本件写真を交付した経緯が上記(1)で認定したとおりである以上,原告がP3に対して,その限度で著作権の利用を許諾していたとしても,これを超えてP3に再許諾権を与えること,すなわち,P3が,それら写真を第三者の絵画制作に利用のため第三者に提供することまで許諾していたとは認められない。
したがって,P3が被告に対し,本件写真を絵画制作に利用させることを目的として利用方法について特段の注意することなく交付し,法的には本件写真の利用を許諾したと解され得たとしても,そもそもP3にはその権原がないので,被告は,P3からの利用許諾をもって原告には対抗できないというべきである。
(3) 被告は,本件写生会の各会員は,自由と平等な立場なので,互いに著作権を主張しあう関係になく,原告は,本件写真をP3に交付したのであるから,本件写真について権利行使することは信義則上,許されない旨主張する。
確かに証拠及び弁論の全趣旨によれば,舞妓写生会は,いずれも,舞妓をモデルに絵画を制作する画家の集まりであって,その最中は,各自がさまざまな形で舞妓にポーズの指示を出したりして,自由にデッサンや写真撮影をしていたものであり,その費用も参加者が均等割りで2万円程度負担し,また会終了後に食事会が行われるなど,会は会員の親睦関係の上に成り立っていて,会員は被告のいうように自由で平等な関係であったといえる。
しかし,舞妓写生会に参加する会員間の人間関係がそうであったとしても,そのことが,舞妓写生会における創作活動によって個々人が有することになる著作権の行使を妨げられるべき事情になるとはいえないし,また原告がP3に写真を交付することによって著作権を放棄したりしたわけではないことは上記(1)のとおりであるから,仮に原告がP3に対して本件写真利用に関する何らかの許諾を与えていたとしても,原告の被告に対する著作権行使の妨げになるとはいえず,被告の上記主張は採用できない。
4 差止請求及び廃棄請求の成否についての判断のまとめ
(1) 請求の趣旨第1項に係る請求について
被告は,本件写真についての著作権及び著作者人格権侵害となる行為をしたものであるが,本件写真をいずれも原告に既に返却しているし,後記のとおり,その保管している本件絵画①,④については展示等のおそれがあるとして廃棄を命じる以上,被告が法的主張として著作権侵害を争っていたとしても,今後,新たに本件写真を翻案して,あるいは本件絵画①,④を複製して絵画制作をしたりするおそれがあるとまでは認められないから,さらにその制作作品を展示したり譲渡したりするおそれもあると認めることはできない。
したがって,請求の趣旨第1項に係る本件写真の翻案権及び同一性保持権に基づく本件写真の翻案の差止請求,展示権及び公表権に基づく,本件写真を翻案して制作される絵画の展示及び譲渡の差止請求には理由がない。
(2) 請求の趣旨第2項,第3項に係る請求について
ア 被告は,本件写真の二次的著作物である本件絵画のうち,本件絵画①,④をなお販売未了状態で保管しているから,展示のおそれが認められ,したがって,展示権及び公表権に基づくその展示及び譲渡の差止請求並びに廃棄請求には理由がある(譲渡の差止請求は,著作権法112条2項の侵害の予防に必要な措置として理由があるものと認める。)。
イ 他方,被告は,本件写真の二次的著作物である本件絵画のうち,本件絵画②,③を既に売却し,その管理下に置いていないから,展示権及び公表権に基づくその展示及び譲渡の差止請求並びに廃棄請求に理由はない。
5 争点(4)(被告は本件写真の著作権及び著作者人格権侵害について故意又は過失があるか。)について
原告は,本件写真の著作権及び著作者人格権侵害につき,被告には故意があり,そうでなくとも過失がある旨主張する。
被告本人尋問の結果によれば,被告は,P3から交付を受けた本件写真が,P3以外の第三者が撮影したものとの認識があったことが認められる一方,P3から絵画制作の資料として交付されたものである以上,当然,本件写真を利用して絵画制作をすることが許されているものと考えていたことも認められるから,被告が故意で本件著作権侵害行為に及んだと認められないことは明らかである。
ただP3が保有している写真であるからといって,これによる絵画制作をすることを許す権限をP3が有しているとの認識は何ら具体的根拠に基づくものではないし,上記3で検討したように,原告が被告に対して著作権を行使できないとする被告主張はいずれも採用できないから,被告がこれらの事実関係から本件写真を絵画制作に用いることが許されていると考えていたとしても客観的根拠を欠くものといわなければならない。
そして,被告自身,その尋問結果によれば市販の写真集掲載の写真を利用した絵画制作が許されない程度の著作権についての理解があったというのであるから,P3から何ら説明や注意を受けることなく本件写真の交付を受けたとしても,その利用に当たり,本件写真撮影者との関係で問題がないかについて調査確認すべきことに思い至ることはさほど難しいことはでなかったはずといえる。
したがって,被告は,本件写真がP3の撮影に係る写真ではないことを認識しながら,漫然とこれを受領し,その著作権及び著作者人格権侵害に及ぶ利用の可否について全く調査確認しようとしなかった点に注意義務違反があるといわなければならないから,本件写真の著作権及び著作者人格権侵害について過失があるというべきである。
6 争点(5)(原告の受けた損害の額)について
(1) 著作権侵害による逸失利益について
原告は,被告による本件絵画の制作及びその展示の結果,本件写真を用いて絵画制作をして販売することができなくなったとして,制作し販売し得たはずの絵画の販売価格を前提に,制作販売機会喪失による逸失利益を損害として主張している。
しかしながら,制作済みの絵画が販売できなかったというのではなく,せいぜいその前段階である制作に着手していたにすぎないというのであるから,制作完成後は絵画が確実に販売される見込みが高かったとしても,そのような損害は写真の著作権侵害から通常生ずべき損害とはいえず,特別の事情による損害というべきである。
そして,本件写真はP3が絵画制作の資料として保有されていたもので,P3の健康に問題がなければ,そのように用いられるはずであったことからすると,そのP3が絵画制作を断念してその保有写真を被告に交付したという本件の事情のもとでは,その写真の撮影者がなお本件写真を別に保有しており,これを用いて絵画を制作して販売するだろうことは一般に予見し難いといわなければならず,そうであれば,そのような経緯を前提に初めて生じ得る原告主張の損害は,本件写真の著作権侵害と相当因果関係のある損害と認めることはできないというほかない。
したがって,本件の事実関係のもとでは,本件写真の著作権侵害による損害の額は,被告による本件絵画の制作によって,本件写真を展示販売する絵画制作に用いることができなくなったという価値減損の限度で認定するのが相当であるところ,本件写真①ないし③を用いて制作された本件絵画①ないし③は,いずれも17万円の販売価額とされていたというだけでなく,本件写真③は,日本画家である被告にとって重要な展覧会であると考えられるS2のS4の展示作品の題材として用いられたことからすると,本件写真の絵画の題材としての価値は少なくとも1枚当たり5万円と認定するのが相当であり,したがって,著作権侵害によりその価値が失われ,その限度で原告の損害が生じたというべきである。
(2) 著作者人格権侵害による慰謝料
同一性保持権侵害が問題となるべき,被告によりなされた本件写真についての改変の内容,程度は,上記2(1)のとおりであり,また公表権侵害の点については,別紙記載の各展覧会という限られた機会における公表だけが問題となる。
そして,本件問題発覚後の被告の対応等,本件訴訟に現れた一切の事情を総合考慮すると,著作者人格権侵害によって原告に生じた精神的損害を慰謝するに必要な慰謝料の額は,20万円と認めるのが相当である。
(3) 過失相殺の主張について
本件の問題が起きた遠因には,原告が自らの著作物である本件写真をP3に交付したことにあるといえるが,P3が絵画制作を続ける限り,これらの写真が被告に交付されることはそもそも起きなかったはずであるから,P3が絵画制作を断念するだけでなく,不要となった本件写真を,第三者に絵画制作の資料として交付してしまうことは,原告の予想外の出来事であったといえる。また,そもそも原告がP3に対して本件写真を含む写真を多数交付したのは目を患ったP3の絵画制作を援助するためであって,そのことはP3も理解していたはずであるから,その写真を第三者の絵画制作に利用させることが原告との関係で許されていたわけでないという理解を原告がP3に期待することが不合理なこととはいえない。
そうすると,原告にとって,P3が第三者に対し,第三者の絵画制作の資料として自由に利用できるような誤解を与えて交付することは,全く予想外の出来事であって,原告に,そのことを予想して本件写真の交付を避けたり,写真を交付するにしても特別な注意をP3に与えておいたりすべきであったとはいえない。
要するに本件問題は,P3と被告の過失が競合して起きた問題であって,そこに原告の過失があったということはできないから,被告の著作権侵害行為による損害賠償の額を定める当たり,原告に考慮すべき過失があるようにいう被告の主張は,失当であって採用できない。
(4) 弁護士費用相当の損害額
本件事案に鑑み,本件と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は,5万円が相当である。
(5) 以上によれば,原告の被告に対する著作権侵害及び著作者人格権侵害を理由とする損害賠償請求は,合計40万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成26年4月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。