Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【侵害主体論】ゲーム音楽の編曲、オーケストラ演奏の録音、楽曲CDの製作販売・輸入等の一連の事業の主体が争点となった事例(法人格の濫用にも言及)/クラウドファンディングにより調達した資金を「利益」(114条2項)を算定する基礎に含めた事例

令和498日東京地方裁判所[令和3()3201]令和5420日知的財産高等裁判所[令和4()10115]
() 本件は、原告が、別紙目録記載の各楽曲に係る著作権を有するところ、被告らによる以下の権利侵害行為を主張して、被告らに対し、著作権法1121に基づく本件楽曲の複製、送信可能化及び公衆送信の差止め並びに本件楽曲を収録したコンパクト・ディスク(「本件CD」)の複製、輸入及び譲渡の差止め等と、不法行為(民法709条、7191項前段)又は会社法597条に基づき、連帯して、所定の損害賠償等の支払を求めた事案である。
(1) 別紙目録に赤字で記載された楽曲(「原告楽曲」)に依拠して本件楽曲[注:ロールプレイングゲーム「幻想水滸伝」「幻想水滸伝」に使用されている楽曲をアレンジしたもの]の譜面を作成し、原告楽曲を編曲した(以下「本件編曲行為」)ことによる原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)の侵害
(2) 本件楽曲をオーケストラ等により演奏・録音し、本件楽曲を録音・複製した(以下「本件録音・複製行為」)ことによる原告の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(複製権)の侵害
(3) 本件楽曲及び本件CDを音楽配信サイト等において販売し、本件楽曲及びその複製物を譲渡・配信した(以下「本件譲渡・配信行為」)ことによる原告の二次的著作物の利用に関する原著作者の権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)の侵害
(4) 本件CDの販売等に当たり、国外で制作された本件CDを輸入した(以下「本件輸入行為」)ことによる原告の著作権の侵害(法11311号)

1 争点 1(本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為の主体)について
(1) 前提事実【に加え】、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 被告Aは、遅くとも平成305月頃までに、ゲーム音楽のオーケストラ演奏、レコーディング、CD 販売等を企画し、音楽監督として、このような事業を目的とする米国法人VGM社の設立や、本件楽曲の演奏を行う実演家の選定に関与した。その結果、VGM社は、同年5 3日設立され、同年6月には日本事務所を開設した。
イ 被告Aは、VGM社の「日本国内全権代理」として、原告に対し、同年710日付けのVGM社書面1 を送付したが、その後の同月20日、Twitterの自身のアカウントにおいて、本件クラウドファンディングのウェブサイトへのリンクを貼付し、本件クラウドファンディングの開始を告知すると共に、本件楽曲制作の支援を求めた。その後も、被告Aは、当該アカウントを通じて本件クラウドファンディングに関する情報発信を行った。
また、同年814日、被告Aは、VGM社のYouTubeチャンネルにアップロードされた本件クラウドファンディングを紹介する動画に出演し、「音楽監督としてVGM Classicsの活動に貢献できることを大変嬉しく思います」、「皆さんぜひ私たちの活動にご協力ください」、「このクラウドファンディングのページをより多くの方々にシェアしていただきたく思います」などと、VGM社の活動内容及び本件クラウドファンディング等を紹介した。
【本件クラウドファンディングは、www.(以下省略)上で行われたところ、平成30年7月20日までに開始されたキャンペーンについては、「米国アマゾン社のサービスシステムの影響で」「近日中にキャンセル」されるが「新しくキャンペーンを始め」ることとされ、一旦キャンセルがされた上で、間もなく、本件クラウドファンディングに参加して「限定オーケストラCDを手に入れ」る期限を平成30年9月20日とするものとして、新たなキャンペーンが行われた。同キャンペーンの VGM社の説明ページには、寄附を募るための説明の一環としての「FAQ(よくある質問)」として、「Q.このレコードはライセンスを受けていますか?」(英語版では「<Are your records licensed?>」)という質問が記載され、「A.はい、このプロジェクトのレコードはライセンスを受けて制作されることになります。」(英語版では「In a word, yes, the upcoming records will be licensed.」)などと記載されていた(なお、上記キャンセルされた当初のキャンペーンの説明にも同旨の記載があった。)。そして、VGM社のウェブサイトにおいては、平成30年9月20日、本件クラウドファンディングに成功したこと、平成31年1月に日本でピアノによる、同年3月にブダペストで管弦楽団による録音が音楽監督である控訴人Yのもとで行われ、寄附者への「報酬」の発送は同年4月を予定していることが告知された。】
ウ 原告は、同年910日、VGM社の日本国内全権代理である被告Aに対し、VGM社の申請を拒絶することなどを内容とする原告書面1を送付した。
これに対し、「VGM Classics 日本事務所」の「ライセンス&CS 担当」と称する「B」は、同月14日付けのVGM社書面2を送付した。その中で、同人は、日米の著作権法に関するVGM社の見解を回答すると共に、「現在、レコード製作・および製作者を提携に興味をもつ他社に任せることも検討しております。」、「諸外国には、既に録音の実績がある楽曲に対し、レコード製作に関して米国や日本より自由な許諾・ライセンス制度をもつ国が数多くあり、例えば…イスラエル(著作権法 32 条)…などといった国家がそれにあたります。これらの国家では、法定ライセンス料がアメリカや日本より低価格であることもあり、…弊社としましては、米国または日本国の法律上でレコード制作を行いたいと考えておりますが、手続等があまりにも煩雑に・または長期化するようなことであれば、より自由な録音許諾・ライセンス制度を持つ国家の会社にレコード制作を完全委託することも検討中でございます。」などと説明した。
原告は、同年1210日、【VGM社の日本事務所の「日本国内全権代理」の控訴人Y及び「ライセンス&CS 担当」の「B」に宛てて】、原告書面2を送付して VGM社書面1及び VGM社書面2に回答すると共に、原告の著作物の無断利用が確認できた場合には法的措置を行う旨を回答した。
なお、ここでいう「イスラエル法人」については具体的に明記されていないが、その後CLASSICAL社が設立され、本件楽曲の制作に関与したことなどに鑑みると、同社が念頭に置かれていたものと推察される。
エ 平成31110日、イスラエル法人であるCLASSICAL社が設立された。
被告会社とCLASSICAL社は、本件楽曲のレコーディングに関する同月13 日付けの「Recording Contract」と題する契約書を作成した。同契約書によれば、本件CDの制作者(”Producer”)であるCLASSICAL社の直接の監督のもとに、音楽家(”Musician”)である被告会社がオーケストラ録音に必要な音楽的素材(音楽的スケッチ、楽譜やパート譜)を検討、準備すること、素材には音楽的変更が含まれることもできるが、そのような変更はイスラエル著作権法32条、50条の規定に従い準備されることなどが定められている。
オ 本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は、平成31120日に浜松市内で行われたところ、被告Aは、音楽監督としてピアニストを選定すると共に演奏の録音作業を行った。
また、本件楽曲のオーケストラ演奏の録音は、同年32日~同月615(同月5日を除く。)にかけてハンガリーのブダペストで行われたところ、被告Aは、オーケストラ演奏の指揮、録音、ミックス作業等を担当した。
なお、被告Aは、時期不詳ながら、これらの録音に先立ち、日本国内において、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面の作成作業を行った。
カ 被告Aは、CLASSICAL社の【「代理連絡先」である「担当」として】、原告に対し、同月27日付けのCLASSICAL社書面1を送付した。同書面には、CLASSICAL社が原告が著作権を保有する楽曲を使用することになったこと、イスラエル著作権法32条により、音楽著作物のレコードにおける複製は、楽曲の使用を事前に通知し、法定ライセンス料を支払う等の一定の条件を満たす場合には、著作権者の許諾を得る必要なく認められていること、仮に原告の許諾が得られなければ、使用料の支払をもって許諾に代えさせてもらうこと、などが記載されている。
これに対し、原告は、同年412日、CLASSICAL社の担当である被告Aに対し、【強制許諾により本件アルバムの】製造、販売を行おうとするCLASSICAL社に対し遺憾の意を表する旨などを記載した原告書面3を送付した。
これを受け、CLASSICAL社は、原告に対し、令和元年59日付けのCLASSICAL社書面3を送付し、楽曲のライセンス料(220145円)の支払を申請する旨などを伝えた。しかし、原告がこれを拒否したことから、同月13日、被告会社は、CLASSICAL社の委託に基づき、原告の受領拒否を供託原因として、220931円を第三者供託した。
キ 令和元年523日、CLASSICAL社、VGM社及びIL Distribution社は、「Sales and Kickstarter Shipping Service Agreement」と題する契約書を作成した。同契約書においては、CLASSICAL社が”PRODUCER”、VGM社が”FUNDRAISER”、IL Distribution 社が”BUYER”とされ、イスラエルにおいて、CLASSICAL社がIL Distribution社に対し本件楽曲に係る本件CD1000枚、そのデジタルアルバムを 2000枚【(本件CDは23トラックで構成されているため、単曲のデジタルシングルの23枚(曲)分でデジタルアルバム1枚と換算する。)】販売し、販売代金を1枚当たり 17NIS【+VAT(付加価値税)】 とすること、VGM社がIL Distribution社に本件クラウドファンディングの寄付者のリストを交付し、IL Distribution社が寄付者に対して本件CDの送付等を行うことなどが記載されている。
本件CD及び本件楽曲は、遅くとも同年61日にリリースされ、その頃からAmazonや本件音楽配信サイトにおいて販売、配信された。その後、CLASSICAL社は、原告に対し、同月6日付け「貴社が著作権を保有する楽曲を商用レコードをストリーミング配信に使用するための事前通達および使用料と【支払い】に関する申請」と題する書面を送付し、使用料の【支払等】を申し出ると共に、担当者に【支払等】に関する詳細を伝えたいとして返事を求めた。なお、同書面には、CLASSICAL社の担当者等に関する記載はない。
ク 原告は、令和329日、本件訴訟の提起と共に本件仮処分命令申立事件を申し立てたところ、【裁判所に提出された債務者VGM社名義の2件の書類の上包みには、米国内のVGM社の住所が記載される一方で、返送先として控訴人Yの肩書住所地が記載されたり、「川越西」の消印がされるなどしていた】。
(2) 検討
ア 前提事実及び前記(1)認定の各事実によれば、被告Aは、遅くとも平成305月頃、ゲーム音楽のオーケストラ演奏、製作、販売等を企画し、これを事業として行うことを目的とするVGM社の設立に関与し、また、同社名義での【本件クラウドファンディングについて積極的に情報発信をして】企画実現に必要な資金の調達を図ると共に、同社の音楽監督として本件楽曲を演奏する実演家の選定に関与するなど、VGM社の設立や本件楽曲制作の初期作業において重要な役割を担っていたということができる。
また、被告Aは、同年7月頃から、VGM社の日本国内全権代理と称して、原告に対し、原告楽曲の使用許諾申請を行い、【本件クラウドファンディングの締切り間際の同年9月10日に原告書面1によりこれが拒否されると、特段担当者の交代等が告げられることなくVGM社の「ライセンス&CS 担当」の「B」名義で同月14日付けのVGM社書面2が被控訴人に対して送付され、その後、本件クラウドファンディングが成功して翌月には予定された録音の開始を控えた同年12月10日に、被控訴人からVGM社の日本事務所の日本国内全権代理の控訴人Y及び「ライセンス&CS 担当」の「B」に宛てて原告書面2が送付されると、同月19日付けの「B」名義のVGM社書面3をもって、同年11月には本件楽曲の制作等に関する事業を「イスラエル法人」に移譲したことなどが被控訴人に伝えられた。その後、平成31年1月10日に至ってイスラエルでCLASSICAL社が設立され、また、VGM社のウェブサイトで告知されていた予定のとおりに同月及び同年3月に本件楽曲の録音等が控訴人Yを音楽監督として実施された後、同月27日付けで、控訴人Yは、CLASSICAL社の「代理連絡先」である「担当」として】、原告に使用許諾を申請しつつ、これに応じなければ、イスラエル著作権法に従い、使用料の支払により原告の許諾に代えさせてもらう旨を伝え、同申請も拒絶されると、【控訴人Yが代表社員を務める控訴人会社は】、CLASSICAL社のために、使用料に相当すると主張する金額を供託したというのである。このような一連の経過を全体として見ると、被告Aは、原告楽曲の使用許諾の取得又はこれに代わる制度を利用するため、当初はVGM社の名義で、後にCLASSICAL社の名義により、VGM社及びCLASSICAL社の【担当者等といった立場で、又はこれを称して】一貫して対応に当たってきたということができる。
さらに、このような対応と並行して、被告Aは、同年1月、被告会社とCLASSICAL社との間の「Recording Contract」と題する契約書を作成すると共に、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面の作成作業を自ら行った上、本件楽曲を演奏するピアニストの選定やピアノ演奏の録音作業を行い、同年3月にはオーケストラ演奏の指揮、録音、ミックス作業等を行った。【その上で、同年5月、CLASSICAL社、VGM社及び IL Distribution社の間で、VGM社が資金を調達し、CLASSICAL社が製作した本件CD等をCLASSICAL社がIL Distribution社に販売し、IL Distribution社において本件クラウドファンディングの寄附者への本件CDの送付等を行うことが合意され、さらに、同年6月、本件音楽配信サイトにおいて、それら3社の名称が適宜表示されて本件楽曲の販売等がされるとともに、CLASSICAL社から担当者を記載しないで一方的に使用料の支払等を申し出る旨の書面が被控訴人に送付されたところである。このような本件楽曲の制作から本件CD等の販売に至るまでの一連の過程やそこにおける控訴人Yの役割に加え、そこに現れた4社(VGM社、CLASSICAL社、控訴人会社及び IL Distribution社)のうち少なくとも3社(VGM社、CLASSICAL社及び控訴人会社)につき、控訴人Yが、代表者、日本国内全権代理、代理連絡先などとして実質的に関与していた一方で、控訴人Y以外には、「B」という者(なお、その実在を裏付ける他の証拠はない。)を除き、上記一連の過程に上記4社の関係者として関与した自然人の存在を証拠上認めるに足りないこと】を踏まえると、被告Aは、本件編曲行為や本件録音・複製行為に係る中心的な作業を自ら行っていたということができる。
イ 以上の事情を総合的に考慮すると、被告Aは、【控訴人会社の代表者として】、VGM社、CLASSICAL社及びIL Distribution社と【相互に意を通じて協力し合い、又は被控訴人の許諾の意思の有無にかかわらず原告楽曲を利用するという目的を達成するために、少なくともVGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して、IL Distribution社と相互に意を通じて協力し合い】、本件楽曲の制作から販売に係る企画に中心的な立場において関与したものと見るのが相当である。このような観点からは、本件編曲行為については被告Aが自ら行ったものであること、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為については、被告Aが【控訴人会社との共同に加え、VGM社、CLASSICAL社及びIL Distribution社と共同して、又はVGM社及び CLASSICAL社の法人格を濫用した上でIL Distribution社と共同して行ったものであり、それらの行為を控訴人Y及び控訴人会社の行為に含めて評価するのが相当であること】がそれぞれ認められる。そうすると、本件輸入行為についても、被告Aが少なくとも被告会社及びVGM社等と共同して行ったものと認められる。
ウ これに対し、被告らは、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為を行っておらず、これらを行ったのはVGM社やCLASSICAL社であり、また、被告らが、各法人と一体となって一連の行為をしたこともない旨を主張する。
しかし、被告Aが、原告楽曲を素材として本件楽曲の譜面を作成する作業を自ら直接行ったこと、本件楽曲のオーケストラ演奏等の指揮、録音、ミックス作業等を行ったことは、当事者間に争いがない。これらの行為は、本件楽曲及び本件CD制作に不可欠な中心的な行為である。これに加え、前記認定のCLASSICAL社の設立時期及び設立前後の経緯のほか、証拠上その代表者すら不明であり、その実態が不詳であることなど、CLASSICAL社がイスラエル著作権法に基づき原告楽曲を利用可能とするために設立された名目的な法人であることをうかがわせる事情が存在することに照らすと、本件CDにおけるCLASSICAL社に関する表示や被告会社との間の「Recording Contract」の存在等、CLASSICAL社が本件楽曲の制作主体であることを示す形式が取られていることを考慮しても、本件編曲行為及び本件録音・複製行為は、【控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが相当である】。
また、被告Aは、VGM社やCLASSICAL社の担当者と称し、本件楽曲の譲渡及び配信を行うために必要な措置である原告に対する原告楽曲の使用許諾申請を繰り返し行い、かつ、原告が使用許諾に応じないことを受けて、使用料に相当すると主張する金額を被告会社名義で第三者供託した。これらの行為は、本件楽曲の譲渡及び【配信が著作権を侵害するものとして差し止められること等を避けようとする行為】であり、譲渡等の主体でなければ通常行わないものといえることから、少なくとも、被告らとVGM社及び CLASSICAL社との密接な関係をうかがわせる。これに加え、VGM社の設立経緯、被告Aの氏名を連想させる代表者「B」なる表示、本件仮処分命令申立事件における被告Aの関与のほか、CLASSICAL社のみならずVGM社の実態も不詳であることに照らすと、Amazonや本件音楽配信サイトにおいて販売者がVGM 社と表示されていること等、VGM社が本件楽曲の販売主体であることを示す形式が取られていることなどを考慮しても、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為は、【控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが】相当である。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
2 争点 2(本件編曲行為による原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)侵害の成否)について
(1) 前記のとおり、本件楽曲は、被告Aにより、原告楽曲を素材としてその譜面が作成されたものであるから、原告楽曲に依拠して作成されたものと認められる。
また、本件楽曲が原告楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有するものであることは、当事者間に争いがない。
さらに、ゲーム内で利用されている原告楽曲と基本的にオーケストラによる演奏を想定した本件楽曲との性質ないし内容等の相違に照らすと、被告Aは、本件楽曲の譜面の制作に際し、原告楽曲を、その表現上の本質的特徴との同一性を維持しつつもオーケストラ演奏に適した旋律に変更し、オーケストラを構成する楽器の選択やアレンジ手法、演奏人数等に創意工夫を凝らすことで、原告楽曲に新たな創作性を付加したものとするのが相当である。
以上によれば、本件楽曲は原告楽曲を翻案したものであり、本件編曲行為は、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害するものと認められる。
(2) これに対し、被告らは、本件楽曲の譜面の作成は「検討の過程における利用」(法30条の3)であることや、その作成作業がCLASSICAL社の用意した日本国外のサーバー上で行われたこと、イスラエル著作権法32条により本件編曲行為は著作権者の許諾を必要としないことなどから、本件編曲行為は原告の翻案権を侵害しない旨を主張する。
しかし、前記認定に係る原告に対する原告楽曲の使用許諾申請の経過に加え、これと本件楽曲のピアノ演奏及びオーケストラ演奏の録音作業が同時進行で行われたこと、その際に録音されたピアノ演奏及びオーケストラ演奏が本件楽曲の演奏として本件CDに収められて譲渡ないし配信されたこと、本件編曲行為は、原告楽曲の再製(複製)にとどまらず、これに新たな創作性を付加したものといえることを踏まえると、本件楽曲の譜面作成が「検討の過程における利用」として行われたものとは考え難い。
また、そもそも譜面の作成作業が日本国外のサーバー上で行われたことを認めるに足りる的確な証拠はない。その点を措くとしても、少なくとも、被告Aは、譜面の作成作業を日本国内で行なったのであるから、本件編曲行為は日本国内で行われたものと見るのが相当である。そうである以上、イスラエル著作権法の規定のいかんにかかわりなく、本件編曲行為は原告の翻案権を侵害するものといえる。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
3 争点 3(本件録音・複製行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)侵害の成否)について
(1) 本件録音・複製行為のうち、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音が浜松市内で行われたことは、当事者間に争いがない。このピアノ演奏の録音は、原告楽曲の翻案である本件楽曲の表現上の本質的特徴と同一性を有する楽曲を有形的に再製する行為といえることから、本件楽曲を複製したものと認められる。
したがって、本件録音・複製行為のうち、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権。法28条、21条)を侵害するものと認められる。
(2) 被告らは、本件録音・複製行為についても、「検討の過程における利用」(法30条の3)として許される旨等を主張する。
しかし、本件楽曲のピアノ演奏の録音が「検討の過程における利用」として行われたものと見られないことは、本件楽曲の譜面の作成の場合(前記2(2))と同様である。
また、本件楽曲のピアノ演奏及びその録音は浜松市内で行われたものである以上、複製行為は日本国内で行われたといえるのであって、仮にその後に関連する作業がイスラエル国内で行われたとしても(ただし、これをうかがわせる証拠はない。)、結論を左右するものではない。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
4 争点 4(本件譲渡・配信行為による原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害の成否)について
(1) 前記23のとおり、本件楽曲は原告楽曲の翻案であり、本件CDは本件楽曲の複製物である。したがって、本件譲渡・配信行為は、本件楽曲をその原作品又は複製物の譲渡により公衆に提供するとともに、公衆送信(送信可能化を含む。)したものであり、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の21項、231項)を侵害するものと認められる。
(2) これに対し、被告らは、本件CDの譲渡権、送信可能化権は、レコード製作者であるCLASSICAL社が専有している旨や、VGM社のTwitterアカウントおよび YouTubeチャンネルによる本件楽曲の配信は米国著作権法のフェアユースに当たり適法である旨を主張する。
しかし、仮に CLASSICAL社がレコード製作者としての権利を有するとしても、このことは、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))の有無又は権利侵害の成否を左右する事情とはいえない。また、本件譲渡・配信行為が原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。)。法28条、26条の21項、231項)を侵害することは前記のとおりであるところ、法は30条以下に著作権が制限される場合や要件を具体的に定めており、フェアユースの法理に相当する一般条項の定めはない。実定法の根拠のないまま同法理を我が国において直接適用することはできない。そうである以上、米国著作権法のフェアユースに当たるか否は原告の権利侵害の成否を左右する事情とはいえない。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
5 争点 5(本件輸入行為による原告の著作権侵害(みなし侵害)の成否)について
(1) 前記認定のとおり、本件CDは、外国で製作され、VGM社名義で日本国内に輸入されて、日本国内に所在するAmazonの物流拠点に送付されたものである。また、本件輸入行為の前提となる本件録音・複製行為のうち、ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は、日本国内で行われていたとしたならば、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権。法28条、21条)を侵害するものである。
したがって、本件CDは、国内において頒布する目的をもって、輸入の時において国内で作成したとしたならば著作権の侵害となるべき行為により作成された物といえることから、本件CDを輸入した本件輸入行為は、原告の著作権を侵害するものとみなされる(法11311号)。
(2) これに対し、被告らは、VGM社が外国で製作された本件CDを日本に送付する行為は輸出であって「輸入」ではない旨や、ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は、【そもそも日本の著作権法及び司法権の管轄にない】旨を主張する。
しかし、前記1のとおり、本件輸入行為は、【控訴人ら自身の行為に含めて評価するのが相当なもの】であり、また、外国で【製作】された本件CDを日本国内で頒布する目的をもって行ったものである。そうである以上、本件輸入行為をもって本件CDの「輸入」(法11311号)に当たるものと見るのが相当である。また、【ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は日本の司法権の管轄にないとの控訴人らの主張が、国際裁判管轄についていうものであるとすると、そもそも本件訴えでは応訴管轄が認められるとともに、控訴人Yは国内に住所があり、控訴人会社はその主たる事務所又は営業所が国内にある上、後記3(1)イのとおり、控訴人らによる本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為は控訴人らによって実行された相互に関連した一連の行為であって国内において本件譲渡・配信行為の結果が発生しているものであるところ、本件訴えは、これらの行為につき、不法行為に基づく損害賠償請求をするともに、違法行為により権利利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあることを理由とする差止及び廃棄請求であることからして、我が国の裁判所に裁判権が認められる(民訴法3条の2第1項、2項、3条の3第8号)。さらに、ハンガリーでのオーケストラ演奏及びその録音は我が国の著作権法の管轄にないとの控訴人らの主張が、準拠法についていうものであるとすると、上記のとおり、控訴人らによる本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為は控訴人らによって実行された相互に関連した一連の行為であって国内において本件譲渡・配信行為の結果が発生しているものであって、我が国よりも明らかに密接な関係がある他の地があるともいえないことに照らすと、我が国の著作権法が適用されるものである(法の適用に関する通則法17条、20条)。】。
その他被告らが縷々主張する事情を考慮しても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
6 小括(差止請求、廃棄請求及び損害賠償請求について)
前記 15 のとおり、被告らは、VGM社及びCLASSICAL社と共同して【、又は控訴人YにおいてVGM 社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して控訴人会社とともに】、①本件編曲行為により、原告の原告楽曲に係る著作権(翻案権)を侵害し、②本件録音・複製行為により、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(複製権)を侵害し、③本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為により、原告の本件楽曲に関する原著作者としての権利(譲渡権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を侵害すると共に、原告の著作権を侵害した(法11311号のみなし侵害)ことが認められる。
したがって、被告らは、原告の「著作権…を侵害する者又は侵害するおそれがある者」(法1121項)に当たることから、原告は、被告らに対し、本件楽曲の複製、送信可能化及び公衆送信の差止請求権並びに本件CDの複製、輸入及び譲渡の差止請求権を有する。また、本件楽曲の音源を収録した媒体及び本件CDは、「侵害の行為によつて作成された物」(同条2項)に当たることから、原告は、被告らに対し、その廃棄請求権を有する。
加えて、被告らは、共同して著作権侵害行為を行い、かつ、前記認定に係る著作権侵害行為に至る経緯に鑑みれば、著作権侵害について少なくとも過失があるものと認められる。したがって、被告らは、原告に対し、連帯して、原告に生じた損害(後記7)を賠償すべき責任を負うものと認められる(民法709条、7191項前段)。
7 争点 6(原告の損害額)について
(1) 被告らの利益額に基づき推定される損害額(法1142 項)
ア 被告らの売上等の額
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、VGM社名義で実施された本件クラウドファンディングにより同社が受領した基金の額は合計325 2226.55ドル(356万円【(1万円未満切捨て)】)であること、VGM 社名義で販売された本件CDの売上額は26400 円であること、VGM社名義で販売された本件楽曲の日本国内のダウンロード配信ないしストリーミング配信の売上額は合計1907.22 ドル(200601円【(1円未満切捨て)】)であることがそれぞれ認められる。
したがって、本件楽曲及び本件CDの販売による売上額は合計3787001円となる。これに反する原告の主張は、その裏付けとなる的確な証拠を欠くことから採用できない。
なお、本件クラウドファンディングにより VGM社が受領した基金は、本件楽曲の制作等の資金に充てられることを【専らの目的として調達されたものとみられ(なお、控訴人Yは、令和2年6月20日の YouTube配信でも、VGM社の活動一般に関し、CDの売上げに係る利益で制作費を回収することは困難であるため、専ら制作費に充てるためにクラウドファンディングを利用している旨を述べていた、本件クラウドファンディングの説明においては、本件CDの作成に係るプロジェクトが実現するための目標金額が 1万5000ドル(約165万円)であり、同時に2万7500ドル(約303万円)と4万ドル(約440万円)という目標も設定し、より多くの寄附が得られた場合には収録時間を増やすことで対応する旨等が示されていたところ、前記356万円は上記目標の範囲内にあったもので、また】、対価として本件CDの配布等が予定され、実行されたものであるから、これを【法114条2項の「利益」を算定する基礎】に含めるのが相当である。これに反する被告らの主張は採用できない。
イ 本件楽曲制作等に要した経費額
後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件楽曲のオーケストラ演奏及びその録音に当たり、平成31 320日、ブダペスト交響楽団に対し、3015264円が被告会社名義で支払われたこと、被告Aのハンガリーへの出張費用として、飛行機代132134円、駐車場代 16200円及び海外旅行保険の保険料7000円の合計155334円が被告Aにより支払われたことがそれぞれ認められる。
したがって、本件楽曲の制作等の経費としては、合計3170598円を要したこととなる。
これに対し、被告らは、VGM社名義で送金された前払金合計32000ドルについても経費として算入すべき旨等を主張する。しかし、当該32000ドルはいずれも「deposit」としてブダペスト音楽スコアリングスタジオ等に送金されたものであるところ、「deposit」には、「敷金」、「保証金」、「頭金」、「内金」といった意味がある。送金先とのやり取りに関する証拠がないこともあって、当該32000ドルの送金の趣旨がそのいずれであるかは必ずしも判然としない。そもそも、本件楽曲の制作等との関連性も必ずしも明確でない【(この点、控訴人らは、上記3万2000ドルの送金がいずれも本件CDの製作に係る支出であると主張するが、当該送金にはそもそも「DESCRIPTION」欄に「Suikoden」と記載されているものと「Suikoden 2」と記載されているものが混在しているところであって、本件CDの表題に照らしても、本件CDの製作との関連は不明であるといわざるを得ない。)】。そうである以上、これを経費として控除することは認められない。また、被告Aのハンガリーへの出張費用とされるもののうち、経費として認定し得る上記以外のものについては、空港等における飲食代金と見られるものや使途の判然としないものであり、これについても経費として控除することは認められない。第三者供託された供託金220931円についても、その債権者とされる原告が受領していない以上、これを経費として控除することは認められない。その他被告ら、VGM社ないし CLASSICAL社による経費として認めるべき支出は見当たらない。
ウ 被告らの利益額
以上によれば、本件楽曲等の販売による利益は、616403円(=3787001-3170598 円)であると認められる。したがって、法1142 項によれば、原告の損害は616403 円と推定される。
(2) 使用料相当の損害額(法1143 項)
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件シミュレーション[注:一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)の公開する使用料計算シミュレーションのこと]は、営利目的で第三者に頒布するために JASRACの管理する曲を複製する場合の概算使用料を算定するものであるところ、「定価明示」を「なし」、「JASRAC管理曲数」を「23」曲、「録音物製造数」を「3000」枚・個とした場合の概算使用料(税込)は、614790 円となることが認められる。
また、前記認定の事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、被告らは、本件楽曲及び本件CD(収録曲数は23曲である。)につき、合計3000枚を営利目的で第三者に頒布する目的で複製したものと認められる。
JASRACの著作権管理団体としての実情等に鑑みると、原告が原告楽曲の著作権(又は本件楽曲の原著作者としての権利)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(法1143項)の算定に当たっては、本件シミュレーションの結果を参酌するのが相当である。もっとも、原告楽曲はJASRACが管理する楽曲ではないこと(弁論の全趣旨)、被告らは、原告が原告楽曲の使用許諾を拒絶していることを認識しながら、無許諾で本件楽曲を制作し、本件CD等を譲渡・配信したものであることから、本件は本件シミュレーションの本来的適用場面とは異なるのであって、その結果に基づかなければならない必然性はなく、著作権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、著作物の使用に対し受けるべき額は、むしろ、通常の場合に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。
そうすると、原告が原告楽曲の著作権(又は本件楽曲の原著作者としての権利)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額としては、150 万円と認めるのが相当である。
イ 原告の主張について
原告は、本件シミュレーションにおいて「録音製造数」を3500枚として算定した上で、原告が受けるべき金銭の額は最低でも 【その算定額の】5 倍を下らない旨を主張する。
しかし、原告がその主張の根拠とする 【CLASSICAL社書面1】は、本件楽曲と楽曲数が異なることなどからうかがわれるように、いまだ楽曲数も複製枚数も確定していない段階で示されたものに過ぎない。他方、証拠上は、複製数は3000枚とされている。そうである以上、3000枚を超える枚数を基礎として使用料相当額を算定することは適当でない。また、原告楽曲がJASRACの管理する楽曲でないことなどを考慮しても、本件シミュレーションの結果を大幅に超えるその5倍という使用料をもって相当とすべき合理的な根拠はない。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 被告らの主張について
被告らは、本件 CD の販売価格が17NIS585 円)であることを前提に、本件シミュレーション等の結果に基づき原告が受けるべき金銭の額は 230509円となる旨を主張する。
本件CDには【「製作者」】として CLASSICAL社が表示されると共に、メーカー希望小売価格が「17NIS」であることを示す記載がある。しかし、本件CDは、CLASSICAL社からIL Distribution社に第一次的な頒布がされ、IL Distribution社から再販売されるという形式により販売されるものであるものの、CLASSICAL社及びIL Distribution社の実態がいずれも不明であることなどに鑑みると、上記価格をもって算定の基礎とすることには疑義がある。実際、イスラエルでの販売実績(ないし代金額17NISでの販売実績)を裏付ける証拠はない。他方、本件CDは、Amazonのウェブサイトでは3300円で販売され、売上を上げていた。また、被告AのYouTubeチャンネルにアップロードされた動画においては、VGM社又は被告Aに直接購入を申し出た者に対しては、Amazonでの販売価格より廉価で販売し得ることが告知されている。
以上の事情を踏まえると、原告が受けるべき金銭の額の算定にあたっては、定価を17NISとするのは相当ではなく、「定価明示なし」とすることが相当である。
したがって、この点に関する被告らの主張は採用できない。
(3) 小括(損害賠償請求について)
以上より、本件における原告の損害額については、法1142項に基づき推定される額及び同条3項に基づき算定される額のうち、より高額である同条3項に基づく使用料相当額150万円をもって原告の損害とするのが相当である。
また、本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経緯、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告らの著作権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、15万円とするのが相当である。
したがって、原告は、被告らに対し、連帯して、165万円の損害賠償請求権及びうち150万円に対する不法行為後である令和241日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金、うち15万円に対する本件訴状送達日の翌日である令和3224日から支払済みまで民法所5定の年3%の割合による遅延損害金の各請求権を有する。

[控訴審]
1 当裁判所も、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為はいずれも被控訴人の著作権を侵害するもので、控訴人らはその責任を負い、被控訴人に対して165万円及びこれに対する遅延損害金を連帯支払すべき義務を負うと判断する。その理由は、2のとおり改め、3のとおり控訴人らの当審における追加主張及び補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決に記載するとおりであるから、これを引用する。
()
3 当審における控訴人らの追加主張及び補充主張に対する判断
(1) 争点1~5に関する追加主張及び補充主張について
ア 著作権者について
()
() 控訴人らは、CLASSICAL社が名目的な法人でないことや、VGM社にも実態があることなどを主張するが、訂正して引用した原判決で認定説示したとおり、控訴人らは、VGM社、CLASSICAL社及びIL Distribution社と共同して、又は控訴人Yにおいて VGM社及びCLASSICAL社の法人格を濫用して控訴人会社とともに、IL Distribution社と共同して、本件編曲行為、本件録音・複製行為、本件譲渡・配信行為及び本件輸入行為を行ったものであり、それらの行為は、控訴人らの行為に含めて評価するのが相当であって、上記認定判断は、控訴人らの上記主張によって左右されるものではない。
() 控訴人らは、本件CDとそのデジタルレコードは、CLASSICAL社が、イスラエルにおいて、イスラエル著作権法32条の適用により適法に製作、複製し、頒布したものであると主張するが、CLASSICAL社の行為を控訴人らの行為に含めて評価するのが相当であることは、前記()のとおりである。
また、訂正して引用した原判決で指摘した点からして、CLASSICAL社は、被控訴人の許諾の意思の有無にかかわらず原告楽曲を利用するという目的を達成するために本件楽曲の制作等に関与したものとみられ、また、そのために設立された名目的な法人であることをうかがわせる事情も存するところである。さらに、訂正して引用した原判決及び前提事実の事実経過に照らすと、控訴人Y又は控訴人Yと共同したVGM社等においては、原告楽曲については使用料の支払をすれば法69条等により著作権侵害を問われないとの誤った理解を前提に被控訴人にその使用を申し入れる一方、他方で本件クラウドファンディングによる資金調達を進め、多額の寄附を得たところ、被控訴人から専門家の確認等を経たものであるとして同条の適用等がない旨の指摘を受けたものの、本件楽曲の制作を再検討などすることなく、被控訴人の対応を意に介することもなく、当初の予定どおり本件楽曲の制作に係る作業を進めるとともに、著作権法の保護が直接及ばない国で本件CDの製作等を行うことを企図し、その形式を整えた上で、国内でこれらの譲渡・配信行為の結果を発生させたものであることが推認され、この推認を覆す事情は見当たらない。そうすると、本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為の一部がイスラエルで行われるなどし、オーケストラ演奏の録音がハンガリーで行われたものであったものの、本件編曲行為、本件録音・複製行為及び本件譲渡・配信行為については、控訴人らによって実行された相互に密接に関連した一連の行為である上に、少なくとも、そのうち、国内において本件編曲行為(譜面の作成作業)、本件録音・複製行為の一部(本件楽曲のピアノ演奏及びその録音)がされ、本件譲渡・配信行為の結果が国内において発生していることからしても、訂正して引用した原判決の認定判断を左右するものではない。
したがって、本件CDの制作等がイスラエルにおいて行われたものであるため被控訴人の著作権が及ばない旨をいう控訴人らの主張は、いずれも採用することができない。
(以下略)
第4 結論
よって、当裁判所の前記判断と同旨の原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。