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著作権判例セレクション

【編集著作物】「手続補正書」の著作物性(編集著作物性,言語著作物性)が争点となった事例

▶平成230427日東京地方裁判所[平成22()35800]
() 本件は,原告が,被告の商品台紙の裏面に掲載した取扱説明文及び写真に掲載した取扱説明文及び写真は,いずれも原告の著作物である「手続補正書」(原告が実用新案登録出願の願書に添付した明細書及び図面を補正するため特許庁に提出した手続補正書のこと。)を複製又は翻案したものであり,被告の上記各掲載行為は,原告の有する本件手続補正書の著作権等を侵害すると主張して,被告に対し,著作権侵害の不法行為による損害賠償などを求めた事案である。
原告は,特許庁長官に対し,考案の名称を「模様入りおにぎり具」とする考案について実用新案登録出願(「本件出願」)をした。原告は,文化庁長官に対し,本件出願に係る願書(「本件願書」)について,著作物の題号を「模様入りごはん」,著作物の種類を「編集著作物」,著作物の内容又は体様を「ごはんの上に型当て板をのせ,ふりかけ,桜でんぶ等の具でごはんに模様を入れる料理法の説明文,及び図面。」として,第一発行年月日を「昭和56年1月5日」とする第一発行年月日登録を申請し,登録がされた(「本件登録」)。

1 争点(1)(本件手続補正書の著作物性)について
(1) 編集著作物としての著作物性
原告は,本件手続補正書は,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」の各素材を編集した編集著作物であり,その選択及び配列に創作性が認められると主張する。
しかしながら,編集著作物とは,編集物でその素材の選択又は配列によって創作性を有するもの(著作権法12条1項)をいうところ,本件手続補正書は,本件願書に添付した明細書及び図面を補正するために作成されたものであって,「ごはん」,「おにぎり」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」の各用語も,本件明細書の本文中において,使用する器具又は具材を示すものとして通常の意味,方法で用いられているにすぎず,それ以上に,何らかの編集方針に基づいて,上記各用語が編集の対象である素材として選択され又は配列されているとは認められない。したがって,本件手続補正書は編集著作物とは認められない。
原告は,「ごはん」に「型当て板」を当て,「ふりかけ」をかけて「ごはん」に模様を入れる料理法は,本件出願当時,どの料理雑誌にも載っていない初めての料理法であり,当然同料理法の説明書もなかったものであるから,その素材である「ごはん」,「ふりかけ」,「具」,「型当て板」の取捨選択にも個性が表れているし,この料理を作る順序による素材の配列にも個性,独自性が現れているとして,新しい料理法(思想)の説明書(表現)は個性,独自性のある表現であると主張する。
しかし,著作権法上の保護を受ける著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,アイデアや着想がそれ自体として著作権法の保護の対象となるものではなく,この理は編集著作物においても同様である。これを本件についてみると,上記料理法は,御飯に模様を入れる料理法というアイデアそのものであるから,それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とはならない。したがって,原告の上記主張は失当というほかない。
以上によれば,本件手続補正書に編集著作物としての著作物性を認めることはできない。
(2) 言語の著作物としての創作性
ア A部分につき
A部分は,本件明細書の「3 考案の詳細な説明」の「例Ⅰ おにぎり(5’)の上に型当て板(1)を当て上からふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等粒状の具(6)をくりぬき部(2)にうめ込んで型当て板(1)をとりのぞけばおにぎり(5’)に花や動物等の絵や模様や字がえがき出されて美しいおにぎりとなっている。」とある部分である。
原告は,A部分は,原告が独自に考え思い付いたものを説明したものであって,言語による表現で何らかの個性,独自性があり,他人の真似,模倣でないものが言語で表現されている創作的部分である旨主張する。
しかし,A部分は,実施例についての記述であり,実施例に表れた技術的思想や実施例に示された実施方法それ自体は,アイデアであって表現ではないから,それ自体は著作権法によって保護されるべき対象とならないことは上記(1)に説示したところと同様である。
そして,A部分の具体的表現も,①おにぎりの上に型当て板を当て,②上から,ふりかけ,ごま,桜でんぶ,青のり等の粒状の具をくり抜き部に埋め込んで,③型当て板を取り除くと,④おにぎりに花や動物等の絵,模様や,字が描き出されて,⑤美しいおにぎりができあがるということを,一般に使用されるありふれた用語で表現したものにすぎず,表現上の創作性を認めることはできない。
したがって,A部分に言語の著作物としての創作性を認めることはできない。
イ B部分につき
B部分は,本件明細書の「4.図面の簡単な説明」の「1:型当て板」,「5:ごはん」,「6:具」とある部分である。
原告は,B部分における用語の選択は,原告の考えによるもので,個性,独自性がある旨主張する。
しかし,B部分は,明細書中の図面の簡単な説明の部分であって,願書に添付した図面に図示された符号の説明を記載したものにすぎず,その具体的表現にも創作性を認めることはできない。
したがって,B部分に言語の著作物としての創作性を認めることはできない。
ウ C部分につき
C部分は,本件図面のうち第5図~第7図の部分である。
原告は,C部分について,第5図のごはんの上に型当て板を載せた用語の配列,第6図及び第7図のおにぎりの上にふりかけの具による模様入りの配列図に原告の考えによる個性,独自性があり,創作的部分である旨主張する。
しかし,C部分のうち図自体は,言語若しくはそれに類する表現手段による表現がなされているものではないから,そもそも言語の著作物には当たらない。
また,C部分の図について美術又は図形としての著作物性をみても,第5図は「模様を入れている側面透視図」,第6図は「模様入りおにぎりの正面図」,第7図は「模様入りおにぎりの側面図」であって,いずれもおにぎりの上に型当て板が載っている様子又はおにぎりの上に具が載っている様子を正面ないし側面から極めてありふれた手法で図示したにすぎず,何ら個性のある表現とはいえないから,創作性を認めることはできない。
C部分のうち,日本語で「第5図」,「第6図」及び「第7図」と記載されている部分は,単に図の番号を記載したものにすぎず,創作性を認めることはできない。
エ 以上によれば,本件手続補正書のうち原告が言語の著作物として創作性を主張するA部分~C部分は,いずれも創作性を認めることはできず,著作物であると認めることはできない。
(3) 著作権法75条3項の推定
原告は,本件手続補正書は,本件願書と実質的に同一の著作物であるところ,本件願書は著作物として登録がされているから,著作権法75条3項により著作物と推定されると主張する。
しかし,本件願書について登録がされているのは,著作権法76条の登録(第一発行年月日等の登録)であって,同法75条の登録(実名の登録)ではない。
また,著作権法75条3項で推定されるのは当該登録に係る著作物の著作者であること,同法76条2項で推定されるのは当該登録に係る年月日において最初の発行又は最初の公表があったことであって,登録に係る対象が著作物性を有することが推定されるのではない。
原告は,著作物として認められないのであれば却下理由になるはずであると主張するが,著作権に関する登録は,いわゆる形式審査により行われ,法令の規定に従った方式により申請されているかなど却下事由に該当しないかどうかを審査するものである(同法施行令23条参照)から,著作権に関する登録により著作物性を有することについて事実上の推定が及ぶと解することもできない。
したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。そして,本件手続補正書に編集著作物としての著作物性を認めることはできず,また,原告が言語の著作物として創作性を主張するA部分~C部分についても著作物性を認めることができないことは,前示のとおりである。
2 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。