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著作権判例セレクション
【写真著作物】カタログ掲載用の建物の写真の著作物性を認めた事例
▶平成15年10月30日大阪地方裁判所[平成14(ワ)1989]
2 第2事件について
(1) 争点(4)(被告写真の利用行為は、原告写真に関する原告の著作権を侵害するか)ア(原告写真は、写真の著作物(著作権法10条1項8号)に該当するか)について
ア 上記の争いのない事実等と証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
原告は、平成13年4月1日から、原告の木造住宅「シャーウッド」(木造軸組)シリーズの最高級品である「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始した。「エム・グラヴィス ベルサ」の販売に際して、「焼き物の風合いをもつ新陶版外壁を採用、木の良さを強調したこだわりの邸宅」をキャッチフレーズにしていた。
原告は、原告工場において「エム・グラヴィス ベルサ」の住宅を建築していたが、「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログを作成し、同カタログに掲載する目的で、同建物を被写体とする写真を撮影することにした。原告は、撮影に際し、上記「エム・グラヴィス ベルサ」のキャッチフレーズに沿い、しかも原告のイメージを損なわず、かつ顧客誘引力あるものとなるよう、構図や光線の照射方法を選択、決定し、調整した上で、撮影した。ただし、撮影された写真は、工場内で建築された状態の建物そのものを被写体としていたため、地面がむき出しとなっている、建築材が置いてある、別の建物も写っているなど、未だカタログに掲載できるような写真とはなっていなかった。そこで、原告は、これを更にカタログ等に掲載するにふさわしいように、かつ上記キャッチフレーズに沿うように、不要なものを消去し、玄関先、バルコニー、テラスなどに樹木等を配し、建物周辺にも敷石や樹木等を配するなどのCG出力処理を施した。その結果が原告写真である。
「エム・グラヴィス ベルサ」のカタログには、「積水ハウスの『シャーウッド』は木への愛着から生まれた進化した木造住宅。素材としての木の素質を生かすと同時に、より高い強度と耐久性を備えています。さらに、快適な木造住宅になるために『エム・グラヴィス ベルサ』は新しい木を創造しました。」「大地の素材、柔らかな土肌の感触、焔が創り出す色合い、そのすべてが自然のなせる技。『エム・グラヴィス ベルサ』で採用したオリジナル陶版外壁『ベルバーン』は、焼き物と同じように『土』と『焔』から生まれました。一枚一枚、微妙に異なる表情の変化、時とともに深まる風合いは、まさに焼き物固有の魅力。美しさと個性を際立たせ、木の家にさらに温もりを与えています。先進の技術で、強度や耐久性など、外壁材としての性能も高めました。シャーウッド『エム・グラヴィス ベルサ』。焼き物の持つ独特の味わいと、魅力をそのまま受け継いだ、積水ハウスの新しい木の家です。」との記載のほか、その全体像を示すものとして見開き全面に原告写真が掲載されている。
原告は、「エム・グラヴィスベルサ」を平成13年4月1日より全国的に販売開始しているから、上記原告写真の撮影・制作は、この販売開始前になされたものと推認される。
イ 以上の事実によれば、原告写真は、被写体の選定、撮影の構図、配置、光線の照射方法、撮影後の処理等において創作性があるものと認められ、原告の思想又は感情を創作的に表現したものとして、著作物性を有するものというべきである。
被告は、原告写真は被写体の忠実な再現にすぎないから創作性が認められない旨主張するが、上記認定に照らして、その主張は採用することができない。
(2) 同(4)イ(被告写真は、原告写真を複製又は翻案したものか)について
ア 証拠によれば、原告写真と被告写真の比較において、次のようにいうことができる。
(ア) 原告写真と被告写真は、どちらも被写体となる建物を、正面左側の位置から、正面と左側面一部が写るように撮影されている。
(イ) 原告写真と被告写真の被写体となっている建物は、次のような共通点を有する。
a 建物正面左側には2階に寄棟造り様の屋根が、右側には2階に寄棟造り様の屋根と1階に正面に葺き下ろす屋根が存在する。
建物正面から見て左側は、右側よりも突出しており、1階は高さのある大きな2連窓が配置され、2階は1階よりやや前方に出た位置に2階の高さの約3分の2程度の高さの4連窓が配置されている。
建物正面から見て右側は、左側よりやや後退し、中央寄り1階に玄関が、2階には更に奥まったところにインナーバルコニーが配置されている。また右寄りは1階部のみが存在し、比較的幅が広く、高さのある大きな窓が配置されている。
原告写真と被告写真をスキャニングし、原寸でOHPフィルムにて出力したものを重ね併せると、上記寄棟造り様の屋根、建物右側の葺き下ろしの屋根、建物左側1階部分の窓、2階部分の窓、建物右側の玄関、奥まったインナーバルコニー、右端の1階部及びその窓がほぼ一致する。
b 建物左側面には、1階部分に屋根はなく、2階と1階にそれぞれ窓が配置されている。原告写真の建物には、1階に突出した部分とその上の2階部分にバルコニーがあるが、被告写真の建物にはそのような突出部分やバルコニーはない。しかし、原告写真と被告写真のOHPフィルムを重ね併せると、突出部分とバルコニーを除いて、建物正面と建物左側面との接線の位置、正面側の1、2の窓の配置及び大きさなどが、ほぼ一致する。
c 屋根は平坦で、色は濃茶色である。壁は、褐色で、直方体が積み上げられたような外観を呈している。
上記のような共通点により、原告写真と被告写真の各被写体の建物は、建物の形状、屋根、壁面、窓、玄関、バルコニー等の配置、色彩等を含め、全体として極めてよく似た外観として表示されている。
(ウ) 原告は、平成13年4月1日から「エム・グラヴィス ベルサ」の販売を開始したが、遅くともこのころには原告写真はカタログ等に掲載されるなどしていたことが推認される。
被告写真は、平成14年3月23日、24日開催の「木曽檜の家 お客様の家見学会」の広告である本件チラシに、あるいは同年6月22日、23日開催の「木曽檜の家 大工さんのいる構造完成見学会」の広告である本件新聞広告に、掲載されている。
イ 以上からすれば、被告写真は原告写真に依拠して原告写真を複製して作成されたものであると認められる。
ウ 被告は、被告写真の被写体である建物の正面左側2階の窓の下の窓枠部分が原告写真の被写体と異なること、被告写真の被写体である建物には建物左側面の張り出しや屋根の上の煙突がないこと、正面2階中央のバルコニーの花の装飾が異なること、全体的な色調が異なることなどを指摘し、その結果、被告写真は原告写真の複製又は翻案に該当しないと主張する。
しかしながら、被告の指摘は、些細な、格別に意味のない相違にすぎず、しかも、これらの相違点から被告独自の思想又は感情を感得できるようなものではないから、上記認定を覆すものではない。
(3) 争点(5)(原告の損害)について
ア 上記認定事実によれば、被告は、原告写真を複製して被告写真を作成して原告の著作権を侵害したことにつき、少なくとも過失があったものというべきである。
イ 原告は、著作権法114条1項の規定により、被告が上記著作権侵害行為によって得た利益の額が原告の被った損害の額と推定される旨主張する。しかし、原告が主張するように、被告が被告写真を本件チラシ等に使用した後に、被告の住宅建築数の増加があるとしても、原告写真を複製した被告写真を使用した本件チラシ等の配布と被告の住宅建築数の増加との間に因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。
原告は、原告主張の寄与率(被告の住宅建築数の増加における被告写真の寄与率)が証拠によって認められないとすれば、著作権法114条の4の規定により相当な損害額を認定すべきである旨主張するが、上記のとおり、そもそも、被告による原告写真の複製という著作権侵害行為と被告の住宅建築数の増加との間の因果関係の立証がないのであり、原告主張のごとき損害の発生自体が認められず、一方で、後記のように別の算定方法による損害の立証が可能であるから、著作権法の上記規定を適用すべき場合には当たらない。
ウ 次に、原告は、著作権法114条2項[注:現3項。以下同じ]により、「著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」を損害の額として請求するので検討するに、当事者間に争いのない事実と証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 被告は、平成14年4月23日、同月24日に長野県松本市内の松本女鳥羽会場(完成現場)、松本県(あがた)会場(構造現場)で開催された見学会に来訪させるため、本件チラシ5万部を新聞に折り込む形で配布した。また、同年6月22日、長野県松本市等21市町村において6万6400部を発行する「市民タイムス」に、被告写真を使用した本件新聞広告(5段以内)を掲載した。本件チラシ、本件新聞広告とも、中央部に被告写真が大きいスペースで掲載されている。
(イ) 写真を広告に使用する際の基本料金として、チラシ1頁以内表紙カットの場合は5万円(1枚目)、新聞広告(地方紙)5段以内の場合5万円(2枚目)としているところがある。なお、被告は、折込チラシ1枚における写真使用料相当額を1枚2、3円の限度で自認している。
著作権法114条2項の「受けるべき金銭の額に相当する額」は、侵害行為の対象となった著作物の性質、内容、価値、取引の実情のほか、侵害行為の性質、内容、侵害行為によって侵害者が得た利益、当事者の関係その他の当事者間の具体的な事情をも参酌して認定すべきものと解されるところ、上記(ア)、(イ)の事実のほか、上記(1)、(2)で認定した事実も勘案すると、原告が、原告写真を複製されたことにより、被告から受けるべき金銭の額に相当する額は、本件チラシに関しては20万円、本件新聞広告に関しては10万円と認めるのが相当である。
エ 第2事件に関する弁護士費用相当損害金としては、事案の内容、訴訟の経過、認容の程度等を勘案すると、10万円が相当である。
オ よって、第2事件に関して原告に生じた損害は、40万円であると認められる。
(4) 以上によれば、第2事件については、被告写真は「写真の著作物」である原告写真の複製であると認められるから、原告写真の著作権に基づく被告写真の使用の差止め、被告写真、そのデータ及びこれを使用したチラシ等の廃棄を求める請求はいずれも理由があり、また損害賠償請求に関しては、上記(3)記載のとおり40万円及びこれに対する不法行為の後であって第2事件訴状送達の日であることが記録上明らかな平成14年7月3日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告の請求は理由がある。