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著作権判例セレクション
【引用】議員のイメージ写真を街宣活動用のビラや街宣車の看板に利用することが「引用」に当たらないとした事例
▶平成23年2月9日東京地方裁判所[平成21(ワ)25767等]
著作権法32条1項の「引用」に当たるか
ア 被告は,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことにつき,公表された写真を報道,広報目的で引用するものであるから,著作権法32条1項で保護されるべき適法な引用に当たると主張する。
イ 前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(ア) 被告は,「A調査会」ないし「A1調査会」という名称で創価学会や公明党を批判する活動を行っていた。
被告は,平成21年6月頃,同年7月に行われる都議選に立候補していた公明党所属のB議員について,同議員が平成17年7月の都議選の際,公費負担となる選挙カーのガソリン代を不正に水増し請求し,東京都から公費をだまし取っていた事実があると考え,これを有権者に訴えようと協力者らと共に街宣活動等を行った。
(イ) 本件各ビラ及び本件看板は,いずれもB議員に上記不正があったとの主張及び同議員が都議会議員としての適格を欠くとの主張を宣伝広報する目的で作成されたものであり,上記不正があった旨及びB議員が公明党,創価学会の犯罪者である旨が記載されている。また,本件ビラ3には,上記各主張と併せて,B議員が被告を名誉毀損で告訴したこと及び被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことに対する批判が記載されている。
本件ブログは,B議員が同仮処分を申し立てたことを批判するために作成されたものであり,仮処分申立書に記載されたB議員側の主張に対する批判が記載されている。
被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で,たまたま本件サイトで見付けた本件写真の本件画像データをダウンロードして本件各ビラ等に転載したものであるが,被告自身,本人尋問において,本件各ビラ等に掲載するB議員の写真は,特に本件写真でなければならない理由はなく,本件仮処分決定がされた後は,本件写真とは別の写真を掲載したビラを作成した旨を供述している。また,本件各ビラ等には,本件写真そのものについての言及はない。
(ウ) 本件各ビラ等には,本件写真の出所や権利者について一切表示されていない。
ウ 公表された著作物は,引用して利用することができるが,その引用は,「公正な慣行」に合致するものでなければならず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
これを本件についてみるに,本件各ビラ等は,要するに,都議選の候補者であったB議員について不正があったとの主張を宣伝広報し,あるいはB議員が被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことを批判するためのものであって,本件写真それ自体や,本件写真に写った被写体の姿態,行動を報道したり批評したりするものではない。被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で本件写真を引用したと主張するが,特定のためであれば,同議員の所属,氏名を明示すれば足りることであるし,イメージのためであれば,B議員の他の写真によって代替することも可能であり,本件写真でなければならない理由はない。また,本件各ビラ等は本件写真の全体をほぼそのまま引用しているが,身振り手振りも含めた本件写真の全体を引用しなければならない必要性も認められない。さらに,著作物の引用に当たっては,その出所を,その複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により,明示しなければならないが(著作権法48条1項1号),本件各ビラ等においては,本件写真の出所が一切明示されておらず,これが他人の著作物を利用したものであるのかどうかが全く区別されていない。
このように,そもそも,本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと,本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと,本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば,本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても,これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが,「公正な慣行」に合致するものということはできず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。
したがって,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが著作権法32条1項の「引用」に当たるということはできない。
よって,被告の主張は採用できない。