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著作権判例セレクション

【写真著作物の侵害性】議員のイメージ写真を街宣活動用のビラや街宣車の看板に利用したことが争点となった事例

▶平成2329日東京地方裁判所[平成21()25767]▶平成231031日知的財産高等裁判所[平成23()10020]
() 原告は,職業写真家であり,本件写真を撮影した者である。被告は,「A調査会」ないし「A1調査会」の名称で政治活動を行っている者である。本訴は,原告が,被告に対し,公明党所属のB都議会議員(以下「B議員」)のウェブサイト(「本件サイト」)から本件写真の電子データ(「本件画像データ」)をダウンロードし,これを利用して別紙目録1の写真(以下「被告写真1」という。被告写真1は縦横の比率が変更され,かつ,色調がカラーからモノクロに変更されている。)を甲3のビラ(「本件ビラ1」)に,同目録2の写真(「被告写真2」)を甲4のビラ(「本件ビラ2」)に,同目録3の写真(「被告写真3」。被告写真3は色調がカラーからモノクロに変更されている。)を甲5のビラ(「本件ビラ3」,「本件ビラ1」~「本件ビラ3」を総称して「本件各ビラ」という。)に掲載して街頭で通行人に頒布し,同目録4の写真(「被告写真4)を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして自己のブログ(「本件ブログ」)に掲載し,同目録5の写真(「被告写真5」,「被告写真1」~「被告写真5」を総称して「被告各写真」という。被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されている。)を街宣車(「本件街宣車」)の車体上部に設置された看板(「本件看板」)に掲載した被告の行為は,原告の有する本件写真の著作権(複製権,譲渡権,公衆送信権〔送信可能化権〕)及び著作者人格権(同一性保持権)を侵害すると主張して,著作権法112条に基づき,①本件写真を掲載したビラの頒布の差止めと廃棄,②被告写真4をインターネット上のウェブサイトで送信可能化することの差止めを求めるとともに,不法行為による損害賠償請求権に基づき,③損害賠償金等の支払を求めた事案である。

争点(1)(本件写真の著作物性及び著作権の帰属)について
(1) 前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件写真の制作等に関する事実は,次のとおりであると認められる。
ア 本件写真は,縦長のカラー写真であり,白色ないしこれに近い淡色の無地を背景に,ネクタイ及びスーツを着用し,ほぼ中央に身体を左斜め前に向け,語りかけるような表情で右手を挙げたポーズのB議員の胸より上の部分を,ほぼ正面から撮影した肖像写真である。
()
ウ 原告は,平成20年6月,リーフレット等のデザイン制作会社を通じて,B議員のイメージ写真の撮影を依頼され,同月24日,東京都渋谷区内のスタジオで,本件写真を撮影した。
エ 原告は,本件写真の撮影に当たり,B議員の精悍さや実直な人柄,都政にかける情熱を表現するために,いろいろな角度から撮影し,様々なポーズを要求したり,スーツやネクタイの色合いを考えて組合せを替えたりした。特に,ポスターや写真を見たときに見下ろしているようなイメージを持たれないよう,カメラの位置を変えたり,語りかけるようなイメージを想定したりしながら本件写真を撮影した。その際,ライティングは大型ストロボを8台使用し,ディフューザーを用いて光を柔らかくしながら,ストロボ光の光量や当たる角度を調整し,光が柔らかくなりすぎないようにしてキレを出し,柔らかさの中にも爽やかさが醸し出されるようにした。
オ 本件写真は,B議員の政治活動に伴う広報活動用として,同議員のリーフレットやホームページ等で使用されることを予定して撮影されたものであり,平成21年5月の連休明けに本件サイトに掲載された。(2) 以上によれば,原告は,本件写真の撮影に当たり,撮影の趣旨,目的を踏まえて,照明,撮影の角度,ポーズ,服装等に創意工夫を凝らして撮影したことが認められ,本件写真には,原告の思想,感情が創作的に表現されていると評価することができる。したがって,本件写真について,著作物性を肯定することができる。
(3) これに対し,被告は,本件写真は何らの芸術性も伴わないスナップ写真にすぎず著作物に該当しないと主張するが,本件写真には原告の思想,感情が創作的に表現されており,その著作物性を肯定できることは上記(2)のとおりであり,採用することができない。また,被告は,本件サイト上に原告が著作権者であると表示されておらず,何人もこれを原告の著作物であると判断することはできないなどと主張するが,著作権が成立するためには,いかなる方式の履行も必要ではなく(著作権法17条2項),著作権者であることを表示する必要はないから,原告の主張は失当である。なお,本件サイト上には原告が著作権者である旨の表示はないが,被告に本件写真の著作権侵害につき少なくとも過失を認め得ることは,後記2のとおりである。
よって,被告の上記主張は,いずれも採用できない。
(4) そして,本件写真は,原告が被写体のポーズ,カメラのアングル,ライティング,構図等を選択し,創意工夫を凝らして撮影し,原告の思想,感情が創作的に表現されたものであることは,上記(1)(2)のとおりであり,原告が,本件写真を創作したもので,その著作者であると認められる。
したがって,本件写真の著作権は原告に帰属する。
2 争点(2)(著作権侵害の成否)について
(1) 複製権,譲渡権侵害の有無
ア 本件ビラ1,同3及び本件看板について
() 被告が,本件ビラ1及び同3を作成,頒布した事実並びに本件看板を作成した事実は,いずれも当事者間に争いがない。
上記各ビラ及び看板に掲載された被告写真1,同3及び同5は,いずれも本件画像データをダウンロードして利用し作成されたものであるから,本件写真に依拠したものである。また,本件写真と上記各被告写真とを対比すると,被告写真1は縦横の比率が若干横伸びしたように変更されており,被告写真1及び同3は色調がカラーからモノクロに変更されており,被告写真5は被写体の両目部分に目隠し様の白いテープが貼付されているが,いずれも本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており,その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ,状態で,ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ,他方,被告による上記変更には,創作性があるとは認められない。したがって,被告写真1,同3及び同5は,いずれも本件写真の複製物である。
そして,被告は,本件サイト上から本件写真の画像データをダウンロードし,これを上記各ビラ及び看板に掲載した上,同ビラを頒布したのであるから,被告による上記各掲載は,本件写真の複製権を,被告による上記各頒布は,本件写真の譲渡権を,それぞれ侵害するものと認められる。
() これに対し,被告は,①本件写真は,一般に公開されているホームページ(本件サイト)に掲載されたものであり,これを使用しても著作権を侵害することはない,②仮に本件写真の著作権が原告に帰属するとしても,ホームページ上その旨が明記されていないため,被告としてはこれを知る由もなく,原告の著作権を侵害する意図はなかった,③本件看板における本件写真の使用については,本件仮処分事件でも問題にされておらず,何ら違法性はないと主張する。
しかし,①本件写真が一般に公開されているホームページ上に掲載されたからといって,これを著作権者に無断で使用できることになるわけではない。②また,本件サイト上には原告が著作権者である旨の表示はないが,被告は,本件写真が自分以外の者によって撮影されたものであることを認識しながら,その著作権の帰属について何ら調査することなく,無断でその画像データをダウンロードし,これを上記各ビラ及び看板に掲載したのであるから,上記()の著作権(複製権,譲渡権)侵害について,少なくとも過失を認めることができる。さらに,③本件仮処分事件において,本件看板上に本件写真の複製物を掲載することが差止めの対象になっていなかったからといって,本件看板上に本件写真の複製物を掲載することが適法になるわけではなく,また,同事件において原告が被告に対し本件看板における本件写真の使用を許諾した事実も認められない。
よって,被告の上記①~③の主張はいずれも失当であり,採用することができない。
イ 本件ビラ2について
() 本件ビラ2に掲載されている被告写真2は,本件画像データを利用して作成されたものであり,かつ,これと本件写真とを対比すると,縦横の比率が若干横伸びしたように変更されているが,本件写真の表現上の本質的な特徴の同一性が維持されており,その表現上の本質的特徴を直接感得するのに十分な大きさ,状態で,ほぼ全体的にその表現が再現されていると認められ,他方,上記変更には,創作性があるとは認められない。したがって,被告写真2は,本件写真の複製物である。
() 被告は,自身が本件ビラ2の作成,頒布に関与した事実を否認するので,この点について検討する。
前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,①本件ビラ2は,被告が代表を務める政治団体が平成21年6月17日に西武新宿線野方駅前付近等で街宣活動を行った際に,被告の協力者らによって通行人に頒布されたものであること,②被告は,当該街宣活動の前日,自ら本件ビラ2の元となる電子データを作成し,そのコピーをメールに添付して複数の協力者に対し送信したこと,③被告は,前記街宣活動の当日,自ら現場に赴いて街宣活動に参加し,その際,協力者らによって本件ビラ2が通行人に頒布されているのを認識していたが,これを容認していたこと(被告は,本人尋問の際,本件ビラ2について,「こういうものを作ろうと思うんだけどということで,賛同者の何人かにパソコンの添付ファイルでお送りしたもんで,それを受け取った人が,気をきかせて(中略)作ってきてくださった」,「街頭演説をやってる最中に,同じ,カラーのビラが私の車の中に入っていたんで,だれか,それをプリントして持ってきてくれた人がいたんだなというふうに感じた」などと,本件ビラ2の頒布について,一貫してこれを肯定的に認識していた旨を供述し,協力者らが本件ビラ2を通行人に頒布するのを止めようとした形跡はない。これらの事情からすれば,被告が本件ビラ2の作成,頒布を認識し,これを容認していたことは明らかである。)が認められる。これらの事実を総合すれば,本件ビラ2を印刷し,これを通行人に頒布したのが,被告ではなくその協力者らであったとしても,被告は,当該協力者らの行為を自らの行為として利用することにより,本件ビラ2を作成,頒布したものと評価するのが相当である。
したがって,被告は,本件ビラ2についても,本件写真の複製権及び譲渡権を侵害したものと認められる。
() なお,その余の被告の主張が採用できないことは,上記アで説示したとおりである。
(2) 公衆送信権(送信可能化権)侵害の有無
ア 被告は,平成21年6月21日頃,本件サイトから本件画像データをダウンロードして利用し,本件写真と同一であると認められる被告写真4を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして本件ブログに掲載した。
イ 以上によれば,被告は,本件写真の複製物である被告写真4を本件ブログのウェブサーバーにアップロードして送信可能化し,自動公衆送信を行ったものと認められる。
したがって,被告は,上記アの行為により,本件写真の公衆送信権及び送信可能化権を侵害したものと認められる。
ウ 被告は,本件写真を本件ブログに掲載したことについて,本件仮処分事件でも問題にされておらず,何ら違法性はないと主張する。
しかし,本件仮処分事件において問題とされなかったからといって,被告の上記行為が適法になるわけではなく,また,同事件において原告が被告に対し本件ブログにおける本件写真の使用を許諾した事実も認められないから,被告の上記主張は失当であり,採用することができない。
(3) 著作権法32条1項の「引用」に当たるか
ア 被告は,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことにつき,公表された写真を報道,広報目的で引用するものであるから,著作権法32条1項で保護されるべき適法な引用に当たると主張する。
イ 前記前提事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
() 被告は,「A調査会」ないし「A1調査会」という名称で創価学会や公明党を批判する活動を行っていた。
被告は,平成21年6月頃,同年7月に行われる都議選に立候補していた公明党所属のB議員について,同議員が平成17年7月の都議選の際,公費負担となる選挙カーのガソリン代を不正に水増し請求し,東京都から公費をだまし取っていた事実があると考え,これを有権者に訴えようと協力者らと共に街宣活動等を行った。
() 本件各ビラ及び本件看板は,いずれもB議員に上記不正があったとの主張及び同議員が都議会議員としての適格を欠くとの主張を宣伝広報する目的で作成されたものであり,上記不正があった旨及びB議員が公明党,創価学会の犯罪者である旨が記載されている。また,本件ビラ3には,上記各主張と併せて,B議員が被告を名誉毀損で告訴したこと及び被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことに対する批判が記載されている。
本件ブログは,B議員が同仮処分を申し立てたことを批判するために作成されたものであり,仮処分申立書に記載されたB議員側の主張に対する批判が記載されている。
被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で,たまたま本件サイトで見付けた本件写真の本件画像データをダウンロードして本件各ビラ等に転載したものであるが,被告自身,本人尋問において,本件各ビラ等に掲載するB議員の写真は,特に本件写真でなければならない理由はなく,本件仮処分決定がされた後は,本件写真とは別の写真を掲載したビラを作成した旨を供述している。また,本件各ビラ等には,本件写真そのものについての言及はない。
() 本件各ビラ等には,本件写真の出所や権利者について一切表示されていない。
ウ 公表された著作物は,引用して利用することができるが,その引用は,「公正な慣行」に合致するものでなければならず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
これを本件についてみるに,本件各ビラ等は,要するに,都議選の候補者であったB議員について不正があったとの主張を宣伝広報し,あるいはB議員が被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことを批判するためのものであって,本件写真それ自体や,本件写真に写った被写体の姿態,行動を報道したり批評したりするものではない。被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で本件写真を引用したと主張するが,特定のためであれば,同議員の所属,氏名を明示すれば足りることであるし,イメージのためであれば,B議員の他の写真によって代替することも可能であり,本件写真でなければならない理由はない。また,本件各ビラ等は本件写真の全体をほぼそのまま引用しているが,身振り手振りも含めた本件写真の全体を引用しなければならない必要性も認められない。さらに,著作物の引用に当たっては,その出所を,その複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により,明示しなければならないが(著作権法48条1項1号),本件各ビラ等においては,本件写真の出所が一切明示されておらず,これが他人の著作物を利用したものであるのかどうかが全く区別されていない。
このように,そもそも,本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと,本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと,本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば,本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても,これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが,「公正な慣行」に合致するものということはできず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。
したがって,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが著作権法32条1項の「引用」に当たるということはできない。
よって,被告の主張は採用できない。
(4) 以上によれば,①本件各ビラ及び本件看板上に被告写真1~3及び同5を掲載した被告の行為は,原告の有する本件写真の複製権を侵害するものであり,②本件各ビラを通行人に頒布した被告の行為は,原告の有する本件写真の譲渡権を侵害するものであり,③本件ブログに被告写真4をアップロードして掲載した被告の行為は,原告の有する本件写真の公衆送信権及び送信可能化権を侵害するものである。
3 争点(3)(著作者人格権侵害の成否)について
(1) 同一性保持権侵害の成否
被告は,本件写真から被告各写真を作成するに際し,①被告写真1及び同3については,色調をカラーからモノクロに変更したこと,②被告写真1については,更に縦横の比率も変更されていること,③被告写真5については,後に被写体であるB議員の両目部分に目隠し様の白いテープを貼り付けたことをいずれも認めており,これらは著作者である原告の意に反する改変であると認められる。
(2) 著作権法20条2項4号所定の除外事由該当性
被告は,上記(1)①については,費用を抑えることが目的である,②については,被告がパソコンの操作に不慣れなことが原因であり,故意に太った印象を与えること(イメージダウン)が目的ではない,③については,仮処分の対象になっておらず,被告は何ら使用を制約される立場になかったが,当該写真そのものを衆人の目にさらすことを控え,原告の主張する著作権に配慮した結果,目線を入れたにすぎないとして,これらが著作権法20条2項4号所定の除外事由に該当すると主張する。
しかし,同号は,たとえ著作者の意に反する改変であったとしても,著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変は例外的に同一性保持権侵害に当たらない旨を規定したものと解されるところ,上記(1)①~③の改変は,いずれも著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない改変であるとは認められない。
(3) よって,上記(1)①~③の改変は,いずれも原告が有する本件写真の同一性保持権を侵害するものと認められる。
4 争点(4)(差止め,廃棄の必要性)について
(1) 差止め請求について
本件においては,原告が主張する被告の侵害行為自体が認められることに加え,被告が現在もなお被告写真1~4の画像データを有している可能性を否定できず,現に,本件訴訟係属後の平成22年2月4日には,インターネット上の被告のウェブサイト(ブログ)に本件写真の複製物と認められる写真が掲載されていること等の事情を考慮すれば,被告が今後も被告写真1~3を掲載したビラを作成して頒布し,被告写真4をインターネット上の自己のウェブサイトにアップロードするおそれがあると認められる。
よって,原告の著作権法112条1項に基づく①本件写真を掲載したビラの頒布差止請求及び②被告写真4をインターネット上のウェブサイトで送信可能化することの差止請求は,いずれも理由がある。
(2) 廃棄請求について
被告は,本件各ビラは既に残存していないと供述するが,本件各ビラには本件写真の複製物が掲載されており,かつ,被告が本件各ビラを全部廃棄したと認めるに足りる証拠はないから,被告に対し,本件各ビラの廃棄を命じる必要が認められる。
よって,原告の著作権法112条2項に基づく本件写真を掲載したビラの廃棄請求は,理由がある。
5 争点(5)(損害の発生及びその額)について
(1) 著作権侵害による損害額
ア 本件各ビラによる損害(18万円)
原告は,約15年の経験を有する職業写真家であるが,原告が撮影した写真の使用料については,特に基準は設けておらず,その都度,交渉によって決定している。
そこで,本件各ビラの使用料相当額を認定するに当たっては,他の写真貸出業者の基準を参照することとする。甲12の料金表によれば,チラシ半面(1年間)の使用料は4万円であるから,本件各ビラの使用料相当額は各4万円,合計12万円となる。そして,本件各ビラにおける本件写真の使用態様が原告の意に反することが明らかであること等,本件において認められる諸般の事情を考慮すれば,本件各ビラにおける本件写真の使用料相当額は,上記12万円の1.5倍である18万円と認めるのが相当である。
原告は,①写真の無断使用については許諾がある場合の10倍ないしそれ以上の使用料が定められていることが多いこと,②被告が作成,頒布し,又は作成,頒布させた本件各ビラの合計枚数は少なくとも1万枚を下らないこと等を指摘して,本件各ビラの使用料相当額は写真貸出業者が定める通常の使用料の10倍を下らないと主張する。しかし,①については,仮にそのような使用料を定める例が存在したとしても,本件においてはそのような合意が存在しない以上,これを使用料相当額の基準とすることは相当でない。また,②については,そもそもこれを認めるに足りる証拠がない(被告の供述によっても,本件ビラ1の作成枚数は500枚程度,本件ビラ3の作成枚数は400枚程度であり,本件ビラ2の作成枚数は不明であるが,仮に本件ビラ1又は同3と同程度作成されたものとしても,本件各ビラの作成枚数はせいぜい1300~1400枚程度にしかならない。そして,これを上回る枚数のビラが作成された事実を認めるに足りる証拠はない。)。
よって,この点に関する原告の主張は採用することができない。
イ 本件ブログによる損害(10万5000円)
甲12の料金表によれば,インターネットにおける使用料(1年間)は,トップページで10万円,中ページで7万円であり,本件ブログが1年間以上インターネット上で公開された事実及び本件ブログがトップページである事実を認めるに足りる的確な証拠はないから,本件ブログにおける本件写真の使用料相当額は,上記7万円の1.5倍である10万5000円と認めるのが相当である。
ウ 本件看板による損害(30万円)
甲12の料金表によれば,「駅・街頭(1年間)」における使用料(B3)は25万円,「店頭・車内吊り・車額」における使用料(B3)は20万円であり,これによれば,本件看板における本件写真の使用料相当額は,20万円の1.5倍である30万円と認めるのが相当である。
エ したがって,著作権侵害による損害額は,上記ア~ウの合計58万5000円となる。
(2) 著作者人格権侵害による損害額
前記3(1)の改変の態様は,それぞれ,①色調をカラーからモノクロに変更(被告写真1及び同3),②縦横の比率を変更(被告写真1),③被写体(人物)の両目部分に目隠し様の白いテープを貼付(被告写真5)というものであるが,いずれも悪質性が特に顕著であるとまではいえず,これに,本件写真が商業用に撮影されたものではなく,被告もこれを商業的に利用したわけではないこと,その他諸般の事情を考慮すれば,同一性保持権侵害による慰謝料は10万円と認めるのが相当である。
(3) 弁護士費用
本件訴訟の難易,請求の内容及び認容額その他諸般の事情を考慮すると,被告の上記著作権侵害及び著作者人格権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は,10万円と認めるのが相当である。
(4) 以上によれば,原告の損害額は合計78万5000円となる。
6 争点(6)(反訴請求に係る不法行為の成否)について
(1) 本訴の提起は違法か
訴えの提起が相手方に対する違法な行為(いわゆる不当提訴)となるのは,当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるというべきである(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決参照)。
これを本件についてみるに,本訴において原告の主張した権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものでないことは,前記1~5において検討したとおりである。他方,本訴の提起が被告の言論活動を弾圧することを目的とした威圧行為であると認めるべき的確な証拠は存在しない。
よって,本訴の提起が違法であるとする被告の主張は理由がない。
(2) 本件告訴は違法か
一般に,告訴,告発をする者は,犯罪の嫌疑をかけることを相当とする客観的根拠を確認すべき注意義務を負っており,かかる注意を怠って告訴,告発を行えば不法行為になるというべきである。
これを本件についてみるに,そもそも,本件告訴に係る告訴事実が認められることは,前記1~5において検討したとおりであるから,原告が上記注意義務に違反して本件告訴を行ったと認めることはできない。
よって,本件告訴が違法であるとする被告の主張は理由がない。
(3) 以上によれば,被告の反訴請求は,その余の点につき判断するまでもなく,いずれも理由がない。
7 結論
以上の次第であるから,本訴請求は主文掲記の限度で理由があるから,その限度でこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとし,反訴請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

[控訴審同旨]
当裁判所も,被控訴人の本訴請求は原判決が認容する限度で正当であってその余は棄却すべきであり,控訴人の反訴請求は全て棄却すべきであると判断する。その理由は,以下において付加・訂正するほか,原判決記載のとおりであるから,これを引用する。
1 控訴人の「中立性・公平性を欠いた原判決」及び「創価学会による言論封殺が目的である」との主張について
本件全証拠を精査しても,原判決が中立性・公平性を欠いた判断をしたと認めるに足りる証拠はなく,また職業写真家である被控訴人が著作権侵害等を理由に差止め・損害賠償等を求めた本訴請求が「創価学会による言論封殺が目的である」とまで認めるに足りる証拠はない。
そうすると,「中立性・公平性を欠いた原判決」及び「創価学会による言論封殺が目的である」とする控訴人の主張は理由がないことになる。
2 「差止めの理由が存在しない」との主張について
(1) 控訴人は,原判決が,甲19(控訴人のブログ)等の事情を考慮した上,「被告が今後も被告写真1~3を掲載したビラを作成して頒布し,被告写真4をインターネット上の自己サイトにアップロードするおそれがある」と認定した点につき,甲19(控訴人のブログ)では,A議員のウェブサイトを掲載することが不可欠であり,掲載に当たりその旨きちんと説明を加えているから報道のための転用であって何ら問題がないにもかかわらず,上記事実をもって,本件各ビラの作成・頒布やインターネット上の自己サイトにアップロードするおそれがあるとした原判決の認定・判断には何の根拠もない旨主張する。
しかし,控訴人は著作権侵害の事実を争っており,また,控訴人が現在もなお控訴人各写真の画像データを保有している可能性が十分に認められる以上,現在侵害行為がなされていないとの一事をもって,将来二度と侵害行為を行わないと断定することはできないから,控訴人には,著作権法112条1項にいう「侵害のおそれ」が存すると認めるのが相当である。
また,原判決が甲19(控訴人のブログ)に言及したのは,控訴人が今後も当該画像データを使用するおそれのあることを示す1つの事情として考慮したにすぎず,控訴人の主張する事実があったとしても,原判決の認定・判断に影響を及ぼすものではない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(2) 控訴人は,被控訴代理人が残るビラを強制的に持ち去っており,もはや本件各ビラは存在しない,また,控訴人は仮処分通知受領直後に新たに乙5のビラを作成しており,もはや本件ビラ1(甲3)及びビラ3(甲5)を保持する理由はなかったし,都議選が終了した以降は本件各ビラを作成・配布する必要性は消滅しているのであるから,廃棄を命じた原判決は不当であると主張する。
しかし,控訴人は,原審における本人尋問の主尋問において,仮処分決定があった時点で上記別のビラ(乙5)にすぐに差し替えて本件ビラ1(甲3)及びビラ3(甲5)についてはすべて廃棄した旨供述しているところ,それにもかかわらず,実際には,同決定送達後に実施された仮処分執行の際に現に乙5のビラの外に本件ビラ1が9枚発見され,これら9枚は執行官保管となっているから,乙5のビラを作成したことをもって,本件各ビラを全部廃棄した理由にはならないというべきである。
(3) 次に,控訴人は,当時街頭演説が終了した後に車の中に同じビラが1枚あったので誰かが持ってきたものと認識したにすぎず,街頭演説をやっている最中に認識したものではないことを理由として,控訴人写真2が掲載されている本件ビラ2(甲4)の作成・頒布には一切かかわっていないと主張する。
しかし,被控訴人が指摘するように,控訴人は,原審の本人尋問において,「野方駅前で,街頭演説をやってる最中に,同じ,カラーのビラが私の車の中に入っていたんで,だれか,それをプリントして持ってきてくれた人がいたんだなというふうに感じたんで,分かったわけですが。」と供述し,本件ビラ2の存在を街頭演説の最中に認識していたことを認めているのであるから,控訴人の上記主張は信用することができない。
そして,原判決が認定するとおり,本件ビラ2は,控訴人が代表を務める政治団体が平成21年6月17日に西武新宿線野方駅前付近等で街宣活動を行った際に,控訴人の協力者らによって通行人に頒布されたものであること,控訴人は,当該街宣活動の前日,自ら本件ビラ2の元となる電子データを作成し,そのコピーをメールに添付して複数の協力者に対し送信したこと,控訴人は,前記街宣活動の当日,自ら現場に赴いて街宣活動に参加していたという一連の経緯を考慮すれば,控訴人が本件ビラ2を作成・頒布した協力者の行為を認識・認容していたと認められるのであり,原判決も単に「協力者らが本件ビラ2を通行人に頒布するのを止めようとした形跡がない」ことのみを理由とするものではない。
(4) また,控訴人は,本件ビラ2の原案を一部の支持者に送信した後に,文書に誤字があったことが判明したので,本件ビラ2(甲4)を破棄して本件ビラ1(甲3)を作り直したという経緯があり,控訴人が事前に頒布の事実を知っていれば,修正前のビラである本件ビラ2の頒布をやめさせていたはずであることを控訴人が本件ビラ2の作成・頒布に関与していない根拠として主張する。
しかし,仮に控訴人が主張する上記事実があったとしても,それは単に本件ビラ2を誤字に気が付かないまま頒布したというにすぎず,本件ビラ2の作成・頒布を控訴人が認識・認容していたことと矛盾するものではないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(5) 次に,控訴人は,原判決は本件各ビラの作成枚数を1300~1400枚程度と何の根拠もなく認定しているが,同認定は悪意に満ちた過大評価であると主張する。
しかし,そもそも控訴人が指摘する原判決の判示部分は,本件各ビラの合計枚数が少なくとも1万枚を下らないとの被控訴人の主張に対し,それを認めるに足りる証拠がないことを説明するために付加された記述であって,損害額を算定する前提として本件各ビラの作成枚数を1300~1400枚程度と積極的に認定したものではない。
また,控訴人は,原審における本人尋問において,本件ビラ1の作成枚数は500枚程度,本件ビラ3の作成枚数は400枚程度であると供述しているのであるから,それとの対比において,本件ビラ2も同程度作成されたと推認することには合理性があり,本件ビラ2がカラー刷りであることは,同推認を覆すに足りる事情とはいえない。
以上のとおり,控訴人の上記主張は採用することができない。
3 「著作権侵害及び損害賠償の対象ではない」との主張について
(1) 控訴人は,被控訴人が本件写真の著作権を有することを知らないか,又は本件写真の芸術的若しくは商業的価値を認めていないから,無許可で使用しても著作権侵害の意図がなく,損害賠償責任を負わないと主張する。
しかし,著作権侵害につき不法行為に基づく損害賠償請求権が成立するためには,行為者に自己の行為が他人の著作権を侵害するものであることにつき故意又は過失があれば足り,また,故意又は過失が認められるためには対象となる著作物が他人の著作物であることを認識し又は認識し得れば十分であって,著作権の帰属に関する行為者の認識の有無,行為者が著作権侵害の意図を有していたか否か,さらには対象となる著作物に対して行為者が芸術的若しくは商業的価値を認めていたか否かは不法行為が成立するための要件ではない。
本件においては,原判決が認定したとおり,控訴人が本件ビラ1及びビラ3を作成・頒布し,本件看板を作成・掲示したこと,控訴人が控訴人写真4を自らが管理するインターネット上のウェブサイトにアップロードして本件ブログを掲載したことが認められ,また,本件ビラ2についても,控訴人が協力者の行為を自らの行為として利用することにより,本件ビラ2を作成・頒布したものと認められるのであって,控訴人には著作権侵害に対し少なくとも過失があるというべきであるから,控訴人は賠償責任を免れない。
なお,控訴人は,都議会ホームページからの転用写真について主張するが,本件著作物とは別の著作物に関する主張であって,上記判断に影響を及ぼすものではない。
(2) また,控訴人は,原判決も控訴人の行為を「過失」と認めており,損害賠償を課するような悪質なものでないことは明白であると主張するが,上記のとおり,過失があれば不法行為が成立することは明らかであるから,控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 次に,控訴人は,本件写真が掲載されていたA議員の本件サイト(甲2)には,当初「All rights reserved」との記述がなかったが,控訴人が指摘した直後に,上記サイトに「All rights reserved」との記述が追記されていることを問題とする。
しかし,著作権が成立するためにはいかなる方式の履行も必要ではなく(著作権法17条2項),著作権者であることを表示していなければ権利行使ができないものではないから,控訴人の上記主張は採用することができない。
4 「損害賠償額には根拠がない」との主張について
(1) 甲12及び甲13を基準にすることにつき
控訴人は,甲12及び甲13の各料金表は自然風景や生物の写真を専門とした業者の料金表であるから一般写真に比べて割高に設定されているとか,甲13の料金表は無断使用に対する厳格さを表した金額であるなどとして,原判決が甲12及び甲13の各料金表を基準として損害額を認定したのは不当であると主張する。
しかし,そもそも甲12及び甲13の各料金表が一般写真に比べて割高に設定されていることや甲13の料金表は無断使用に対する厳格さを表した金額であると認めるに足りる的確な証拠はない。
また,被控訴人の著作権侵害を理由とする損害賠償請求は著作権法114条3項を根拠とするものであるところ,同法に規定する「著作権・・・の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額」とは,損害賠償額として適正な使用料相当額をいい,過去における著作物の使用料や業界における著作物の利用に関する料金の相場そのものではなく,それらを参考としつつ,その実質が不法行為に基づく損害賠償であることを考慮して,同料金額にとらわれることなく裁判所が適正な使用料相当額を認定するものである。
そして,原判決は,甲12及び甲13の各料金表を参酌しつつ,被控訴人が約15年の経験を有する職業写真家であること,被控訴人は写真の使用料について特に基準を設けていないこと及び本件における著作権侵害の態様等を総合考慮した上で,控訴人に対する使用料相当額を認定していることが明らかである。
したがって,原判決が甲12及び甲13の各料金表を参酌して上記使用料相当額を算定したことにつき不当な点を見出すことはできない。
(2) 「ネイチャー・プロダクション」につき
控訴人は,ネイチャー・プロダクション社が同一写真の複数回使用につき貸出料金を100%,70%,50%と逓減させていることを理由に本件の損害額も逓減されるべきと主張し,また,無断使用の回数についても同一内容のビラにおいて複数回使用する場合は厳密には複数回とは計算しないとの数え方を提示して,原判決の損害額の認定を不当であると主張する。
しかし,控訴人の主張する貸出料金の逓減措置や複数回使用する場合の計算方法について,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
また,仮に控訴人の主張するような貸出料金の逓減措置や複数回使用する場合の計算方法をネイチャー・プロダクション社が行っていたとしても,それは正常な取引におけるいわば値引きにすぎないから,その計算方法を著作権侵害に基づく使用料相当額の算出において直ちに参酌しなければならない理由はない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
(3) 損害額を1.5倍としたことにつき
控訴人は,原判決が本件写真の使用料相当額につき参照した基準の1.5倍と認定したことを極めて不当であると主張する。
しかし,前記のとおり,著作権法114条3項を根拠とした請求においては,過去における著作物の使用料や業界における著作物の利用に関する料金の相場を参考としつつも,その実質は不法行為に基づく損害賠償請求であることを考慮して,同料金額にとらわれることなく裁判所が適正な使用料相当額を認定するものである。
そして,本件写真の性質及び著作権侵害の態様等の原判決が認定した具体的な事情を総合考慮すれば,甲12における通常の料金額の1.5倍の額をもって著作権侵害に基づく損害額とした原判決の認定は相当である。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。
5 結論
以上のとおり,被控訴人の本訴請求を一部認容し,控訴人の反訴請求を全部棄却した原判決は結論において正当である。
よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。