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著作権判例セレクション
【地図図形著作物の侵害性】スケジュール管理ソフトの表示画面の侵害性が争点となった事例
▶平成15年01月28日東京地方裁判所[平成14(ワ)10893]
(注) 本件は,被告らによる被告製品の制作販売行為が,不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に当たる,原告の原告製品に対する著作権(複製権,翻案権)を侵害する,民法709条の不法行為に当たる,と主張して,被告製品の販売又は頒布等の差止め及び損害賠償を請求した事案である。
なお、原告製品(「Pim-face ver2.0」の名称を有するスケジュール管理ソフト)は,「PIM(Pesonal Information Management)」と呼ばれるスケジュール管理ソフト(「PIMソフト」)の一種であり,マッキントッシュ又はウィンドウズのOS上で動作可能である。
2 争点(3)(著作権侵害の成否)について
(1) 著作物の複製又は翻案が認められるためには,原告製品の表現上の創作性を有する部分が被告製品と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができなければならないと解される。
弁論の全趣旨によると,原告製品は,PIMソフトといわれるものの一種であり,その基本的な機能は,個人のスケジュール管理,アドレス帳及び日記の3つに集約されるものと認められる。しかし,個人のスケジュール管理,アドレス帳,日記といったものについては,それぞれその機能に由来する必然的な制約が存在するものであるし,また,コンピュータの利用が行われるようになる前から,紙製の手帳,アドレス帳,日記帳といったものが存在していたのであるから,このような紙製の手帳等に用いられている書式や構成は,原告製品よりはるか前から既に知られていたものである。さらに,証拠と弁論の全趣旨によると,他に多くのPIMソフトが存在するものと認められるから,これらのPIMソフトにおいて知られているありふれた書式や構成というものが存在すると考えられる。そうすると,原告製品の表示画面については,各表示画面における書式の項目の選択やその並べ方,各表示画面の選択・配列などの点において,作成者の知的活動が介在し,作成者の個性が創作的に表現される余地があるが,作成者の思想・感情を創作的に表現する範囲は,上記の理由により限定されているものというべきであるから,被告製品が原告製品の複製又は翻案であるかどうかを判断するに当たっては,以上のような点を十分考慮する必要があるものというべきである。
(2) 原告製品と被告製品の対比
ア 原告製品と被告製品1との対比(原告製品と被告製品1の各表示画面の内容は別紙1のとおりである。)
証拠と弁論の全趣旨に基づき,原告製品と被告製品1について,個々の表示画面及び画面の選択・配列を対比して,両者の間の共通点を抽出し,これらの共通点が創作性を有するものであって,被告製品1が原告製品の表現上の創作性を有する部分と実質的に同一であるか又は被告製品から原告製品の表現上の創作性を有する部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるかどうか,すなわち,複製又は翻案であるかどうかを,以下,検討する。
(ア) 週表示画面
原告製品及び被告製品1においては,(中略)の各点で共通する。
しかし,証拠と弁論の全趣旨によると,1ページの左側半分全体に,週の7日間を順番に縦に表示し,その部分においては,日付と曜日の右横に各日のスケジュールを記載する横長の長方形の形状の枠が設けられており,1ページの右側に,更に詳細な予定等を記載する部分が設けられている手帳は,従来からよく知られていたものと認められる。そうすると,上記共通点のうち,①,②,③のうち1週間の表示における日付と曜日は,日付が大きく上に,曜日が英語の略語表記で下に小さく配されていること,④,⑥のうち画面の右側下部に特定日のスケジュール又はダイアリーを表示する窓部分があることは,従来からよく知られているありふれた書式であるということができるから,これらの共通点があるとしても,複製又は翻案が基礎づけられるものではない。上記③のとおり,1週間の表示における日付と曜日が,略正方形状のボックス内に表示されており,ボックスには影が付され,ボックスが浮いて見えるようになっている点は共通するが,ボックスの形状が原告製品の場合正方形であるのに対し,被告製品1の場合は左下が円弧状となっており,異なっている。上記⑤については,このボタンは,ソフトウェアの機能上必要なものであって,これが設けられていること自体は,複製又は翻案を基礎づけるものではないし,その位置は,共通しているが,ボタンの形状は明らかに異なっている上,原告製品の場合,上向き下向きのボタンの間に,表示している部分の西暦が数字で月が数字及び英語で表記されているのに対し,被告製品1の場合はこのような表記がない代わりに中央に「今日」に移行する正方形のボタンが配されている点で異なっている。上記⑥のうち,スケジュールとダイアリーを1つの窓で切り替えるようにしていること自体は,アイディアであるし,ボタンの位置は,共通している部分があるが,ボタンの形状は明らかに異なっている。
上記⑦のうち,スケジュール画面でインプットボタンを押すと,スケジュール入力画面が別画面として表示され,そこで入力すると,1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されることは,共通しているが,入力すると,1週間の表示の部分と特定日のスケジュールの部分の双方に表示されることは,機能上当然のことであると考えられるし,入力画面の項目やレイアウトは異なっている上,インプットボタンの位置は,共通している部分があるが,ボタンの形状は明らかに異なっている。上記⑧については,この表示が設けられていることやスケジュール/ダイアリー表示窓で表示の対象となっている日が1週間の表示の日付をクリックすることによって変わること自体は,アイディアである上,その位置には,共通している部分があるが,ボックスの形状が原告製品の場合正方形であるのに対し,被告製品1の場合は右上が円弧状となっており,異なっている。上記⑨については,ボタンを押した際に効果音が出るようにすること自体はアイディアであるが,その音も原告製品では水の泡の音に近いのに対し,被告製品1では水の泡の音とは異なっている。
以上に加えて,原告製品と被告製品1の週表示画面を対比すると,①原告製品の場合,「WEEK」,「MONTH」,「ADDRESS」,「PROFILE」ボタンが上部にあって,太陽の形状をしたマークで区切られているのに対し,被告製品1の「Weekly」,「Monthly」,「Address」,「Tool」ボタンは,左下部にあり,独立していること,②原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し,被告製品1は上記のとおり画面左端中央に「今日」に移行するためのボタンを備えていること,③原告製品はネット接続のための太陽の形状をした「SYNC」ボタンを,上部中央に備えているのに対し,被告製品1はネット接続のための社名を表示したリンクボタンを右下に備えていること,④被告製品1では,「pimca bar」が上部に配され,時間表示と共に直近の予定が書き込まれている場合には,それを表す文字が流れるようになっており,その左には,クリックすると,被告ビットギャングのサイトにリンクするボタンがあるが,原告製品はこれらを備えていないこと,⑤原告製品の場合,右下に4つのシールボタンが表示されているのに対し,被告製品1はこれを備えていないこと,⑥年月の表示位置が,原告製品の場合,上記のとおり左側であるのに対し,被告製品1は,月が中央上部に,西暦が左上に表示されていること,⑦原告製品の場合,「SCHEDULE」,「DIARY」ボタンと並んで「MESSAGE」ボタンがあるのに対し,被告製品1の場合はこれに対応するボタンがないこと,⑧被告製品1は,左側の1週間の表示部分に背景画像が透けて見えているのに対して,原告製品では,そのようなことはないこと,⑨被告製品1では,右側のスケジュール/ダイアリー表示窓の上に枠で囲まれた部分があり,そこにユーザーが画像を貼り付けるなどすることができるが,原告製品には,このような窓はないこと,以上の点で異なっている上,画像の絵(背景画面に表示されている女優等)も明らかに異なっている。
以上によると,被告製品1の週表示画面は,原告製品の週表示画面を複製又は翻案したものということはできない。
(イ) アドレス帳画面
原告製品のアドレス帳画面と被告製品1のそれを対比すると,(中略)が共通している。
しかし,証拠と弁論の全趣旨によると,上記①,②は,他のスケジュール管理ソフトにも見られるもので,原告製品独自のものとは認められないし,上記③ないし⑤は,アドレス帳画面である以上,新規入力のためのボタン,編集又は保存のためのボタン,削除のためのボタンを設けること自体は,機能上必要なことである。原告製品と被告製品1では,これらのボタンの位置が共通するが,ボタンの形状は,原告製品では長方形であるのに対して,被告製品1では,左側が丸くなっており,異なっている上,原告製品の表記法は日本語であるのに対し,被告製品1のそれは英語である点が異なっている。⑥もアドレス帳に一般に見られる項目であることは明らかである。かえって,被告製品1には,原告製品と異なり,振り仮名,勤務先(「Office」)に関する情報項目などがあり,また,e-mailアドレスとホームページアドレスの右横には,それに接続できる表示が設けられている。
上記以外の相違点として,①被告製品1では,他のアドレス帳ソフトとの間で情報のやりとりをするための「Import」,「Export」ボタンがあるのに対し,原告製品はこれを備えていないこと,②被告製品1では,アドレス帳を「ア行」,「カ行」等の別に従って分類できるようになっているのに対し,原告製品はこれを備えていないこと,③被告製品1には名前の一覧表上部に「Name Table」の表示が,個人の詳細情報表示部の上部に「Input/Detail」の表示がそれぞれあるのに対し,原告製品ではそれに対応する表示がないこと,④上記(ア)①,②のうち原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し,被告製品1はこれを備えていないこと,③及び④の各相違点があり,画像の絵(背景画面に表示されている女優等)も明らかに異なっている。
以上により,被告製品1のアドレス帳画面は,原告製品のアドレス帳画面を複製又は翻案したものということはできない。
(ウ) 原告製品全体と被告製品1全体との対比
① 原告製品全体と被告製品1全体とを対比すると,(中略)以上の点が共通する。
しかし,上記①②については,証拠と弁論の全趣旨によると,週表示,月表示,アドレス帳,ツールという構成は,従来の紙製の手帳にもあった構成であると認められる上,上記認定のとおり原告製品の週表示画面とアドレス帳画面は,被告製品1のそれらを複製又は翻案したものとはいえないし,下記のとおりその余の表示画面についても,被告製品1は原告製品を複製又は翻案したものとはいえない。上記③は,この種の製品が当然有すべき機能であるし,④については,証拠と弁論の全趣旨によると,背景の画像のみの切替えは,ウィンドウズやマッキントッシュのOSにおいて見られる上,他のスケジュール管理ソフトにおいても見られるものと認められる。上記⑤についても,特に原告製品に特徴的な事項とは考えられないし,上記⑥については,限られた画面の中に同じような項目を配置しようとすれば,大きさが似ることはやむを得ないものといえる。
② 月表示画面
原告製品の月表示画面と被告製品1の月表示画面とを対比すると,(中略)が共通する。しかし,上記①は,カレンダーそのものであって,何ら創作的な表現ではない。上記②については,西暦の表記位置が大きく異なる上,月の英語表記が異なっている。上記③については,ソフトウェアの機能上必要なものであるし,また,その位置には,共通する点があるが,左よりにずれている度合いは異なるし,ボタンの形状は明らかに異なっている。上記④は,それ自体としては,アイディアであるし,効果音も異なっている。
そして,両者には,上記(ア)①,③及び④の各相違点,並びに原告製品が特定の日に移行するための「GO!」ボタンを備えているのに対し,被告製品1は画面上部中央に「今日」に移行するためのボタンを備えていること,及び原告製品の月表示画面の背景は二重画像となっているのに対し,被告製品1のそれは一重画像であることの各相違点がある。これらを総合すると,被告製品1の月表示画面は,原告製品の月表示画面を複製又は翻案したものということはできない。
③ プロフィール画面とツール画面
原告製品のプロフィール画面と被告製品1のツール画面とを対比すると,(中略)が共通する。
しかし,原告製品のプロフィール画面は,画面左側にユーザーの詳細情報を掲載し,画面右側に背景画面の変更等を行うフェイス選択画面を掲載する形式であるのに対し,被告製品1のツール画面は,画面全体に各種の情報を検索するための12個のツールボタンがあるから,両者は異なる画面であって,その中に上記①②のような同じ機能が含まれているからといって,被告製品1のツール画面は,原告製品のプロフィール画面を複製又は翻案したものということはできない。
④ したがって,原告製品と被告製品1を全体として対比しても,被告製品1は,原告製品を複製又は翻案したものと認めることはできない。
イ 原告製品と被告製品2との対比(原告製品と被告製品2の各表示画面の内容は別紙2のとおりである。)
(略)
(3) よって,著作権侵害を理由とする請求は,理由がない。
3 争点(2)について
(略)
4 争点(4)について
原告は,仮に被告製品の制作・販売が原告の原告製品に対する著作権の侵害ないし不正競争行為に該当しないとしても,被告の行為は民法上の一般不法行為(同法709条)に該当すると主張する。
しかしながら,市場における競争は本来自由であるべきことに照らすと,著作権侵害行為や不正競争行為に該当しない行為については,当該行為が,ことさら相手方に損害を与えることを目的として行われたなどというような特段の事情が存在しない限り,民法上の一般不法行為を構成することもないというべきである。したがって,このような特段の事情の認められない本件において,原告の一般不法行為の主張は,理由がない。
5 以上により,原告の請求はいずれも理由がない。