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著作権判例セレクション

【公衆送信権】「ニコニコ生放送」にライブストリーミング配信された動画の映画著作物性を肯定した事例/リンクの貼り付けは公衆送信権の侵害となるか/その他

▶平成250620日大阪地方裁判所[平成23()15245]
() 原告は,被告において,原告が著作者である動画を,自社の運営する「ロケットニュース24」と称するウェブサイト(「本件ウェブサイト」)に無断で掲載し,これに原告を誹謗中傷する記事(「本件記事」)を掲載し,さらに本件記事下部のコメント欄に,読者をして原告を誹謗中傷する書き込み(「本件コメント欄記載」)をさせ,これを削除しなかったことが,原告の名誉を毀損するとともに,原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(公表権,氏名表示権)を侵害するものであるとして,被告に対し,名誉権に基づき,本件ウェブサイトに掲載された本件記事及び本件コメント欄記載の削除を求めると共に,著作権及び著作者人格権侵害の不法行為に基づく名誉回復措置として謝罪文の掲載などを求めた事案である。
(判断の基礎となる事実)
ニワンゴが「niconico」において提供するサービスには,ウェブサイト上で動画を共有してこれにコメントを付すことのできる「ニコニコ動画」,ライブストリーミング配信される動画を視聴することができる「ニコニコ生放送」などがある。「niconico」では,「タイムシフト機能」と称して,ライブストリーミング配信終了後も,一定期間,「ニコニコ生放送」の内容を視聴し得るサービスを提供している。
原告は,平成23年6月5日,カメラ等を持参し,自身が上半身に着衣をせず(頭に猫耳状の飾りと首に首輪状の飾りのみ。),大阪市内のマクドナルド店に入店する模様や,原告自身が店員や警察官と対応する様子等を撮影し,これを動画として,「ニコニコ生放送」にライブストリーミング配信[注:テレビ番組におけるいわゆる生放送と同様,即時的な動画配信のこと]した(以下「本件生放送」という。)。原告以外の第三者(特定されていない。)は,本件生放送のうち,原告がマクドナルドに入店する直前から,駆けつけた警察官と共に交番へ赴き,注意を受けるまでの約15分間の部分(以下「本件動画」という。)を,動画共有サイト「ニコニコ動画」にアップロードし(本件生放送又は前記タイムシフト機能によって配信された内容を第三者が録画した上,「ニコニコ動画」にアップロードしたものと推測される。),同サイトへアクセスした者であれば,いつでも視聴し得るようにした。
被告は,本件動画に着目し,同月9日,本件ウェブサイト内に別紙記載の記事(「本件記事」)を掲載するとともに,「ニコニコ動画」上の本件動画に付されていた引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力して,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にし,本件記事の末尾に,「参照元:ニコニコ動画」と記載した

1 争点1-1(本件動画は映画の著作物に該当するか)について
本件動画(その前提となる本件生放送を含む。)は,原告が上半身に着衣をせず飲食店に入店し,店員らとやり取りするといった特異な状況を対象に,主として原告の顔面を中心に据えるという特徴的なアングルで撮影された音声付動画であって,一定の創作性が認められる。
また,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,原告が利用したニコニコ生放送には,タイムシフト機能と称するサービスがあり,ライブストリーミング配信後もその内容を視聴することができたとされるから,本件生放送は,その配信と同時にニワンゴのサーバに保存され,その後視聴可能な状態に置かれたものと認められ,「固定」されたものといえる(法2条3項)。
したがって,本件生放送の一部である本件動画は,「映画の著作物」(法10条1項7号)に該当し,その著作者は原告と認められる。
2 争点1-2(公衆送信権侵害の有無)について
(1) 被告は本件動画を送信可能化したか
原告は,被告において,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックすると,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態にしたことが,本件動画の「送信可能化」(法2条1項9号の5)に当たり,公衆送信権侵害による不法行為が成立する旨主張する。
しかし,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,被告は,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画の引用タグ又はURLを本件ウェブサイトの編集画面に入力することで,本件動画へのリンクを貼ったにとどまる。
この場合,本件動画のデータは,本件ウェブサイトのサーバに保存されたわけではなく,本件ウェブサイトの閲覧者が,本件記事の上部にある動画再生ボタンをクリックした場合も,本件ウェブサイトのサーバを経ずに,「ニコニコ動画」のサーバから,直接閲覧者へ送信されたものといえる。
すなわち,閲覧者の端末上では,リンク元である本件ウェブサイト上で本件動画を視聴できる状態に置かれていたとはいえ,本件動画のデータを端末に送信する主体はあくまで「ニコニコ動画」の管理者であり,被告がこれを送信していたわけではない。したがって,本件ウェブサイトを運営管理する被告が,本件動画を「自動公衆送信」をした(法2条1項9号の4),あるいはその準備段階の行為である「送信可能化」(法2条1項9号の5)をしたとは認められない。
(2) 幇助による不法行為の成否
ところで,原告の主張は,被告の行為が「送信可能化」そのものに当たらないとしても,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画にリンクを貼ることで,公衆送信権侵害の幇助による不法行為が成立する旨の主張と見る余地もある。
しかし,「ニコニコ動画」にアップロードされていた本件動画は,著作権者の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることが,その内容や体裁上明らかではない著作物であり,少なくとも,このような著作物にリンクを貼ることが直ちに違法になるとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点,すなわち,「ニコニコ動画」への本件動画のアップロードが著作権者である原告の許諾なしに行われたことを認識し得た時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。
このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことは,原告の著作権を侵害するものとはいえないし,第三者による著作権侵害につき,これを違法に幇助したものでもなく,故意又は過失があったともいえないから,不法行為は成立しない。
(3) 小括
以上より,公衆送信権侵害の不法行為が成立する旨の原告の主張は採用できない。
3 争点1-5(著作者人格権(公表権,氏名表示権)侵害の有無)について
(1) 公表権侵害について
原告は,本件動画の公開が,人格権である公表権(法18条)の侵害に当たると主張する。
しかし,原告は,被告による本件動画へのリンクに先立ち,本件生放送をライブストリーミング配信しており,しかも原告の配信動画の視聴者数については,「常時400人以上であり,特に企画番組は人気で,この日は数千人の視聴者を超え」(訴状)ていたとされる。そうすると,著作者である原告自身が,本件生放送を公衆送信(法2条1項7号の2)の方法で公衆に提示し,公表(法4条1項)したのであるから,本件生放送の一部にあたる本件動画について,公表権侵害は成立しない。
(2) 氏名表示権について
原告は,本件動画の「公衆への提供若しくは提示」に際し,原告の変名である「P2」を無断で使用し,原告の氏名表示権を侵害した不法行為が成立する旨主張する。
しかし,本件記事自体に原告の実名,変名の表示はなく,本件ウェブサイトに表示された本件動画のタイトル部分に被告の変名が含まれていたに過ぎないが,前記2記載のとおり,被告は,本件動画へのリンクを貼ったにとどまり,自動公衆送信などの方法で「公衆への提供若しくは提示」(法19条)をしたとはいえないのであるから,氏名表示権侵害の前提を欠いている。
また,原告自身,本件生放送において,原告自身の容貌を中心に撮影した動画を配信し,原告の実名をも述べていることに加え,「ニコニコ生放送」で本件生放送やその他の動画を配信する際にも「P2」の変名を表示していたことがうかがわれるのであるから,上記「公衆への提供若しくは提示」を欠くことを措いて考えたとしても,本件ウェブサイト上の上記表示が原告の氏名表示権の侵害になるとは認められない。
したがって,この点に関する原告の主張も採用できない。
4 争点2-1(本件動画及び本件記事の名誉毀損該当性)及び争点2-2(違法性阻却事由の有無)について
(1) 原告は,本件ウェブサイトに本件記事及び本件動画を掲載した被告の行為が,原告の名誉を違法に毀損するものであるとし,本件記事の削除と共に,不法行為に基づく損害賠償等を求めている。
この点,本件記事は,ある男性が上半身裸で街中を歩き,マクドナルドに入店して注文をした後,警察官に任意同行を求められ,交番内にて注意を受けたこと,その男性がその一連の模様を撮影し,「ニコニコ生放送」に動画配信したこと,その男性が以前には皇居周囲の堀に入浴剤を入れ,その模様も「ニコニコ生放送」で配信したことといった事実を摘示すると共に,これらの事実を前提に,その男性の行動が非常識で,周囲に迷惑をかけるものであったなどの意見ないし論評を表明するものである。本件記事自体は,原告の実名に触れているわけではなく,対象とする「ある男性」が原告であることを特定する情報を含んでいるわけではないが,少なくとも原告の容貌及び実名を含む本件動画が,本件記事と一体のものとして視聴可能な状態に置かれていた時期においては,「ある男性」が原告であることは特定可能であったと解される。そして,本件記事の上記のような内容は,一般読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,原告の社会的評価を低下させ,その名誉を毀損するものであったと見る余地があることは否定できない。
(2) しかし,ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明による名誉毀損においては,その行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,その意見ないし論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り,その行為は違法性を欠くと解される(最高裁昭和62年4月24日第二小法廷判決,最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決参照)。
そこで検討するに,本件記事が対象とするのは,インターネットを通じて不特定多数の者に動画配信を行うことを目的に,公道や飲食店などといった公の場で上記(1)記載のような撮影をした原告の行動であるから,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的は専ら公益を図ることにあるといえる。そして,意見ないし論評の前提となっている上記(1)記載の事実については,証拠及び弁論の全趣旨(原告自身,これらの事実を積極的に争っていない。)によれば,いずれも真実であると認められる。また,本件記事中の「非常識な行動」,「周りの迷惑を考えてもらいたいものだ。今後,同様の行為を繰り返すべきではないだろう。」などの表現は,人身攻撃にまで及んでいるとはいえず,本件動画の内容や撮影場所なども考慮すれば,意見ないし論評の域を逸脱しているとはいえない。
したがって,被告が本件ウェブサイトに本件記事を掲載し,あわせて本件動画へのリンクを貼ったことに違法性はないというべきである。
(3) 以上より,本件記事及び本件動画の本件ウェブサイトへの掲載が原告の名誉を違法に毀損するものである旨の原告の主張は採用できず,これを前提とする本件記事の削除及び損害賠償請求等の請求には理由がない。
5 争点2-3(本件コメント欄記載削除義務の有無)について
原告は,本件コメント欄記載は原告の名誉を毀損するものであるが,被告による本件記事及び本件動画の掲載が発端となって書き込まれたものであるから,被告において,本件コメント欄記載を全て削除すべき義務を負っており,また,これを怠ったことで不法行為責任を負う旨主張する。
しかし,本件記事及び本件動画の掲載が原告の名誉を違法に毀損するものといえないことは前記4で論じたとおりであり,原告の主張はその前提を欠くものであるが,この点を措いて考えたとしても,そもそも本件記事は原告の実名に言及しておらず,本件コメント欄記載も原告の変名に触れるものこそあれ,その実名に触れるものはない。本件記事及び本件コメント欄記載と一体性のある体裁で本件動画(原告の容貌及び実名を含む。)へのリンクが貼られていた当初においては,本件コメント欄記載が原告に係る書き込みであることを一般読者が理解することはできたといえるが,前記2記載のとおり,被告は,平成23年6月27日に原告から抗議を受けると,直ちに本件ウェブサイトにおける本件動画へのリンクを削除し,その結果として,本件コメント欄記載が原告に係るものであることを特定できないようにしている。つまり,被告は,本件コメント欄記載によって原告の社会的評価が低下することを防止するための対応を適時にとっており,さらに加えて,本件コメント欄記載を全て削除する義務まで負うものではなく,同義務違反もないといえる。
また,仮に本件コメント欄記載で触れられている原告の変名により,本件動画へのリンクの削除後も原告を特定できる余地があるとしても,本件コメント欄記載のコメント数は20ほどで,その内容は一様でなく,明らかに原告の名誉を毀損しないものを含む一方,本件コメント欄記載の前提となっている本件動画やその撮影に係る原告の行動に照らせば,原告の名誉を違法に侵害することが明白とまでいえるものを含むとは認められない。
しかも,本件コメント欄記載の各コメントはそれぞれ独立していて,個別に削除することは可能であり,被告も原告が削除を求めるコメントを具体的に特定すれば削除を検討するとの意向を示している(平成25年1月18日第6回弁論準備手続期日)にもかかわらず,原告はそのような具体的特定をしようとしない。このような事情からすれば,やはり本件ウェブサイトを運営管理する被告において,本件コメント欄記載を削除すべき義務を負う状況にあるとはいえない。
したがって,被告において,本件コメント欄記載の削除義務を負うものではないし,そのような義務を怠ったことによる不法行為責任を負うものともいえない。
6 争点3-1(肖像権侵害の有無)について
原告は,本件動画及び本件記事を本件ウェブサイトに掲載したことは,原告の肖像権を違法に侵害し,不法行為が成立する旨主張するが,本件記事のような言語表現によって肖像権が侵害されることは想定できないため,以下では,本件動画へリンクを貼ったことが原告の肖像権を侵害するかについて検討する。
まず,被告は,本件動画につき,原告自身が撮影し,公表したものであるから,もはや原告に肖像の公表を禁止する権利は認められるべきでない旨主張するが,原告が行った本件生放送は,ライブストリーミング配信時及びタイムシフトの期間のみ視聴されることを予定しており,タイムシフトの期間後に自身の肖像の映った本件動画が利用されることまで許容していたと認めることはできない。
しかし,被告は,本件動画を公表したわけではなく,既に何者かによって「ニコニコ動画」にアップロードされ,公表されていた本件動画へリンクを貼ったにとどまるのであって,しかも本件動画は,肖像権者である原告の明示又は黙示の許諾なしにアップロードされていることがその内容や体裁上明らかではない映像であり,少なくとも,そのような映像にリンクを貼ることが直ちに肖像権を違法に侵害するとは言い難い。そして,被告は,前記判断の基礎となる事実記載のとおり,本件ウェブサイト上で本件動画を視聴可能としたことにつき,原告から抗議を受けた時点で直ちに本件動画へのリンクを削除している。
このような事情に照らせば,被告が本件ウェブサイト上で本件動画へリンクを貼ったことが,原告の肖像権を違法に侵害したとはいえないし,第三者による肖像権侵害につき故意又は過失があったともいえず,不法行為が成立するとは認められない。
7 結論
以上の次第で,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。