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著作権判例セレクション
【プロバイダー責任制限法】「侵害関連通信」(プロバイダー責任制限法5条3項)該当性
▶令和5年6月22日東京地方裁判所[令和5(ワ)70032]▶令和5年11月30日知的財産高等裁判所[令和5(ネ)10077]
(注) 本件は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」といい、同法の施行規則を「規則」という。)5条2項に基づく被告の申立てを相当と認め、原告に対して別紙発信者情報目録記載の各情報(「本件発信者情報」)の開示を命じた基本事件に係る決定(「原決定」)に対し、原告が異議の訴えを提起した事案である。
(前提事実)
(1)
原告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者)である。
(2)
氏名不詳者は、別紙投稿記事目録の投稿日時欄記載の日時において、インターネット上のサイト「Twitter」(「本件サイト」)に、「(省略)」をユーザー名とするアカウント(「本件アカウント」)により、同目録の投稿内容欄記載の写真(「本件写真」)を含む投稿(「本件投稿」)をした。
(3)
被告は、本件サイトの管理者から、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプの開示を受けた。これによると、本件アカウントには、本件投稿日時(令和4年8月31日午後10時3分)の直前では同日午前8時2分に、直後では翌9月1日午前0時13分に、それぞれログインがあった(以下、本件投稿直前のログイン時の通信を「本件直前ログイン時通信」、直後のログイン時の通信を「本件直後ログイン時通信」という。)。
(4)
本件発信者情報は本件直前ログイン時通信に係る氏名又は名称等の情報であるところ、原告は、上記(3)の IP アドレスを管理しており、本件直前ログイン時通信に係る本件発信者情報を保有している。他方、原告は、本件直後ログイン時通信については、同時刻に複数の記録があり契約者を特定することができないとしている。
(5)
被告による基本事件の申立てに対し、当庁は、令和5年1月4日、原決定をした。これに対し、原告は、同月27日、本件訴えを提起した。
1 争点 1(権利侵害の明白性)
【証拠及び弁論の全趣旨によると、被告が、令和2年秋頃、自らのiPhone8を用いて、自らを被写体として写真を撮影した後、背景をぼかすなどの加工をして本件写真を作成したこと、被告が、本件投稿の投稿者に対し、本件写真の利用を許諾したことはないことが認められる。】
本件写真は、被告が右頬部から顎付近にかけて右手の平を当てつつカメラの方を見た自身の姿を、被告のやや右斜め前からカメラを右方向に傾けて自撮りしたものであり、構図等の選択において一応の創意工夫がされ、撮影者の個性が現れているものといえる。したがって、本件写真は、撮影者である被告の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物といえると共に、被告は本件写真の著作者として著作権を有することが認められる。
また、【氏名不詳者は、本件投稿をすることにより、】本件写真の画像データを公衆送信したものであり、著作権者である被告の許諾はなく、その他の違法性阻却事由の存在もうかがわれないことから、被告の著作権(公衆送信権)を侵害するものと認められる。
したがって、本件投稿によって被告の権利が侵害されたことは明らかである。これに反する原告の主張は採用できない。
2 争点 2(本件直前ログイン時通信の「侵害関連通信」(法 5 条 3 項)該当性
前提事実(3)によれば、本件投稿(令和4年8月31日午後10時3分)と最も時間的に近接する本件アカウントへのログイン時の通信は本件直後ログイン時通信(同年9月1日午前0時13分)であって、本件直前ログイン時通信(同年8月31日午前8時2分)ではない。また、これら通信のIPアドレスを管理する原告によれば、本件直後ログイン時通信につき、同時刻に複数の記録があることから契約者(発信者)の特定は不可能とのことである。
このような本件の事実関係の下において、被害者の権利回復の利益と発信者のプライバシー及び表現の自由、通信の秘密との均衡を図りつつ発信者情報開示請求権が認められる趣旨に鑑みると、被告は、本件投稿と最も時間的に近接するものでないとしても、本件投稿の直前にされた本件直前ログイン時通信をもって法5条3項・規則5条所定の「侵害情報の送信と相当の関連性を有する」「侵害関連通信」に該当するものとして、本件直前ログイン時通信に係る本件発信者情報の開示を求めることができるというべきである。これに反する原告の主張は採用できない。
3 争点 3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
弁論の全趣旨によれば、被告が氏名不詳者に対する著作権侵害を理由とする損害賠償請求権等を行使するためには、本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められる。したがって、【被告】には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
4 まとめ
以上によれば、被告は、法5条2項に基づき、原告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。
第 4 結論
よって、原決定は相当であるから、これを認可することとして、主文のとおり判決する。
[控訴審]
1 当裁判所も、被告は、法5条2項に基づき、原告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有するから、本件発信者情報の開示を命じた本件決定は相当であると判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点1(権利侵害の明白性)について
(略)
3 争点2(本件直前ログイン時通信の「侵害関連通信」該当性)について
(1)
法5条2項は、侵害情報の発信者を特定するために必要な範囲内にあるログイン時の通信等の「侵害関連通信」に係る発信者情報の開示を認めており、規則5条は、「侵害関連通信」について、法5条3項に規定する侵害情報の送信と「相当の関連性」を有するものとする旨規定する。これは、被害者の権利回復を実現するためには、侵害者の発信者情報を得る必要性がある一方で、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に関わる情報であって正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これが一旦開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、「侵害関連通信」に該当するものの範囲を侵害情報の送信と相当の関連性があるものに限定したものと解される。
しかるところ、侵害情報の送信に最も近接した時間に行われたログイン時の通信に係る発信者情報は、侵害情報の発信者を特定するための必要な範囲にあり、かつ、通常、侵害情報の送信と相当の関連性を有する蓋然性が高いものということができるものの、法及び規則の各文言上、法5条2項所定の「侵害関連通信」がこれに限られていると解することはできない。すなわち、規則5条柱書の「相当の関連性」の有無については、当該ログインと、侵害情報の送信との間の関連性が推認される程度を検討した上で、被害者の権利回復の必要性と発信者が被る不利益を総合考慮して判断するほかはない。
(2)
本件についてみると、本件投稿がされた令和4年8月31日午後10時3分と最も時間的に近接する本件アカウントへのログイン時の通信は、同年9月1日午5 前0時13分にされた本件直後ログイン時通信であって、同年8月31日午前8時2分にされた本件直前ログイン時通信ではない。しかし、本件直後ログイン時通信については、同時刻に複数の記録があることから契約者(発信者)を特定することはできないことが認められる。
このような場合において、侵害情報の通信に最も近接したログイン時の通信ではないことのみを理由として、侵害情報の通信に次に近接したログイン時の通信である本件直前ログイン時通信に「相当の関連性」があることを一律に否定し、本件直前ログイン時通信に係る情報を一切開示することができないと解すると、被害者の被害回復を達成することはできないことになる。
そもそも、本件において、本件直後ログイン時通信は侵害情報の送信よりも後にされたものであるから、侵害情報の送信は、当該ログインによる本件サイトの利用時にされたものではないことが明らかであるのに対し、本件直前ログイン時通信については、当該ログインの後、同じ日に侵害情報の送信がされているから、侵害情報の送信は、当該ログインによる本件サイトの利用時にされたものである可能性が十分にある。そうすると、本件直前ログイン時通信は、侵害情報の送信と関連性を有する蓋然性が、本件直後ログイン時通信よりもむしろ高いと考えられるのであるから、被害回復のため、これを開示することにしたとしても、発信者に対し規則5条において想定されている以上の不利益を与えることになるとは認められない。
なお、原告は、逐条解説を引用し、侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信のみが「侵害情報の送信と相当の関連性を有するもの」に該当すると解すべきである旨主張する。しかし、規則5条各号は、いずれも「侵害情報の発信者」が行った送信をもって、侵害関連通信としている。本件直後ログイン時通信は、その発信者を特定することができないのであるから、「侵害情報の発信者」が行った送信であるとは認められず、侵害情報の送信と相当の関連性があるとも認めることはできないはずである。すなわち、本件において、侵害情報の発信者が行った送信として侵害情報の送信と最も時間的に近接する通信は、本件直前ログイン時通信であると認められるから、本件直前ログイン時通信をもって本件における侵害関連通信であると認めることは、原告の引用する逐条解説の考え方と矛盾するものではない。
したがって、本件において、本件直前ログイン時通信が「侵害関連通信」に当たると認めるのが相当である。
4 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(略)
5 結論
以上の次第で、本件決定を認可した原判決は相当であって、本件控訴には理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。