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著作権判例セレクション

【コンテンツ契約紛争事例】企業ブランドコンサルティング業務委託契約

▶令和2127日大阪地方裁判所[平成29()12572]令和3121日大阪高等裁判所[令和2()597]
() 本件は,ビジュアル・アイデンティティ(VI:企業や商品のイメージを統一して,字体,色及びマークなどの視覚的なものによって,そのイメージを統一し,もって,企業や商品に対する認知度や好感度を高め,他企業との差別化を図るもの)の制作等を目的とする株式会社である原告が,被告並びに被告が後に吸収合併してその権利義務を承継したナカシマエナジー及び播磨喜水からの依頼を受けて制作,納品した制作物に関して,被告に対し,未払報酬支払,著作権侵害による損害賠償等の請求をした事案である。

5 原告制作物1及び5に係る請求について(争点1-2)
(1) 原告制作物1
ア 原告制作物1は,原告レシピブック1を構成する料理の1つを撮影した写真であるところ,これは,播磨喜水関連業務委託契約書2の目的とされている成果物のいずれにも該当しない。また,原告制作物1の制作に当たっては,播磨喜水から原告に対し,その対価が,播磨喜水業務委託契約2所定の報酬とは別個に,播磨喜水から原告に対して対価が支払われている。したがって,原告制作物1の制作については,播磨喜水関連業務委託契約2は適用されないと解される。原告は,播磨喜水関連業務委託契約2は基本契約の性質を有し,原告制作物1にも適用されると主張する。しかし,上記のとおり,この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約において,その成果物の著作権の帰属に関する明示的な合意の存在は認められない。
そこで,当事者の合理的な意思を解釈するに,播磨喜水は,原告に対し,播磨喜水のブランドイメージの向上及びレシピ情報の提供と組み合わせた取扱商品の紹介等を通じた販売促進等を企図して原告レシピブック1の制作を依頼したものと理解される。原告レシピブック1を構成する画像データ及び文章等は,直接的には原告レシピブック1に用いられるものであるとはいえ,その後の播磨喜水の事業遂行に当たり,その統一性ないし継続性の観点から,原告レシピブック1の内容と整合する形で,同社のブランドイメージの形成,向上や販売促進活動が行われることは,播磨喜水はもちろん,原告も当然想定していたものと見るのが合理的である。また,こうしたその後の事業遂行に当たり,著作権との関係から,原告レシピブック1を構成する画像データ等の利用に先立ち個別的に原告の許諾を要することとすることは,事業活動の機動性及び円滑性等の観点から,合理的とは思われない。もっとも,このような観点からは,委託者である播磨喜水が成果物の著作権を有するまでの必要はなく,当該著作権は原告に留保し,播磨喜水によるその利用につき原告の許諾があれば,所期の目的は達成される。
他方,原告レシピブック1の性質上,原告レシピブック1又はこれを構成する原告制作物1等のデータ等を原告が自ら利用したり,第三者に利用を許諾したりすることは,およそ想定されていないと考えられる。
そうすると,原告レシピブック1のデザイン制作委託契約においては,明示的な合意はないものの,その成果物の著作権は受託者である原告に留保しつつ,委託者である播磨喜水が,自身の商品の宣伝広告,販促物又は広報資料としてその成果物を構成する画像データ等を複製,利用することにつき,これに必要な範囲での利用を許諾する旨の合意が黙示的に存在すると考えるのが当事者の合理的意思に沿うというべきである。
ウ これに対し,原告は,播磨喜水が,播磨喜水関連原告制作物の利用に際して事前に原告の許諾を得ようとしていたことや,原告が,改変困難な形で,播磨喜水に対し播磨喜水関連原告制作物のデータを入稿していたことを指摘して,上記のごとき黙示の合意も存在していなかったと主張する。
しかし,例えば(証拠)のやり取りを見ると,播磨喜水が,「注文を受けた商品に,案内欲しいというご要望があるので,冊子が出来るまではとりあえずはこの2枚を少し改良して箱の中に封筒に入れて送ればどうかと思います。」,「どうですか?」と問い合わせをしたのに対し,原告は,「はい。ご案内あった方が良いと思いますので,そうしてください。」と応答している。これは,播磨喜水が,播磨喜水関連原告制作物を原告が納品した際の直接的明示的な用途以外の用途に利用することについて許諾を得ようとしたやり取りというより,顧客対応に関するアドバイスを播磨喜水が求め,原告がこれに応じたもの,すなわちコンサルティング業務の一環として理解するのが相当である。(証拠)に見られる原告と播磨喜水とのやり取りについても,同様に理解される。これらの事情に加え,播磨喜水関連業務委託契約1に基づき原告と播磨喜水とがブランドコンサルティングを目的とする継続的な契約関係にあったことを考慮すると,播磨喜水関連原告制作物の利用に当たり,播磨喜水が原告に対しその意向を確認していたことをもって,上記認定に係る黙示の合意がなかったことを示す事情とはいえない。
また,入稿した播磨喜水関連原告制作物のデータが改変困難な形式であったとしても,証拠及び弁論の全趣旨によれば,そのようなデータ形式はいわゆる文字化けを防ぐ趣旨で利用されるものと位置付けられていること,データの改変等がおよそ不可能というわけではないことが認められることから,そのような事情をもって,上記認定のかかる黙示の合意がなかったことを示す事情とは必ずしもいえない。
以上の事情その他原告が指摘する事情を考慮しても,なお上記黙示の合意の存在を認めるのが当事者の合理的意思にかなうというべきであるから,この点に関する原告の主張は採用できない。
エ 原告レシピブック1は,「2016 SUMMER」との記載から,平成28年の夏期における播磨喜水の販促活動に使用されるものであるところ,被告制作物1は,「2017 SUNNER」,「きちんと,夏のご挨拶」などといった記載のあるお中元用チラシに掲載されたものであるから,平成29年の夏期における播磨喜水の販促活動に使用されるものといえる。原告制作物1と被告制作物1の具体的な使用態様を比較しても,後者においては,その配置との関係で,原告制作物1の一部が欠けているものの,その点を除き改変が加えられた点は見当たらない。
そうすると,被告制作物1は,播磨喜水が,自身の商品の宣伝広告,販促物又は広報資料として原告制作物1を,これに必要な範囲で利用したものということができる。したがって,その利用については,著作権者である原告による利用許諾の範囲内にあるものということができる。
以上より,お中元用チラシ(フェイスブック及びウェブサイトへアップロードされたものを含む)における被告制作物1の利用は,原告制作物1に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物1に係る請求については,いずれも理由がない。
(2) 原告制作物5について
ア 原告制作物5-1は,商品POPを構成する写真及び文章であり,原告制作物5-2は,商品カタログを構成する写真及び文章であるところ,これらはいずれも,播磨喜水関連業務委託契約書2で対象とされているものには該当しない。また,その制作については,いずれも,播磨喜水から原告に対し,その対価が,播磨喜水関連業務委託契約2で定められている報酬とは別個に支払われている。
これらの点に鑑みると,原告制作物5については,播磨喜水関連業務委託契約書2の適用はないと解される。これに反する原告の主張は採用できない。
イ また,原告制作物1に係るデザイン制作委託契約の場合と同様に,原告制作物5に係るデザイン制作委託契約においても,前記(1)アと同趣旨の黙示の合意が存在するものと解するのが合理的であり,これに反する原告の主張は採用できない。
ウ 被告制作物5は,いずれも,播磨喜水の姫路店以外の店舗で使用された商品POPであり,販売促進活動に用いられるものであることは明らかである。また,播磨喜水は,原告制作物5の写真及び文章自体には改変を加えることなく,これらを組み合わせて被告制作物5を制作し,これを陳列したものであり,販売促進という目的に必要な範囲を逸脱するような態様ではない。
そうすると,被告制作物5は,播磨喜水が,自身の商品の宣伝広告,販促物又は広報資料として原告制作物5を,これに必要な範囲で利用したものということができる。したがって,その利用については,著作権者である原告による利用許諾の範囲内にあるものということができる。
以上より,被告制作物5の利用は,原告制作物5に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物5に係る請求については,いずれも理由がない。
6 争点2-2について
(1) 原告制作物6~12がナカシマ関連業務委託契約2に基づき制作されたものであることは,当事者間に争いがない。したがって,原告制作物6~12については,ナカシマ関連業務委託契約2に基づき,その著作権は原告に帰属する。
(2) ナカシマ関連業務委託契約2では,当該契約に基づく成果物である著作物については,原告と被告が合意の上での変更修正以外は,被告又は第三者による変更修正はできないとされる一方で,当該契約以外にこれを使用しようとする場合は,原告と被告が協議した上でその使用につき検討することとされている。【このように,ナカシマ関連業務委託契約2は,被控訴人が納品されたデザイン制作物を当該契約において使用することができる範囲や態様についての明示の規定を設けていないということができる。】
「コーポレートアイデンティティにおけるVIデザインの企画及びデザイン制作業務」を内容とする当該契約における「使用」の具体的な意味に関する定義はないものの,当該契約に基づき制作される成果物は「シンボルマーク」等であり,いずれも,その性質上,被告の事業遂行における様々な局面で,様々な媒体において使用されるものであるから,宣伝広告,採用活動を含む被告の事業全般のために幅広く使用されることが当然想定されるものである。そうすると,当該契約による「使用」とは,被告の営む事業全般における使用を意味するものと解される。このように理解することは,事業活動における機動性及び円滑性の要請にもかなう。
また,「変更修正」に関しては,原告が契約書の文案作成に当たり参照したという公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会作成に係るデザイン制作契約約款において,「依頼者は,使用目的…の範囲内で,制作物をその種類・性質等に応じ排他的に複製使用することができます。」との【規定が置かれており,そのような利用許諾がデザイン制作委託契約において一般的に想定されているといえることや,著作権法上の『複製』の意義からしても,特段の定義を定めないナカシマ関連業務委託契約2の6条5項にいう『変更修正』は,同一性を損なわない軽微な変更修正を除き】著作権法上の「複製」といえる程度を超える改変を意味すると解される。
そうすると,ナカシマ関連業務委託契約2においても,原告が著作権を有するその成果物の被告による利用につき,明示的ないし直接的には定められてはいないものの,委託者である被告が,自身の宣伝広告,採用活動その他【事業遂行に必要な範囲で,その成果物を複製,利用することを許諾する】旨の合意が黙示的に存在するものと解するのが相当である。これに反する原告の主張は,前記5(1)イと同様に,採用することができない。
(3) 個別的検討
ア 原告制作物6
原告制作物6は,被告のロゴマークとして制作されたものである。他方,被告制作物6-1は,営業ツールやウェブサイト等で使用されているから,被告の事業に使用されたものと認められる。また,被告制作物6-1は,原告制作物6の形状はそのままに,これに「N-WAVE」というロゴタイプを付加して創作性を有しない程度の変更を加えただけであり,「複製」といえる程度を超える改変に至らないものである。したがって,被告制作物6-1における原告制作物6の利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
また,被告制作物6-2は,被告パンフレットの表紙に使用するロゴマークとして制作され,使用されたものであり,被告の事業に使用されたものと認められる。
また,被告制作物6-2は,原告制作物6の形状はそのままに,その輪郭の内部に複数の子供の顔写真をはめ込んだものであるところ,【控訴人は,原告制作物6について利用に関するガイドラインを交付したから,これに違反する利用行為の一切は著作権侵害であり,被告制作物6-2もこれに該当する旨主張する。しかし,上記ガイドラインは,最小使用サイズを規定した上で,シンボルマークのバリエーションを提示したものであり,そこに記載された色彩等を含む形態での利用以外を一切禁ずる趣旨を読み取ることは困難である。控訴人が,上記ガイドラインを上記主張の趣旨を明示して被控訴人に交付されたことを認めるに足りる的確な証拠もない。むしろ,控訴人が上記ガイドラインを交付したことにより,原告制作物6の一定程度の改変を許諾していたと認めることが可能である。】
そうすると,被告制作物6-2における原告制作物6の利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上によれば,被告制作物6-1及び6-2の制作,利用は,原告制作物6に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物6に係る請求については,いずれも理由がない。
イ 原告制作物7
原告制作物7は,被告の事業内容を分かりやすく説明するために制作された被告の事業領域図であるところ,被告制作物7は,被告ポスター1の制作に当たって,原告制作物7を何ら改変することなく複製したものと認められる。また,被告ポスター1は,リクルート会場で使用されているから,被告の事業に使用されたものと認められる。
そうすると,被告制作物7の制作,利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上より,被告制作物7の制作,利用は,原告制作物7に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物7に係る請求については,いずれも理由がない。
ウ 原告制作物8
原告制作物8は,被告の事業内容を分かりやすく説明するために制作された事業領域図等や写真及び文章であるところ,被告制作物8は,被告パンフレットの制作に当たって,「3つの事業領域」部分の3枚の写真のうち1枚を原告制作物8のものと入れ替えるとともに,原告制作物8を構成する要素の配置を変更した点を除くと,原告制作物8のデータをそのまま使用していることが認められる。また,上記変更部分については創作性を付加したものといい難い(原告も,翻案権侵害を主張する一方で,このような改変は創作性を有しない旨を主張する。)。また,被告パンフレットは採用活動の際の資料として使用されることが想定されており,被告の事業に使用されたものと認められる。
そうすると,被告制作物8の制作,利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上より,被告制作物8の制作,利用は,原告制作物8に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物8に係る請求については,いずれも理由がない。
エ 原告制作物9
原告制作物9は,被告の事業内容を宣伝広告するために制作された事業領域図のプロトタイプ(原告制作物9-1)や写真及び文章(原告制作物9-2)であるところ,被告制作物9は,被告の宣伝広告の一環として,原告制作物9を何ら改変することなく被告のウェブサイト及びフェイスブックにアップロードしたものである。
そうすると,被告制作物9の制作,利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上より,被告制作物9の制作,利用は,原告制作物9に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物9に係る請求については,いずれも理由がない。
オ 原告制作物10
原告制作物10は,原告制作会社案内の制作に当たり,被告のブランドイメージに沿う写真として制作,【使用されたものであり,それ自体が利用許諾の対象となるひとつの成果物ということができる。】。他方,被告制作物10は,椅子用カバー及び被告ポスター2に使用され,リクルート会場に設置されたものであるから,被告の事業に使用されていると認められる。また,被告制作物10は,原告制作物10を複製したものである。
そうすると,被告制作物10の制作,利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上より,被告制作物10の制作,利用は,原告制作物10に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物10に係る請求については,いずれも理由がない。
カ 原告制作物11は,被告のCIないし事業理念を伝えるものとして制作されたポスターであり,原告が業界の展覧会に出品した後,被告に交付したものである。
他方,被告ポスター2である被告制作物11は,被告の事業理念を伝えるポスターとしてリクルート会場に展示されたものであるから,被告の事業に使用されたものと認められる。さらに,被告制作物11は,原告制作物11を何ら改変することなく複製したものである。
そうすると,被告制作物11の制作,利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上より,被告制作物11の制作,利用は,原告制作物11に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
よって,原告制作物11に係る請求については,いずれも理由がない。
キ 原告制作物12は,被告のCIの社内発表用の映像であるところ,被告制作物12は,被告の事業内容を伝える動画として,原告制作物12を何ら改変することなく,自社ウェブサイト及び動画共有サイトにアップロードされたものである。
そうすると,被告制作物12の制作,利用は,ナカシマ関連業務委託契約2に基づく利用許諾の範囲内である。
以上より,被告制作物12の制作,利用は,原告制作物12に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用できない。
なお,原告制作物12は前記のとおり被控訴人の事業全般に幅広く使用することを想定されたVIデザイン制作の一環としての成果物であり,CIデザインの社内発表用として発注,制作されたことは,被控訴人において当該社内発表の機会以外に一切使用できないことを当然に意味するものとは解されない。被控訴人が,その事業内容を伝える動画として自社ウェブサイト等にアップロードしたことは,その使用態様に照らし,原告制作物12の制作の意図や趣旨と反するものとは解されない。
よって,原告制作物12に係る請求については,いずれも理由がない。
7 争点3
(1) 原告パッケージデザイン1-1及び1-2について
ア 原告と播磨喜水との合意内容について
前記4で認定した交渉経過に鑑みると,原告と播磨喜水は,原告パッケージデザイン1-1及び1-2について,単価70円,各1万個により合計140万円とし,後に追加印刷があった場合は,発注累計個数に応じた定まる単価に従って追加代金が決まるという合意をしたものということができる。
これに対し,原告は,播磨喜水との間では,播磨喜水が追加印刷を継続的に行わない場合には,140万円ではなく追加印刷を前提としない本来のデザイン料の料金体系に従って算出した615万8000円を代金とする旨の合意があったと主張する。
しかし,これを明示的に裏付ける記載のある書面は存在しない。また,いったん原告主張に係るデザイン料の料金体系に従って原告が見積書を提出したからといって,その後の交渉経過においてもその内容が黙示的に前提とされることには当然にはならないし,当事者の意思をそのように解すべき合理性もない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
イ 商法512条の適用について
上記のとおり,原告と播磨喜水との間には,単価70円,各1万個により合計140万円とし,後に追加印刷があった場合は,発注累計個数に応じた定まる単価に従って追加代金が決まるという合意がある。そうである以上,原告パッケージデザイン1-1及び1-2につき,商法512条の適用はない。この点に関する原告の主張は採用できない。
ウ 小括
以上によれば,被告に原告パッケージデザイン1-1及び1-2に係る未払報酬はないから,原告の未払報酬支払請求には理由がない。また,原告の原告パッケージデザイン1-1及び1-2の差止等請求については,被告に原告パッケージデザイン1-1及び1-2に係る未払報酬があることを前提とするものであるから,前提を欠くものであり,理由がない。
(2) その余の原告各パッケージデザインについて
前記4で認定した交渉経過に鑑みると,原告と播磨喜水は,その余の原告各パッケージデザインについても,原告パッケージデザイン1-1及び1-2と同様の考え方により報酬額が定まる契約を締結したものと認められる。そうである以上,上記(1)と同じく,原告と播磨喜水とは,播磨喜水が追加印刷を継続的に行わない場合には,追加印刷を前提としない本来のデザイン料の料金体系に従って算出された代金を支払う旨の合意はなく,また,商法512条の適用もない。
以上によれば,被告にその余の原告各パッケージデザインに係る未払報酬はないから,原告の未払報酬支払請求には理由がない。また,原告のその余の原告パッケージデザインの差止等請求については,被告にその余の原告各パッケージデザインに係る未払報酬があることを前提とするものであるから,前提を欠くものであり,理由がない。
したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
第5 結論
よって,原告の各請求はいずれも理由がないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。

[控訴審]
2 播磨喜水関連原告制作物及びナカシマ関連原告制作物に関する著作権侵害に係る請求について(争点1,2)
当裁判所も,原告制作物2から4までに関する著作権侵害の事実は認められず,被告制作物5から12までの制作は原告制作物5から12までに関する利用許諾の範囲内の利用である(ただし,原告制作物5-2については著作物性が認められない。)と解するが,原審と一部異なり,被告制作物1は控訴人の写真の著作物である原告制作物1に関する著作権(複製権)を侵害するものであって,これによる損害賠償請求は一部理由があり,その余の請求(残部の損害賠償請求,差止請求及び廃棄・回収請求)は,いずれも理由がないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
()
5 原告制作物1に関する請求について
(1) 原告制作物1に関する著作権について(争点1-1)
原告制作物1は,平成28年6月ころ,控訴人と播磨喜水とのデザイン制作委託契約の成果物として納品された原告レシピブック1に掲載された料理の1つ(「手延べ麺のカクテル」などと題する料理)を撮影した写真であり,原告レシピブック1を構成する素材である。
その著作物性には当事者間に争いがなく,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告制作物1は,控訴人の取締役であったP2が控訴人の業務として撮影した写真であって,職務著作として控訴人に著作権が帰属すると認められる。
(2) 抗弁1(譲渡又は利用許諾)について(争点1-2)
ア 播磨喜水関連業務委託契約2が基本契約として他のデザイン制作委託契約に適用されるか否かについて
(ア) 原告制作物1を含む原告レシピブック1は,播磨喜水関連契約書2に列挙された成果物のいずれにも該当せず,同契約の直接の対象でないことは当事者間に争いがない。
(イ) 控訴人は,播磨喜水関連業務委託契約2が,控訴人と播磨喜水との間の基本契約であり,個別のデザイン制作委託契約にも適用されると主張する。
しかし,同契約書2の条項中に,基本契約であることを窺わせる規定はない。かえって,控訴人と播磨喜水との個別取引の継続にかかわらず,有効期間を業務委託費の支払完了までに限定した規定を設けており,控訴人は平成27年8月には業務委託費残代金を請求し,同年9月30日までにその支払が完了していることからすると,原告レシピブック1の制作以前に播磨喜水関連業務委託契約2の有効期間は終了していると解される。
これらによれば,同契約2が控訴人とナカシマエナジー又は播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の基本契約として締結されたものとは解されない。
また,播磨喜水関連業務委託契約2は,対象物を社名・商品のネーミング,ロゴマーク,名刺,封筒等,ブランドの核心となる基本的成果物に限定しており,様々な用途や時期に対応して発注,制作される個別のデザイン制作委託契約とは必ずしも成果物の同質性を認められない。したがって,これらの契約内容を同一に解釈すべき合理性は認め難い。控訴人と播磨喜水との間にブランディングのコンサルティング契約(播磨喜水関連業務委託契約1)が締結されていることも,同様に,個別のデザイン制作委託契約の権利関係等を定める根拠となる事情とはいえない。
(ウ) 以上,原告制作物1に関して,播磨喜水関連業務委託契約2が基本契約として適用されるとは認められず,同契約による成果物と同様の権利関係にあるとも認められない。
イ 著作権の譲渡の有無
控訴人は,制作物の著作権が控訴人に帰属することを一貫して主張し,控訴人代表者もその旨供述するところ,播磨喜水ないし被控訴人が控訴人との契約の解消に際して著作権の買取りの話が出た際に著作権を既に取得した旨主張した形跡はない。加えて,後記()のとおり,播磨喜水又は被控訴人において,自身の事業活動に必要な場面で機動性,円滑性をもってデザイン制作委託契約の成果物を使用するためには,著作権の帰属が必要とまではいえず,利用許諾があれば足りる。
これらによれば,控訴人が播磨喜水との間のデザイン制作委託契約に基づき制作した成果物の著作権が被控訴人に譲渡されたと認めることはできず,控訴人に留保されていたものと解される。
そうすると,原告レシピブック1についても同様であったと推認され,原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約において,原告制作物1の著作権が被控訴人に譲渡されたとは認められない。
ウ 黙示の包括的な利用許諾の有無
原告制作物1を含む原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約においては,契約書は作成されておらず,成果物の著作権の帰属や利用に関する明示的な合意は存在しない。また,原告レシピブック1の発注から納品に至る交渉経過等の詳細は明らかでない。
控訴人代表者は,同種の夏用レシピブックにつき,次の夏まで常識的な範囲で増刷することを許諾すると伝えたことがあったとか,レシピブックに掲載された素材等を別の媒体で使うときは連絡があればほぼ快諾しており,追加料金を生じるとは限らないなどと供述している。また,控訴人は,播磨喜水の依頼を受けて,シェフコラボレシピブック等に掲載した写真及びレシピ情報等を用いてレシピカードを制作するなど,一旦納品した成果物の一部を他の制作物に用いることもあったことが認められる。
このように,レシピブック等に掲載した写真や情報が,レシピブック以外の媒体において控訴人に制作を依頼せずに使用されることもありうると解されていたことが窺われるものの,新たな制作物において使用する場合の具体的な権利関係が明確に決められていたとは認め難く,控訴人と播磨喜水との間の個別のデザイン制作委託契約の趣旨,内容等から,控訴人の著作物である原告制作物1に関する利用許諾についての当事者の合理的意思を解釈する必要がある。
原告レシピブック1は,播磨喜水の取扱商品をレシピ情報の提供と組み合わせて紹介することによって,宣伝広告,販売促進に役立て,さらにはブランドイメージの向上を図るものとして,播磨喜水が制作を依頼し,控訴人が制作したものと解される。そして,播磨喜水の事業遂行において,原告レシピブック1の内容と整合する範囲で,その成果物の一部をそのまま使用する場合については,播磨喜水のブランドイメージの形成,向上を企図した宣伝広告や販売促進活動における使用として,播磨喜水はもちろん,控訴人も想定していたとみるのが合理的である。
しかし,被告制作物1は,原告制作物1(成果物である原告レシピブック1の出来上がった料理の写真である。)を「2017 SUMMER」と明記された平成29年夏期用のチラシの背景に使用したものであり,その制作目的は同じとはいえない。
また,控訴人のデザイナーであるP2は,被告制作物1を発見し,平成29年6月6日,P1に対し,LINEを通じて抗議をしており(「事前にご相談がありましたら問題になりませんでしたが,この件は著作物の無断使用になります。困りましたね。」という内容),控訴人は,本件提訴後,これが被控訴人による最初の著作権侵害であると主張し,控訴人代表者もその旨供述している。
これに対し,当時,被控訴人代表者のP1は,控訴人から原告制作物1の使用について,許諾があったという反論をしておらず,むしろ,播磨喜水がチラシ等を作成しようとする都度,ブランディング名目で常に事前相談を求められることについて,不満を有していたことが認められる。
以上によると,前述したとおり,播磨喜水において,その事業活動の一環として,控訴人が制作した成果物又はその一部をその作成目的に従って,そのまま別の機会に利用する場合はともかく,成果物を構成する素材である原告制作物1(写真)を,事前の許諾を得ずにこれを異なる目的で利用することまで許諾していたと認めることはできない。
エ 抗弁1についてのまとめ
被控訴人による被告制作物1の制作は,控訴人の利用許諾を得ずに原告制作物1をそのまま,制作目的の異なる制作物の背景に印刷し,これを複製するものであって,原告制作物1の著作権を侵害する行為であると認められる。
(3) 抗弁2(権利の濫用)について(争点1-3)
以上に述べたところに照らせば,被告制作物1は,本来の用途に従い,一般的に想定される利用態様の範囲内で原告制作物1を利用したものとは評価できず,また,このような利用態様が制約されたからといって,播磨喜水の事業活動に著しい支障を来すということもできない。
したがって,原告制作物1に関する著作権侵害に基づく控訴人の請求が権利の濫用に当たるとは解されない。
(4) 原告制作物1の著作権侵害に基づく請求について
()
6 原告制作物5に関する請求について
(1) 原告制作物5に関する著作権について(争点1-1)
原告制作物5-1(原告POPの写真及び文章)は,平成27年10月ころ,控訴人が播磨喜水の依頼を受けて,姫路店オープンに際して店頭用POPとして制作し,その頃納品したものである。
また,原告制作物5-2(原告カタログ2の写真及び文章)は,平成27年11月ころ,控訴人が播磨喜水の依頼を受けて制作し,その頃納品した商品カタログ(三つ折りお歳暮用カタログ)に掲載された素材である。
原告制作物5-1の著作物性は当事者間に争いがない。
そして,証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告制作物5-1の写真はP2が控訴人の業務として撮影したものであり,文章部分を含め,控訴人の職務著作に当たると認めるのが相当である。
原告制作物5-2の著作物性については,いずれも,3種類の商品(播磨喜水の白,黒,赤)を右下角斜め上方から撮影した写真であり,その撮影方法は,商品を紹介する写真としてありふれた表現である。また,これに付された文章及び「●商品カタログ」に記載された文章(原判決記載のもの)の創作性については具体的主張立証がされていないところ,これらは播磨喜水の商品の特性や個別の調理法を紹介したりする内容であるが,それらを説明する表現としては,ありふれたものというべきである。「播磨喜水_白」及び「商品カタログ」の記載において,素麺の原材料である小麦の香りをアロマと例える表現があるが,その例えがあるというだけで,これらの文章に創作性を認めることはできず,原告制作物5-2の著作物性を認めることはできない。
(2) 抗弁1(譲渡又は利用許諾)について(争点1-2)
ア 播磨喜水関連業務委託契約2の適用について
控訴人は,原告POP(原告制作物5-1)は,播磨喜水関連契約書2の別紙に列挙された成果物のうちのVI展開デザインに該当すると主張する。
しかし,前記5(1)アのとおり,播磨喜水関連業務委託契約2については,平成27年9月30日までに業務委託費の支払が完了され,同契約の有効期間が終了したものと解される。また,播磨喜水関連業務委託契約2の対象となるデザイン成果物は同別紙に列挙されており,VI基本デザインとしてロゴマーク,タグラインなどが記載され,VI展開デザインとして「名刺,封筒など,WEBサイトイメージ」と記載されている。そうすると,同契約の対象となるのは,ブランドの核心となる基本的成果物に限定され,当該ブランド自体を表象するものとして長期間にわたり全社的に使用されるものが想定されていると解される。これに対し,原告POPは,姫路店オープンに合わせて制作された店頭用POPであり,その用途並びに成果物の内容をみても,上記のようなブランドの核心となり,ブランド自体を表象するものとして長期間,全社的に使用されるものとは認められない。
そして,証拠によれば,原告POPの制作の対価は,播磨喜水関連業務委託契約2の業務委託費とは別個に支払われているものと認められる。
これらによれば,原告制作物5-1は,播磨喜水関連業務委託契約2とは別個のデザイン制作委託契約に基づくものであり,播磨喜水関連業務委託契約2の定める条項が適用されるものではない。
その他,同契約2が基本契約として適用されるとは認められず,関連契約として解釈上考慮すべきとも認められないことは,前記5(2)アにおいて述べたところと同様である。
イ 抗弁1(譲渡又は利用許諾)について(争点1-2)
原告POPである原告制作物5-1は,播磨喜水のブランドイメージの向上を図り取扱商品を紹介する宣伝広告,販売促進のための物品として,播磨喜水が制作を依頼し,控訴人が制作したものと解される。したがって,原告レシピブック1に係るデザイン制作委託契約と同様,原告制作物5-1に係るデザイン制作委託契約においても,同契約の趣旨に基づき,成果物の目的の範囲内で原告制作物を複製することを許諾する合意が存在すると解するのが合理的であり,これに反する控訴人の主張は採用できない。
ウ 利用許諾の対象該当性
被告制作物5は,原告制作物5-1と同5-2の写真と文章をそのまま,あるいは組み合わせたものであり,姫路店以外の被控訴人の店舗で店頭用POPとして陳列されたものと認められる。これらの写真及び文章は,写真に僅かなトリミングはあるものの,改変なくそのまま写真と文章を組み合わせるなどしてPOPとして制作され店頭に陳列したものと解され,原告制作物5-1のデザイン制作委託契約の成果物である店頭用POPと同じ目的,すなわち,播磨喜水のブランドイメージの形成,向上を企図した宣伝広告や販売促進活動等のため,必要な範囲で複製したものということができる。
そうすると,被告制作物5は,原告制作物5-1に係るデザイン制作委託契約における黙示の利用許諾の範囲内とみるのが相当である。
したがって,原告制作物5-1に対する著作権侵害に当たるとは認められない。
(3) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,原告制作物5に関する著作権侵害に係る請求は,理由がない。
7 原告制作物6から12までに関する著作権侵害に係る請求について
(1) 当裁判所も,被告制作物6から12までを制作等した被控訴人の行為が,原告制作物6から12までに関する著作権を侵害したと認めることができないと判断することは,前述(本判決第3の2)のとおりである。その理由は,次のとおり補正するほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
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(2) 当審における控訴人の補足的主張(2)について
控訴人は,ナカシマ関連業務委託契約2は,ブランディングに関するコンサルティング契約を伴うものであることを理由に,黙示の包括的な利用許諾を合意することはあり得ないと主張するが,控訴人が提供した成果物をそのまま複製して使用する限り,被控訴人のブランド構築のためにブランディング契約を締結したことと矛盾する結果をもたらすわけではなく,上記契約の意義を失わせるものでもない。また,ナカシマ関連業務委託契約2の6条5項にいう「変更修正」の意義については,前記(1)で補正して引用した原判決に記載のとおりである。
(3) 以上によれば,ナカシマ関連原告制作物(原告制作物6~12)に関する著作権侵害に係る請求は,いずれも理由がない。