Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【美術著作物】「大判」の(美術)著作物性を否定した事例

▶昭和451221日大阪地方裁判所[昭和45()3425]
(申請人の大判は著作物に該当するか)
申請人は、その製造にかかる別紙目録(一)記載の大判はいわゆる美術工芸品であり、美術的著作物に該当する旨主張する。
著作物とは思想または感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいうと解すべきである。そして、一回の芸術的活動の成果として止まるものではなく、多量生産を予定している美術工芸品であつても、それが高度の芸術性を備えているときは、著作権の対象となりうる場合があり、申請人の大判も、後述する創作性に関する点を除けば、著作権法にいわゆる美術の範囲に属すると解する余地はあろう。
しかし、申請人の大判は、既に認定したとおり、既に存在した天正菱大判と大きさ、形状共に同一であり、申請人の創作部分は、①天正菱大判の表面中央に書かれている「拾両」の字体を慶長笹大判の「拾両」の字体と差し替えた点、②天正菱大判の上および下にある菱形の枠で囲まれた桐の模様をありふれたものであるが鮮明な桐の模様と差し替えた点、③天正菱大判にはないありふれた桐の模様をその表面両側中間辺に各一個宛書き加えた点のみに過ぎないというべきである。そうすると、全体的にみて、申請人の大判が既存の著作物である天正菱大判の本質部分を基礎とする作品であることは疑いを容れないところであり、既存のものに前記程度の軽微な修正増減を施したからといつて、そのため別個の美術工芸的価値が生ずるに至つたものとは認め難いので、申請人の大判は著作権法第一九条[注:旧著作権法「改作物」についての規定]但書にいう「新著作物と看做さるべきもの」に該当せず、所詮は天正菱大判の模造品の域を出ないものといわねばならない。
従つて、申請人の大判について著作権が成立するものでないことは著作権法第一九条本文の規定に徴して明らかである。