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著作権判例セレクション

【写真著作物】商品の紹介写真(平面的な被写体を忠実に再現しただけの写真)の著作物性を否定した事例

令和5511日大阪地方裁判所[令和3()11472] ▶令和6126日大阪高等裁判所[令和5()1384]
() 本件でその著作物性が問題となった「被告各画像」は、次のとおり:
【被告画像1、2、4ないし8は、それぞれ特定の芸能人ないし芸能人グループの写真集である本件商品1、2、4ないし8の平面的な表紙及び裏表紙(上記芸能人ないし芸能人グループの写真が全面に印刷されている。)を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影しており、被写体となっている写真集の表紙及び裏表紙以外に背景や余白はない。
被告画像3は、63枚の単語カード並びに表紙及び裏表紙のカードの左上穴に金具のリングを通して一つの単語帳となっている本件商品3を、一審被告が撮影したものである。具体的には、被告画像3は、上記金具のリングから取り外した表紙及び裏表紙のカード(いずれもある特定の芸能人を撮影した写真が全面に印刷されている。)を左側に上下に並べ、その右側に一部裏表紙と重なる形で、金具のリングで一体となった残る63枚の単語カードを、一番上になるカード(同カードには、上記と同一の芸能人を撮影した写真が全面に印刷されている。ただし、白い縁取りがある。)の写真だけが全面的に見えるように、金具のリングを要として扇状に広げたものを正面から撮影したものであり、その背景は白である。
被告画像9及び10は、ある特定の芸能人を被写体にした写真を掲載した卓上カレンダーである本件商品9及び10の平面的な表紙及び裏表紙(表紙にはほぼ全面に上記芸能人の写真が印刷され、裏表紙には同芸能人の各写真が掲載された12か月分のカレンダーが印刷されている。)を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影したものであり、被写体となっている卓上カレンダーの表紙及び裏表紙以外に背景や余白はない(なお、表紙の画像にのみカレンダーを綴る上部のリングが映っている。)。】

イ 被告各画像等の著作物性
() 前記(1)アのとおり、被告各画像のうち、写真集又は卓上カレンダーに係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどのようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。被告は、商品の状態が視覚的に伝わるようほぼ真上から撮影し、商品の状態を的確に伝え、需要者の購買意欲を促進するという観点から被告が独自に工夫を凝らしているなどと主張するが、具体的なその工夫の痕跡は看取できない上、撮影の結果として当該各画像に表現されているものは、写真集等という本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎない。
() 単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影した平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであり、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像としてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。
() 以上より、被告各画像は、被告自身の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、著作物とは認められない。

[控訴審(「被告画像3」については著作物性を認定)]
ア 被告各画像の著作物性
() 被告画像1、2及び4ないし10について
写真集及び卓上カレンダーに係る被告画像1、2及び4ないし10は、インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのようなものかを紹介するために、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像であり、上記表紙及び裏表紙以外に背景や余白はないのであって、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、背景等に選択の余地がなく、上記表紙及び裏表紙ひいてはそこに印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現する以外に、その画像の表現自体に何らかの形で撮影者の個性が表れているとは認められないから、上記各被告画像には創作性が認められない。したがって、上記各被告画像は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とはいえず、著作物とは認められないから、一審被告が上記各被告画像について著作権を有するとは認められない。
() 被告画像3について
単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、芸能人を被写体とする写真が印刷された表紙及び裏表紙を金具のリングから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表にして金具のリングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによってその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カードの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによって各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現しており、白い背景によって表紙及び裏表紙の写真等を浮き立たせる効果も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介する際にまま見られるものであったとしても、その被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表れていると認められる。したがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。
() 以上に対し、一審被告は、被告画像1、2及び4ないし10についても、手ブレ補正、露出補正、ホワイトバランス等の細かい調整を行い、光の入り方に気を配って撮影場所にこだわり、複数の写真を撮影してその中の一番良い写真について彩度、色合いを編集するなどの独自の工夫を凝らしている旨主張するが、一審被告が主張するそのような工夫は、商品である写真集ないし卓上カレンダーの表紙及び裏表紙、ひいてはそこに印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現するためのものであって、上記工夫の結果、それらが忠実に再現された各被告画像が得られたとしても、その表現自体に何らかの形で撮影者である一審被告の個性が表れているとは認められない。したがって、上記一審被告の主張は上記()の判断を左右しない。