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著作権判例セレクション

【不正競争防止法】不競法2条1項21号(虚偽の事実の申告)の該当事例(アマゾンに対する著作権侵害の申告が問題となった事例)

▶令和5511日大阪地方裁判所[令和3()11472]▶令和6126日大阪高等裁判所[令和5()1384]
() 本件は、アマゾンの運営するインターネットショッピングサイト(「アマゾンサイト」)上に開設している仮想店舗(「原告サイト」)において商品を販売している原告が、被告に対し、被告がアマゾンに対して原告サイト上に掲載した画像等が被告の著作権を侵害する等の申告をした行為が不正競争防止法2条1項21号の不正競争行為又は不法行為に該当し、当該行為により損害を被ったと主張して、不競法4条又は民法709条に基づき、損害賠償金等の支払を求めた事案である。
(前提事実)
被告の行為等
アマゾンサイトでは、アマゾンサイト上で販売されている商品等に知的財産権を侵害する内容が含まれている場合、当該知的財産権の権利所有者が、アマゾンに対し、権利侵害の申告をすることができる。例えば、権利者は、著作権に関して、出品者が出品する商品並びに商品詳細ページに掲載されている画像及び文章等に権利者の著作物が許諾無く使用されている場合、アマゾンサイトにおいて「ASIN」(識別番号)によって特定される当該出品者の商品詳細ページ全体を著作権侵害として、ASIN単位で権利侵害申告をすることができる。
被告は、遅くとも別紙表の各「出品停止日」欄記載の日までに、10回にわたり、アマゾンサイトのオンラインフォームから、アマゾンに対し、原告サイトに係る別紙表の各「ASIN」欄記載の番号、原告各画像、商品名等を特定し、侵害の種類として著作権侵害を選択した上で、権利侵害の申告(以下別紙表の符号に従い「本件申告1」などといい、併せて「本件各申告」という。)を行った。

1 争点1(本件各申告が虚偽事実の告知又は不法行為に該当するか)について
(1) 被告サイトについて
ア 被告各画像について
【被告画像1、2、4ないし8は、それぞれ特定の芸能人ないし芸能人グループの写真集である本件商品1、2、4ないし8の平面的な表紙及び裏表紙(上記芸能人ないし芸能人グループの写真が全面に印刷されている。)を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影しており、被写体となっている写真集の表紙及び裏表紙以外に背景や余白はない。
被告画像3は、63枚の単語カード並びに表紙及び裏表紙のカードの左上穴に金具のリングを通して一つの単語帳となっている本件商品3を、一審被告が撮影したものである。具体的には、被告画像3は、上記金具のリングから取り外した表紙及び裏表紙のカード(いずれもある特定の芸能人を撮影した写真が全面に印刷されている。)を左側に上下に並べ、その右側に一部裏表紙と重なる形で、金具のリングで一体となった残る63枚の単語カードを、一番上になるカード(同カードには、上記と同一の芸能人を撮影した写真が全面に印刷されている。ただし、白い縁取りがある。)の写真だけが全面的に見えるように、金具のリングを要として扇状に広げたものを正面から撮影したものであり、その背景は白である。
被告画像9及び10は、ある特定の芸能人を被写体にした写真を掲載した卓上カレンダーである本件商品9及び10の平面的な表紙及び裏表紙(表紙にはほぼ全面に上記芸能人の写真が印刷され、裏表紙には同芸能人の各写真が掲載された12か月分のカレンダーが印刷されている。)を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影したものであり、被写体となっている卓上カレンダーの表紙及び裏表紙以外に背景や余白はない(なお、表紙の画像にのみカレンダーを綴る上部のリングが映っている。)。】
被告は、指定役務を写真集の小売又は卸売の業等とする「P2」(標準文字)なる商標(以下「被告商標」という場合がある。)に係る商標権を有しているところ、被告各画像には、「P2」との文字が極小さく掲載されている。
なお、被告は、本件各商品の制作に携わっておらず(争いがない。)、これらの商品自体について何らの権利も有しない。
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(2) 原告サイトについて
ア 原告各画像について
【一審原告は、一審被告によって本件各申告がされた当時、原告サイトに本件各商品の画像として原告画像1ないし9を掲載していた(本件商品10の原告サイトにおける当時の画像の詳細は不明である。)。
原告画像3についての事実認定を補足すると、原告画像3は、一審原告のデザイナーが作成した韓国語の単語帳商品を紹介するための画像テンプレートに、本件商品3の表紙を真正面から撮影した画像を挿入したものである。
上記画像テンプレートは、ピンク色及び緑色を背景として韓国語単語が記載された側を上にして並べられた5枚ほどの個別の単語カードと、その左側に一部同各単語カードの上に重なる状態で、無地の黄色・ピンク色・緑色・水色・オレンジ色の30枚ほどの単語カードが左上穴に通された金具のリングを要として扇状に広げた単語帳とからなり、その背景は白であって、上記単語帳の表紙部分に実際の商品である単語帳の表紙を撮影した画像を挿入する形式となっており、原告画像3には、その表紙の画像以外には本件商品3を撮影した部分はない。原告画像3を立証する証拠は、本件申告3当時の原告サイト上のものではなく、令和3年8月5日にアマゾンによって原告サイトにおける本件商品3が出品停止とされ、その画像も削除された後、これに近接した同月19日に、一審原告が原告ヤフーサイトに出品している本件商品3の画像をスクリーンショットによって保存したものである。
しかし、同画像は上記出品停止に先立つ同年7月27日に一審原告において作成されたものであることは認められるし、販売業者が、同じ商品を複数のインターネットショッピングサイト上で販売する場合に、異なるインターネットショッピングサイトに同じ商品画像を掲載することは何ら不自然ではないこと、そもそも一審原告において上記画像削除前に原告サイトにおける本件商品3の画像を保存することを期待することは困難であったと考えられるのに対し、権利侵害を主張する一審被告においては本件申告3を行うに当たって同画像を保存してもおかしくないと考えられるのに、そのような措置を何らとっていないこと等の事情を併せ考えると、本件申告3当時の原告サイトにおける本件商品3の画像は、一審原告の主張するとおり、一審原告が同じ頃原告ヤフーサイトに出品していた本件商品3の画像(原告画像3)と同一であったと認めるのが相当である。】
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(3) 本件各申告の内容・態様等
ア 被告は、令和3年7月初旬頃、アマゾンに対し、被告サイトの商品ページと原告サイトの商品ページが重複している旨並びに原告サイトにおいて被告サイト上の商品画像、商品名及び商品の説明文が盗用されている旨を申告した。
これに対しアマゾンは、同月11日、被告に対し、知的財産侵害の通知は、アマゾンブランド登録又は侵害通知用のオンラインフォームから送る必要があること、別のアマゾンストアに出品されているASINを報告する場合は、報告対象の ASINが出品されているアマゾンストアにある侵害の通知フォームを利用する必要があること等を教示した上で、いずれかの方法で侵害の通知を再度提出してアマゾンで申立てを処理できるように協力して欲しい旨を連絡した。
イ 被告は、前記アのアマゾンからの連絡を受け、同月17日までに、アマゾンブランド登録又は侵害通知用のオンラインフォームから、本件申告1を行った。
当該ブランド登録又は侵害通知用のオンラインフォームには、「権利侵害を申告する」という表題のほか、「このフォームは、知的財産権の権利者またはその代理人が、知的財産権を侵害されたと思われる場合に、その旨をAmazonに申告するためのものです。その他の規約違反や不正行為を報告するには、お問い合わせを使用してください。」と記載されている。
被告は、本件申告1に際し、「著作権侵害」、「意匠権の侵害」、「特許の侵害」、「商標権侵害」の選択肢のうち「著作権侵害」を選択し、当該フォームの検索機能等を使用して、本件商品1に係る商品詳細ページの ASIN、申告対象とする画像、商品名、商品のブランド名等を選択・記載し、「著作物の登録番号」、「著作権のある商品/著作物を提示するサイトへのリンク」、「著作権があることの説明」のうち、「著作権のある商品/著作物を提示するサイトへのリンク」を選択し、対応する被告サイトのURLを記載したほか、詳細を書き込む欄に、被告が作成したカタログの商品画像、商品名を盗用して、別のカタログを作成している旨を記載した。
【そして、侵害通知フォームには、「以下に入力された連絡先情報は、申告の対象となる相手方に共有されます。」旨付記された上、「問い合わせ先情報」を記入することになっているところ、一審被告は、本件申告1に際し、「問い合わせ先情報」として一審被告の屋号及びEメールアドレスを記載した。また、侵害通知フォーム末尾には、太字で、「「送信」をクリックすることで、以下の内容に同意するものとみなされます。」との注意書がされており、その直下に①「私は、申告した画像や商品が、私または権利所有者の権利を侵害する客観的根拠があり、かつ違法であることを確信しています。」、②「申告者は、本申告に含まれる情報が正しくかつ正確であること、および申告者が、権利者または権利者の代理人であることを表明・保証します。」、③「私は、この申告が受理された場合、ここに含まれる情報が、注文番号を除き、Amazonから申告の対象であるすべての出品者に対して共有される可能性があることを理解しています。」との記載がされているところ、一審被告は、本件申告1に際し、以上を前提としてその直下の「送信」をクリックした。】
ウ アマゾンは、本件申告1を受け、原告サイト上の本件商品1に係る商品詳細ページを削除する等によりその出品を停止し、原告に対し、同日、原告が出品した商品に関連した商品詳細ページについて著作権侵害であるとの報告が届いたこと、該当するASINの番号、出品を再開するためには申告した権利者の著作権を侵害することがないよう商品詳細ページを訂正する必要があること、出品情報が誤って削除されたと思う場合はアマゾンに対して必要書類を提出すること、権利者が誤って通知を送信したと考えられる場合は権利者に連絡して通知取り下げの申請を依頼すること、本件申告1の際に被告がアマゾンに通知した被告のメールアドレス等を通知した。
エ 被告は、遅くとも同月23日までに、アマゾンに対し、概ね本件申告1と同様の方法で、本件申告2を行った。
オ 原告は、同月23日、被告に対し、被告より著作権侵害の申し立てを受けアマゾンサイトにおける商品出品が停止されたこと、原告は韓国の制作会社より正規ルートで輸入し販売していること、どのような点で侵害という判断をしたのか理由を聞きたいこと等を記載したメールを送信した。
カ 被告は、遅くとも同年8月5日から【同月14日】までに、アマゾンに対し、概ね本件申告1と同様の方法で、本件申告3ないし5を行った。
キ 原告は、同月16日、被告に対し、被告から著作権侵害の申し立てを受け改善策を講じているが、どの点について侵害という判断になったのかがわからず困っていること、被告が所有している著作権の題号又は商標を教えて欲しいこと等を記載したメールを送信した。
原告は、本件の訴訟代理人に委任の上、同代理人名義で、同月25日、被告に対し、本件申告1ないし5等について、当該申告に係る商品は、韓国の出版社又はメーカーが作成して販売しているものであり、これらについて被告が著作権を有していないこと、これらの商品をありのまま撮影しただけの商品写真及び当該商品の形状、サイズ又は特徴等を表したにすぎない創作性のない説明文についても被告が著作権を有していないことが明らかであること、被告各画像には「P2」の文字が掲載表示されているが、原告を含む 競業他社が同じ商品をアマゾンサイトで販売するに際して独自に撮影した商品写真を使用する場合、当該商品写真に「P2」の文字を付さない限り被告の商標権の侵害が生じ得ないこと、原告は被告の権利を侵害していないことから速やかに本件申告1から5等に係る申告を取り下げてほしいこと、原告が被告の権利を侵害していないことが明らかになった場合には、被告のアマゾンに対する権利侵害申告は不法行為に該当するとともに不正競争行為(不競法2条1項21号)に該当すると考えられるため、被告の行為によって被った損害の賠償を請求するつもりであること等を記載した通知書(本件通知書)を内容証明郵便にて送付し、被告は同月26日にこれを受領した。
ク 被告は、同月26日又は27日、アマゾンに対し、本件通知書に対する対応を尋ねる旨の問合せを行った。これに対しアマゾンは、同日、被告から権利侵害の報告を受けアマゾンによる調査後商品削除の処理が行われており、被告の対応が適切となっているので安心してほしい旨、相手方に対してアマゾンによる対応方針に沿った対応をするよう案内して欲しい旨、本件に関してアマゾンにて対応できかねる旨等を記載したメールを返信した。
被告は、前記の原告からの各メールに返信をせず、本件通知書を受領した後も、遅くとも同月28日から同年10月24日までの間、概ね本件申告1と同様の方法で、本件申告6ないし10を行った。
ケ 【アマゾンは、本件申告2ないし10についても、本件申告1の場合と同様、一審被告から著作権侵害の申告がされたことを理由として、別紙表の各「出品停止日」に、原告サイト上の本件各商品の出品を停止し、原告各画像を原告サイト上から削除した。一審原告は、これらに対し、】遅くとも別紙表の各「出品再開日」までにアマゾンに対する再開の申立て等を行い、当該各日までに原告サイト上の出品が再開された。
(4) 検討
ア 本件各申告の趣旨等
本件各申告の内容及び態様並びにこれに対するアマゾンの対応(前記(3))に照らせば、被告は、アマゾンに対して、原告サイト上の原告各画像及び商品名が、被告サイト上の被告各画像及び商品名を盗用したものであること、及び当該行為が著作権侵害に該当することを理由として、権利侵害の申告(本件各申告)をしたと認められる。
イ 被告各画像等の著作物性
() 前記(1)アのとおり、被告各画像のうち、写真集又は卓上カレンダーに係る画像である被告画像1、2及び4ないし10は、販売する商品がどのようなものかを紹介するために、平面的な商品を、できるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体の画像である。被告は、商品の状態が視覚的に伝わるようほぼ真上から撮影し、商品の状態を的確に伝え、需要者の購買意欲を促進するという観点から被告が独自に工夫を凝らしているなどと主張するが、具体的なその工夫の痕跡は看取できない上、撮影の結果として当該各画像に表現されているものは、写真集等という本件各商品の性質や、正確に商品の態様を購入希望者に伝達するという役割に照らして、商品の写真自体(ないしそれ自体は別途著作物である写真集のコンテンツとしての写真)をより忠実に反映・再現したものにすぎない。
() 単語帳に係る画像である被告画像3は、前記同様に商品をできるだけ忠実に再現することを目的として正面から撮影された商品全体を撮影した平面的な画像2点と、扇型に広げた商品の画像1点を配置したものであり、当該配置・構図・カメラアングル等は同種の商品を紹介する画像としてありふれたものであるといえ、被告独自のものとはいえない。
() 以上より、被告各画像は、被告自身の思想又は感情を創作的に表現したものとはいえず、著作物とは認められない。
() また、商品名については、前記(1)イのとおり、いずれも商品自体に付された商品名をそのまま使用するか、欧文字をカタカナ表記に変更したり、大文字表記を小文字表記にしたり、単に商品の内容を一般的に説明したにとどまるありふれたものであって、著作物とは認められない。
そのほか、被告は、本件各申告には被告サイト上の商品の説明文に関する著作権侵害も含まれるかのように主張するが、具体性を欠く上、その説明が創作性を有するとは想定できず、失当である。
ウ 被告各画像等の使用の事実の有無
() 前記イのとおり、被告各画像等についていずれも著作物とは認められない以上、仮に原告が原告サイトにおいて被告各画像等を使用したとしても、著作権侵害は成立しない。
その点を措くとしても、原告が、アマゾンから出品停止の連絡を受けた後、被告に対して2度にわたり原告サイトについて著作権侵害と判断した理由等を尋ねる旨のメールを送信するとともに、原告訴訟代理人に委任の上で本件通知書を送付していること、本件通知書には、原告を含む競業他社が同一商品を独自に撮影した商品写真を使用する場合には被告商標を付さない限り被告の商標権を侵害しない旨記載されていること、少なくとも本件商品2、6及び8ないし10の商品名は原告サイトと被告サイトとで異なること、そのほか原告各画像が被告各画像それ自体であることを的確に示す証拠が存しないこと等の事情に照らせば、原告が原告サイトに掲載していた原告各画像は、被告各画像を盗用したものではなかったと認めるのが相当である。
() 被告は、アマゾンが本件各申告を受けて出品を停止したこと及び被告からの問合せに対してアマゾンが被告の申告が適切であったと回答していること等から、原告が被告各画像を盗用していた事実が強く推認されると主張するが、アマゾンにおいて権利侵害申告がどのように処理されているかは不明であって、前記認定を左右しない。
エ 被告の故意過失・違法性
前記(1)ア及びイのとおり、被告は、アマゾンから、権利侵害の申告に係る手続について、知的財産権の侵害を理由とする場合の通知方法、ASINの重複を理由とする場合の通知方法及びそれぞれ個別に申告することが必要であるとのメールを受信し、自ら ASINの重複を申告する方法ではなく知的財産権の侵害を理由とする場合の方法を選択し、申告に係る原告各画像等を特定し、「著作権侵害」の項目を選択の上で本件各申告を行っている。このような被告の行動に照らせば、被告は、アマゾンに対して自ら積極的に著作権侵害の虚偽事実を申告したといえ、被告が本件各申告をするにつき、少なくとも過失が認められ、本件各申告は違法である。
被告は、権利行使の一貫として本件各申告を行い、やむを得ず著作権侵害という選択肢を選んだにすぎないこと、著作物性の判断を正確に行った上で申告することが求められるとすれば権利行使を不必要に萎縮させる等と主張するが、被告に本件各商品に関する知的所有権がないことは自明である上、原告からの問合せに対応することなく本件各申告を続けたとの事実関係のもとでは、採用の限りでない。
オ 小括
以上のとおり、本件各申告は、原告各画像が被告各画像等を無断で使用していることを理由とする原告による著作権侵害をアマゾンに伝える趣旨の権利侵害の申告である一方、被告各画像について被告が著作権を有さず、また原告が被告各画像を無断で使用したとも言えないことから、その内容は、いずれも、被告と競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を申告する行為であり、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当するといえる。また、被告には少なくとも過失が認められる。
なお、被告は、本件各申告が単に画像の盗用の事実のみを申告するものであり、著作権侵害の事実を申告するものではないことから「虚偽の事実」を申告したとはいえないと主張する。しかし、本件各申告の趣旨が著作権侵害の申告であると認められることは前記アのとおりであり、この点を措くとしても、原告が被告各画像を無断で使用、すなわち盗用したとは言えず、当該事実(盗用)の告知の点のみをもっても、被告の申告行為は、原告の営業上の信用を害する虚偽事実の告知であるといえることに変わりはない。よって、この点に係る被告の主張は採用できない。
2 争点2(原告の損害の有無及びその額)について
(1) 逸失利益について
ア 平均販売個数及び販売価格
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各申告により本件各商品の出品が停止されるまでの原告サイトにおける直近3ヶ月の各販売個数は、別紙表の「販売実績(個数)」欄のうち「3か月前」から「1か月前」の欄に各記載のとおりであり、販売価格(税込)は、同表の各「販売価格(税込)」欄記載のとおりと認められる。当該販売実績に基づく一月当たりの平均販売個数(ただし小数点第3位以下切り捨て。)は、同表の各「月平均」欄記載のとおりである。
イ 経費
証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告における本件各商品の仕入れ値は別紙表の各「仕入れ値」欄記載のとおりであること、原告サイトにおいて商品が販売される場合、アマゾンに対する手数料として販売価格(税込)の10パーセントに相当する額及びその消費税(10パーセント)を原告が負担すること、運送費の単価(税込)が通常209円であることが認められる。これに対し、輸入に際しての運送費、輸入消費税及び通関料等の費用については、原告が本件各商品と他の商品を国外から同時に複数輸入していると認められること、少額免税等の余地があり得ること等を踏まえると、本件においては経費として控除するのは相当でない。
以上より、本件各商品1つ当たりの利益は、別紙表の各「利益」欄記載のとおりと認めるのが相当である。
ウ 販売機会喪失による損害額
前記ア及びイを踏まえると、本件各申告により出品が停止されたことによる原告の販売機会喪失による損害(逸失利益)の額は、商品ごとに、月平均販売個数を日割りにし、これに各出品停止期間及び利益額を乗じた額とするのが相当である。例えば、本件商品1については、次の計算式のとおりとなる(ただし1円未満切り捨て。)。
(計算式:月平均販売個数45.33個÷31日×停止期間33日×利益687円=3万3150円)
【本件商品2については、出品停止直前3か月間の販売実績が零個であるが、一審被告の本件申告2による出品停止期間が91日間の長期に及んでいること及び本件商品2の内容に照らせば、上記出品停止がなければ上記期間中に少なくとも1個は同商品が販売できた高度の蓋然性が認められるというべきであるから、本件申告2によって、一審原告は、本件商品2の1個当たりの利益相当額である687円の逸失利益の損害を被ったと認められる。一方、本件商品8についても、出品停止直前3か月間の販売実績が零個であるところ、同商品については一審被告の本件申告8による出品停止期間がわずか1日間であることから、出品停止による逸失利益の損害は零円とするのが相当である。】また、原告は、本件各申告により出品が停止された延べ日数に、月平均販売個数の平均値及び平均粗利を乗じた額を採用するべきであると主張するが、出品の停止による損害は、商品ごとに個別に発生するものであるから、当該主張は採用できない。
【なお、一審原告は、原告サイトの一部商品について出品停止が解消されても、出品停止が全面的に解消されない限り、出品停止が解消された商品の販売に影響が及ぶことは否定できないことを損害額の算定に斟酌すべきように主張するが、出品停止中の商品があることが、その余の商品の販売にどのように影響したのかについての具体的な主張・立証がされていないから、一審原告の上記主張を採用することはできない。】
以上より、逸失利益の合計は、【4万8179円】となる。
(2) 対応人件費
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件各申告を受けて、原告においては、その従業員が、被告への問合せのメール及びアマゾンに対する商品出品再開の申立て等の作業を行ったことが認められる。もっとも、証拠上表れる作業内容等を踏まえると、当該従業員が、通常の業務の範囲を超えてこれらの作業等に従事したこと及びそれにより原告における当該従業員に対する給与支払額等が現実に増加した等の事実は認められない。
したがって、本件各申告により原告に対応人件費相当の損害が発生したとは認められない。
(3) 弁護士費用
本件に係る一切の事情を考慮して、本件の弁護士費用相当額は5000円と認めるのが相当である。
(4) 過失相殺
被告は、原告がアマゾンによる出品停止に異議を述べることなくこれに従っていること、及び本件商品1から3及び5について、出品停止期間が5日を超える部分の損害については、原告がアマゾンに対する対応を放置したことによるものであることを指摘して、原告に過失が認められると主張する。しかし、前記1(3)のとおりの本件各申告の経緯及びこれに対する原告の対応等に照らせば、原告に被告が主張するような過失があるとは認められない。
(5) まとめ
以上より、原告には、【不正競争行為である本件各申告により、前記(1)及び(3)の合計額である5万3179円の損害が生じたものと認められる。なお、本件各申告が不法行為に該当するとしても、それによる一審原告の損害は同額を上回るものではない。】
3 争点3(原告の本訴提起の態様等が不法行為となるか)について
被告は、請求額減縮前の本件訴訟提起により、被告が精神的損害及び弁護士費用相当額の損害を受けた旨主張するが、本訴請求は一部理由があり不法行為に該当する余地はないところ、当初請求した損害の想定が異なったとしても、訴訟係属中に請求を減縮している等の本件の事情に照らすと、これが独立して違法となるものとは考え難い。
したがって、原告の本訴提起の経緯が不法行為に当たることを前提とする被告の相殺の主張は、理由がない。

[控訴審]
1 当裁判所は、一審原告の請求は一審認容額を増額した5万3179円及びこれに対する令和3年10月25日から支払済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があると判断する。その理由は、次のとおりである。
2 争点1(本件各申告が虚偽事実の告知又は不法行為に該当するか)について
(1) 認定事実
()
(2) 本件各申告における告知内容
ア 本件各申告の内容及び態様並びにこれに対するアマゾンの対応(前記(1)で補正の上で引用した認定事実)によれば、一審被告は、アマゾンに対し、本件各申告によって、一審被告の著作権を侵害している旨告知したと認められる。なお、一審被告は、侵害通知フォームの詳細欄に、「一審被告が作成したカタログの商品画像、商品名を盗用」している旨記載しているが、ここにいう「盗用」は著作権侵害が原告各画像及び商品名に依拠して同一のものを作成してなされていることをいっているものと解される。
イ これに対し、一審被告は、アマゾンに一審原告に係るASIN重複の規約違反を申告しようとしたにすぎず、侵害通知フォームの詳細欄には著作権侵害とは記載していないから、アマゾンに対して著作権侵害の告知をしたものではない旨主張する。確かに、一審被告は、侵害通知フォームの詳細欄に、著作権侵害とは記載していないが、侵害通知フォームには、当該フォームが知的財産権の侵害を申告するためのものであって、その他の規約違反の報告は別の方法によるべきことが明記されている上、侵害通知フォーム自体が、知的財産権侵害のいずれかを選択しなければ申告手続が次の段階に進まない、すなわち申告できない仕組みになっていることは明らかであって、これが認識できないはずがないのであるから、一審被告が、自ら権利侵害の種類として「著作権侵害」を選択し、「著作権のある商品/著作物を提示するサイトへのリンク」を選択して対応する被告サイトのURLを記載して本件各申告をした以上は、一審被告はアマゾンに対して著作権侵害の告知をしたというほかなく、一審被告の上記主張は採用できない。
(3) 被告各画像等の著作物性
ア 被告各画像の著作物性
() 被告画像1、2及び4ないし10について
写真集及び卓上カレンダーに係る被告画像1、2及び4ないし10は、インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのようなものかを紹介するために、芸能人を被写体とする写真が印刷された平面的な表紙及び裏表紙を、できるだけ忠実に再現するため真正面から撮影した画像であり、上記表紙及び裏表紙以外に背景や余白はないのであって、被写体の選択・組合せ・配置、構図・カメラアングルの設定、背景等に選択の余地がなく、上記表紙及び裏表紙ひいてはそこに印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現する以外に、その画像の表現自体に何らかの形で撮影者の個性が表れているとは認められないから、上記各被告画像には創作性が認められない。したがって、上記各被告画像は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)とはいえず、著作物とは認められないから、一審被告が上記各被告画像について著作権を有するとは認められない。
() 被告画像3について
単語帳に係る被告画像3も、インターネットショッピングサイトにおいて販売する商品がどのようなものかを紹介するための写真ではあるが、芸能人を被写体とする写真が印刷された表紙及び裏表紙を金具のリングから取り外し、各写真を表にして平面上に上下に並べ、その右側に一部裏表紙と重なる形で、63枚の単語カードを写真側を表にして金具のリングを要として扇状に広げたものを撮影したものであり、正面から撮影されたものではあるものの、上記単語カードを扇状に広げることによってその重なり合いによる陰影が表現され、また、2枚目以降の単語カードの白い縁取りからわずかに各写真が垣間見えるように広げることによって各単語カードにそれぞれ異なる写真が印刷されていることを表現しており、白い背景によって表紙及び裏表紙の写真等を浮き立たせる効果も生んでいるといえる。このような手法が商品としての単語帳を紹介する際にまま見られるものであったとしても、その被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択には複数の余地があり、被告画像3の表現自体に撮影者の個性が表れていると認められる。したがって、被告画像3は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえ、著作物性が認められるから、その撮影者である一審被告は被告画像3について著作権を有すると認められる。
() 以上に対し、一審被告は、被告画像1、2及び4ないし10についても、手ブレ補正、露出補正、ホワイトバランス等の細かい調整を行い、光の入り方に気を配って撮影場所にこだわり、複数の写真を撮影してその中の一番良い写真について彩度、色合いを編集するなどの独自の工夫を凝らしている旨主張するが、一審被告が主張するそのような工夫は、商品である写真集ないし卓上カレンダーの表紙及び裏表紙、ひいてはそこに印刷された芸能人を被写体とする写真を忠実に再現するためのものであって、上記工夫の結果、それらが忠実に再現された各被告画像が得られたとしても、その表現自体に何らかの形で撮影者である一審被告の個性が表れているとは認められない。したがって、上記一審被告の主張は上記()の判断を左右しない。
イ 本件各商品の商品名の著作物性
() 一審被告が被告サイトに掲載した本件各商品の商品名は、いずれも本件各商品自体に印刷された商品名の欧文字の大文字表記を小文字表記にしたり、欧文字を日本語表記にしたりしたほか、「大型写真集」「+ケース付」「+メッセージカード」といった本件各商品の特徴をありふれた表現で説明したにとどまり、「思想又は感情を創作的に表現したもの」とは認められない。したがって、被告サイト上の上記商品名に著作物性は認められないから、一審被告はこれら商品名について著作権を有しない。
() これに対し、一審被告は、例えば本件商品9の表紙には欧文字で「PHOTO DESK CALENDAR」としか書かれていないのに対し、「卓上カレンダー2022~2023年(2年分)+ステッカーシール[12点セット]」という自ら考えた商品名を付した旨主張するが、その商品名なるものは、上記商品自体に付された商品名の欧文字の一部を日本語表記にし、商品自体の特徴をありふれた表現で複数付け足したにすぎず、商品のどのような特徴を付記するか等につき一審被告が何らか考慮したとしても、上記表現が著作権法上における創作的表現と認められるものではない(そもそも本件商品9の裏表紙には「CHA EUN WOO 2022-2023 PHOTODESK CALENDAR」及び「CALENDARSTICKER」の文字が印刷されており、一審被告が付記した同商品の特徴の選択にも独自性はない。)。一審被告は、本件商品1、2、4ないし8に印刷された「PREMIUM PHOTOBOOK」について、一審被告がつけた「Premium Photo Book」という商品名は、どの部分を大文字とし又は小文字とするか、スペースを入れるのか入れないのか、スペースを入れるとしても半角か全角かといった点を熟慮の上で選択したものであるなどとも主張するが、それがインターネットショッピングサイトにおいて消費者の関心を惹くよう考慮した結果であるとしても、商品本体に印刷されている商品名の表記につき通常のゴシック体のアルファベットの大文字と小文字の組み合わせやスペースの入れ方によって工夫すること自体はアイデアの類にすぎず、著作権法上保護される思想又は感情の「表現」には当たらない。したがって、一審被告の上記主張はいずれも採用できない。
(4) 原告画像3の掲載が被告画像3についての著作権侵害に当たるか
ア 上記のとおり、被告サイト上の被告各画像及び商品名のうち、そもそも著作物性が認められるのは被告画像3のみであり、その余については著作物性自体が認められず、一審被告が著作権を有しないから、一審原告がその著作権を侵害した事実はおよそ存在しない。そこで、原告画像3の掲載が被告画像3についての一審被告の著作権侵害に当たるかにつき、以下検討する。
イ 被告画像3の表現上の本質的特徴は、前記(3)()のとおり、本件商品3を撮影する際の被写体の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、背景の選択等を総合した表現に認められるところ、画像テンプレートを利用して作成された原告画像3は、単語帳から取り外した一部の表紙等を並べてその横に単語帳を扇状に広げて置くなどの点で商品の見せ方に関する基本的なアイデアに被告画像3との共通点はあるが、取り外して並べられたのが表紙や裏表紙の写真面か、単語カードの韓国語単語が記載された面か、その枚数、色彩及び配置、金具のリングを要として扇状に広げられた単語帳がその右側に配置されているか左側に配置されているか等の配置、同単語帳の1枚目のカードに印刷された写真内容、同単語帳の単語カードの枚数、色彩、扇状の広がり方及び陰影等で異なっていることが一見して明らかであって、その素材の選択・組合せ・配置、光線の調整・陰影の付け方、色彩の配合、素材と背景のコントラスト等において被告画像3と異なるから、被告画像3の表現上の本質的特徴を直接感得させるものとはいえない。なお、原告画像3で選択された素材のうち、本件商品3の表紙を正面から撮影した画像部分のみは被告画像3と共通するが、その画像自体は、被告画像1、2及び4ないし10について検討したと同様、平面的な上記表紙を忠実に再現したのみで創作性が認められない部分であるから、同画像部分が共通しているからといって、原告画像3が被告画像3と類似しているとは到底認められない。したがって、一審原告が原告画像3を原告サイトに掲載したことが、被告画像3に係る一審被告の著作権を侵害するものとは認められない。
以上によれば、一審被告が、本件各申告によってアマゾンに告知した、一審原告が被告サイト上の被告各画像及び商品名についての一審被告の著作権を侵害しているとの本件各申告の内容は、全て虚偽の事実であったということになる。そして、前記で原判決を補正した上で引用した前提事実によれば、一審原告と一審被告は競争関係にあるといえ、また、上記著作権侵害の事実を申告する行為は一審原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知する行為といえるから、本件各申告は、客観的に不競法2条1項21号に該当するということになる。
(5) 一審被告による本件各申告の違法性ないし故意・過失の有無
ア 本件各申告は、アマゾンがあらかじめ設けている知的財産権侵害を申告するための侵害通知フォームを利用して行われたものであるところ、同フォームにおいては、申告者において、申告した画像や商品が申告者又は権利所有者の権利を侵害する客観的根拠があり、かつ違法であることを確信していること、当該申告に含まれる情報が正しくかつ正確であることを表明・保証することに同意した上で権利侵害申告を行うものとされている。そして、アマゾンに対する権利侵害申告がされた場合には、アマゾンによって申告対象のコンテンツが削除されるなどしてアマゾンサイトへの出品自体が停止され、当該出品者が直接的に経済的損害を被ることがあることが明らかであるから、侵害通知フォームによって著作権についての権利侵害申告をする者には、権利侵害申告をするに当たり、権利侵害の客観的根拠があり、かつ違法であることについて調査検討すべき注意義務を負っていると解すべきである。
これに対し、一審被告は、著作物かどうかの判断は困難なものであり、これを正確に行ってアマゾンに申告することが求められるとすれば、その権利行使を不必要に委縮させるから、本件において、結果的に被告各画像等に著作物性がないとされた場合であっても、不競法2条1項21号による損害賠償責任の有無を検討するに当たっては、諸般の事情を考慮して違法性や故意・過失の有無を判断すべきであると主張する。しかし、上記のとおり、権利侵害申告をする者に対しては、侵害通知フォーム所定の同意事項の同意を義務付けることで明確に上記注意義務が課せられ、これに反した場合に被申告者に損害が発生することも容易に予見できることであるから、著作権侵害という法的判断を伴う事実を申告する以上、著作物性の判断が困難であるのであれば専門家に問い合わせることも検討されるべきであって、その判断のための調査検討を怠って虚偽の事実の申告となる権利侵害申告をすることが許されるわけではなく、一審被告の上記主張は採用できない。
イ 以上を前提に検討するに、本件において、一審被告が著作権を有するとして本件各申告をした被告各画像のうち、被告画像3を除く平面的な被写体を忠実に再現しただけの写真といえる被告画像は、前記(3)アのとおり、いずれも著作物性が認められないところ、この種の写真に著作物性が認められないことは過去の裁判例において明らかにされ、これについては一般に異論も見られないところであるから、控訴人が著作物性判断のため著作権について調査検討したのであれば、上記被告画像が著作物といえないことは容易に明らかになったことといえる。
また、被告画像3は、著作物性が肯定されるものの、前記(4)のとおり、原告画像3は被告画像3とは、商品の見せ方というアイデアで共通点があるにすぎず、表現における類似性がないことは明らかであるから、原告画像3をもって、被告画像3について一審被告が有する著作権の侵害物とはいえないところ、このようにアイデアで共通していても表現で異なる場合に著作権侵害をいえないことは、著作物性についてみたと同様、著作権について少しでも調査検討すれば容易に明らかになったことといえる。
さらに、被告サイト上の一審被告が付したとする商品名は、前記(3)イのとおり、いずれも本件各商品自体に印刷された商品名の表記を変え、本件各商品の特徴をありふれた表現で付記するなどしたものにすぎず、およそ著作物性が肯定される余地のないものであり、この点も、上記被告各画像についてみたと同様、著作権について少しでも調査検討すれば容易に明らかになったことといえる。
そうすると、一審被告がアマゾンに対して原告サイト上に掲載された原告各画像及び商品名が一審被告の著作権を侵害している旨申告すること(本件各申告)が虚偽の事実の告知に当たることは、一審被告がその申告をするに当たり必要な調査検討をすれば容易に明らかになったといえるにもかかわらず、一審被告がこれについて調査検討した様子はうかがわれず、漫然と本件各申告をしたものと認められるから、一審被告は、権利侵害申告に当たって求められる前記注意義務を怠ったものというべきである。
ウ そして、本件各申告がなされた経緯についてみると、一審被告は、本件申告1及び2を行った後、一審原告から、同各申告についてどのような点で著作権侵害との判断をしたのか問い合わせるメールを受けたにもかかわらず、これに何ら返信することなく本件申告3ないし5を行い、再度一審原告から上記同様の問い合わせのメールを受け、さらに、一審原告代理人弁護士から上記各申告に係る著作権侵害は存在しないとの内容証明郵便による通知さえも受けたにもかかわらず、専門家に問い合わせるなどして著作権侵害の有無について然るべき調査検討をしようとしないばかりか、何ら回答せずに無視して、なお続けて本件申告6ないし10を行ったというのである。一審被告が本件各申告を行うに当たっては、侵害通知フォーム上において、「問い合わせ先情報」として一審被告の連絡先が申告の相手方(一審原告)に共有される旨が明らかにされており、一審原告から問い合わせ等があった場合にはこれに適切に対応すべきことが予定されていたのであり、現に、アマゾンにおいても、一審原告に対して、権利者が誤って通知を送信したと考えられる場合は権利者に連絡して通知取り下げの申請を依頼するよう通知していたというのに、一審被告は一審原告からの度重なる問い合わせ等に対して一切の対応をしないまま、上記経緯のとおり本件各申告を繰り返したというのであるから、その申告態様からして、一審被告は、著作権の正当な権利行使の一環として本件各申告をしたのでなく、むしろアマゾンサイト上で競争関係にある一審原告の出品を妨害することによって自己が営業上優位に立とうとして本件各申告をしたことがうかがわれるというべきである。
エ これに対し、一審被告は、当初、アマゾンに対して一審原告によるASINの重複と被告各画像等の盗用の事実を報告したところ、アマゾンから侵害通知フォームから申告するよう案内されたため、やむを得ず侵害通知フォームを利用して「著作権侵害」の選択肢を選んだにすぎず、過失がないなどと主張する。
この点、一審被告が、当初、アマゾンに対し、原告サイトの商品が被告サイトの商品と重複している旨も併せて報告しようとした事実は認められるものの、侵害通知フォーム自体が知的財産権の侵害を申告するためのものであって、その他の規約違反の報告は別の方法によるべきことが明記されているのであるから、その上で侵害通知フォームにおいて「著作権侵害」を選択したことについてやむを得ないという余地はなく、むしろこの弁解からは、著作権侵害の問題になり得ないことを認識しながら、著作権侵害を申告したことを自認しているという見方さえでき、その場合、一審被告には、虚偽の事実を申告することについて過失にとどまらず未必の故意があったということになる。したがって、一審被告の上記主張は採用できない。
オ 以上によれば、一審被告による本件各申告が、不競法2条1項21号の不正競争行為に該当する違法な行為であることは明らかであり、それらにつき一審被告には少なくとも過失が認められるというべきである。
3 争点2(一審原告の損害の有無及びその額)について
(1) 次のとおり補正するほか、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
()
(2) 以上のとおり、不正競争行為である本件各申告によって一審原告が被った損害は、原審が認容した5万2492円に、前記(1)アで補正して認めた本件申告2に係る不正競争行為により生じた687円の逸失利益を加算した5万3175 9円であると認められる。
4 争点3(一審原告の本訴提起及び訴訟追行が不法行為といえるか)について
憲法上保障される裁判を受ける権利は、法治国家において最大限尊重されなければならないから、民事訴訟における訴えの提起が違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合に限られる(最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決参照)ところ、本訴においては、前記2、3のとおり、一審被告による本件各申告は不競法2条1項21号の不正競争行為に該当し、一審被告は一審原告に対し損害賠償責任を負うのであるから、一審原告の主張した権利ないし法律関係は事実的、法律的根拠を欠くものではない。したがって、一審原告による本訴提起は何ら違法ではなく、一審原告が、訴え提起時に請求した損害賠償額292万3420円が過大であったとして原審途中で73万4620円に請求を減縮したことも、上記結論を全く左右しない。また、一審原告が上記請求減縮をするのに日数を要したとしても、そのこと自体が独立して違法性を帯びることもない。
したがって、一審原告の本訴提起及び上記訴訟追行の態様に違法性はなく、一審被告は一審原告に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないから、これを自働債権とする一審被告の相殺の抗弁は理由がない。