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著作権判例セレクション

【美術著作物】装飾街路灯を街路に配置した完成予想図(デザイン図)及びそのデザイン図中の街路灯のデザイン部分の(美術)著作物性を否定した事例

▶平成120606日大阪地方裁判所[平成11()2377]▶平成13123日大阪高等裁判所[平成12()2393]
一 被告による著作権侵害の有無について
1 本件デザイン図全体の著作物性及び被告による複製権等侵害性について
本件デザイン図は別紙添付図面のとおりのものであるところ、本件デザイン図そのものは、全体としては本件街路灯を街路に配置した完成予想図であり、構図や色彩等の絵画的な表現形式の点において、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価することができ、「美術の範囲に属するもの」というべきであるから、美術の著作物に当たるものと認められる。そして、本件デザイン図自体の著作物性を右のように把握する場合には、その複製又は翻案とは、その絵画的な表現形式での創作性を有形的に再製することを意味することになる。
この観点から、まず本件設計図が本件デザイン図を複製又は翻案したものであるかを検討すると、本件設計図は本件街路灯についての技術的な設計図にすぎず、これが本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製したものとはおよそ認められない。したがって、被告による本件設計図の作成が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。
また、本件街路灯を製作、設置する行為は、本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製する行為とはおよそいえないから、右行為が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するともいえない。
2 本件デザイン図中の街路灯のデザイン部分の著作物性及び被告による複製権等侵害性について
次に、本件デザイン図に描かれている街路灯のデザイン(図案)が、美術の著作物として著作物性を有するかを検討する(当事者の主張も、主として、本件デザイン図に表現された街路灯のデザインについて著作物性の有無を論じているものと解される。)。
著作権法は、著作物の定義として、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法211号)としているが、美術の著作物については、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を掲げる(1014号)とともに、「『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする。」と規定する(同条2項)にとどまり、「美術の著作物」がどの範囲のものを含むのか、街路灯のような実用品に関するデザインがこれに含まれるのかについては具体的に明らかにするところがない。
ところで、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起させるもの」は「意匠」として、意匠法による保護の対象とされており(意匠法21項)、美術の著作物と意匠とは、視覚による美感にかかわるものである点で共通している。しかし、意匠として保護されるためには、出願、審査を経た上で登録を受ける必要があり(意匠法6条、16条、201項)、権利保護期間も設定の登録の日から15年とされている(同法21条)のに対し、著作権法による保護を受けるためには、特段の審査や登録を要せず、また権利保護期間も原則として著作者の死後50年間の長期に及ぶ(著作権法51条)という大きな相違がある。そして、このような相違は、意匠法が、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与すること」を目的とし(意匠法1条)、そのために工業上利用することができる意匠であることを要求する(同法31項)というように、専ら工業製品について産業の発達に寄与するという観点から制度が組み立てられているのに対し、著作権法は、「文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作権者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与すること」を目的とする(著作権法1条)というように、専ら文化的所産について文化の発展に寄与するという観点から制度が組立てられているという差異に基づくものと解される。したがって、意匠法の保護の対象となるものを広く著作権法でも保護の対象とする場合には、意匠法が産業政策的観点から登録主義を採用し、特有の権利保護期間を設定したことを空洞化することにつながるから、両者の保護対象について何らかの調整が必要となる。
そこでこの点について、現行の著作権法の制定過程をみると、著作権制度審議会が、昭和41420日、文部大臣に提出した著作権改正に関する答申では次のように述べられている。
「1 応用美術について、著作権法による保護を図るとともに現行の意匠法等工業所有権制度との調整措置を積極的に講ずる方法としては、次のように措置することが適当と考えられる。
() 保護の対象
(1) 実用品自体である作品については美術工芸品に限定する。
(2) 図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、それ自体が美術の著作物であり得るものを対象とする。
() 意匠法、商標法との間の調整措置
図案等の産業上の利用を目的として創作された美術の著作物は、いったんそれが権利者によりまたは権利者の許諾を得て産業上利用されたときは、それ以後の産業上の利用の関係は、もっぱら意匠法等によって規制されるものとする。
2 上記の調整措置を円滑に講ずることが困難な場合には、今回の著作権制度の改正においては以下によることとし、著作権制度および工業所有権制度を通じての図案等のより効果的な保護の措置を、将来の課題として考究すべきものと考える。
() 美術工芸品を保護することを明らかにする。
() 図案その他量産品のひな型または実用品の模様として用いられることを目的とするものについては、著作権法においては特段の措置は講ぜず、原則として意匠法等工業所有権制度による保護に委ねるものとする。ただし、それが純粋美術としての性質をも有するものであるときは、美術の著作物として取り扱われるものとする。
() ポスター等として作成され、またはポスター等に利用された絵画、写真等については、著作物あるいは著作物の複製として取り扱うこととする。」
右答申のうち、1は第一次案、2は第二次案であるが、現行著作権法は、第一次案を採用せず、第二次案に基づいて立法されたものと解されている。そうすると、実用に供する物品に応用することを目的とする美術(いわゆる応用美術)について、広く一般に美術の著作物として著作権の保護を与える解釈をとることは相当ではないが、実用品に関する創作的表現であっても、客観的に見て純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美術)としての性質も有すると評価し得るもの、すなわち、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものについては、美術の著作物として、著作権の保護を与えるのが相当であり、著作権法が美術工芸品を美術の著作物に含める旨を規定したのも、この趣旨に出るものであると解される。
そして、ある創作的表現が、実用品の産業上の利用を離れ、独立して美的鑑賞の対象となり得るといえるためには、少なくとも、実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであってはならないと解される。
しかるところ、本件デザイン図に描かれた街路灯は、それが実用品のデザインであることはいうまでもなく、しかもそれは、実際に新世界界隈に設置する街路灯のデザインとして、専ら街路灯という物品の性質を考慮した上で、その産業上の利用目的にふさわしいものとして作成されたものであることは原告の主張からしても明らかである。そして、原告代表者の供述によれば、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、実際に街路灯の製造を行うK電器産業株式会社が揃えている灯具やアームの規格品のデザインを適宜選択して組み合わせて作成されたものであることが認められるのであるから、本件デザイン図の街路灯のデザインは、街路灯のデザインという実用目的のために美の表現において実質的制約を受けたものであると認められる。
また、確かに本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、従前新世界界隈に設置されていたものとは異なり、レトロなデザインとしてまとまりのある美感を有するものであるが、レトロなデザインの装飾街路灯という点では、各社から種々のデザインのものが多数販売され、意匠登録を受けているものもあり(いずれも、原告の関連会社であるK電器産業株式会社が意匠権者である。)、実際に大阪市やその近郊では随所に同様の【三灯式すずらん型】装飾街路灯が設置されているのであって、街路灯においてレトロなデザインというのは、一つの確立した産業デザインの類型であるということができる。【そして、これら同種の街路灯デザインと対比した場合、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、レトロな美観という創作性の点で大きな格差はなく、右同種の街路灯デザインと同じく、産業デザインの一種としてとらえるのが相当である。】
以上のことからすると、本件デザイン図に描かれた街路灯のデザインは、実用品の産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となり得るものとはいえず、著作物であるとはいえない。
この点について原告は、本件デザイン図【中の街路灯デザイン】は町会連合会との長期にわたる協議を経て、新世界界隈のシンボルとして人々の美的感覚に訴えるデザインとして原告によって創作されたもので、著作物性を有すると主張するが、【著作物性の有無は、あくまで創作物自体の表現内容から客観的に判断すべきであり、】その表現を創作する過程の努力は必ずしも重視されるべきではないから、原告の主張は採用できない。
3 したがって、著作権侵害に関する原告の主張は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。

[控訴審]
一 争点1(著作権侵害)について
1 同()(本件デザイン図の著作物性)について
本件において、控訴人が著作権を有すると主張する対象については、本件デザイン図そのもの(全体)を指すのか、本件デザイン図中の街路灯のデザイン部分を指すのか、控訴人の主張自体が必ずしも明確でない。そこで、以下、両者を分けて検討することにする。
() 本件デザイン図全体について
本件デザイン図は、原判決添付別紙図面のとおりのもので、装飾街路灯を街路に配置した完成予想図である。そして、全体としての構図や色彩、コントラスト等において絵画的な表現形式が取られているものの、右街路灯のデザインが街角でどのように反映するかをイメージ的に描いたものにすぎず、その表現も専ら街路灯デザインを引き立て、これを強調するにとどまっている。
したがって、本件デザイン図は、それ自体、美的表現を追求し美的鑑賞の対象とする目的で製作されたものでなく、かつ、内容的にも、純粋美術としての性質を是認し得るような思想又は感情の高度の創作的表現まで未だ看取し得るものではないから、美術の著作物に当たるものとは認められない。
 () 本件デザイン図中の街路灯のデザイン部分について
当裁判所も、本件デザイン図中の街路灯のデザイン部分は、著作物とはいえないものと判断する。(以下略)