【美術著作物】便箋・封筒・カレンダー等に用いることを予め想定して作成された絵柄の著作物性を肯定した事例
▶平成15年07月11日東京地方裁判所[平成14(ワ)12640]
1 争点1ア(原告著作物の著作物性)について
著作権法2条の規定や意匠法等の工業所有権制度の存在に照らせば,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている図案やひな形など,いわゆる応用美術の領域に属するものについては,著作権法上の著作物として同法による保護の対象となるものの範囲が問題となる。しかし,ポスター,絵はがき,カレンダー等の商品の分野においては,当該商品の需要者は,専らこれらの商品に付された絵柄等を美術的な感情を満足させるために鑑賞することを目的として商品を購入し,使用するものであり,このような点から,既存の著名な美術作品である絵画や写真の複製物を用いて商品を製作することが,従来から広く一般的に行われている。このような点に照らせば,その複製物をこれらの分野の商品の絵柄等として用いることを予め想定して作成される作品であっても,当該作品が独立して美的鑑賞の対象となり得る程度の美的創作性を備えている場合には,著作権法上の著作物として同法による保護の対象となり得るものと解するのが相当である。
本件において,原告著作物は,いずれも,便箋,封筒,カレンダー等の絵柄として用いることを予め想定して作成されたものであるが,これらは,いずれも原告会社のデザイナーによって通常の絵画と同様の方法によって作成されたものであり,その具体的な表現内容を見ても,①水面に模した淡い緑色の背景に,デフォルメして形を単純化した赤い金魚と,水草に模した緑色の円を配置したもの(原告著作物(1),(2)),②切ったスイカ,食べかけのスイカ及び食べ終わった後の皮と種を一列に配したもの(同(3)),③いずれもやや写実的に描いた,蓮の葉や蓮の花,蓮の葉の上の蛙及び赤色ないし黒色の金魚を配置したもの(同(4)),④黒地(同(5)の1)あるいは白地に近い淡い黄色(同(5)の2,3,(6))の背景に,上から下に垂れ下がるように緩やかに湾曲した複数の曲線と,その先に散りばめた円形ないし星形の点を配置して,夏の夜空に花火が広がる様子を描いもの,⑤鏡餅の右側に,愛嬌のある丸みを帯びた形にデフォルメし,エプロンをかけさせた犬を左向きに配置し(同(7)の1),あるいは,リボンをかけた贈り物の箱の右側に,上記同様のデフォルメを施し,箱を結ぶリボンの端をくわえた犬を正面向きに配置したもの(同(7)の2),⑥顔,耳,足先及び尻尾が黒く,その他は灰色系の色をした,顔を正面に向けて座るシャム猫を描いた(同(8))ものであって,いずれも,素材の選択・配置,配色,具体的な表現方法等において,独立して美的鑑賞の対象となり得る美的創作性を備えたものと認められる。
上記によれば,原告著作物は,いずれも,著作権法上の著作物(同法2条1項1号)として,同法による保護の対象になるものというべきである。