Kaneda Legal Service {top}

著作権判例セレクション

【不正競争防止法】「他人の商品」(213)該当性/保護期間終了(19条1項5号イ)の成否

▶平成28114日東京地方裁判所[平成27()7033]▶平成281130日知的財産高等裁判所[平成28()10018]
1 争点(1)ア(「他人の商品」該当性)について
(1) 「他人の商品」の意義について
不正競争防止法1条は,「事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定め,同法2条1項3号は,「他人の商品の形態(当該商品の機能を確保するために不可欠な形態を除く。)を模倣した商品を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しのために展示し,輸出し,又は輸入する行為」を不正競争と定めている。
不正競争防止法が形態模倣を不正競争であるとした趣旨は,商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果が模倣されたならば,商品開発者の市場先行の利益は著しく減少し,一方,模倣者は,開発,商品化に伴う危険負担を大幅に軽減して市場に参入でき,これを放置すれば,商品開発,市場開拓の意欲が阻害されることから,先行開発者の商品の創作性や権利登録の有無を問うことなく,簡易迅速な保護手段を先行開発者に付与することにより,事業者間の公正な商品開発競争を促進し,もって,同法1条の目的である,国民経済の健全な発展を図ろうとしたところにあると認められる。
ところで,不正競争防止法は,形態模倣について,「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については,当該商品を譲渡等する行為に形態模倣の規定は適用しないと定めるが(同法19条1項5号イ),この規定における「最初に販売された日」が,「他人の商品」の保護期間の終期を定めるための起算日にすぎないことは,条文の文言や,形態模倣を新設した平成5年法律第47号による不正競争防止法の全部改正当時の立法者意思から明らかである(なお,上記規定は,同改正時は同法2条1項3号括弧書中に規定されていたが,同括弧書が平成17年法律第75号により同法19条1項5号イに移設された際も,この点に変わりはない。)。また,不正競争防止法2条1項3号において,「他人の商品」とは,取引の対象となり得る物品でなければならないが,現に当該物品が販売されていることを要するとする規定はなく,そのほか,同法には,「他人の商品」の保護期間の始期を定める明示的な規定は見当たらない。したがって,同法は,取引の対象となり得る物品が現に販売されていることを「他人の商品」であることの要件として求めているとはいえない。
そこで,商品開発者が商品化に当たって資金又は労力を投下した成果を保護するとの上記の形態模倣の禁止の趣旨にかんがみて,「他人の商品」を解釈すると,それは,資金又は労力を投下して取引の対象となし得ること,すなわち,「商品化」を完了した物品であると解するのが相当であり,当該物品が販売されているまでの必要はないものと解される。このように解さないと,開発,商品化は完了したものの,販売される前に他者に当該物品の形態を模倣され先行して販売された場合,開発,商品化を行った者の物品が未だ「他人の商品」でなかったことを理由として,模倣者は,開発,商品化のための資金又は労力を投下することなく,模倣品を自由に販売することができることになってしまう。このような事態は,開発,商品化を行った者の競争上の地位を危うくさせるものであって,これに対して何らの保護も付与しないことは,上記不正競争防止法の趣旨に大きくもとるものである。
もっとも,不正競争防止法は,事業者間の公正な競争を確保することによって事業者の営業上の利益を保護するものであるから(同法3条,4条参照),取引の対象とし得る商品化は,客観的に確認できるものであって,かつ,販売に向けたものであるべきであり,量産品製造又は量産態勢の整備をする段階に至っているまでの必要はないとしても,商品としての本来の機能が発揮できるなど販売を可能とする段階に至っており,かつ,それが外見的に明らかになっている必要があると解される。
以上を前提に控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2が,「他人の商品」であるか否かを検討する。
()
3 争点(1)ウ(保護期間終了の成否)について
(1) 認定
不正競争防止法は,「日本国内において最初に販売された日から起算して3年を経過した商品」については,当該商品を譲渡等する行為が形態模倣にはならないと定め,「他人の商品」の保護期間の終期を定める(同法19条1項5号イ)。
この規定の趣旨は,形態模倣が,先行開発者に投下資本の回収の機会を提供するものである一方,形態模倣が,商品形態の創作的価値の有無を問うことなく模倣商品の譲渡等を禁止していることから,禁止期間が長期にわたった場合には,知的創作に関する知的財産法が厳格な保護要件を設けている趣旨を没却しかねず,また,後行開発者の同種商品の開発意欲を過度に抑制してしまうことから,両者のバランスをとって,先行開発者が投下資本の回収を終了し通常期待し得る利益を上げられる期間として定められたものであると認められる。
このような保護期間の終期が定められた趣旨にかんがみると,保護期間の始期は,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった時であると認めるのが相当である。なぜなら,この時から,先行開発者は,投下資本回収を開始することができ得るからである。
また,「他人の商品」とは,保護を求める商品形態を具備した最初の商品を意味するものであり,このような商品形態を具備しつつ,若干の変更を加えた後続商品を意味するものではない。そうすると,控訴人加湿器1は,控訴人加湿器2に先行して開発,商品化されたものであり,控訴人加湿器1と控訴人加湿器2の形状は,実質的に同一の商品であるから,保護期間は,控訴人加湿器1を基準として算定すべきである。
以上を前提に検討すると,上記1(2)に説示のとおり,商品展示会に出展された商品は,特段の事情のない限り,開発,商品化を完了し,販売を可能とする段階に至ったことが外見的に明らかになった物品であるから,保護期間の始期は,平成23年11月1日に控訴人らが商品展示会に控訴人加湿器1を出展した時と認めるのが相当であり,上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって,控訴人加湿器1及び控訴人加湿器2の形態の保護期間は,いずれも,本件口頭弁論終結日の前の平成26年11月1日の経過により終了している。
(2) 控訴人らの主張について
控訴人らは,不正競争防止法19条1項5号イの「最初に販売された日」とは,商品として市場に出された日をいうから,保護期間の終期は,控訴人加湿器3の販売が開始された平成27年1月5日から3年が経過した日であると主張する。
しかしながら,上記「最初に販売された日」は,規定の趣旨からみて,実際に商品として販売された場合のみならず,見本市に出す等の宣伝広告活動を開始した時を含むことは,立法者意思から明らかであるから,商品の販売が可能となった状態が外見的に明らかとなった時をも含むと解するのが相当である。このように解さないと,商品の販売が可能になったものの実際の販売開始が遅れると,開発,商品化を行った者は,実質的に3年を超える保護期間を享受できることになってしまうが,これは,知的創作に関する知的財産法との均衡,先行開発者と後行開発者の利害対立などの調整として,保護期間を3年に限定した形態模倣の趣旨に合致しない。
したがって,控訴人らの上記主張は,採用することができない。
(3) 小括
以上のとおりであるから,保護期間は,平成26年11月1日の経過により終了した。