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著作権判例セレクション

【職務上作成する著作物の著作者】大学教授の「エスキース」の著作権の帰属(法人著作性)が問題となった事例

▶平成130918日東京高等裁判所[平成12()4816]
2 法人著作の成否について
(1) Dが,早稲田大学理工学部建築学科に教授として在職している間に,本件記念館及び桃華楽堂の各建築設計を行ったこと,本件エスキース[注:「エスキース」とは、建築家が建築物を設計するに当たり、その構想をフリーハンドで描いたスケッチである。]が,上記各設計における具体的な設計図面作成に着手する前に,出来上がる予定の建築物の構想を表現したもの(エスキース)の一部であることは,当事者間に争いがない。
(2) 控訴人は,本件エスキースについての著作権も著作者人格権も,いわゆる法人著作として当初から早稲田大学に帰属するものであり,Dには帰属していなかったと主張するが,採用できない。 () まず,ある著作物につきいわゆる法人著作が成立するためには,当該著作物が法人等の「発意に基づき」作成されたものでなければならないのに(著作権法15条1項),本件エスキース自体についてはおろか,本件記念館や桃華楽堂の設計図書についても,早稲田大学の「発意に基づき」作成されたものであることに該当する事実は,控訴人自身主張しておらず,また,本件全証拠によっても認めることができない。なお,仮に,早稲田大学が,Dがこれらを作成することにつき,種々の形で協力したり援助を与えたりしたことがあったとしても,これらが同大学の発意に基づき作成されたことになるわけでないことは,いうまでもないところである。
控訴人主張の法人著作の主張が採用できないことは,この点からだけでも,明らかというべきである。
() 次に,いわゆる法人著作が成立するためには,当該著作物が「法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」でなければならないのに(著作権法15条1項),本件エスキースが,早稲田大学の著作の名義の下に公表するものであったことに該当する事実は,控訴人自身主張しておらず,また,本件全証拠によっても認めることができない。
この点について,控訴人は,早稲田大学は,本件記念館及び桃華楽堂の設計図書を「早稲田大学D研究室D」の名で公表した旨主張する。
しかし,仮にこれが事実であるとしても,社会通念に従えば,「早稲田大学D研究室」の部分は,これに続く「D」の肩書きにすぎないものであり,この記載をもって早稲田大学の著作の名義の下の公表であるということは,到底できない。しかも,本件エスキースは,具体的な設計図面を作成する前の段階で描かれたものの一部であったのであり,設計図書とは別の作品であるのに,なにゆえに,設計図書を「早稲田大学D研究室D」の名で公表したことで,本件エスキースまでその名で公表したことになるのか明らかでない。
控訴人は,本件エスキースが,本件記念館及び桃華楽堂の設計図書という巨大な作品の形成途上で生れたものであるとして,あたかも,本件エスキースが設計図書に付随するものとして存在し,独立の著作物としての存在が認められないものであるかのように主張しているが,本件エスキースは,上記のとおり,設計図面作成に着手する前に,出来上がる予定の建築物の構想を表現したものの一部であって,設計図面でないことは明らかであり,設計図書とは別の独立した著作物としての存在が否定されなければならない理由はない。
法人著作についての控訴人の主張が採用できないことは,この点からも明らかというべきである。