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著作権判例セレクション
【言語著作物】交通標語(スローガン)の著作物性が問題となった事例
▶平成13年05月30日東京地方裁判所[平成13(ワ)2176]▶平成13年10月30日東京高等裁判所[平成13(ネ)3427]
1 著作物性の有無について
著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものである」ことが必要である。「創作的に表現したもの」というためには,当該作品が,厳密な意味で,独創性の発揮されたものであることまでは求められないが,作成者の何らかの個性が表現されたものであることが必要である。文章表現による作品において,ごく短かく,又は表現に制約があって,他の表現がおよそ想定できない場合や,表現が平凡で,ありふれたものである場合には,筆者の個性が現れていないものとして,創作的に表現したものということはできない。
そこで,原告スローガンについて,この観点から著作物性の有無を検討する。
弁論の全趣旨によれば,原告は,親が助手席で,幼児を抱いたり,膝の上に乗せたりして走行している光景を数多く見かけた経験から,幼児を重大な事故から守るには,母親が膝の上に乗せたり抱いたりするよりも,チャイルドシートを着用させた方が安全であるという考えを多くの人に理解してもらい,チャイルドシートの着用習慣を普及させたいと願って,「ボク安心 ママの膝(ひざ)より チャイルドシート」という標語を作成したことが認められる。そして,原告スローガンは,3句構成からなる5・7・5調(正確な字数は6字,7字,8字)調を用いて,リズミカルに表現されていること,「ボク安心」という語が冒頭に配置され,幼児の視点から見て安心できるとの印象,雰囲気が表現されていること,「ボク」や「ママ」という語が,対句的に用いられ,家庭的なほのぼのとした車内の情景が効果的かつ的確に描かれているといえることなどの点に照らすならば,筆者の個性が十分に発揮されたものということができる。
したがって,原告スローガンは,著作物性を肯定することができる。
[控訴審同旨]