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著作権判例セレクション
【編集著作物】編集著作物の著作者は誰か/編集著作者人格権の侵害
▶昭和55年09月17日東京地方裁判所[昭和44(ワ)6455]
二 本件編集物の編集者と編集の適法性
(略)
3 しかして、編集著作物[注:旧制静岡高等学校戦没者遺稿集「地のさざめごと」]は、編集物に収録された素材たる著作物(旧著作権法第14条参照。以下、便宜「素材」という。)の選択、配列に創作性が認められるが故に著作物として保護されるものであることに鑑みれば、素材について創作性のある選択、配列を行つた者が編集者であると解すべきであることはいうまでもないところであるが、それにとどまらず、素材の選択、配列は一定の編集方針に従つて行われるものであるから、編集方針を決定することは、素材の選択、配列を行うことと密接不可分の関係にあつて素材の選択、配列の創作性に寄与するものというべく、したがつて、編集方針を決定した者も当該編集著作物の編集者となりうるものと解するのが相当である。しかしながら、編集に関するそれ以外の行為、例えば素材の収集行為それ自体は、素材が存在してこそその選択、配列を始めうるという意味で素材の選択、配列を行うために必要な行為ではあるけれども、収集した素材を創作的に選択、配列することとは直接関連性を有しているとはいい難いし、また編集方針や素材の選択、配列について相談に与つて意見を具申すること、又は他人の行つた編集方針の決定、素材の選択、配列を消極的に容認することは、いずれも直接創作に携わる行為とはいい難いから、これらの行為をした者は、当該編集著作物の編集者となりうるものではないといわなければならない。
4 これを本件についてみるに、前記認定事実によれば、本件編集物(その素材の選択、配列に創作性の認められることはすでに述べたところから明らかである。)を編集するに当たつて、前認定のような編集方針を決定したのは原告であり、また素材である遺稿などについて創作性のある選択及び配列をしたのは原告、参加人A、参加人Bであることが明らかであつて、準備委員会あるいは実行委員会は、その各委員が遺稿などの一部を収集したにとどまり、その立場において自から直接編集方針を決定したわけではなく、また素材の選択又は配列を行つたものでもない。
しかして、準備委員会あるいは実行委員会は、原告が編集方針を立てるに際し、あるいは原告、参加人A、参加人Bが素材の選択及び配列を行うにつき、具体的な指図をし又は要求をして行わせたものではないし、組織体として、原告及び参加人両名に対し編集を命じるというような実体も有しないものであつたから、原告、参加人A、参加人Bが、前認定のような本件編集物についての編集活動を準備委員会あるいは実行委員会の機関ないし手足として行つたものとは到底解し難い。もつとも、前記認定事実によれば原告は自己の立てた編集方針を準備委員会の会合に提示して各委員の意見を徴し、その賛同を得たうえで最終的に確定しているものということができるけれども、前記認定事実に徴すれば、各委員の行為は、相談に与つて意見を述べたにすぎないものというを相当とすべく、それによつて準備委員会ないし同委員会委員が本件編集物の編集者となりえないこと前説示から明らかであり、また原告は、遺稿集の編集作業の進捗状況などを準備委員会あるいは学内委員会に報告してその了承を得ていたこと前記認定のとおりであるから、このことから、素材の選択又は配列についても準備委員会あるいは学内委員会に報告し、その了承を得ていたということができるとしても、前記認定事実に徴すれば、それは原告、参加人A、参加人Bの行つた素材の選択及び配列を、準備委員会あるいは学内委員会がただ単に消極的に容認したにすぎないものというを相当とすべく、これをもつて準備委員会あるいは学内委員会の創作活動と認めるに至らないこと前説示から明らかである。
以上のとおりであるから、本件編集物の編集者は、原告、参加人A、参加人Bであつて、本件編集物は、これら三名の共同編集になる編集物というべきである。
5 しかして、本件編集物(旧著作権法施行当時に編集されたものであること前記認定から明らかである。)が旧著作権法の保護を受ける編輯著作物であり現行著作権法の保護を受ける編集著作物であるといいうるためには、その編集が適法であることを要する(旧著作権法第14条、現行著作権法附則第2条参照)。そして、ここにおいて編集が適法であることとは、著作権の保護期間の存続中の著作物についていえば、当該著作物を編集物の素材として収録することについてその著作権者の許諾を得ていることをいうものと解される。
(略)
以上の認定事実と前記1に認定の事実及び本件口頭弁論の全趣旨とを総合すれば、戦没者の遺族などが戦没者の遺稿などを提供した本件における行為は、著作権者としての遺族などが、右遺稿などを編集物の素材として収録することを許諾する意思を表明したものと解するのが相当であり、また、前段に認定の事実によれば、遺族などに対する遺稿などの提供の依頼の過程においては遺稿集の編集者が何人であるかは明示されていないが、右認定の事実関係のもとでは右依頼に応じて遺族などが遺稿などを遺稿集に収録することの許諾を与えた対象は、静岡大学、記念の会ないし準備委員会、実行委員会を含み概括的であつたと解するのが相当である。そして、このように、許諾を与えた対象が概括的であることに徴すれば、準備委員会の内部的取決によりその構成員が遺稿集を編集し、結果として準備委員会ではなく当該構成員が遺稿集の編集者となつたとしても、当該構成員による編集は右許諾の範囲内にあると解するのが相当である。そうすると、準備委員会の構成員である原告、参加人A、参加人Bが、同委員会における前記1(三)認定の取決に従つて行つた本件編集物の編集は右許諾の範囲内において行われたものということができる。
してみると、原告、参加人A、参加人Bの行つた本件編集物の編集は適法であり、したがつて、本件編集物については旧著作権法第14条の規定により編輯著作権が成立し(同法第13条中の「各著作者ノ分担シタル部分明瞭ナラサル」共同著作物たる編輯著作物)、それ故現行著作権法においても編集著作物(同法第2条第1項第12号の共同著作物たる編集著作物)として保護される。
三 本件編集物の編集著作権の帰属と持分及び編集著作者人格権の帰属
1 右二に述べたところから、原告、参加人A、参加人Bは、本件編集物につき編集著作権を共有し、かつ編集著作者人格権を有することが明らかである。
そして、その権利の帰属につき確認の利益が存すること前記一から明らかであるから、被告両名との間で、原告、参加人A、参加人Bが本件編集物について編集著作権を共有すること及び編集著作者人格権を有することの確認を求める右三名の請求は理由がある。
2 しかして前記二で認定したところの本件編集物の編集過程において原告、参加人A、参加人Bが編集に関与した各度合と本件口頭弁論の全趣旨によれば、原告、参加人A、参加人Bの本件編集物についての編集著作権に対する各持分の割合は、原告が5分の4、参加人A、参加人Bがそれぞれ10分の1と認めるのが相当である。
四 編集著作権の侵害
請求の原因六の事実は当事者間に争いがなく、右事実並びに前記二及び三に確定したところによれば、被告両名が「新版地のさざめごと」を発行することは、原告、参加人A、参加人Bが本件編集物について共有する編集著作権を侵害するものであるといわなければならない。したがつて、原告、参加人A、参加人Bは、格別の理由なき限り、被告両名が「新版地のさざめごと」を複製領布することの差止めを請求しうるものである。
なお、被告会社が、昭和47年2月29日「新版地のさざめごと」を絶版にしたことが本件口頭弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二号証により認められるけれども、被告両名は、過去において現実に前記のように「新版地のさざめごと」を複製頒布したものであるうえ、本件編集物の編集著作権が現に被告連合会に帰属し、原告、参加人A、参加人Bには帰属していないとしてこれを争つていることが本件口頭弁論の全趣旨により明らかである以上、被告両名がなお「新版地のさざめごと」を複製頒布するおそれが存するものといわなければならない。
五 編集著作者人格権の侵害
当事者間に争いがない請求の原因六の事実、前掲検甲第一号証、証人Sの証言により「新版地のさざめごと」であると認められる検甲第二号証の一、証人Aの証言、原告本人尋問の結果によれば、本件編集物及びその複製物たる「旧版地のさざめごと」の奥付に、編集者として原告、参加人Bの各氏名が表示されていること、参加人Aは、本件編集物の編集につき自己の関与の度合が少ないことを理由に、本件編集物及びその複製物たる「旧版地のさざめごと」の奥付に編集者として氏名を表示することを固辞し、その故に本件編集物及びその複製物たる「旧版地のさざめごと」の奥付に参加人Aの氏名が表示されていないこと、被告両名は、「新版地のさざめごと」を発行するに当たり、同書の奥付等に編集者として原告、参加人A、参加人Bの各氏名を表示していないことが認められ、これに反する証拠はないところ、右事実によれば、被告両名が「新版地のさざめごと」の奥付等に編集者として原告、参加人Bの各氏名を表示しなかつたことは、右二名の本件編集物についての編集著作者人格権を侵害するものといわなければならないが、参加人Aは本件編集物に編集者として自己の氏名を表示しない意思を表明しかつその故に現に本件編集物及びその複製物たる「旧版地のさざめごと」の奥付にその氏名を表示していないのであるから、「新版地のさざめごと」の奥付等に編集者として参加人Aの氏名を表示しなかつたことが参加人Aの編集著作者人格権を侵害するとする主張は採用することができない(なお、後記九の2(一)及び3(一)参照)。
六 損害賠償義務、名誉声望回復措置義務
1 (証拠等)を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。
(略)
2 右認定事実に基づいて、「新版地のさざめごと」の出版についての被告両名の故意又は過失の有無につき検討すると、およそ本件編集物のように素材の収集から編集物としての完成に至るまでの過程において多数の者が関与し、その関与した者が団体の構成員である場合には、当該編集物の編集者したがつて編集著作権を有する者は、編集に関与した者の行為態様、関与の度合、関与した者と団体との関係などの編集の実態のほか、関与した者と団体との間の特約の有無などにより決せられると解するを相当とすることは理の当然であるから、本件編集物についても、これらの事実関係を充分調査しなければ、その編集者が誰であるのかを判定することは困難であると解されうるうえ、準備委員会、実行委員会あるいは被告連合会が、本件編集物の編集者であるならば、「旧版地のさざめごと」の奥付に当然それらの名称を表示するはずであることは見易い道理であるにもかかわらず、前認定のとおり、右奥付にはこれらの名称と異なる名称が表記されていること、しかも右奥付の記載からは、同奥付に記載されている編集委員会なるものが多数の委員の存在を予定しているとは必ずしも断定し難く、この点は明瞭でないこと、更に、「旧版地のさざめごと」の「あとがき」中には本件編集物の編集者したがつて編集著作権を有する者は、原告、参加人A、参加人Bであつて、被告連合会あるいは実行委員会ではないことを示唆する記載(旧著作権法第35条第1項の規定による推定の前提事実とはなりえないとしても)があること及び前記1(一)ないし(三)に認定の事実関係のもとにおける被告両名の立場からすれば、右に述べたことはいずれも容易に判断がつき、ないしは知りうるとするを相当とすることに鑑みれば、被告両名において、本件編集物の編集の実態あるいは編集に関与した者と準備委員会、実行委員会又は被告連合会との特約の有無など以上に述べたことがらを充分調査すべき義務があり、かつ、この義務を容易に尽しうる立場にあつたと解されるところ、被告両名が、これらの点について調査を尽したことを認めるに足る証拠はない。
してみると、被告両名は、「新版地のさざめごと」を発行するに際し必要な注意を用いれば、同書の発行が原告、参加人A、参加人Bの共有にかかる編集著作権、原告、参加人Bの編集著作者人格権を侵害するものであることを知りえたはずであるのに、これを怠つた点において過失を逸れないというべきである。もつとも、被告両名は、前記弁護士の意見を一つの拠りどころとして前記のように判断したものであることは前記認定から明らかであるけれども、同弁護士が前述の如き本件編集物の編集の実態あるいは編集に関与した者と被告連合会などの団体との特約の有無について調査を尽したものであること及び被告両名がこの点について同弁護士に質したことを認めるに足る証拠はないから、被告両名が、同弁護士の意見を一つの拠りどころとして前述のように判断し、その結果「新版地のさざめごと」を発行したとしても、そのことは、少なくとも前記過失を否定する事情とはなし難い。なお、証人Iの証言中には、「新版地のさざめごと」の出版に関連しての同証人と原告との話合いの過程では、本件編集物についての著作権の問題は、その帰属を含めおよそ問題として提起されなかつた旨の供述部分があり、同証人は、原告、参加人A、参加人Bには著作権は帰属していないし、著作権を有する旨主張する気配さえ窺えなかつた旨強調しているが、右供述部分をもつて直ちに被告両名の前記過失の存在を否定するものとはなし難い。
3 また、本件編集物についての編集著作権及び編集著作者人格権の侵害の行為につき、被告両名は共同不法行為者であるというべきであること明らかである。
4 そうすれば、格別の事由なき限り、旧著作権法第29条、第36条ノ2の各規定(現行著作権法附則第17条参照)に基づき、被告両名は、連帯(不真正連帯)してあるいは単独で、「新版地のさざめごと」の発行によつて、原告、参加人A、参加人Bの共有する本件編集物についての編集著作権を侵害したことにより右三名が被つた財産的損害を賠償するとともに、原告、参加人Bの有する本件編集物についての編集著作者人格権を侵害したことにより右二名が被つた精神的損害を賠償し、かつ右二名の名誉、声望を回復するための措置を講ずるべき義務があるといわなければならない。
七 権利濫用の主張の成否
(略)
八 被告連合会援用にかかる消滅時効の抗弁の成否
参加人A、参加人B(及び原告)は、被告連合会(及び被告会社)に対し、格別の事由なき限り、本件編集物についての編集著作権を侵害されたことにより財産的損害の賠償を請求する権利を有し、参加人B(及び原告)は、被告連合会(及び被告会社)に対し、格別の事由なき限り、本件編集物についての編集著作者人格権を侵害されたことにより精神的損害の賠償及び名誉声望の回復措置を請求する権利を有すること前説示のとおりであるところ、証人A、同Bの各証言によれば、参加人A、参加人Bは、原告が本件訴を提起する際に、同人から共同して訴を提起することを勧められたが、これを断つたことが認められるから、右事実に徴すれば、参加人A、参加人Bは、おそくとも原告が本訴を提起した昭和44年6月13日には、不法行為者は誰であるか及び損害の発生を知つたものといわざるをえない。
そして、編集著作権を侵害する行為及び編集著作者人格権を侵害する行為すなわち不法行為に基づく損害賠償請求権あるいは名誉声望回復措置請求権の消滅時効期間は、3年であり(民法第724条)、参加人A、参加人Bが右各請求権の行使として訴を提起(訴訟参加)したのが昭和54年3月30日であることは本件記録上明らかであるから、本件編集物についての編集著作権の侵害を理由とする参加人A、参加人Bの損害賠償請求権並びに本件編集物についての編集著作者人格権の侵害を理由とする参加人Bの損害賠償請求権及び名誉声望回復措置請求権は、右訴提起(訴訟参加)当時既に時効により消滅しているものといわざるをえない。参加人Bは、再抗弁として、共同編集著作物についての編集著作者人格権は権利の性質上不可分な一つの人格権であり、したがつて、右編集著作者人格権の侵害によつて生じる損害賠償請求権及び名誉声望回復措置請求権は、民法第428条の規定する不可分債権に属するから、不可分債権における一人の債権者の履行の請求は、全債権者のために効力を生じるとの理に従い、不可分債権者の一人である原告が昭和44年6月13日に本件訴を提起したことにより、参加人Bの被告連合会に対する右損害賠償請求権及び名誉声望回復措置請求権の消滅時効は中断されている旨主張するが、共同編集著作物についての編集著作者人格権の侵害による損害賠償請求権及び名誉声望回復措置請求権が不可分債権であるという主張の採りえないことは後記九2、3の説示から明らかであるから、参加人Bの右再抗弁は、その前提を欠き失当である。
よつて、被告連合会の援用にかかる消滅時効の抗弁は理由がある。
されば、本件編集物についての編集著作権の侵害に関しては、原告が被告両名に対し、参加人A、参加人Bが被告会社に対し、それぞれ損害の賠償を請求することができ、また、本件編集物についての編集著作者人格権の侵害に関しては、原告が被告両名に対し、参加人Bが被告会社に対し、それぞれ損害の賠償及び名誉声望の回復措置を請求することができるということになる。
九 損害の額など
1 財産的損害の賠償について
(一) 本件編集物についての編集著作権(及び編集著作者人格権)に対する被告両名による侵害につき旧著作権法の規定が適用される本件において、原告及び参加人両名は、少なくとも本件編集物の使用料相当額の損害を被つたものと認めるのが相当であるところ、「新版地のさざめごと」の既発行部数が7000部であり、一部当たりの定価すなわち販売価額が金690円であることは当事者間に争いがなく、本件口頭弁論の全趣旨によれば、本件編集物の使用料は、「新版地のさざめごと」一部当たり、その販売価額の10パーセントであると認められる。
(二) しかして、共有にかかる編集著作権の侵害によつて生じた損害については、各共有者は自己の持分に応じてその賠償を請求することができる(旧著作権法第34条)ところ、右(一)及び前記三2に示したところによれば、原告が被告両名に対し損害としてその賠償を請求することができる額は、「新版地のさざめごと」一部当たりの販売価額金690円に使用料率0.1及び発行部数7000を乗じ更に原告の持分5分の4を乗じて得られる金38万6400円であり、また参加人A、参加人Bがそれぞれ被告会社に対し損害としてその賠償を請求することができる額は、一部当たりの販売価額金690円に使用料率0.1及び発行部数7000を乗じ更に各持分10分の1を乗じて得られる各金4万8300円ということになる。
2 精神的損害の賠償について
(一) 共同編集者が共同編集著作物について有する編集著作者人格権の侵害によつて生じた精神的損害の賠償請求権は、編集著作者人格権そのものとは性質を異にする別個の権利(不法行為に基づく損害賠償請求権)であり、しかも、右請求権の発生の有無すなわち編集著作者人格権の侵害の有無は、前記五のとおり各共同編集者につき個別に判断しうべきものであり、各共同編集者が被る精神的損害も、各人の社会的地位、編集に関与した度合、侵害行為の態様等によりそれぞれ異なるものであるから、共同編集者はそれぞれ自己の被つた精神的損害(のみ)の賠償を請求しうるものと解するのが相当である。したがつて、右精神的損害の賠償請求権は不可分債権であるとする原告の主張は採用しえない。
(二) しかして、既に判断したように、本件編集物についての編集著作者人格権の侵害による精神的損害の賠償は、原告が被告両名に対し、参加人Bが被告会社に対しそれぞれ請求しうるところ、(証拠等)により「新版地のさざめごと」に添附されている「『地のさざめごと』によせて」と題する折込みであると認められる検甲第二号証の二によれば、本件編集物は、戦没者の生と死の全体像を鮮明に浮き彫りにしているとともに、現代史の基礎資料となりうるものとして高く評価されていることが認められ、このことと、証人Bの証言、原告本人尋問の結果により認めうるところの原告、参加人Bのそれぞれの社会的地位、前記二1で認定したところの、本件編集物を編集した経緯、編集に関与した度合、前記七1で認定の被告両名の侵害行為の態様及び本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、原告が被告両名に対し請求することができる慰藉料の額は金200万円、参加人Bが被告会社に対し請求することができる慰藉料の額は金20万円と認めるのが相当である(右慰藉料請求権は不可分債権でないこと前記(一)のとおりであり、そして、右認容額が請求の趣旨第4項の申立ての範囲内であること明らかである。)。
3 失われた名誉声望の回復について
(一) 共同編集者が共同編集著作物について有する編集著作者人格権の侵害によつて失われた名誉声望の回復措置の請求権は、一種の原状回復請求権であつて編集著作者人格権そのものとは性質を異にする別個の権利であり、しかも、右請求権の発生の有無すなわち編集著作者人格権の侵害(による、損害賠償をもつてしては償い切れない損害の発生)の有無は、前記五のとおり各共同編集者につき個別に判断しうべきものであり、名誉声望の回復措置の内容も、侵害行為の態様等により各共同編集者につきそれぞれ異なりうるものであるから、共同編集者は、それぞれ個別に名誉声望の回復措置を請求しうる(にすぎない)ものと解するのが相当である。
(二) そして、その失われた名誉声望の回復措置は、原告が被告両名に対し、参加人Bが被告会社に対しそれぞれ請求しうること既に判断したとおりであるところ、事記2(二)で認定した事実及び斟酌すべき事情として述べたところを併せ考えれば、(1)原告は被告両名に対し、別紙第二謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告を同目録記載の要領で同目録記載の新聞に各一回掲載することを請求することができ、(2)参加人Bは被告会社に対し、別紙第三謝罪広告目録記載の内容の謝罪広告を同目録記載の要領で同目録記載の新聞に一回掲載することを請求できるものというべく、原告及び参加人Bの名誉声望を回復するための措置としては、右の限度で謝罪広告掲載の請求を認めることで十分である。