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著作権判例セレクション

【編集著作物】切り離し式の暗記カードの編集著作物性及びその侵害性が争点となった事例

▶平成251129日東京地方裁判所[平成24()18701]▶平成260422日知的財産高等裁判所[平成26()10009]
3 不法行為請求②の成否及び損害額(争点3)について
(1) 不正競争防止法2条1項1号該当性について
ア 【控訴人は,控訴人受験誌が,】①切り離し式の暗記カードをつけてきたこと,②イベントを設営して受講生を募集し,上記イベントを上記受験誌の宣伝販売等と連動させてきたこと,③表題を印刷した本扉頁をつける旧来のオーソドックスな手法に捉われることなく,表題を印刷した本扉頁を省略する編集形態を採ってきたこと,④読者の目につきやすい表紙の裏面も有効活用するため,あえて裏面部分にダイレクトに文字を印刷してきたことの4点において,同種の商品と識別し得る独自の特徴,独創性を有するなどとして,上記①~④の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として保護される旨主張する。
そこで検討するに,不正競争防止法2条1項1号は,他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等する行為を不正競争行為と規定することにより,周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するものである。そして,商品の形態は,商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが,ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し,かつ,それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され,又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には,商品の形態が同号により保護されることがあるものと解される。
イ これを本件についてみるに,商品の形態とは,需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様,色彩及び質感をいう(不正競争防止法2条4項参照)から,【上記②は】,アイデアであるとはいえても,商品の形態であるということはできない。
また,上記①について,具体的には,原告第130回受験誌では,A4版の紙面1枚のうち,縦29.7cm横20cmの部分について,縦約5.9cm横10cmに分けて切り目(ミシン目)を入れ,切り離しができる10個の暗記カードを作成し,カードの表に問題をカードの裏に解答を記載して,合計25個の暗記カードを添付している。原告第131回受験誌でも同様に25個の暗記カードを添付している。これらの暗記カードは,【予想問題用紙及び答案用紙などの別冊部分(合計11枚)を除き94頁(第130回)又は88頁(第131回)からなる控訴人受験誌において6頁(3丁)を占めるにすぎない。】
そして,証拠によれば,「無敵の簿記 03年6月検定まるごと直前対策 2級」(ダイエックス出版・平成15年3月30日発行)では,B5版の紙面1枚のうち,縦25.7cm横16.8cmの部分について,縦約5.1cm横8.5cm・8.3cmに分けて切り目(ミシン目)を入れ,切り離しができる10個の暗記カードを作成し,カードの表に問題をカードの裏に解答を記載して,合計70個の暗記カードを添付していたこと,同様にB5版の書籍である「いざ!合格 無敵の社労士 2002-直前対策」(ダイエックス出版・平成14年7月17日発行),「無敵の宅建2003-1」(ダイエックス出版・平成15年6月18日発行)でも,紙面1枚のうちに切り離しができる10個の暗記カードを作成して,暗記カード合計80枚を添付していたことがそれぞれ認められる。
【そうすると,切り離し式の暗記カードが商品の形態に当たるとしても,従前発行されていた同種の受験誌において採用されていたことがあるものであり,特段目新しいものとはいい難いことや,控訴人受験誌においてかかる形態を採用した部分の占める割合がわずかであるにすぎないことからすれば,これをもって他の商品と比較して顕著な特徴を有するものであるとまでいうことはできない。
ウ 上記③の表題を印刷した本扉頁を省略する編集形態や,上記④の表紙の裏面部分に文字を印刷することについては,いずれも受験誌の誌面の形態に関する抽象的な特徴にすぎず,商品の形態に当たるとは認め難い。また,仮にこれらが商品の形態に当たるとしても,本扉頁の有無や表紙の裏面部分の文字の有無が,それ自体として同種の商品の中において他の商品との識別性を十分に有するものとはいえないし,上記④の形態は,上記「無敵」シリーズの受験誌において既に採用されていることからすれば,上記③及び④の形態が,他の商品と比較して顕著な特徴を有するものということはできない。
エ 以上のとおりであるから,控訴人受験誌について控訴人が主張する上記①ないし④の形態ないし特徴は,不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として保護されるものではない。】
(2) 編集著作物の侵害について
ア 原告は,①切り離し式の暗記カード,②予想イベントとの連動,③本扉頁を省略する編集形態,④表紙の裏面部位にダイレクトに印字する編集形態を選択したとして,これらの4点において,編集著作物である旨主張する。
イ そこで検討するに,著作権法12条1項は,編集物でその素材の選択又は配列に創作性のあるものを著作物(編集著作物)として保護する旨を規定するが,これは,素材の選択・配列という知的創作活動の成果である具体的表現を保護するものであり,素材及びこれを選択・配列した結果である実在の編集物を離れて,抽象的な選択・配列方法を保護するものではないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,原告は,上記②,③については,抽象的な選択あるいはアイデアを主張するにすぎないのであって,原告受験誌の具体的表現に基づいて主張するものではないから,上記②,③が編集著作物であるとは認められない。
ウ 次に,上記①の切り離し式の暗記カードについて,原告は,模擬試験本の4回分の予想問題を総合的に反映した重要な仕訳内容などを暗記カードの内容に反映させる独自の編集を行い,また,試験本番で特に重要な設問の第1問の解答率をアップさせるための配列としたなどと主張する。
【この点,問題とそれに対する解答を切り離し式の暗記カードの形態で掲載すること自体は,具体的表現ではなく誌面の構成や形態に関するアイデアにすぎず,これに著作権法上の保護が及ぶものではない。
次に,暗記カード上に掲載された問題とそれに対する解答の選択や配列についてみるに,控訴人は,従前の簿記検定試験の内容を踏まえた予想問題を反映した重要な仕訳内容を暗記カードの内容に反映させたというのであり,暗記カード部分に掲載された問題と解答の選択や配列には控訴人の独自性が発揮されているといえるから,少なくとも全体として一つの編集著作物に当たると認められる。】
しかし,被告第130回受験誌には暗記カードが存在しておらず,原告が編集著作権の侵害を主張する被告第131回受験誌の問題の選択,配列の内容は原告第130回受験誌及び原告第131回受験誌【と比較すると,手形の割引,自己受為替手形,預り金の処理,商品券の処理,固定資産の売却など,一部の問題のテーマに共通するものがあるが,問題の選択や配列の内容は全体としては異なるから,控訴人の主張する切り離し式の暗記カードの編集著作権について,侵害が成立しないことは明らかである。】
エ 上記④の表紙の裏面部位にダイレクトに印字する編集形態については,素材の選択,配列を主張しているものとは解されないから,編集著作物の主張として主張自体失当である。また,被告受験誌第130回は表紙の裏面は白紙であり,原告が侵害を主張する被告受験誌131回は,表紙の裏面に印字があるものの,その素材の選択,配列は原告受験誌第130回,原告受験誌第131回のいずれとも大きく異なっている。
オ したがって,その余について判断するまでもなく,被告受験誌が原告の編集著作物を侵害するとは認められない。
 (3) 小括
以上のとおり,その余について判断するまでもなく,不法行為請求②は理由がない。
[控訴審同旨]