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著作権判例セレクション
【編集著作物】間取図作成ソフトが間取図パーツの選択について創作性を有する編集著作物に当たらないとされた事例
▶平成19年06月28日名古屋地方裁判所[平成18(ワ)3944]
(注) 本件は,原告が,被告らに対し,被告らによる「間取図作成ソフトver1.2」の頒布及び送信行為が,原告の間取図作成ソフト「間取るっくver1」における間取りパーツの選択に係る編集著作権を侵害するものであるとして,被告らの上記ソフトの頒布及び送信の差止めと損害賠償等を請求した事案である。
原告ソフト及び被告ソフトは,いずれも,間取図を簡便に作図することを目的とした間取図作成ソフトで,居室,柱,トイレ等の各種類に応じ,サイズ・形状の異なる複数の間取りパーツ(単に「パーツ」という。)が準備されており,ユーザーは,このパーツの中から必要なものを選び出し,これを図面に組み合わせることによって,間取図を作成するものである。
1 争点(1)(原告ソフトはパーツの選択に創作性を有する編集著作物といえるか)について
(1)
著作権法12条1項は,データベースに該当するものを除き,編集物であってその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは,著作物として保護する旨を規定しているところ,編集著作物における創作性とは,それが著作物(同法2条1項1号)として保護される趣旨及び効果等にかんがみると,当該編集物に従来見られないような高度の創作性が認められることまでを意味するものではないが,当該選択又は配列に編集者の創作活動とその成果が表れており,かつ,それが同種の編集物の分野においてありふれたものではないと認められる程度に当該編集物に特有の個性を帯有するものであることを要するものと解するのが相当である。
(2)
原告ソフトを含む間取図作成ソフトは,住宅の間取図を簡便に作成することを目的とし,あらかじめ,和室,洋室,フローリング,キッチン,水回り等の種類ごとに,数種類のパーツを用意し,ユーザーは,この中からマウスの操作等で希望するものを選択し,これを図面中に配置することによって間取図を作成するものであるところ,原告ソフトにおいて用意されているパーツの主なものは次のとおりである。
ア フロアスペース
和室が8点,洋室が10点,フローリングが10点,ダイニングキッチン(DK)・リビングダイニングキッチン(LDK)が13点,水回りが4点,フリースペース(和室)が3点,フリースペース(洋室)が3点,フリースペース(フローリング)が3点,フリースペース(DK・LDK)が3点,フリースペース(水回り)が3点
イ 押入・玄関・廊下
押入・収納が8点,玄関が5点,廊下が3点,下駄箱が5点,階段(直進)が10点,階段(L字型)が4点,階段(U字型)が2点,階段(部品)が2点,矢印(階段の昇降方向を示すもの)が2点
ウ 設備
浴槽が3点,洗面が4点,トイレが3点,洗濯盤が2点,キッチンが4点,キッチン(L字型)が2点,キッチン(台)が2点,キッチンカウンターが4点
エ 戸・窓・壁
窓(壁あり)が5点,窓(壁なし)が5点,出窓(三角)が2点,出窓(四角)が3点,出窓(台形)が3点,出窓(台形ドア付)が3点,ドア(壁付)が3点,ドア(両開き壁付)が3点,ドア(親子壁付)が2点,引戸が2点,片折戸が5点,両折戸が3点,アコーディオンドアが1点,壁が4点,壁(白抜)が5点,柱が2点,三角柱が1点,バルコニー(壁)が4点,バルコニー(コーナー)が4点
オ 方位
方位記号が4点
(3)
原告は,原告ソフトのパーツの選択について編集著作権が存する旨主張しているが(パーツの配列については,和室,洋室,DK・LDKなどの各種類ごとに,そのサイズの順に並べられているにすぎないから,少なくともその配列に創作性を認めることはできない。),住宅の間取図を簡便に作成するためのものという間取図作成ソフトの性質上,そのパーツは,一般的な住宅において通常用いられる種類,サイズ,形状のものに自ずと限られることになり,例えば和室,洋室,DK・LDKを例にとってみると,その形状には縦横の長短はあるが,四角形を基本とするものに限られている上,畳の数によって3畳,4畳半,6畳,7畳半などと選択できるサイズは限定され,しかも,通常の住宅を想定していることから18畳程度を上限とするものであって,その選択の幅はかなり限定されたものとなっている。原告ソフトにおいて選択されたパーツの個数についてみても,その総数は150点を超える程度であるが,和室,洋室などの種類ごとに見れば,それぞれ3点ないし13点程度であってその数は決して多いものではない。
また,各パーツは,間取りの種類,サイズ,形状の3つの要素を持つものにすぎず,それぞれのパーツ自体は個性・特徴のないものである。原告は,和室の場合には畳の並び方もパーツの要素である旨主張するが,間取図作成ソフトのパーツを選択する際には,畳の具体的な並び方までを意識することなく一般的な畳の並び方のものを選択しているにすぎないと解されるから,原告ソフトにおいて10畳間について畳の並び方が異なる2種類のものが用意されていることや,各社の間取図作成ソフトで選択されているパーツの畳の並び方に種々のものがあることを考慮しても,その点は各パーツの要素として重視すべきものとは認められない。
そうすると,選択の対象となるパーツは,種類,サイズ,形状の3つの要素しか持たず,それぞれが個性・特徴のないものであって,しかもその数はかなり限られている上,そうしたパーツの候補の中から間取図作成ソフトにあらかじめ用意しておくべきものを選択するについては,間取図を作成する際の便宜という甚だ実用的な観点からなされるのが通常であることを考えると,そうしたパーツの選択行為とその成果は,編集者の創作的活動という要素が希薄であり,その成果についても個別の個性を有するものとしての評価になじみにくい性質のものというべきである。
(4)
その上,間取図作成ソフトは,前記前提事実記載のとおり複数の他社ソフトが存在しており,他社ソフトが採用しておらず原告ソフトのみが採用しているパーツは,原告ソフトのパーツ全体の約20%にとどまっている。
そのうち,他社ソフトにも同種類のパーツが用意されているが,該当サイズが原告ソフトにしか存しないものとして,洋室(9畳,12畳(縦長タイプ)),フローリング(2畳,9畳,12畳,12畳(縦長タイプ),DK・LDK(9畳,12畳(縦長タイプ),14畳,16畳,18畳)などがあるが,これらのサイズのパーツが,他社ソフトとの違いを印象付けるような特殊な間取りということもできない。しかも,他社ソフトの中には,作成した図形をパーツとして登録することによりユーザー独自のパーツリストを作ることができる機能や,配置したパーツや図形の形状を自由に編集できる機能,パーツのほかに様々な図形を自由に作図できる機能等を備えたものも存するが,原告ソフトはこれらの機能を備えていない。したがって,原告ソフトにおいては,あらかじめ多くのパーツを用意しておく必要性が他社ソフトよりも高いといえるから,原告ソフトのみに用意され,他社ソフトにはないパーツがあったとしても,それは,主にそうしたソフト本体の機能の違いに起因するものにすぎないと解される。
また,原告ソフトには,他社ソフトが同種類のパーツを用意していないフリースペース,三角柱,階段(部品),矢印(階段の昇降方向を示すもの)が用意されているが,これらについても,一般住宅の間取図のパーツとして特殊なものとはいえないし,他社ソフトにおいても類似するパーツが散見されるから,そうしたパーツを選択すること自体が原告ソフトに特有の個性が表れていると評価することもできない。
そうすると,原告ソフトや他社ソフトにおいて用意されているパーツは,いずれも一般的な住宅において通常用いられる種類,サイズ,形状のものが選択されており,その選択状況に違いがあっても,それは,当該ソフト自体の機能の違いから生じているにすぎず,また,その選択の仕方自体が原告ソフトに特有の個性を表現するまでに至っているとは認められない。
(5)
したがって,原告ソフトにおけるパーツの選択は,ごく実用的な観点からなされるものであって,編集者の思想又感情に基づく創作的行為としては評価し難い性質のものである上,間取図作成ソフトの分野においてありふれたものではないと認められる程度の,原告ソフトに特有の個性を帯有するものとは認められないから,原告ソフトは創作性を有する編集著作物に当たるとはいえない。
2 以上のとおりであるから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないので棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。