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著作権判例セレクション
【コンテンツ契約紛争事例】知的財産権の譲渡契約に未登録の著作権が含まれるか否か等が争点となった事例
▶平成16年01月15日大阪地方裁判所[平成14(ワ)1919等(中間判決)]
2 争点(1)(著作物性)について
本件各著作物は、いずれも当初からパチスロ機に用いることを目的として作成されたものであることは当事者間に争いがなく,これを反面から見れば,それ自体の鑑賞を目的として作成されたものではないということができる。
しかしながら,上記各著作物は,いずれも一応独立した図柄であるから,量産品の図面や金型等とは異なって、それ自体を鑑賞の対象とすることもできるものである。
このような,それ自体を鑑賞の対象とすることができる図柄については,これが平均的一般人の審美観を満足させる程度に美的創作性を有するものであれば、著作権法にいう美術の著作物に当たるものと解するのが相当である。
これを本件各著作物についてみるに、(証拠)と弁論の全趣旨によれば、本件各著作物は、第3の1で原告が主張するような特徴で描かれた液晶ソフトの画像に登場する人物ないし動物キャラクターやそれらを背景と組み合わせて作成された図柄や筐体のデザインとして作成された図柄であり、いずれも、その形状、構図等に作成者の思想感情が表現されており、平均的一般人の審美観を満足させる程度の美的創作性を有するものと認めることができる。
よって、本件各著作物は、いずれも美術の著作物として、著作権の対象となるものというべきである。
3 争点(2)(職務著作)について
(1)
前記で認定した事実関係を前提として,パチスロ機「クレイジーレーサー」、「IRE-GUI」及び「爆釣」の開発態様を、いかなるものであったと評価すべきか検討する。
ア 前記で認定した事実によれば,次の諸点を指摘することができる。
(略)
イ 以上の諸事情に照らせば、上記各パチスロ機の開発態様としては、被告アルゼの開発に、SNK従業員が参加して、被告アルゼの指揮下で作業を行っていたというものではなく、被告アルゼとSNKが担当箇所を分担し、共同で開発を行っていたもので、SNKが企画及びサブ基盤部分と筐体等の開発を、被告アルゼが主基盤部分の開発、全体の統括・調整及び発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売を通じた販売を、それぞれ担当していたと評価するのが相当である。
なお、パチスロ機開発の過程で、被告アルゼ側が決定権を持つ場面があったことは認められるが、被告アルゼが全体を統括し、被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売から販売する前提での共同開発とすれば、むしろ当然のことというべきである。
また、パチスロ機開発の過程で、被告アルゼ側の助言や修正の指示があったことは認められるが、上記各パチスロ機は、被告アルゼが開発する主基盤と合わせて制作され、被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社から販売することが前提の開発であり、しかもそれまでSNKはパチスロ機開発の経験に乏しかったのであるから、被告アルゼが全体の統括・調整を担当する共同開発と認めることと矛盾するものではなく、被告アルゼ側の助言や修正指示への具体的対処も、すべてSNK従業員において行ったものであるから、被告アルゼ側の助言や修正指示も、全体統括・調整の域を出るものとは認めがたい。
さらに、開発作業は、被告アルゼの社屋の、入退室が厳重に管理された部屋で、被告アルゼ側が準備した機材等を用いて行われているが、パチスロ機開発に営業上の秘密が伴うことに照らせば、これも上記開発のような共同開発であることと矛盾するものではない。
しかも、被告アルゼ自身が、平成13年4月に至って、SNKに対して、パチスロ機の液晶部及び筐体部の開発を委託する旨の開発委託基本契約の締結を求めていることは、被告アルゼの認識においても、上記パチスロ機の開発が被告アルゼとSNKとの共同開発であったことを物語るものというべきである。
被告らは、被告アルゼ社屋内で勤務していたSNK従業員は、SNKから被告アルゼに出向して被告アルゼの指揮管理下にあったものと主張するが、前記のとおり、SNKがその給与等を負担し、勤務面を管理し、その活動の報告を月報として受けていたことに照らせば、SNKや被告アルゼの作成した文書に「出向」又は「派遣」といった文言があるにしても、その実態として被告アルゼの指揮管理下にあったものとはいえない。
なお、パチスロ機「IRE-GUI」の液晶画像図柄には、被告アルゼの従業員が作成したキャラクター図柄も1種類用いられているが,これは,証人Eの証言によれば、パチスロ機「IRE-GUI」の液晶画像図柄の開発に被告アルゼの従業員が参加したというものではなく、別のパチスロ機に用いるために作成したキャラクターの図柄を流用して,顧客の注目を引こうとして,ほんの一部入れたものにすぎないと認められるから、上記の開発態様の認定を左右するものではない。
ウ 以上のとおりであるから、上記パチスロ機の開発は、態様としては被告アルゼとSNKが、開発部分を分担して行った共同開発であったというべきである。
そして、液晶画像図柄や筐体図柄等は、主基盤等の開発と独立して作成され、これらの作成に当たったのはSNK従業員であったことは、前述のとおりである。
(2)
そして、前記で認定したとおり、SNKは、平成12年12月ころ及び平成13年1月ころに、被告アルゼに対し、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを前提とした文書を提出していることに照らせば、SNKは、被告アルゼに対し、著作権使用許諾料を含めた開発委託費の支払を期待していたことを推認することができ、SNKとして、そこから収益を得るためにパチスロ機の共同開発に参加していたものと認めることができるから、SNKは、これをSNK自身の事業として行っていたものであるということができる。
これらの事情に照らせば、本件著作物の作成は、SNKの従業員が、SNKの発意に基づき、SNKの職務の中で行ったものと認めるのが相当である。
(3)
次に、SNK従業員が本件各著作物を作成する際に、SNKは自己の名義でこれらを公表する予定であったか否かについて検討する。
(1)のとおり、上記パチスロ機は被告アルゼとSNKの共同開発なのであるから、公表時にSNKの名義を入れて公表することは十分にあり得ることである。
実際に、上記パチスロ機に先立って開発されたパチスロ機「サムライスピリッツ」では、そこで用いたキャラクターが従前からSNKが販売していたゲームで用いていたキャラクターであったという事情があるとはいえ、SNKの名義も入れた形式で販売されたことが認められる。
そして、パチスロ機「IRE-GUI」では、液晶画像中に「SNK2001」と表示して、SNKの名義を明示して公表しているし、液晶画像の人物の服にSNKが商標権を有していたネオジオポケットのマークも表示されている。
これらの事情に照らせば、本件各著作物の作成時に、SNKは自己の名義をもってこれらを公表する予定であったと認めることができる。
(4)
以上のとおりであるから、本件各著作物はいずれも著作権法15条にいうSNKの職務著作に該当するというべきであり、その著作権は原始的にSNKに帰属したものということができる。
4 争点(3)(著作権の譲渡)について
(1)
本件譲渡契約書について検討するに、その第1条は 「甲〔SNK破産管財人L〕は別紙目録に掲げる知的財産権(以下,『本件知的財産権』という。)を乙〔原告〕に譲渡する。」と記載され、同契約書の別紙目録には表が添付されている。そして、当該表には、本件各著作権等はいずれも記載されていない。
しかし、上記の本件譲渡契約書別紙目録添付の表を更に詳しく検討すると、ここには登録され、あるいは登録を出願している知的財産権しか記載されておらず、一方、登録されておらず、登録の申請もされていない著作権については全く記載されていないことが認められる。
ところで、本件譲渡契約は、SNK破産管財人による破産財団の換価の一環として行われたものであることはSNK破産管財人の裁判所に対する本件譲渡契約締結の許可申請書及び裁判所の許可決定書正本の記載から明らかであるが、破産財団の換価という観点からみれば、知的財産権を登録され、あるいは登録を出願しているものと、そうでないものとに分割して譲渡するのは、特段の事情がない限り利点に乏しく、本件で提出された全証拠によっても、そのような特段の事情は見当たらない。しかも、SNKはゲームソフトの開発、製造、販売等を業としており、本件譲渡契約書別紙目録添付の表にも、ゲームソフトに関連する商標権が含まれているところ、ゲームソフト中に用いられる著作物の著作権を商標権と分離して破産財団に留保することは、商標権の換価方法としても、著作権の換価方法としても不合理であるという他はない。
そして,著作権は,特許権,実用新案権,意匠権及び商標権と異なり,創作によって発生し、登録は権利行使の要件でもなく、登録を受けることはむしろ例外に属する。
また、SNK破産管財人は、SNKの再生手続廃止決定に続く管理命令に基づく管財人の当時、SNKの知的財産権の一括譲渡を数社に打診し、その中で最高価の申し出をした原告との間で本件譲渡契約を締結したという経緯があるが、上記打診の書面には,「知的財産権の一括譲渡先を探して」おり、その検討を求める旨記載されている。
これらの事実関係に照らせば、本件譲渡契約の解釈としては、未登録の著作権については、その特定が未登録であるが故に煩瑣であったために、表に記載しなかったものの、これについても同時に譲渡する趣旨であったものと解するのが相当であり,SNK破産管財人と原告との間の覚書もこれを裏付けるものというべきである。
(2)
次に、本件譲渡契約締結にかかる裁判所の許可について検討する。
SNK破産管財人が裁判所に提出した本件譲渡契約締結の許可申請書には、「許可を求める事項」として「株式会社プレイモア(原告)」との間で、別紙知的財産権譲渡契約を締結し、金2億1000万円で知的財産権を一括譲渡すること」と記載され、別紙として本件譲渡契約書と同一の書面が付されている。
しかし、前述のとおり、SNK破産財団に属する知的財産権の換価に当たって、未登録の著作権を留保し、その余の知的財産権のみを譲渡する理由に乏しいこと、許可申請書に、破産財団に属する知的財産を一括譲渡する旨記載されていることに照らせば、裁判所としても、別表に記載されていない未登録の著作権を含め、SNK破産財団に属する知的財産権を一括して譲渡するという趣旨で本件譲渡契約の締結を許可したものと認めるのが相当である。
(3)
この点、被告らは、破産財団に属する知的財産権について、破産管財人がその詳細を特定せずに一括譲渡することや、裁判所がこれを許可することはあり得ないと主張する。
しかしながら、権利が多数に及ぶ場合には、詳細にわたる特定をしなくとも、一定の方法によって譲渡の対象となる権利が特定できれば、これをもって譲渡の対象とすることは十分に可能であるし、その際には具体的な権利の一々にまで破産管財人や裁判所の認識が及んでいる必要もないことは当然である。また、多数の権利の詳細な特定と価値査定をする場合には、それ自体に相当程度の時間と費用を要するところ、破産財団の早期換価の要請から、これを省いて一括譲渡の方法を選択することも、破産管財人及び裁判所として合理的な場合もあると解される。したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
なお、被告らは、原告が本件譲渡契約によって破産管財人に支払った対価に比べて、本件における原告の被告らへの金銭請求の額があまりにも過大であるとも主張する。
この主張が意味するところは必ずしも明らかではない。しかし、破産財団に属する知的財産権の換価に当たっては、当該知的財産権を譲り受けた者は、その実施や権利行使に相当程度の時間と費用を要し、時として権利行使が不可能になったり困難を伴ったりするなどの各種の危険も負担するのであるから、相当程度の低額による換価をすることは不合理ではないし、本件譲渡契約のように早期の換価を行う場合には尚更である。したがって、被告らの上記主張は採用の限りでない。
(4)
なお、SNKが,「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄の著作権がSNKに帰属していたことは、(証拠)によって認めることができる。
(5)
以上のとおり、本件譲渡契約の対象には本件各著作物等を含む未登録の著作権も含まれており、その趣旨で裁判所も締結を許可したものと認められるから、原告は、本件各著作物等の著作権を有効に譲り受けたものというべきである。
5 争点(4)(対抗要件)について
(1)
被告らは、被告アルゼがSNKから本件各著作物等の著作権を譲り受け、あるいは利用許諾を受けていたものである旨主張するので、検討する。
前記のとおり、SNKが、平成12年12月ころ及び平成13年1月ころに、被告アルゼに対し、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを前提とした文書を提出していること,被告アルゼは、
平成13年4月に、被告アルゼがSNKにパチスロ機の開発に対する対価を支払うことを内容とした契約書案を提示していること、同年7月に、被告アルゼ代理人が、SNK代理人に対し、パチスロ機「サムライスピリッツ」及び「クレイジーレーサー」の著作権、対価等について協議を申し入れ、これに対してSNK代理人が、被告アルゼ代理人に対し、被告アルゼがSNKに対して著作権使用許諾料を支払うことを内容とする覚書案を提示していること、結局、SNKと被告アルゼとの間で何の合意も支払もされていないことが認められるところである。
これらの事実に照らせば、SNKは、被告アルゼに対し、一貫して著作権使用許諾料を含めた開発委託費の支払を期待し、その取り決めをするように求め、被告アルゼも、遅くとも平成13年4月には、その取り決めをしていないことを問題として認識するようになっていたことを推認することができる。
そして、本件全証拠によっても、本件訴訟に至るまで、被告アルゼ自身がパチスロ機「クレイジーレーサー」等のパチスロ機に使用されている図柄の著作権について、SNKから譲渡を受けたり、利用許諾を受けているとの認識をしていたことを窺わせる事情は認められない。
以上の各事実によれば,SNKは,本件各著作物等の著作権について、
将来的に、被告アルゼから受ける対価と引き換えに、被告アルゼに対して譲渡し、あるいは利用を許諾する予定であったものの、結局はその合意に至らなかったと推認できる。したがって、被告アルゼは、本件各著作物等の著作権について、SNKから、譲渡又は利用許諾を受けたとは認められない。
(2)
これに対し、被告らは、本件各著作物等を被告アルゼが使用することが予定されていなければ、液晶ソフトや筐体図柄の開発はあり得なかったなどと主張する。
確かに、被告らが主張するとおり、本件著作物は被告アルゼが発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売から販売されるパチスロ機に用いられるという前提で作成されたものである。しかし、そうであるからといって、本件著作物の作成時に、著作権者であるSNKから被告アルゼへの著作権の譲渡や利用許諾が当然になされたと解する理由にはならない。かえって、被告ら主張の事情の下で、当然に譲渡や利用許諾がなされたものと解するならば、その対価について両者の合意が形成されなくても、被告アルゼは本件著作物を利用することができるということになるが、それでは、SNKが著作権を有することの意義が失われかねず、不合理である。この点についての被告らの主張は、採用することができない。
(3)
なお、被告らは、被告アルゼがSNKに対し多大な経済的利益を供与し、SNKの存立基盤自体がこれに依存していたから、本件各著作物等の対価は、間接的ながら十分に支払われていた旨主張する。
しかしながら、仮に、被告らの主張を前提としても、被告アルゼによるSNKへの経済的利益供与と本件各著作物等の利用とを対価関係に立たせるとの合意は、明示的にも黙示的にも存在していたとは認められない。また、SNKの存立基盤が被告アルゼに供与された経済的利益に依存していたとしても、SNKの発行済み全株式を所有していたわけではなく、発行済み株式総数の50.88パーセントを所有していたにすぎない被告アルゼが、SNKの事業の成果を無償で利用することができる理由にはなり得ない。
そもそも、前記で認定したとおり、SNKは、平成12年から平成13年当時は再建の途上にあり、被告アルゼに対しても30億円の負債を有し、再建のために、被告アルゼから受けるパチスロ機「クレイジーレーサー」や「IRE-GUI」の開発費や販売ロイヤリティーを期待していたのであるから、SNKが被告アルゼに対して、本件各著作物等を無償で使用させたり、被告らが主張するような被告アルゼからの経済的利益をもってその対価とする意思がなかったことは明らかである。
(4)
以上のとおりであるから、被告らが主張するような、本件各著作物等の著作権についてのSNKから被告アルゼに対する譲渡や利用許諾があったとは認めることはできない。
したがって、被告アルゼと原告が対抗関係に立つという被告らの主張は理由がない。
6 争点(5)(複製ないし翻案)について
(以下略)