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著作権判例セレクション

【損害額の推定等】法1141項及び2項の意義と解釈

▶平成160115日大阪地方裁判所[平成14()1919(中間判決)]▶平成161227日大阪地方裁判所[平成14()1919]
本件中間判決の〔当裁判所の判断〕記載のとおり(ただし、本件中間判決の各「本件著作物」とあるのをいずれも「本件各著作物」と訂正する。)であるから、これらを引用する。
3 争点(9)(差止め等の必要性)について
被告アルゼが、本件中間判決後も、引き続き、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」を、インターネットに展開する自社のホームページを介して販売しており、上記各ソフトウエアは、本件中間判決後も、全国の小売店店頭で販売されており、また、被告らにおいてこれを回収していないという原告の主張に対し、被告らは認否主張をせず、争うことを明らかにしないから、これらの事実を認めたものとみなす。
上記争いのないものとみなされる事実によれば、被告アルゼにおいて、主文第1項に掲げる方法により原告の有する著作権の侵害行為を継続し、また、被告らにおいて、主文第4項に掲げる方法により原告の有する著作権の侵害行為を継続していると認められるから、これらの行為を差し止める必要があるといえる。また、主文第2項及び第5項に掲げる廃棄の措置は、上記侵害行為の停止のため、必要なものということができる。
また、上記争いのないものとみなされる事実によれば、被告アルゼにおいて、主文第3項に掲げる方法により原告の有する商標権の侵害行為を継続し、また将来これを行うおそれがあるものと認められるから、これらの行為を差し止める必要があるといえる。
以上のとおり、原告が請求する差止め及び廃棄の必要性は、いずれもこれを認めることができる。
4 争点(10)(著作権侵害についての故意過失の有無と、生じた損害額の算定方法)について
(1) 故意過失の有無について
ア 被告アルゼについて
本件中間判決の〔当裁判所の判断〕5(1)記載のとおり、SNKは、被告アルゼに対し、一貫して著作権使用許諾料を含めたパチスロ機開発委託費の支払を期待し、その取り決めをするように求め、被告アルゼも、遅くとも平成13年4月には、その取り決めをしていないことを問題として認識するようになっていたことを推認することができ、しかも、その後、本件訴訟に至るまで、被告アルゼ自身がパチスロ機「クレイジーレーサー」等のパチスロ機に使用されている図柄の著作権について、SNKから譲渡を受けたり、利用許諾を受けているとの認識をしていたことを窺わせる事情は認められないのであるから、被告アルゼにおいて、被告らの行為が他者の著作権を侵害することを認識ないし予見することは可能であり、また、認識ないし予見すべきであるのにこれを怠ったものというべきである。したがって、本件における著作権の侵害行為について、被告アルゼには少なくとも過失があったことを認めることができる。
イ 被告日本アミューズメント放送について
原告が、被告日本アミューズメント放送に故意又は過失があったとする根拠として主張する事実は、①同被告は、本件各著作物等の存在を認識し、また、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」は、本件各著作物等の表現形式を素材として使用して作出されたものであることについての事実認識があった、②被告らは、同一グループに属する関連会社であるから、同ソフトウエアの販売についても、意思を共同する、というものである。
しかしながら、著作権侵害行為について過失があるというためには、侵害者において、その行為が他者の著作権を侵害することを認識・予見することが可能であり、かつ、認識・予見すべきであるのにこれをしなかったことが必要であると解すべきであり、これを認めるためには、侵害者において、少なくとも、当該著作物について、他に権利者が存在することを認識・予見することが可能であり、かつ、認識・予見すべきであるのにこれをしなかったことが必要であるというべきである。
ところが、原告が主張する上記①及び②の事実によっては、被告日本アミューズメント放送が、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国7」に使用されている著作物について、被告アルゼ以外に権利者が存在することを認識・予見すべきであるのにこれをしなかったとまで認めることはできず、他にこれを認めるに足りる主張も証拠もない。
また、被告日本アミューズメント放送が、被告アルゼの子会社であるからといって(本件中間判決〔前提となる事実〕)、それだけで被告アルゼと過失を共同するものではないことはいうまでもない。
したがって、被告日本アミューズメント放送には、丁事件の訴状が送達されるまでの侵害行為については、故意又は過失があったものと認めることはできない。
もっとも、被告日本アミューズメント放送は、丁事件の訴状が送達されたことにより、上記ソフトウエアの販売行為が、原告の著作権を侵害する可能性があることを知ったと明らかに認めることができるから、同被告に丁事件の訴状が送達された平成14年9月10日より後の侵害行為については、同被告に過失があったものと認めることができる。
(2) 損害の算定方法について
当裁判所は、本件における著作権侵害により原告に生じた損害額の算定においては、著作権法114条1項及び2項はいずれも適用することができず、原告の予備的主張に基づき、同条3項により算定を行うべきであると判断する。その理由は、以下のとおりである。
ア 著作権法114条1項について
() 著作権法114条1項は、侵害品の譲渡等数量に、著作権者等が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」の単位数量当たりの利益額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物にかかる販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、損害額とすることができる旨規定する。
したがって、同項を適用する前提としては、著作権者等において、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していることが必要である。
ここで、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要する。なぜならば、同項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、(侵害者が特定の事情を立証しない限り)侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
また、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為が行われた時点において、権利者がその製品を市場に供給する能力を有していることが必要であり、供給する能力を獲得する予定を有していたというだけでは足りないと解すべきである。この点につき、原告は、同項は、権利者の損害を「市場機会の喪失」と捉えるものであるから、代替製品の需要が継続してあり、いったん、侵害品に需要が食われてしまうと、その後、権利者が著作物の使用品を販売できなくなる関係にあるような市場では、侵害当時に権利者が著作物の使用品を販売可能な状態に置いている必要はなく、権利者の潜在的能力を含めて柔軟にその能力を認めるべきであるとか、パチスロ機業界においては、企画し開発を終えたパチスロ機の販売開始時期が、企画・開発から、1年ないし2年後となることは、よくあることであるから、同項の権利者の実施能力には、潜在的実施能力も含めて考えるべきであるなどと主張する。しかしながら、上記のとおり、同項が、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解される以上、現に市場において侵害品と権利者製品が競合して存在するか、少なくとも権利者が市場にその製品を提供する準備ができていなければ、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えることは不可能である。すなわち、商品には需要者にとって購入が必要な時期があり、また、著作物には流行があるのであって、例えば、何らかの著作物を使用した物品(キャラクターを付したランドセルや耐久消費財、その時点の流行テレビドラマ中の著作物を使用したアクセサリーなど)について、侵害品を購入した需要者を想定してみると、仮に購入時点で侵害品も権利者製品も存在しなかった場合には、その時点で市場に供給されている侵害品と代替性のある製品を購入するということが考えられるのであって、この購入をせずに将来供給される計画のある権利者製品の発売を待ち、既に購入が必要な時期を徒過したランドセルや耐久消費財や、流行遅れとなったアクセサリーなどを購入するとは考え難いところである。したがって、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為の時点において、侵害品と代替性のある製品を販売しているか、少なくともその準備ができていることを必要とすると解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。
なお、被告らは、原告にはパチスロ開発・製造会社としての信用がなかった等と主張し、著作権法114条1項の適用のためには、権利者に製品を市場に供給する能力があるだけでは足りず、実際に権利者の製品が市場に供給された際にこれに対する需要が生じることまでも必要である旨主張するようであるが、このような事情は、同項ただし書きにいう、「譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情」として考慮するべきものと解すべきであるから、この点についての被告らの主張も採用することができない。
() 以上を前提として本件について検討するに、原告の主張を前提としても、原告が、ゲームソフト「ザ・キング・オブ・ファイターズ」を元としたパチスロ機の開発を行い、この保通協の型式試験に適合したのは平成14年12月9日であり、ゲームソフト「メタルスラッグ」を元としたパチスロ機「メタルスラッグ」の開発を行い、この保通協の型式試験に適合したのは平成15年12月10日であって、現に原告が販売しているのはこの後者であり、また、原告がパチスロ機の生産工場の用地を確保したのは平成14年4月であり、工場の生産設備を整えて、全国防犯協会連合会の許可を受けたのは平成15年7月であるというのである。
一方、被告アルゼがパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE-GUI」を販売したのは、平成14年12月までであったのであるから、原告の上記主張を前提としても、被告アルゼが上記各パチスロ機を販売していた期間において、原告が、代替性のある製品として、パチスロ機を販売していたとも、その準備ができていたとも認めることはできない。
したがって、被告アルゼによる上記各パチスロ機の販売期間において、原告が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していたと認めることはできないから、著作権法114条1項を適用して、被告アルゼによる上記各パチスロ機の販売行為により原告に生じた損害を算定することはできないというべきである。
() また、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について検討するに、これらは、いずれもパチスロ機の動作を家庭用ゲーム機であるプレイステーション2上でシミュレートするゲームソフトであるところ、原告において、被告らによる上記各ソフトウエアの販売期間に、プレイステーション2用のパチスロ機シミュレーションソフトを販売し、あるいはその準備ができていたことについては、主張も立証もない。
したがって、被告らがプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」を販売していた期間において、原告が、代替性のある製品である、プレイステーション2用のパチスロ機のシミュレーションソフトを販売していたとも、その準備ができていたとも認めることはできない。
原告は、プレイステーション用ソフトウエア及びプレイステーション2用ゲームソフト一般についての製造販売能力があることを主張する。しかしながら、パチスロ機のシミュレーションソフトと、それ以外の、格闘ゲーム等のゲームソフトとで、その購買層が同一ないし重複するとは直ちにいうことができず、またこれを認めるだけの証拠もないから、プレイステーション用ゲームソフト及びプレイステーション2用ゲームソフト一般が、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」と代替性を有すると認めることはできない。
したがって、被告らによる上記各ソフトウエアの販売期間において、原告が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していたと認めることはできないから、著作権法114条1項を適用して、被告らによる上記各ソフトウエアの販売行為により原告に生じた損害を算定することはできないというべきである。
イ 著作権法114条2項について
() 著作権法114条2項は、侵害者が侵害行為により利益を受けているときは、その利益の額は、著作権者等が受けた損害の額と推定する旨規定する。
同項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害につき、侵害者が受けた利益額が立証されればこれを損害額と推定することにより、権利者の主張立証責任の軽減を図ることをその趣旨とするものと解される。
したがって、侵害行為の当時、権利者が自ら製品の販売を行っておらず、その準備もできていない場合には、権利者において将来製品の販売をする予定があったとしても、同項を適用することはできないと解すべきである。
ここで、同項の適用の前提となる権利者により販売が行われているべき製品としては、同条1項と同様に、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要すると解すべきである。なぜならば、同条2項は、同条1項と同様、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
この点につき、原告は、現行の著作権法114条2項が、従来、同条1項として規定されていたところに、現行の同条1項が新設されるに伴って、2項に移されたものであるという経過に照らして、権利者が著作物の使用品を販売する予定があったが、侵害行為により販売できなくなった場合や、将来販売する予定があるなどの場合も、著作権法114条2項を適用すべきであるとか、「侵害者の行為によって権利者の販売量が減少し、あるいは、増えるべき販売量が増加しなかった」という関係にあるかどうかは、著作物の性質、当該著作物の流通する市場の実情に応じて事案ごとに判断されるべきであり、経時的に価値を失う性質のものではない著作物について、これらを使用した製品を含め、代替可能性のある製品の製造販売を権利者が予定し、侵害者と権利者が、市場で競合する関係にあるときには、侵害者の行為によって権利者の販売量が減少し、あるいは、増えるべき販売量が増加しなかった関係にあるといえるから、同項を適用すべきなどと主張する。しかし、上記のとおり、同項が、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害についての権利者の主張立証責任を軽減しようとするものと解される以上、市場において現に侵害品と権利者製品が競合しているか、少なくとも権利者が市場にその製品を提供する準備ができていなければ、権利者が市場における販売の機会を喪失するとは考え難い。したがって、同項の適用のためには、権利者が将来製品を販売する予定があるだけでは足りず、侵害行為の時点において、権利者において、侵害品と代替性のある製品を販売しているか、少なくともその準備ができていることを必要とすると解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、「侵害抑止のサンクション」という観点から、著作権法114条2項を適用し、制裁的に侵害者の利益を吐き出させるべきであると主張する。しかしながら、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止を目的とするものではなく、したがって、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであるというべきであるから、原告の上記主張は採用の限りでない(最高裁判所平成9年7月11日判決参照)。
() 以上を前提として本件について検討するに、被告アルゼによるパチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE-GUI」の販売期間において、原告が、これらと代替性のある製品として、パチスロ機を販売していたとも、その準備ができていたとも認められないこと、また、被告らによるプレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」の販売期間において、原告が、これらと代替性のある製品として、プレイステーション2用のパチスロ機のシミュレーションソフトを販売していたとも、その準備ができていたとも認められないことは、前記ア()()のとおりである。
したがって、著作権法114条2項を適用して、被告らによる上記各パチスロ機及び各ソフトウエアの販売行為により原告に生じた損害を算定することはできないというべきである。
5 争点(11)(著作権侵害により生じた損害額)について
(1) 前記4のとおり、本件においては、被告らによる著作権侵害行為により原告に生じた損害については、著作権法114条3項に基づいて算定すべきであるから、これにより算定される損害の額について検討をする。
同項は、権利者は、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を、損害の額として賠償を請求することができる旨定める。したがって、同項による損害額の算定にあたっては、訴訟当事者間の具体的事情を考慮した妥当な使用料相当額を算定し、これを損害額とするべきである。
原告は、同項は、侵害行為が行われた場合に、法の趣旨を貫徹するために、市場機会の利用可能性の侵奪をもって損害と観念し、市場機会の著作権者にとっての利用価値を損害賠償とする趣旨であると主張するが、同項の文言に照らして採用することができない。
また、原告は、被告らの態度が悪質であることから、同項の使用料率として、適正な料率へ修正した使用料率よりさらに2倍以上の高額とされるべきであると主張するが、我が国の不法行為に基づく損害賠償制度が、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止を目的とするものではないことは、前記4(2)()で述べたとおりであるから、この主張も採用することができない。
(2) そこで、まず、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE-GUI」について、本件各著作物等の妥当な使用料相当額について検討する。
上記各パチスロ機にかかる諸事情を検討するに、本件中間判決の〔当裁判所の判断〕1及び3記載のとおり、上記各パチスロ機の開発態様は、SNKが企画及びサブ基盤部分と筐体等の開発を、被告アルゼが主基盤部分の開発、全体の統括・調整及び発行済み株式の全部を保有していた子会社であるメーシー販売を通じた販売を、それぞれ分担する態様の、被告アルゼとSNKによる共同開発であったというべきであり、本件各著作物も、これに使用するために作成されたものであること、平成12年12月ころ、SNKが、被告アルゼに提出した「SNK業態変更に伴う逸失利益回復対策(案)」と題する書面では、パチスロ機の開発費として各2000万円、売上に対するロイヤリティーとして1台当たり2万円を見込んでいたこと、平成13年1月末頃、SNKが、被告アルゼに締結を求めた開発委託基本契約及び開発委託個別契約の案では、開発の過程で取得した著作権等は両者の共有とし、被告アルゼがSNKに対し、基本開発委託費を1機種当たり2000万円、販売ロイヤリティーを1台当たり2万円としていたことが認められる。
そして、上記の販売ロイヤリティーは、画像図柄や筐体図柄等、本件各著作物等の使用料も含むものではあるが、これに尽きるものではなく、企画やサブ基盤全体の開発を考慮した利益の配分としての性質を有すると解され、その金額の設定にも、パチスロ機の開発過程で取得した著作権はSNKと被告アルゼの共有とする前提があったというべきである。のみならず、そもそも、上記の販売ロイヤリティーの金額は、SNKが発案したもので、被告アルゼと合意に至ったものではない。
他方、上記各パチスロ機1台の販売単価は、両当事者いずれの主張によっても、30万円ないし35万円程度である(ただし、パチスロ機「クレイジーレーサーR」については、被告アルゼは、約11万円であると主張する。)。
以上のとおりの事情に加え、上記各パチスロ機における本件各著作物等の使用態様等、本件に現れた各種事情に照らせば、本件において、被告アルゼが原告に支払うべき著作物使用料相当額としては、販売した上記各パチスロ機1台当たり1000円とするのが相当である。
なお、パチスロ機「IRE-GUI」においては、本件各著作物の他、原告が著作権を有する「テリー・ボガード」及び「不知火舞」の図柄を翻案したものも用いられているが、本件に現れたその使用態様及び頻度に照らせば、上記パチスロ機について、原告に支払うべき著作物使用料相当額を異にするべきものとは解されない。
(3) 次に、プレイステーション2用ソフトウエア「パチスロ アルゼ王国6」及び「パチスロ アルゼ王国7」について、本件各著作物の妥当な使用料相当額について検討する。
上記各ソフトウエアにかかる諸事情を検討するに、上記(2)で検討したところに加え、上記各ソフトウエア1本の販売単価は、「パチスロ アルゼ王国6」が3422円、「パチスロ アルゼ王国7」が3425円であること(当事者間に争いがない。)、「パチスロ アルゼ王国7」は、4機種のパチスロ機のシミュレーションソフトの集合体であり、「クレイジーレーサーR」はそのうちの1機種にすぎないこと、「パチスロ アルゼ王国7」は、5機種のパチスロ機のシミュレーションソフトの集合体であり、「爆釣」はそのうちの1機種にすぎないこと(いずれも当事者間に争いがない。)、さらに、上記各ソフトウエアにおける本件各著作物の使用態様等、本件に現れた各種事情に照らせば、本件において、被告らが原告に支払うべき著作物使用料相当額としては、販売した上記各ソフトウエア1本当たり10円とするのが相当である。
(4) 前記〔前提となる事実〕記載のとおり、平成13年11月1日以降、被告アルゼが販売した、パチスロ機「クレイジーレーサーR」、「爆釣」及び「IRE-GUI」並びにプレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国6」の台数ないし本数、並びに、被告らが販売した、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」の本数は、いずれも、別紙販売数一覧表のとおりである。
ここで、同表の「-」〔マイナス〕の付された数値はその台数ないし本数の返品があったことを示すものであるところ、原告は、いったん売上があった以上、侵害行為があったのであるから、返品の事実は、損害たる使用料相当額の算定にあたって考慮すべきではないと主張する。しかしながら、使用数に応じて著作物使用料を定める場合に、販売数に応じて使用料を算定する方式による際には、この販売数は実質的な販売数をもって計算するべきと解され、返品分がこれに含まれると解するのは相当ではないから、本件における使用料相当額の算出にあたっても、上記の返品数は販売数から控除すべきである。そして、この控除にあたっては、個々の返品がどの販売に対応するものか明らかではない以上、返品があった月から遡って近い販売数から順に控除するのが合理的である。
(5) 以上述べたところにしたがって、原告の損害額を算出すると、別紙認定損害額(著作権)一覧表記載のとおりとなる。
ただし、このうち、プレイステーション2用ゲームソフト「パチスロ アルゼ王国7」にかかる損害については、前記4(1)イのとおり、被告日本アミューズメント放送について過失を認めることができる侵害行為は、同被告に丁事件の訴状が送達された平成14年9月10日より後のものに限られるところ、平成14年9月に生じた損害についてこれが同月10日より後の販売行為にかかるものと認めるに足りる証拠はないから、同月までに生じた損害については被告アルゼが単独で、同年10月以降に生じた損害については被告らが連帯して、賠償の責を負うものというべきである。
また、遅延損害金については、各月に生じた損害についてこれがその月の末日より前の販売行為にかかるものと認めるに足りる証拠はないから、各月の末日をその起算点として認めるべきであり、これと原告の請求を合わせ考慮すると、本件で認容すべき遅延損害金の起算日は、別紙認定遅延損害金起算日(著作権)一覧表記載のとおりとなる。