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著作権判例セレクション
【言語著作物】プログ記事(85文字と123文字)の著作物性及び侵害性を認定した事例
▶平成28年1月29日東京地方裁判所[平成27(ワ)21233]
(参考)
「原告記事目録1(本件記事1)」…『風水とは,何なのかを述べるにあたり,一言で述べるならば「自然科学」だということです。自然科学の定義とは,自然に属する諸対象を取り扱い,その法則性を明らかにする学問のことです。』
「原告記事目録2(本件記事2)」…『これまで台湾における五術文化の学術発表にかかわってきて,とても不愉快な文化の冒涜・歪曲にしか思えない独創と捏造による江湖派理論や,悪質な宗教による術数を利用した洗脳と金儲けを目撃する度に胸くそが悪かったのですが,こういった国家規模での認定試験ができたことで時代は着実に変わり始めました。』
「本件情報1」…『風水とは、何なのかを述べるにあたり、一言で述べるならば「妖怪学」だということです。妖怪学の定義とは、風水に属する諸対象を取り扱い、その法則性を明らかにする学問のことです。』
「本件情報14」…『台湾における五術の詐欺発表にかかわって、とても愉快な文化の笑い話・小話に思える独創な江湖派理論や、宗教による術数を利用した金儲けを目撃する度に、呆れたのです
が、こういった国家機関での検閲制度ができたことで、新たな手口を防止する時代に変わりました。五術とか言ってみても、基本的には占いと割り切るべきで、俗的な迷信文化という肩書きの中で永遠に暮らすのが占い師の定めです。とかく流派が多く玉石ではなく、石石混淆の理論が入り乱れる五術ですが、陥れやすい騙されやすい、統一見解を得た見本が既に発刊されており参考になりますね。』
「本件情報18」…『痛風の為、今年中に風水業は廃業します。風水本は、在庫限りです。長い間、風水山師を支持頂きありがとうございました。風水本は在庫が無くなり次第、廃刊となります。
区切りのいいところで断酒、療養に専念のため廃業いたします。長らく風水山師をご愛顧いただき、ありがとうございました。』
1 争点(1)ア(本件各記事の著作権者)について
前記前提事実のとおり,本件各記事はいずれも「A」の作成したブログ上の記事であるところ,証拠によれば,同ブログは原告が管理するものであって,本件各記事はいずれも原告が自らの知見に基づいて作成したものであることが認められ,同認定に反する証拠はない。
したがって,本件各記事の著作権者は原告であると認めるのが相当である。
2 争点(1)イ(著作権侵害の成否)について
(1)
著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的な表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決頁参照)。
このように,翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物とを対比した場合に同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要であるところ,「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の個性が何らかの形で表れていれば足りるというべきである。そして,個性の表れが認められるか否かについては,表現の選択の幅がある中で選択された表現であるか否かを前提として,当該著作物における用語の選択,全体の構成の工夫,特徴的な言い回しの有無等の当該著作物の表現形式,当該著作物が表現しようとする内容・目的に照らし,それに伴う表現上の制約の有無や程度,当該表現方法が,同様の内容・目的を記述するため一般的に又は日常的に用いられる表現であるか否か等の諸事情を総合して判断するのが相当である。
(2)
これを本件についてみると,本件記事1は「風水」とは何かということを表現した文章であって,それを「自然科学」だとし,次に,自然科学の定義を記載する二つの文(文字数にして87文字)からなるものである。確かに,用語の選択,全体の構成等はごく簡潔なものではあるが,風水を「自然科学」であると説明する表現として,他に表現の選択の幅がないということはできず,本件記事1のひとかたまりの文章には個性が表れていると認められる。これに対し,本件情報1ないし13も「風水」とは何かということを表現した文章であって,本文はいずれも二つの文(文字数にして85文字)からなるものであり,具体的表現についてみても,本件情報1ないし13の本文の表現は本件記事1の表現とほぼ一致しており,その違いは,本件情報1ではわずか6文字,本件情報2ないし13ではわずか8文字でしかなく,文字の配列,文章全体の構成,表現形式においてはほぼ同一である。そして,その相違部分の内容をみても,本件記事1の内容は「風水」を「自然科学」とするものであり,次の第2文において「自然科学」の定義を記載しているのに対し,本件情報1ないし13の内容は「風水」を「妖怪学」とするものであって,次の第2文において「妖怪学」の定義を記載しているにすぎない。
したがって,本件情報1ないし13は,本件記事1に依拠したうえで,同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して上記異なる表現を用いたものといえるのであって,仮に上記相違部分について作成者の何らかの個性が表れていて創作性が認められるとしても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,本件記事1と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたるものであり,本件記事1の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから,翻案権侵害に当たることが明らかであるというべきである。
(3)
また,本件記事2は,これまで台湾における「五術」に関わり,その際に不快な思いもしたものの,新たな試験ができたことで時代が変わり始めたなどと表現した文章であって,一つの文(文字数にして143文字)からなるものである。その表現においては,用語の選択,全体の構成の工夫,特徴的な言い回しなどにおいて,一見して作者の個性が表れていることは明らかである。これに対し,本件情報14ないし17は三つの文からなる文章であるが,このうち第1文は,やはり,台湾における「五術」に関わり,その際にあきれたこともあったものの,新たな制度ができたことで時代が変わったなどと表現した文章であって,文字数にして123文字からなるものであり,具体的表現についてみても,本件情報14ないし17の第1文の表現は本件記事2の表現と相当程度一致しており,その違いは,本件情報14及び15では31文字,本件情報16及び17では32文字でしかなく,「台湾における五術」,「江湖派理論」,「宗教による術数を利用した」「金儲けを目撃する度に」など,用語の選択,全体の構成,文字の配列,特徴的な言い回しにおいて酷似している。そして,その相違部分の内容をみても,本件記事2のうち「五術」の「学術発表にかかわって」という点を,本件情報14ないし17においては「五術」の「詐欺発表にかかわって」に,「とても不愉快な文化の冒涜・歪曲」という点を「とても愉快な文化の笑い話・小話」に,「胸くそが悪かったのですが」という点を「呆れたのですが」に,「国家規模での認定試験」という点を「国家機関での検閲制度」に置き換えているにすぎない。
したがって,本件情報14ないし17は,本件記事2に依拠したうえで,同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して上記異なる表現を用いたものといえるのであって,仮に上記相違部分について作成者の何らかの個性が表れていて創作性が認められるとしても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,本件記事2と同一性を有する表現が一定以上の分量にわたるものであって,本件記事2の表現の本質的な特徴を直接感得することができるものであるから,翻案権侵害に当たることが明らかであるというべきである。
(4)
以上のとおり,本件情報1ないし17は原告の翻案権を侵害することが明らかである。
また,そうである以上,本件情報1ないし17を本件ウェブサイトに発信する行為は,原告の公衆送信権を侵害するものであることも明らかというべきである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,本件情報1ないし17は,原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)を侵害することが明らかである。
3 争点(1)ウ(「引用による利用」該当性)について
(1)
著作権法には,公表された著作物は,公正な慣行に合致し,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されているところ(著作権法32条1項),他人の著作物を引用して利用することが許されるためには,引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり,かつ,引用の目的との関係で正当な範囲内,すなわち,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であるから,「引用」に当たるか否かの判断においては,他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか,その方法や態様,利用される著作物の種類や性質,当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである。
(2)
被告は,本件情報1ないし17はいずれも「風水」や「五術」について議論することを目的としており,公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるから,著作権法32条1項にいう「引用」に当たると主張する。
しかし,本件情報1ないし17は,本件各記事に依拠したうえで,同記事の内容を批判するか揶揄することを意図して,本件記事1の「自然科学」を「妖怪学」に変更したり,本件記事2の「学術発表」を「詐欺発表」に変更したりしたものであり,引用元等を明示することもなく引用元の表現を直接改変した上,それをそのまま本件ウェブサイトに匿名で投稿したものであって,これが議論を目的としたものであるとはにわかにうかがわれないばかりか,公正な慣行に合致した正当な範囲内での引用であるともおよそうかがわれない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
4 争点(2)ア(本件各記事の著作者)について
前記1からすると,本件各記事の著作者は原告であると認められる(被告も,この点については不知などとするのみで,原告以外の第三者が著作者であることなどを積極的に主張するものではない。)。
5 争点(2)イ(著作者人格権侵害の成否)について
本件情報1ないし17については,前記2(2)及び(3)のとおり翻案権侵害が認められるところ,これらの表現では原告の意に反する改変がされており,かつ,原告の氏名が表示され(本件情報1)又は表示されていない(本件情報2ないし17)。
したがって,本件情報1ないし17については,原告の著作者人格権のうち,少なくとも同一性保持権及び氏名表示権を侵害することが明らかである。
6 争点(2)ウ(「やむを得ない改変」該当性)について
前記3からすると,本件情報1ないし17について,本件各記事の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし,やむを得ないと認められる改変が行われたものということはできない。
したがって,この点についての被告の主張は,採用することができない。
7 争点(3)(名誉権侵害の成否)及び争点(4)(名誉感情侵害の成否)について
事案に鑑み,本件情報18についてのみ検討する。
(1)
被告は,本件情報18には原告の氏名が一切出てこない旨を指摘する。
しかし,本件情報18は本件スレッドに投稿されたものであるところ,本件スレッドの表題は「風水甲3」というものであって,原告の職業である「風水」及び氏である「甲」と符合すること,本件スレッドの投稿番号1番の投稿には原告のブログのURLが貼り付けられていること,本件スレッドへの投稿の中には原告の氏名やこれに酷似した氏名が繰り返し出てくることが認められる。そうすると,一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合,本件スレッドは原告についての投稿を主たる目的とした掲示板であって,本件スレッドに投稿された情報は,第三者の氏名が明記されているなどの特段の事情のない限り,原告に関するものであるとの印象を与えるというべきである。
そして,本件情報18は,「風水」業を廃業する旨の記載が一人称による陳述形式でされており,また,原告のブログ名である「風水甲」に酷似した「風水山師」という記載まであるのであって,他方で第三者の氏名等の記載も何ら見当たらない。そうすると,一般読者の普通の注意と読み方を基準として判断した場合,本件情報18は,本件スレッドの主題たる人物であって,「風水」を業とし,「風水甲」というブログを開設している原告に関する情報であるとの印象を与えるものと認められる。
(2)
そこで,本件情報18の内容についてみると,本件情報18には今年中に「風水」業を廃業するとの記載があるが,これは,現に「風水」に関するコンサルタント及び執筆活動を行っている原告にとって,社会的評価を低下させる記載であるといわざるを得ない。
また,その廃業の理由として,本件情報18には「痛風の為」及び「断酒,療養に専念のため」との記載があるが,これも,原告の健康状態が良好でなく,不摂生な生活を送っている旨を印象付けるものであって,その社会的評価を低下させる記載であるというほかない。
さらに,本件情報には「風水山師」との記載があるが,「山師」には「他人をあざむいて利得をはかる人」(広辞苑第6版2839頁)との意味もあることからすると,これも,原告が他人を欺く人物であるとの印象を与えるものであって,その社会的評価を低下させる記載であるというべきである。
加えて,以上の諸事情に照らせば,これらの記載は,原告が廃業を予定し,痛風を抱え,「山師」であるなどと摘示することにより,原告に強い不快感を抱かせ,その自尊心を傷つけるものであるというべきであって,社会通念上受忍すべき限度を超えて原告の名誉感情を不当に侵害するものであるということができる。
したがって,本件情報18は,原告の名誉権及び名誉感情を侵害することが明らかであるというべきである。
(3)
この点につき被告は,本件情報18の前後の投稿には「B」との記載があるから,本件情報18は原告ではなく「B」なる人物に関する投稿と推測することになる旨主張する。しかし,本件情報18自体には前後の投稿と関連付けられるような特段の記載もないのであって,被告の主張はその前提を欠き,採用することができない。
また,被告は,原告が痛風だと述べたところで原告の社会的評価が低下するとは到底考えられないとか,「山師」との記述により原告の社会的評価が低下するとは到底考えられないなどとも主張する。
しかし,これも上記(2)で検討したところに照らし,いずれも採用することができない。
8 争点(5)(正当理由の有無)について
前記1ないし7のとおり,少なくとも,本件情報1ないし17によって原告の著作権(翻案権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)が侵害され,また本件情報18によって原告の名誉権及び名誉感情が侵害されたことは明らかである。
したがって,原告が本件発信者に対して損害賠償等を請求するためには,その氏名等及び住所の開示が必要であることは,論を待たないというべきである。