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著作権判例セレクション

【言語著作物】公表権に基づき文書の削除を請求するという内容の催告書の著作物性を否定した事例

平成210330日東京地方裁判所[平成20()4874]▶平成21916日知的財産高等裁判所[平成21()10030]
() 本件は,別紙文章を内容とする書面(「本件催告書」)を被告にメールで送信した原告(読売新聞西部本社の法務室長)が,被告(フリージャーナリスト)が開設するインターネットウェブサイト(「被告サイト」)において,本件催告書が掲載されたことから,被告に対して,本件催告書について原告が有する公表権及び複製権に基づき,被告サイトから,本件催告書の削除を求めた事案である。
※原告は,丙弁護士に対して,別紙文章を内容とする書面(「本件回答書」)をファクシミリで送信したところ,本件回答書が被告サイトに掲載されているのを発見したので,被告に対して,本件催告書をメールに添付する方法で送信した。被告は,原告から送信された本件催告書を被告サイトに掲載した。

1 争点(1)(本件催告書を作成したのは,原告であるか)について
(1)ア 前記争いのない事実等,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。
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イ 上記の認定事実によれば,本件催告書には,読売新聞西部本社の法務室長の肩書きを付して原告の名前が表示されているものの,その実質的な作成者(本件催告書が著作物と認められる場合は,著作者)は,原告とは認められず,原告代理人(又は同代理人事務所の者)である可能性が極めて高いものと認められる。
これに対して,原告は,本件催告書を作成したのは原告である旨主張し,原告本人尋問において,本件催告書は,原告が作成したものであり,原告代理人には,本件催告書の文末の部分の添削を受けただけであると供述する。
そこで,この点について,以下,検討する。
(ア)前記アで判示したように,本件催告書は,平成19年12月21日の午後6時26分に,メールで被告に送信されたところ,原告は,原告本人尋問において,同日に,被告サイトに本件回答書が掲載されていることを発見したため,原告代理人に対し,その対処方法について相談した結果,本件催告書を被告に送信することになったこと,原告がまず本件催告書の草案を作成し,これを原告代理人に対しメールによって送信し,原告代理人から上記草案の末尾のみ修正を受けたことを供述する。
また,原告は,この点に関連して,本件催告書を作成するに当たって,法務室において過去に作成されパソコン等に保存された催告書等の文例を一切参考することなく,しかも,市販の文例集等も参考にせずに,法務室に備え付けの著作権法関係の本を5,6冊読み,六法全書を見て作成した旨供述する。
しかしながら,前記アで判示したとおり,原告は,社会部を中心とする取材記者の経歴が長く,大学時代を含めて,これまで専門的に法律を習得した機会はなく,読売新聞西部本社において,法務室に配属されたのも,本件催告書を作成する7か月余り前のことであり,また,これまで,催告書を作成した経験もないところ,このような経歴,素養を有する原告が,上記のような数時間程度の期間内で,作成済みの催告書や文例を一切参考にせずに,六法全書と著作権法関係の本を参考にして,本件催告書とほぼ同一の内容の草案を作成できるとは到底考え難いところである。
(イ)また,原告は,原告本人尋問において,日常の業務においては,ワープロソフトとしてはワードを使用していることを自認するところ,本件催告書の作成に当たっては,会社にあるパソコンで作成したことは覚えているが,使用したワープロソフトは覚えていない旨供述する。
しかしながら,原告が,本件催告書を,会社に備え付けのパソコンで作成したのであれば,通常,日常の業務において使用しているワープロソフトであることを自認するワードによって本件催告書を作成したものと考えられ,原告本人尋問においても,そのように供述するのが自然と解される。また,原告が,本件催告書を日常の業務で使用しているワープロソフト以外のソフトで作成した可能性があるのであれば,そのことの説明をするのが自然であるというべきであり,それにもかかわらず,上記のような供述をすることは理解し難いところである(このような供述の不自然さから,原告は,本件催告書の作成において使用されたワープロソフトがワードではない可能性や,そもそも読売新聞西部本社の法務室に備えてあるパソコンにPDF作成ソフトがインストールされていない可能性があることを考え,上記のような供述をしたのではないかとの疑念が生じる。)。
さらに,原告は,原告本人尋問において,本件催告書のうち,原告自身が創作性があると考える部分は具体的にどこであるかという質問に対しては,全体として創作性がある,又は自分で考えて作成したことに創作性がある旨の供述に終始しており,具体的な創作的表現を指摘できず,また,本件催告書の作成に当たって留意した点などの本件催告書の作成経緯についても,一切触れておらず,この点も不自然といわなければならない。
(ウ)なお,原告は,原告本人尋問において,自ら作成した本件催告書の草案を原告代理人に確認してもらうために,そのデータをメールに添付することにより送信した旨供述するが,原告及び原告代理人の両名とも,現在,上記メールのデータを有しておらず,この点も,不自然であるとの感は否めない。
(エ)ところで,代理人催告書は,原告代理人が作成したものであることは争いがないところ,同催告書は,宛先会社に対して,同社が開設するウェブサイトから原告代理人作成に係る文章の削除を求めるという内容の催告書であるが,証拠によれば,本件催告書は,代理人催告書と,1行の文字数及びフォントが同一であり(なお,原告は,原告代理人による本件催告書の草案の修正は,原告が原告代理人に対して本件催告書の草案をメールで送信した上で,同草案を確認した原告代理人から電話で指示を受けて,原告が自ら行うという方法でされたものと思われる旨供述しており,同供述のとおりとすれば,原告代理人が,原告から送信されてきた本件催告書の草案の修正をした際に,その文字数及びフォントを,自己の業務で使用している書式と同一のものと変更し,この修正後のデータを原告に送信したものとは考えられない。),また,前文として「冠省」という言葉を,結語として「不一」という言葉を使用している点で一致しており,文章の構成も類似している(両者とも,①中止を求める被告の行為の指摘,②原告が有する権利の主張,③上記の被告の行為が原告の上記権利を侵害する旨の主張,④上記の被告の行為の中止の要求,⑤同要求に従わなかった場合,法的手段に訴えることの通告という構造になっている。)ことが認められる。
さらに,本件催告書及び代理人催告書とも,公表権を有することを表現するために,「専有」という用語を使用しているところ,著作権法上,著作財産権については,「専有」という用語が使用されるが,著作者人格権については,同用語は使用されないのであるから,公表権について「専有」という用語を使用した本件催告書及び代理人催告書は,特徴的な用語の使用法をしており,その特徴的部分が一致していると認められる。しかも,原告は,原告本人尋問において,六法全書を見て本件催告書を作成したと供述しており,また,本件催告書には,「私が専有しています(著作権法18条1項)」と,公表権の根拠条文が記載されているところ,原告が,著作権法18条1項の条文を参考としながら,本件催告書を作成したのであれば,公表権を「専有」するという記載をした根拠が不明である。一方,原告代理人は,代理人催告書に限らず,本件訴訟における訴状及び準備書面においても,公表権を有することを表現する際に,「専有」という用語を使用していることから,このような用法による場合が多いものと推測される。
これに対して,原告は,本件催告書と代理人催告書とが類似しているのは,代理人催告書の宛先会社が,本件催告書の宛先である被告と連絡を取り合って原告代理人の権利を侵害していると考えられたことから,「同じ相手には同じ書面で対応している」ことを示すため,代理人催告書を本件催告書と基本的に同じ構成としたからであると主張する。しかしながら,仮に,代理人催告書の宛先会社が,本件催告書の宛先である被告と連絡を取り合って原告代理人の権利を侵害しているとしても,同社に対し,本件催告書と同じ書面で対応していることを示す合理的な必要性は認められず,また,法律専門家である原告代理人が,そのような資格を有しない原告の作成した文章に追従して同じ構成の文章を作成することも,不自然というほかなく,原告の上記主張は,理由がない。
(2) 以上の諸点を考慮すると,本件催告書は,原告が作成したものではないと認められる。
2 争点(2)イ(本件催告書は,創作的な表現といえるか)について
前記1のとおり,本件催告書を作成したのは原告ではないと認められるが,事案に鑑み,仮に,本件催告書を作成したのが原告であるとした場合に,本件催告書が創作的な表現といえるか否かについても,検討する。
(1) 著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,作成者の何らかの個性が発揮されていれば足り,厳密な意味で,独創性が発揮されたものであることまでは必要ないが,作成者の個性が何ら現れていない場合は,「創作的に表現したもの」ということはできないと解すべきところ,言語からなる表現においては,文章がごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,作成者の個性が現れておらず,「創作的に表現したもの」ということはできないと解すべきである。
(2) そこで,本件催告書について,以下,検討する。
ア 本件催告書は,被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を,本件回答書の公表権に基づき要求するという内容のものであり,その本文は,本件第1文から本件第5文までの5つの文章から構成されている。
イ 本件第1文について
本件第1文は,被告サイトに,本件回答書の本文が全文記載されているという事実を表現したものである。このように事実を記載した文章であるから,その表現方法の選択の幅は狭く,また,本件第1文の具体的な表現方法を見ても,平凡な表現方法によっており,ありふれたものであり,したがって,本件第1文には原告の個性は現れていないというべきである。
ウ 本件第2文について
(ア)本件第2文は,本件回答書の文章について,原告が公表権を有しているという主張を表現したものである。
本件回答書について,原告が公表権を有しているというためには,①原告が本件回答書を作成したこと,②本件回答書が著作物であること,③本件回答書が未公表であることを主張する必要がある。
(イ)上記の①原告が本件回答書を作成したという点について,本件催告書は,「著作者である私」と極めて簡潔に表現しており,同表現に原告の個性が現れていないことは明らかである。
(ウ)上記の②本件回答書が著作物であるという点については,本件催告書は,「著作物です」と極めて簡潔に表現しており,同表現にも原告の個性が現れていないことは明らかである。
(エ)上記の③本件回答書が未公表であるという点については,本件催告書は,「上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり,未公表の著作物です」と表現している。
a この点,著作物は,当該著作物が発行された場合,又は,権利者若しくはその許諾を得た者によって公衆送信等された場合に,公表されたことになるところ(著作権法4条),本件回答書は,ファクシミリにより丙弁護士にのみ送信されたものであり,その丙弁護士が原告にとっては「公衆」ではなく特定の者であることを主張する(著作権法2条5項参照)ために,本件催告書のように,「上記の回答書は特定の個人に宛てたものであり」と表現することは,特段の工夫がされたということはできず,同表現に,著作者の個性が現れているということはできないというべきである。
b これに対し,原告は,「特定の個人に宛てたもの」との文言は,日常的に用いられる普通の用語ではないから,同表現には原告の創意工夫が認められる旨主張する。
しかしながら,本件催告書は,法律上の権利に基づき,同権利の侵害行為の中止を要求する文章であるから,必ずしも日常的に用いられる用語を使用するわけではなく,「特定の」という文言も,公衆ではないということを示すための法律用語であるから,上記文言が日常的に用いられないことをもって,創意工夫が認められる旨の原告の主張は理由がない。
c また,原告は,本件回答書が公表されているか否かの点については,著作権法の条文に基づく細かな説明をせずに,「特定の個人に宛てたもの」と記載するに止めたことをもって,本件催告書に創作性が認められるかのような主張をする。
しかしながら,自己の要求を簡潔に示した催告書においては,相手方に説明する必要のない事項については,適宜省略するのが通常であるところ,本件催告書においても,本件回答書が公表されているか否かの点については,特段,当事者間で問題となるとは予想されないから,本件回答書が公表されたとはいえないことの細かな説明も,通常,省略するものと解され,そのことに原告の個性が現れているということはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
d また,原告は,著作権法上の公表権の根拠規定を摘示したことを創作性の根拠とするかのような主張をするが,法律上の権利の主張をする際に,当該権利の根拠規定を摘示するのは通常のことであるから,原告の上記主張は理由がない。
エ 本件第3文について
本件第3文は,本件回答書を,被告サイトに掲載することにより公表したことは,本件回答書について原告が有する公表権を侵害する違法行為であるという主張を表現したものであるが,上記の主張内容を本件第3文のように表現することはありふれており,同表現には,原告の個性が現れていないというべきである。
この点,原告は,本件第3文において,種々の民事上の救済や刑事罰の詳細を記載することはせず,単に「民事上も刑事上も違法な行為」という抽象的な言い方に止めた点に創作性が認められる旨主張する。
しかしながら,本件催告書のように,自己の法律上の要求を簡潔に示した文章においては,差止めの対象とする行為の違法性を指摘する際に,単に「民事上も刑事上も違法な行為」という抽象的な言い方に止めることも,普通のことと解され,この点に創作性を認めることはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
オ 本件第4文について
(ア) 本件第4文は,被告に対して,被告サイトから本件回答書を削除するよう求めることを表現したものである。
被告サイトから本件回答書の削除を求める場合,通常,期限を設けた上で催告を行うものと解されるから,本件催告書が,本件回答書の削除の期限を設定したことは,極めて一般的なことであり,また,その表現方法もありふれたものであるから,同表現に原告の個性が現れていないことは明らかである。
また,公表権を侵害する行為に対しては,著作者は,差止請求権を有しているから,公表権侵害行為の中止を求める際にも,その理由として,単に,当該行為が違法であることを示すだけでなく,当該行為に対して差止請求権を有していることを示すことも,極めて一般的なことと解され,本件第4文において,被告サイトからの本件回答書の削除の要求の理由として,「このような違法行為に対して,・・・私は,差止請求権を有しています(同法112条1項)ので」と記載することに,原告の個性が現れているということはできないと解される。
なお,原告は,差止請求権の根拠規定を摘示したことを創作性の根拠とするかのような主張をするが,法律上の請求をする際に,当該請求の根拠規定を摘示するのは通常のことであるから,原告の上記主張は理由がない。
また,本件第4文では,本件回答書の削除要求は,公表権に基づくものであるにもかかわらず,原告は,本件催告書の請求の主体である自分のことを,本件回答書の著作者ではなく,著作権者であると表現しているが,原告自身,このように,自己を著作権者と表現したことに特段の意図を有していなかったことを考慮すると,この点に原告の個性が現れているということはできないと解される。
(イ)この点,原告は,本件第4文において,差止請求権以外の救済ないし刑事罰については,あえて言及しなかった点に創作性が認められる旨の主張をする。
しかしながら,本件催告書は,被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を求めるものであるから,差止請求権以外の請求権等について言及する必要性はなく,それらの点について言及しなかったのは当然ともいえる。また,本件催告書で記載された要求に従わない場合に,原告が採りうる法的手段を示すという意味で,原告の有する各種の請求権に言及することは考え得るところであるが,本件催告書のように,自己の要求を簡潔に示した文章においては,自己の催告に従わなかった場合に採るべき法的手段を逐一具体的に指摘しないことは,普通のことと解され,上記の言及を行わなかった点について創作性を認めることはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
カ 本件第5文について
本件第5文は,本件催告書による原告の催告に被告が従わない場合に,法的手段に訴えることを表現したものであり,同意思を表現するものとして,本件第5文のような表現形式を採ることはありふれており,本件第5文に原告の個性が現れていないことは明らかである。
この点,原告は,本件第5文の「相応の法的手段」の具体例を示さなかったことに創作性が認められる旨の主張をする。
しかしながら,前記オ(イ)で判示したように,本件催告書において自己の催告に従わなかった場合に採るべき法的手段として,その具体的内容を逐一指摘しないことは,普通のことと解され,この点に創作性を認めることはできないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
キ 本件催告書全体の構成について
(ア)本件催告書の構成は,本件第1文において,本件催告書によって中止を求める対象となる被告の行為を指摘し,本件第2文において,原告の権利内容の主張をし,本件第3文において,本件第1文で指摘した被告の行為は,本件第2文で示した原告の権利を侵害する違法な行為であることを主張し,本件第4文において,被告に対して,本件第1文で指摘した行為の中止を求め,本件第5文において,本件第4文の催告に従わない場合に,原告が法的措置を採ることを示すというものである。
被告サイトに掲載されている本件回答書の削除を,本件回答書の公表権に基づき請求するという内容の催告書を作成する場合,種々の構成が考えられるが,上記の構成を採ることは自然であり,実際,代理人催告書も,上記と同じ構成を採っており,各種の催告書の文例にも,上記の構成と同様の構成を採っているものがある。
したがって,本件催告書全体の構成に,原告の個性が現れているということはできないと解される。
(イ)これに対し,原告は,本件催告書は,法律上の論点をすべて網羅することはせず,必要な限度において論点を取捨選択し,これを理解しやすい順番に並べたものであり,この点に,創作性が認められる旨の主張をする。
確かに,本件回答書についての公表権に基づき,被告サイトから本件回答書の削除を要求する文章を作成する場合,取り上げるべき論点,記載すべき事項についての選択が可能であり,また,その記載の順序についても,種々のものが考えられるが,著作権法上,言語の著作物として保護されるのは,そのような選択に関するアイデア自体ではなく,具体的な表現であると解すべきである。したがって,素材や表現形式に選択の幅があったとしても,実際に作成された言語上の表現がありふれたものである限り,創作性は認められないと解するのが相当であるから,原告の上記主張は理由がない。
(3)以上より,仮に,本件催告書を作成したのが原告であるとした場合は,本件催告書は,創作的な表現ということはできないというべきである。
3 したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求は理由がない。

[控訴審同旨]
当裁判所も,原告の請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり,付加するほか,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する(なお,本判決で再掲した部分がある。)。
1 本件催告書を作成したのは,原告であるかについて
(1) 原判決の該当部分のとおりであり,再掲する。
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(2) 本件催告書の作成者に関する当裁判所の補足的判断
原告は,原告が勤務する法務室には,六法はもとより,著作権に関する書籍も4,5冊程度は備えられていたため,本件催告書を作成することができた旨主張し,原告が勤務する読売新聞西部本社法務室には,半田正夫「著作権法概説(第11版)」,田村善之「著作権法概説(第2版)」,半田正夫・紋谷暢男編「著作権のノウハウ(第6版),TMI総合法律事務所編「著作権の法律相談(第2版)」が備えられていたとして,その写しを提出する。
しかし,原告本人の下記の供述内容に照らすならば,上記各書籍が備えられていた事実があったとしても,本件催告書の作成者が原告であると認めることはできない。
ア 原告本人の供述内容
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イ 原告の供述に対する評価
原告の上記供述の内容,すなわち,原告は,平成19年12月21日,被告サイトに本件回答書が掲載されていることを発見したため,原告代理人に対し,その対処方法について相談し,著作権侵害を理由として本件催告書を送信することの示唆を受けて,原告が本件催告書の作成を開始し,これを原告代理人に対しメールによって送信し,原告代理人から末尾のみ修正を受けて,これを被告に対して送信したという供述内容は,原判決に記載したとおり,極めて不自然である。すなわち,①原告の著作権法や法的紛争の解決に関する知識経験の程度,②読売新聞西部本社と販売店経営者との法的紛争の重要性に関する同社の認識の程度等,③原告及び原告代理人のいずれからも,本件催告書作成過程を示す客観的なデータが提出されていないこと等に照らすならば,本件催告書は,原告から相談を受けた,原告代理人事務所において,本件催告書を作成し,そのデータをメールに添付する方法により,原告に送信し,これを受信した原告が,被告に対して送信したものと認定することによって,辻褄が合うといえる。
ウ 原告は,原告が自ら執筆していないのに,あえて事実と異なる主張をして,争点を増やす動機は存在しないなどと主張する。しかし,読売新聞西部本社又は原告代理人が被告に対して訴えを提起した際に生ずる影響等を考慮して,原告が本件催告書を作成したこととして訴えを提起することに,動機がないわけではない。原告の主張は採用の限りでない。
エ 原告は,「代理人催告書」と「本件催告書」とを対比すると,「代理人催告書」は公表権及び複製権を根拠とするのに対し,「本件催告書」は公表権のみを根拠としている点で相違するから,両書面の作成者は異なるなどと主張する。
しかし,「代理人催告書」と「本件催告書」は,いずれも,①冒頭に「冠省」,末尾に「不一」との,やや特異な語を使用している点,②文章の構成が酷似している点,③一行の文字数が同一であること,③著作者人格権についても「専有」という独特の語を使用している点等を総合考慮すると,「代理人催告書」と「本件催告書」は,同一の作成者に係る書面であると推認される。
原告主張の上記相違点をもって,本件催告書が,原告代理人事務所において作成されたのではなく,原告において作成されたと認める根拠とすることはできない。
2 結論
その他,原告は,縷々主張するが,いずれも理由がない。以上によれば,原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。