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著作権判例セレクション
【言語著作物】取締役会議事録の著作物性を否定した事例
▶平成17年3月17日大阪地方裁判所[平成16(ワ)6804]▶平成17年10月25日大阪高等裁判所[平成17(ネ)1300]
4 争点(4)(原告ダスキンの著作権侵害の有無)について
(1) 本件文書1について
原告は,本件文書1[注:謄写許可申請事件において,被申請人であった原告ダスキンの代理人弁護士が作成し,裁判所に提出した意見書をさす]を作成した弁護士は本件訴訟の原告訴訟代理人であり,原告訴訟代理人が本件訴訟手続において一貫して本件文書1の著作権が原告ダスキンに属すると主張していることから,本件文書1の著作権は,それを作成した弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から原告ダスキンに黙示に譲渡されたと主張する。
本件文書1の著作権は,元々はこれを作成した弁護士に帰属していたものと認められる。そして,弁護士が依頼者の依頼を受けて裁判手続上作成した文書の著作権が依頼者に譲渡されることは通常行われないところ,本件文書1を作成した弁護士である原告訴訟代理人が,本件訴訟手続において一貫してその著作権が原告ダスキンに属すると主張していたからといって,これを裏付ける客観的証拠は全くなく,また,本件訴訟追行上原告ダスキンに本件文書1の著作権を帰属させる必要があるという以外に,そのような譲渡行為が行われることを首肯させるに足りる合理的事情は証拠上全く窺えない。したがって,原告ダスキンの主張する上記事情のみから,本件文書1の著作権が作成者である弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から原告ダスキンに黙示に譲渡されたと認めることはできず,他に,そのような譲渡を認めるに足りる証拠はない。したがって,本件文書1の著作権は,原告ダスキンに属するものとは認められない。
(2) 本件文書2ないし11について
著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるところ(著作権法2条1項1号参照),(証拠)によれば,本件文書2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
本件文書5には,「全体スケジュール(案)」,「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」と題する表が付されているが,前者は,再生委員会の答申の予定時期等についてありふれた手法によって表現したものであり,後者も,再生委員会の構成と分科会のテーマをありふれた方法で列挙したものにすぎず,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
本件文書6には,「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」と題する表が付されているが,再生委員会の構成と分科会のテーマをありふれた方法で列挙したものにすぎず,また,「再生委員会」,「分科会委員」と題する書面も付されているが,目的,権限,役割,議案等をありふれた表現で記載して列挙したものにすぎず,さらに,「ミスタードーナツカンパニー組織図」と題する図が付されているが,これも,各部門とその構成員をありふれた構成図の形で表現したものにすぎず,いずれも,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
したがって,本件文書2ないし11は,いずれも創作性があるとは認められず,著作物であるとは認められない。
(3) 前記(1)のとおり,本件文書1の著作権が原告ダスキンに属するものとは認められず,前記(2)のとおり,本件文書2ないし11は,いずれも著作物であるとは認められないから,原告ダスキンの本件文書1ないし11についての著作権に基づく請求は,いずれも理由がない。
[控訴審同旨]
4 争点(4)(1審原告ダスキンの著作権侵害の有無)について
(1) 本件文書1について
1審原告は,本件文書1を作成した弁護士は本件訴訟の1審原告ら訴訟代理人であり,1審原告ら訴訟代理人が本件訴訟手続において一貫して本件文書1の著作権が1審原告ダスキンに属すると主張していることから,本件文書1の著作権は,それを作成した弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から1審原告ダスキンに黙示に譲渡されたと主張する。
本件文書1の著作権は,元々はこれを作成した弁護士に帰属していたものと認められる。そして,弁護士が依頼者の依頼を受けて裁判手続上作成した文書の著作権が依頼者に譲渡されることは通常行われないところ,本件文書1を作成した弁護士である1審原告ら訴訟代理人が,本件訴訟手続において一貫してその著作権が1審原告ダスキンに属すると主張していたからといって,これを裏付ける客観的証拠は全くなく,また,本件訴訟追行上1審原告ダスキンに本件文書1の著作権を帰属させる必要があるという以外に,そのような譲渡行為が行われることを首肯させるに足りる合理的事情は証拠上全く窺えない。したがって,1審原告ダスキンの主張する上記事情のみから,本件文書1の著作権が作成者である弁護士又はその弁護士の属する弁護士法人から1審原告ダスキンに黙示に譲渡されたと認めることはできず,他に,そのような譲渡を認めるに足りる証拠はない。したがって,本件文書1の著作権は,1審原告ダスキンに属するものとは認められない。
また,仮に本件文書1に係る権利の譲渡が認められるとしても,著作権法は,「思想又は感情」自体を保護するものではなく,その「創作的な表現」を保護するものであるところ(著作権法2条1項1号参照),既にみたとおり,本件文書1は,1審被告の申請理由に対する簡略な認否及び1審被告の申請に係る取締役会議事録のうち1審被告の権利行使に必要と考えられる期間,範囲を簡単に記載するなどしたものであって,その文言,言い回し,配列等も,法律的文書としてはごくありふれた表現,配列を用いて記述したものにすぎず,作成者の個性が表れているとまでは認められず,創作性があるとは認められないから,その点でも,本件文書1の著作権に基づく1審原告ダスキンの主張は認められない。
(2) 本件文書2ないし11について
(証拠)によれば,本件文書2ないし11に記載された文章は,取締役会議事録のモデル文集の文例に取締役の名称等を記入しただけのものではないものの,使用されている文言,言い回し等は,モデル文集の文例に用いられているものと同じ程度にありふれており,いずれも,日常的によく用いられる表現,ありふれた表現によって議案や質疑の内容を要約したものであると認められ,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
また,開催日時,場所,出席者の記載等を含めた全体の態様をみても,ありふれたものにとどまっており,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
なお,本件文書5には,それぞれ「全体スケジュール(案)」,「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」と題する2枚の表が添付されているが,前者は,再生委員会と7つの分科会の答申及び働きさん提案の関係や,再生委員会の決議の予定時期等について,大まかに,かつありふれた手法によって表現したものにすぎず,後者も,再生委員会の構成と上記7つの分科会の名称及びテーマをありふれた手法で列挙したものにすぎず,思想又は感情の創作的な表現作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
また,本件文書6には,「ダスキン再生委員会と分科会テーマについて(案)」と題する1枚の表が付されているが,再生委員会の構成と分科会のテーマをありふれた方法で列挙したものにすぎず,また,「再生委員会」,「分科会委員」と題する2枚の書面も付されているが,前者は,再生委員会の主旨目的,権限,役割,議案等をありふれた表現で羅列したものにすぎず,後者も,分科会委員の役割及び権限をありふれた表現で羅列したものにすぎないし,さらに,「ミスタードーナツカンパニー組織図」と題する1枚の図も付されているが,各部門とその構成員を,ごくありふれた構成図の形で表現したものにすぎず,いずれも,作成者の個性が表れているとは認められず,創作性があるとは認められない。
したがって,本件文書2ないし11は,いずれも創作性があるとは認められず,著作物であるとは認められない。
(3) 前記(1)のとおり,本件文書1は,著作権が1審原告ダスキンに属するものとは認められない上,著作物であるとも認められず,前記(2)のとおり,本件文書2ないし11は,いずれも著作物であるとは認められないから,1審原告ダスキンの本件文書1ないし11についての著作権に基づく請求は,いずれも理由がない。