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著作権判例セレクション

【公衆送信権】ファッションショーの映像の公衆送信権の侵害性が問題となった事例/ファッションショーの実演性が問題となった事例/ファッションショーのモデルのポーズ動作の著作物性を否定した事例
▶平成250719日東京地方裁判所[平成24()16694]▶平成26828日知的財産高等裁判所[平成25()10068]
() 本件は,原告らが,被告NHKは,被告W従業員を介して,原告らの開催したファッションショー(「Forever21」の衣装等を使用したファッションショー)の映像の提供を受け,上記映像の一部である別紙記載の映像(「本件映像部分」)をそのテレビ番組(「特報首都圏」「“激安”ファストファッション~グローバル企業が狙うニッポン~」)において放送し,これにより,原告会社の著作権(公衆送信権)及び著作隣接権(放送権)並びに原告Aの著作者及び実演家としての人格権(氏名表示権)を侵害したと主張し,被告らに対し,著作権,著作隣接権,著作者人格権及び実演家人格権侵害の共同不法行為責任(被告Wについては使用者責任)に基づく損害賠償として,賠償金等の連帯支払を求めた事案である。

1 争点(1)(著作権,著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)
(1)ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。
イ また,著作権侵害を主張するためには,当該作品等の全体において上記意味における表現上の創作性があるのみでは足りず,侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり,当該部分が著作物性を有することが必要となる。
本件において,原告らは,本件映像部分の放送により,本件ファッションショーの①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張するものであるから,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,侵害を主張する趣旨であると解される。したがって,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作物性が認められることが必要となる。
ウ 原告らがどのような権利につき侵害を主張する趣旨であるかについては明確ではない点があるが,本件番組の放送により,原告会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)及び著作隣接権(放送権・同法92条1項)(いずれも,原告会社が原告Aから譲渡を受けたと主張するもの。)並びに原告Aの著作者及び実演家としての氏名表示権(著作者としての氏名表示権につき同法19条1項,実演家としての氏名表示権につき同法90条の2第1項)が侵害されたと主張する趣旨であると解される。このうち,公衆送信権侵害が認められるためには,「その著作物について」公衆送信が行われることを要するのであるから(同法23条1項),上記公衆送信は,当該著作物の創作的表現を感得できる態様で行われていることを要するものと解するのが相当である。そして,当該著作物の創作的表現を感得できない態様で公衆送信が行われている場合には,当該著作物について公衆送信が行われていると評価することができないとともに,「その著作物の公衆への提供若しくは提示」(同法19条1項)がされているものと評価することもできないから,公衆送信権侵害及び著作者としての氏名表示権の侵害は,いずれも認められないものというべきである。
エ 以上を前提に,まず,公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害の成否について検討する。
(2) 公衆送信権(著作権法23条1項),氏名表示権(同法19条1項)侵害の成否
ア ①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングについて
() 本件映像部分の各場面におけるモデルの化粧及び髪型は,別紙映像目録添付の各写真のとおりであり,「Iline1着目」は下ろした髪全体を後ろに流した髪型,「Anna1着目」及び「Anna2着目」は緩やかにカールを付けた髪を下ろした髪型,「Izabella2着目」は耳上の髪をまとめ,耳下の髪にカールを付けて下ろした髪型,「Tamra2着目」は全体に強めにカールを付けて下ろした髪型であり,また,いずれのモデルにも,アイシャドーやアイライン,口紅等を用いて華やかな化粧が施されているものということができる。
() しかし,上記化粧及び髪型は,いずれも一般的なものというべきであり,作成者の個性が創作的に表現されているものとは認め難い。
また,本件映像部分における各場面は,約2秒ないし9秒間のごく短いものである上,動くモデルを様々な角度から撮影したものであることから,各モデルの顔及び髪型が映る時間は極めて短いものであるということができる。これに加えて,本件映像部分は,暗い室内において,局所的に強い照明を当てながら撮影されたものであるため,本件映像部分から,各モデルの化粧及び髪型の細部を見て取ることは困難であるというべきであり,原告らが主張するような,細部におけるアイラインの引き方やまつ毛の流し方,目元,唇等における微妙な色の工夫等を看取することはできないものである。そうすると,仮にこれらの点に創作性が認められるとしても,本件映像部分において,上記創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。
() したがって,これらの点には著作物性がなく,また,仮に著作物性が認められる点があるとしても,これが本件映像部分において公衆送信されているものとは認められない。
イ ②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートについて
() 本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服,アクセサリー等は別紙映像目録添付の各写真のとおりであり,①「Iline1着目」として黒のレース素材のトップス,豹柄のスカート,黒のベルト,紫色の輪状の耳飾り及び黒のヘッドドレスの組み合わせが,②「Anna2着目」として白地に黒の水玉模様のワンピースに黒のベルト,パールネックレス,ピンクと黒のヘッドドレスの組み合わせが,③「Anna1着目」として緑色のワンピース,銀色の腕輪,黒のヘッドドレスの組み合わせが,④「Izabella2着目」として黒のワンピースと黒のヘッドドレスの組み合わせが,⑤「Tamra2着目」として黒の毛皮のコート,紫色のトップス,黒のスカート,紫色のバッグ,ヘッドドレスの組み合わせがなされていることが認められる。
() しかし,上記衣服及びアクセサリーは,いずれも既製品であり,かつ,そのほとんどは「Forever21」の商品であって,大量販売が予定されているものということができるところ,このような衣服及びアクセサリーについては,消費者がこれを適宜選択して様々に組み合わせ,身に着けることが当然に予定されているものというべきである。そうすると,このような衣服又はアクセサリーの選択及び組み合わせについては,通常考えられるところと著しく異なる特殊な組み合わせ方であるなど,組み合わせを行った者の独自の個性の表れとみることのできるような特殊又は特徴的な点がない限り,ありふれたものであり創作性がないものと解するのが相当である。
() 本件映像部分に表れた上記衣服及びアクセサリーの選択及び組み合わせ方に,上記のような特殊又は特徴的な点を認めることはできないから,これらの点に創作性は認められず,著作物性は認められない。
ウ ④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付けについて
() 本件映像部分において,「Iline1着目」では,モデルが手を前後に大きく振りながら歩き,立ち止まって両手を腰に当てた上で,腰を向かって左,右(向かって左,右を指す。以下同じ。)の順にゆっくりと大きくひねる様子(ただし,場面1(1)では手を前後に振る様子は映っておらず,腰をひねる様子も,その一部が映っているにとどまる。)が,「Anna2着目」では,モデルがゆっくりと前方に歩く様子が,「Anna1着目」では,場面1(3)においてモデルが両手を腰に当てて歩き,立ち止まって,手を腰に当てたまま,肩を揺らす様子が,場面2(2)においてモデルが腕を下ろして揺らしながら歩き,やや斜め前方を向いて立ち止まって,左右に向きを変えながら肩と下ろした腕を揺らす様子が,「Izabella2着目」では,モデルが左手に持った紙袋から右手で中身を出し,左手に移し替えた上,右の手の平を広げて耳に当て,さらに,体の横で両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりをした上,左手に持っていた物を右手で投げる様子が,「Tamra2着目」では,モデルが両手を腰の高い位置に当てて歩き,立ち止まって体をひねった後,後ろを向き,歩きながら毛皮のコートを脱ぐ様子が映っていることが認められる。
() 各モデルの上記ポーズ又は動作は,ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいものではないというべきであり,上記ポーズ又は動作において,作成者の個性が表現として表れているものとは認められない。したがって,これらのポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。
エ ⑥化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネートについて
前記①ないし⑤の点がいずれもありふれたものであって創作性が認められず,又は創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないことは前述のとおりであるところ,これらの各要素が組み合わされることにより,作成者の個性の表出というべきような新たな印象が生み出されているものとは認められないから,前記①ないし⑤の点の組み合わせに著作物性を認めることはできない。
オ ⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像について
() 証拠によれば,本件ファッションショーには合計8名のモデルが,それぞれ2着ないし3着(合計20通り)の衣装を身に着けて出演したものであることが認められる。
上記出演順序は,モデルの着替え時間やギフト配布のタイミング等の便宜的な要素を考慮して決定されたものであるとされるところ,上記出演順序が,ドレスの順序(モノトーンの次は明るい色彩に,その次はシックに,その後は再びカラフルに等)も考慮して決定されたものであるとされることを考慮しても,上記出演順序に,思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。
加えて,本件映像部分における場面1(1)ないし(4)は上記出演順序の1番目,11番目,2番目,13番目に,場面2(1)ないし(6)は上記出演順序の1番目,2番目,11番目,1番目,14番目,13番目に各対応していることが認められるのであって,本件映像部分は,本件ファッションショーの映像を順不同に流したものであることが認められる。
そうすると,仮に上記出演順序に創作性が認められるとしても,本件映像部分において,上記創作性を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。
() 背景映像について
原告らは,本件ファッションショーの背景映像は,「City」や「Resort」を印象付けるものとして,モデルや衣装に合わせて場面毎に選択されたものであり,本件映像部分のうち,場面1(3)に甲21号証の写真21が,場面1(4)及び2(6)に甲21号証の写真54が,場面2(2)に甲21号証の写真32がはっきりと映っている旨主張する。
しかし,場面1(3)における背景映像は,甲21号証の写真21とは明らかに異なるものであり,上記場面に同写真が映っているものとは認められない。
また,確かに,証拠によれば,場面1(3)及び場面2(2)には甲21号証の番号32の写真が,場面1(4)及び2(6)(同目録添付写真⑦,⑧,<23><24>)には甲21号証の写真54が映っていることがうかがわれる。
しかし,上記各場面においても,背景映像はややぼやけて映っている上,背景映像がスクリーン上で左から右に流れるように動いて映されているものであることから,上記背景映像が,甲21号証の写真32及び54と同一であるか否かも判然としない。加えて,本件映像部分において,背景映像が映る時間はそれぞれ数秒程度と極めて短いものであることから,上記映像の具体的内容を看取することは困難であるというべきである。
そうすると,本件映像部分において,背景映像に係る創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認めることができない。
(3) 小括
以上によれば,本件ファッションショーのうち,本件映像部分に表れた点に著作物性は認められず,又は本件映像部分において,その創作的表現を感得できる態様で公衆送信が行われているものと認められないから,本件映像部分を放送することが,原告会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)又は原告Aの著作者人格権(氏名表示権・同法19条1項)を侵害するものとは認められない。
(4) 放送権(著作権法92条1項),実演家としての氏名表示権(同法90条の2第1項)侵害の成否
ア 放送権及び実演家としての氏名表示権侵害が認められるためには,「その実演」を放送し,又は公衆に提供・提示する場合であることを要するところ(著作権法92条1項,90条の2第1項),「実演」とは,「著作物を,演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいうものとされる(同法2条1項3号)。
イ 原告らの主張する「実演」の内容は明確ではないが,モデルの動作,ポーズ等が実演に当たると主張するものであるとすれば,上記動作等が著作物に当たらないことは前記(2)ウのとおりであるから,モデルが上記動作やポーズを取ることは,「著作物を…演ずる」ことに当たらず,「実演」には当たらない。
また,原告らが,本件ファッションショーを「実演」として主張するものであるとしても,原告らは,本件ファッションショーが「シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートとリゾートラグジュアリーパーティースタイル)」をコンセプトとするものであること,安価なブランドを用いて高級感を演出したものであること等を主張するのみで,本件ファッションショーが「実演」に当たる理由につき,前記の「原告らの主張」の①ないし⑦の点が著作物に当たること以外に具体的主張をするものではない。そして,本件ファッションショーのうち,上記①ないし⑦の点に,背景写真を除いていずれも著作物性が認められないことは前記(2)でみたとおりである。また,背景写真に著作物性が認められるとしても,その展示が「著作物を…演ずる」ことに当たるものではない。したがって,これらの点により,本件ファッションショーが「著作物を…演ずる」ものに当たるものとは認められない。
ウ 本件ファッションショーの,本件映像部分に表れている部分以外の具体的内容については明らかではなく,本件各証拠及び弁論の全趣旨を総合しても,本件ファッションショーが「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」に当たるものとは認められない。
エ 以上によれば,本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが,「その実演」を公衆に提供し,又は放送する場合に当たるものとは認められないから,本件映像部分の放送が,原告会社の放送権又は原告Aの実演家としての氏名表示権を侵害するものとは認められない。
第5 結論
したがって,原告らの被告らに対する請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。

[控訴同旨]
当裁判所も,被控訴人NHKが本件映像部分を放送することは,控訴人会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項),控訴人Xの著作者人格権(氏名表示権・同法19条1項),控訴人会社の放送権(同法92条1項)又は控訴人Xの実演家としての氏名表示権(同法90条の2第1項)を侵害するものではないので,控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおりである。
1 争点(1)(著作権,著作隣接権及び著作者人格権侵害の成否)
(1)ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しており,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。
そして,当該作品等が「創作的」に表現されたものであるというためには,厳密な意味での作成者の独創性が表現として表れていることまでを要するものではないが,作成者の何らかの個性が表現として表れていることを要するものであって,表現が平凡かつありふれたものである場合には,作成者の個性が表現されたものとはいえず,「創作的」な表現ということはできないというべきである。
イ また,著作権侵害を主張するためには,当該作品等の全体において上記意味における表現上の創作性があるのみでは足りず,侵害を主張する部分に思想又は感情の創作的表現があり,当該部分が著作物性を有することが必要となる。
本件において,控訴人らは,本件映像部分の放送により,本件ファッションショーの①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリング,②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネート,④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付け,⑥これら化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネート,⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像に係る著作権が侵害された旨主張するものであるから,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,侵害を主張する趣旨であると解される。したがって,上記①~⑦の各要素のうち,本件映像部分に表れているものについて,著作物性が認められることが必要となる。
ウ もっとも,本件ファッションショーにおいて用いられた衣服やアクセサリーは,主として,大量生産されるファストファッションのブランドのものであり,これらは,その性質上,実用に供される目的で製作されたものであることが明らかである。そして,控訴人らも,本件ファッションショーにつき,シティとリゾートのパーティースタイル(都会的な女性のドレスアップコーディネートと,リゾートラグジュアリーパーティースタイル)をコンセプトとしたものであるなどと主張しており,本件ファッションショーが上記の各場面における実用を想定したファッションに関するショーであることがうかがえることに照らすと,上記の化粧,髪型,衣服及びアクセサリーを組み合わせたものである前記イ記載の①,②,③及び⑥(⑥については,ポーズ及び動作の部分を除く。)は,美的創作物に該当するとしても,芸術作品等と同様の展示等を目的としたものではなく,あくまで,実用に供されることを目的としたものであると認められる。
そして,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されている美的創作物(いわゆる応用美術)が美術の著作物に該当するかどうかについては,著作権法上,美術工芸品が美術の著作物に含まれることは明らかである(著作権法2条2項)ものの,美術工芸品等の鑑賞を目的とするもの以外の応用美術に関しては,著作権法上,明文の規定が存在せず,著作物として保護されるか否かが著作権法の文言上明らかではない。
この点は専ら解釈に委ねられるものと解されるところ,応用美術に関するこれまでの多数の下級審裁判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁の判例(最高裁平成12年9月7日第一小法廷判決)によれば,まず,上記著作権法2条2項は,単なる例示規定であると解すべきであり,そして,一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しないのであるから,著作権法2条1項1号の定義規定からすれば,量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護されると解すべきである。また,著作権法2条1項1号の上記定義規定からすれば,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,上記2条1項1号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を上記2条1項1号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。
他方,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,上記2条1項1号に含まれる「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることはできないのであるから,これは同号における著作物として保護されないと解すべきである。
エ 以上を前提に,まず,公衆送信権及び著作者としての氏名表示権の侵害の成否について検討する。
(2) 公衆送信権(著作権法23条1項),氏名表示権(同法19条1項)侵害の成否
ア ②着用する衣服の選択及び相互のコーディネート,③装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートについて
( ) 本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服,アクセサリー等は原判決別紙映像目録添付の各写真のとおりであり,①「Iline1着目」として黒のレース素材のトップス,豹柄のスカート,黒のベルト,紫色の輪状の耳飾り及び黒のヘッドドレスの組み合わせが,②「Anna2着目」として白地に黒の水玉模様のワンピースに黒のベルト,パールネックレス,ピンクと黒のヘッドドレスの組み合わせが,③「Anna1着目」として緑色のワンピース,銀色の腕輪,黒のヘッドドレスの組み合わせが,④「Izabella2着目」として黒のワンピースと黒のヘッドドレスの組み合わせが,⑤「Tamra2着目」として黒の毛皮のコート,紫色のトップス,黒のスカート,紫色のバッグ,ヘッドドレスの組み合わせがなされていることが認められる。
( ) しかし,着用する衣服の選択及び相互のコーディネート及び装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートは,その美的要素(外観や見栄えの良さ)について,他の者から見られることが想定されるものであるとしても,本件映像部分の各場面におけるモデルの衣服・アクセサリー等はそのほとんどがファストファッションである「Forever21」製作のものを使用しただけであり,控訴人らのデザインに係リゾートのパーティ等の場面において実用されることを想定するものであり,それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく,また,実用目的のための構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を把握できるものでもない。
( ) 以上によれば,着用する衣服の選択及び相互のコーディネート及び装着させるアクセサリーの選択及び相互のコーディネートについて著作物性は認められない。
イ ①個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングについて
( ) 本件映像部分の各場面におけるモデルの化粧及び髪型は,原判決別紙映像目録添付の各写真のとおりであり,「Iline1着目」は下ろした髪全体を後ろに流した髪型,「Anna1着目」及び「Anna2着目」は緩やかにカールを付けた髪を下ろした髪型,「Izabella2着目」は耳上の髪をまとめ,耳下の髪にカールを付けて下ろした髪型,「Tamra2着目」は全体に強めにカールを付けて下ろした髪型であり,また,いずれのモデルにも,アイシャドーやアイライン,口紅等を用いて華やかな化粧が施されているものということができる。
( ) しかし,控訴人らの主張を前提とすると,上記化粧及び髪型は,控訴人Xが,「企画・指示書」に記載された事項や写真をヘアメイク担当者に示し,ヘアメイク担当者が髪型や化粧を施し,その上で控訴人Xが修正したものであるというのであるから,そもそも控訴人Xが上記化粧及び髪型の創作の主体になり得るのかどうかも判然としない。
また,仮に控訴人Xが上記化粧及び髪型の創作の主体であるとしても,上記化粧及び髪型について,その美的要素(外観や見栄えの良さ)は,他の者から見られることが想定されるものではあるものの,前記1()認定のとおり,シティやリゾートのパーティ等の場面において実用される衣服やアクセサリーとのコーディネートを想定する実用的なものであり,それ全体が美的鑑賞を目的とするものではなく,また,実用目的のための構成と分離して,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えた部分を把握できるものでもないから,美術の著作物に当たるともいえない。
( ) 以上によれば,個々のモデルに施された化粧や髪型のスタイリングにつき,控訴人Xが著作者であるとは認められないか,又は著作物性が認められない。
ウ ④舞台上の一定の位置で決めるポーズの振り付け,⑤舞台上の一定の位置で衣服を脱ぐ動作の振り付けについて
( ) 本件映像部分において,「Iline1着目」では,モデルが手を前後に大きく振りながら歩き,立ち止まって両手を腰に当てた上で,腰を向かって左,右(向かって左,右を指す。以下同じ。)の順にゆっくりと大きくひねる様子(ただし,場面(1)1では手を前後に振る様子は映っておらず,腰をひねる様子も,その一部が映っているにとどまる。)が,「Anna2着目」では,モデルがゆっくりと前方に歩く様子が,「Anna1着目」では,場面(1)3においてモデルが両手を腰に当てて歩き,立ち止まって,手を腰に当てたまま,肩を揺らす様子が,場面(2)2においてモデルが腕を下ろして揺らしながら歩き,やや斜め前方を向いて立ち止まって,左右に向きを変えながら肩と下ろした腕を揺らす様子が,「Izabella2着目」では,モデルが左手に持った紙袋から右手で中身を出し,左手に移し替えた上,右の手の平を広げて耳に当て,さらに,体の横で両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりをした上,左手に持っていた物を右手で投げる様子が,「Tamra2着目」では,モデルが両手を腰の高い位置に当てて歩き,立ち止まって体をひねった後,後ろを向き,歩きながら毛皮のコートを脱ぐ様子が映っていることが認められる。
( ) 各モデルの上記ポーズ又は動作は,そもそも応用美術の問題ではなく,ファッションショーにおけるポーズ又は動作が著作物として保護されるかどうかとの問題である。しかし,これらのポーズ又は動作は,ファッションショーにおけるモデルのポーズ又は動作として特段目新しいものではないというべきであり,上記ポーズ又は動作において,作成者の個性が表現として表れているものとは認められない。したがって,これらのポーズ又は動作の振り付けに著作物性は認められない。また,同様の理由で,これを舞踊の著作物と解することもできない。
控訴人らは,上記ポーズ又は動作の特徴的な点として,モデルが紙袋を持ったり,右の手の平を広げて耳に当てる行為や,両手の平を上に向けて観客をあおるようなそぶりを指摘する。しかし,控訴人らの主張によれば,これらの動作は,本件ファッションショーの中でギフトを与え,スポンサーであるメイベリンがサンプリングを行えるようにするためのもので,観客のスクリーミングを誘うなどの目的でなされたというのである。そして,上記目的のための表現として上記ポーズや動作をすること自体は特段目新しいものとはいえない。
また,控訴人らは,ファッションショーにおいて上記のような動作等をさせることが控訴人Xに独創的なものである旨主張する。しかし,仮にファッションショーにおいて上記のような動作をさせることが目新しいものであったとしても,それ自体は思想又は感情の創作的表現であるとはいえず,上記動作等に著作物性が認められることの根拠となるものではない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
エ ⑥化粧,衣服,アクセサリー,ポーズ及び動作のコーディネートについて
前記(1)イ記載の①ないし⑤の点につき,控訴人Xが著作者であると認められないか,又は著作物性が認められないことは前記アないしウ認定のとおりであるところ,これらの各要素が組み合わされることにより,作成者の個性の表出というべきような新たな印象が生み出されているものとは認められないから,前記①ないし⑤の点の組み合わせに著作物性を認めることはできない。
オ ⑦モデルの出演順序及び背景に流される映像について
( ) 証拠によれば,本件ファッションショーには合計8名のモデルが,それぞれ2着ないし3着(合計20通り)の衣装を身に着けて出演したものであることが認められる。
上記出演順序は,モデルの着替え時間やギフト配布のタイミング等の便宜的な要素を考慮して決定されたものであるとされるところ,上記出演順序が,ドレスの順序(モノトーンの次は明るい色彩に,その次はシックに,その後は再びカラフルに等)も考慮して決定されたものであるとされることを考慮しても,上記出演順序に,思想又は感情が創作的に表現されているものとは認められない。
加えて,本件映像部分における場面1()ないし(4)は上記出演順序の1番目、11番目,2番目、13番目に,場面2(1)ないし(6)は上記出演順序の1番目,2番目,11番目,1番目,14番目,13番目に各対応ていることが認められるのであって,本件映像部分は,本件ファッションショーの映像を順不同に流したものであることが認められる。そうすると,仮に上記出演順序に創作性が認められるとしても,本件映像部分において,上記創作性を感得できる態様で公衆送信が行われているものとは認められない。
( ) 背景映像について
控訴人らは,本件ファッションショーの背景映像は,「City」や「Resort」を印象付けるものとして,モデルや衣装に合わせて場面ごとに選択されたものであり,本件映像部分のうち,場面1(3)に甲21号証の写真21が,場面1(4)及び2(6)に甲21号証の写真54が,場面2(2)に甲21号証の写真32がはっきりと映っている旨主張する。
しかし,場面1(3) 原判決別紙映像目録添付写真における背景映像は,甲21号証の写真21とは明らかに異なるものであり,上記場面に同写真が映っているものとは認められない。
また,確かに,証拠によれば,場面1(3)及び場面2(2) 原判決別紙映像目録添付写真には甲21号証の写真32が,場面1(4)及び2(6)には甲21号証の写真54が映っていることがうかがわれる。
しかし,甲第21号証の各写真につき,原審における控訴人ら代理人作成の2013年5月17日付け「原告ら証拠説明書」においては作成者不明とされており,他に撮影者に関する主張もなく,撮影者すら判然としないものというほかない。しかも,本件全証拠によっても,控訴人らに上記各写真の著作権が帰属する根拠も判然としない。
この点,被控訴人NHK作成の控訴答弁書には,平成25年5月17日の原審第5回弁論準備手続において,控訴人ら訴訟代理人が,本件ファッションショーで背景映像として使用された写真は,控訴人Xがカメラマンに撮影させた旨陳述したとの記載がある。しかし,上記証拠説明書の記載に照らすと,上記陳述の内容が正確なものであるかどうかについては疑問が残るというほかないし,仮に上記陳述に係る事実を前提としたとしても,上記カメラマンが上記各写真の著作者であると解されるところ,控訴人らが上記カメラマンから上記各写真の著作権の譲渡を受けたことを認めるに足りる証拠もない。
また,控訴人らの主張する写真の選択に何らかの創作性があるものとも認められない。
そうすると,被控訴人NHKが,上記写真を用いた背景映像を含んだ本件映像部分を放送した行為は,控訴人らの著作権を侵害するものとはいえない。
(3) 小括
以上によれば,本件ファッションショーのうち,本件映像部分に表れた各点(前記(1)イ記載の①ないし⑦)は,控訴人らが著作権者であるとは認められないか,又は著作物性が認められないものであるから,本件映像部分を放送することが,控訴人会社の著作権(公衆送信権・著作権法23条1項)又は控訴人Xの著作者人格権(氏名表示権・同法19条1項)を侵害するものとは認められない。
なお,付言するに,本件ファッションショーのうち本件映像部分に表れた各点(前記(1)イ記載の①ないし⑦)につき著作物性が認められないことが上記認定のとおりであるとしても,本件ファッションショーが撮影され物に固定されれば,当該映像は映画の著作物として保護されるものと解される。
(4) 放送権(著作権法92条1項),実演家としての氏名表示権(同法90条の2第1項)侵害の成否
ア 放送権及び実演家としての氏名表示権侵害が認められるためには,「その実演」を放送し,又は公衆に提供・提示する場合であることを要するところ(著作権法92条1項,90条の2第1項),「実演」とは,「著作物を,演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他の方法により演ずること(これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するものを含む。)」をいうものとされる(同法2条1項3号)。
イ 控訴人らは,モデルのポーズと動作の振り付けの演出が実演に当たる旨主張するが,上記動作等が著作物に当たらないことは前記(2)ウのとおりであるから,モデルが上記動作やポーズを取ることは,「著作物を・・・演ずる」ことに当たらず,「実演」には当たらない。
また,控訴人らは, 前記(1)イ記載の①ないし⑦は著作物であるので,モデルが,ヘアメイクや衣類を着用等しながら,ポーズや動作を取ることは著作物を演じることに該当し,控訴人Xは,これを演出したので実演家の権利を有する旨主張する。
しかし,上記①ないし⑦の点につき,背景映像に用いられた写真を除いていずれも著作物性が認められないことは前記(2)認定のとおりである。また,背景映像に用いられた写真に著作物性が認められるとしても,その展示が「著作物を・・・演ずる」ことに当たるものではない。したがって,控訴人らの主張に係るモデルが,ヘアメイクや衣類を着用等しながら,ポーズや動作を取ることが「著作物を・・・演ずる」ものに当たるとはいえない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
さらに,控訴人らは,本件ファッションショーは,全体として「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」(著作権法2条1項3号)に当たり,実演に該当する旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,本件ファッションショーの本件映像部分に表れている部分のうち,前記(1)イ 記載の④及び⑤以外に,著作権法2条1項3号に挙げられた「演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他の方法により演ずること」やこれらに類する行為に該当する部分があるものとは認められない。また,本件ファッションショーのうち本件映像部分に表れていない部分については,その内容自体明らかではない。したがって,本件ファッションショーのうち上記④及び⑤以外の点が,「演劇的に演じ,舞い,演奏し,歌い,口演し,朗詠し,又はその他の方法により演ずること」に「類する行為」に当たるものとはいえない。また,上記④及び⑤の点も,前記(2)ウ認定のとおりのポーズや動作をとったものにすぎず,しかも,その態様もありふれたものにすぎないのであるから,「これらに類する行為で,著作物を演じないが芸能的な性質を有するもの」に該当するものということはできない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。
ウ 以上によれば,本件ファッションショーの一部である本件映像部分を放送することが,「その実演」を公衆に提供し,又は放送する場合に当たるものとは認められないから,本件映像部分の放送が,控訴人会社の放送権又は控訴人Xの実演家としての氏名表示権を侵害するものとは認められない。
第4 結論
以上によれば,原判決の結論は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。