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著作権判例セレクション

【不正競争防止法】著名キャラクターの着物や羽織の柄に「商品等表示」性を認定した事例

▶令和41216日名古屋地方裁判所刑事第3[令和3()1558]
第2 本件各模様(色、柄、それらの配置)及びこれらの組合せ(以下「本件模様等」という。)の「商品等表示」該当性の有無及び「周知性」の有無について不正競争防止法2条1項1号の趣旨は、周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため、周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより、事業者間の公正な競争を確保することにある。そして、商品の形態は、商標等と異なり、本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが、商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合もあるところ、そのような二次的意味を有して商品の形態が「商品等表示」として保護の対象となるためには、⑴商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性)、かつ、⑵その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され、又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により、需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要すると解するのが相当である(知財高裁平成24年(ネ)第10069号同年12月26日判決参照)。
以下、本件模様等が不正競争防止法2条1項1号の周知の「商品等表示」に該当するかについて検討する。
1 本件模様等の特別顕著性の有無
⑴ 模様の特別顕著性を判断するに当たっては、模様を構成する単純な色彩や形状について、他者が使用する自由を阻害することにならないかどうかの点も含めて慎重に検討する必要がある(東京地裁平成17年(ワ)第785号平成18年5月25日判決参照)。
⑵ 前記認定事実のとおり、本件各模様は、もともとは「KMT」の登場人物の代表的な衣類の模様であったが、「KMT」の公式グッズとして展開される様々な商品(衣類、雑貨等)に、本件各模様が商品の外形的、視覚的特徴の大部分を占める状態で又は本件各模様の衣装を着たキャラクターとともに付与されている模様となっている。また、前記認定事実のとおり、多くの場合、「KMT」のグッズ展開においては、たとえば、Tシャツやシュシュといった各商品につき、キャラクター又はキャラクターモチーフ(衣装の柄など)による複数のラインナップを揃えて商品化がされている。そうすると、「KMT」の商品化に当たっては、同作品に登場する多様なキャラクター、ひいては、それらのキャラクターの着用する羽織又は着物の柄とキャラクターとの結びつきを意識してグッズ展開がされているといえるのであるから、本件において特別顕著性の有無を判断するに当たっては、単一の商品の特徴のみならず、このような商品展開がされていることを踏まえ、各商品のラインナップによる本件各模様の組合せについても併せて検討することが必要である。
⑶ 以上を前提に、まず、本件模様AないしCについて検討すると、これらの各模様単体では、色の選択も単一色又は2色を選択するにとどまり、その配色も、市松模様、麻の葉模様、鱗文様(鱗文)といった伝統的柄模様ないし一般的に使用される装飾的図柄の上に配色されているにとどまり、特別顕著性を有するということはできない。
他方、本件模様DないしFについて検討すると、いずれも3色の色を選択している上、本件模様Dについては、それ自体が亀甲柄と無地とを組み合わせた模様であり、亀甲柄と無地それぞれに特定の2色と1色が配色されている特徴がある。本件模様Eについては、特定の3色のグラデーションとなっており、グラデーション内の色の特定の順序や、白色の配色部分が多いことも特徴として挙げられる。本件模様Fについては、3色の特定の順序及び黄色部分と小豆色部分の境界部分の形状によって炎の模様が表現されているという特徴がある。これらの特徴に加え、伝統的な日本の文様や着物の文様についての調査によっても本件模様DないしFに類似する模様が認められなかったこと、これらの模様単体で商標登録がされていることを併せ考えれば、本件模様DないしFについては、各模様単体でも特別顕著性を有すると認められる。
さらに、上記⑵のとおり、「KMT」のグッズ展開に当たっては、多種多様な商品が存在し、多くの場合、各商品ごとに複数のラインナップを揃えて商品化されるというのであるから、本件各模様を組み合わせるに当たり、単体では特別顕著性を有しない模様が含まれていたとしても、少なくとも本件模様AないしDの組合せにおいては、単体で特別顕著性を有する本件模様Dが含まれることに加え、本件模様AないしC各単体では単純な色と単純な柄を組み合わせた模様にすぎないとしても、そのような模様を任意に4種類組み合わせる方法は無数に存在するのであるから、その中から本件模様AないしDのみを任意に選出する可能性は限りなく低く、本件模様AないしDを組み合わせる場合には、色彩や形状について他者が使用する自由を制限することにはならないといえる。これらを併せ考えれば、本件模様AないしDの組合せは特別顕著性を有すると認められる。そうすると、これらに本件模様E及びFを加えた6種類の組合せについても、当然に特別顕著性を有すると認められる。
2 本件模様等の周知性の有無
⑴ 前記第1記載のとおり、本件各模様は、「KMT」に登場するキャラクターaないしfの羽織又は着物の柄であり、「KMT」の作品中において、これらの羽織又は着物の柄は、主要登場人物である前記6名のキャラクターが登場する際に、一見して衣装の大部分を占める柄として需要者に認識される印象的なアイコンであるといえる。また、前記第1記載のとおり、「KMT」はアニメの放送により爆発的に人気が高まり、コミックスの発行部数ひいては売上げも伸び、いわゆる大ヒット作品となったことが認められる(なお、テレビの視聴率自体は必ずしも高くなかったものの、放送時間のほとんどが深夜帯である以上、コミックスの販売部数等に照らすと、録画したものを後日視聴する方法や、動画配信サービスを利用して視聴する方法も相当程度あったと推認できるから、リアルタイムの視聴率が高くないとの一事をもって、周知性がないということはできない。)。さらに、映画の公開までの間にも人気は上昇し続けていたといえる。
そうすると、遅くとも、本件模様AないしEについては、アニメの放送が終了してコミックス最新巻(第18巻)の初版発行部数が100万部を突破し、アニメ主題歌を歌った歌手がPに出場した令和元年末の時点までに、本件模様Fについては、キャラクターfが活躍した映画が公開されて日本の歴代興行成績の最高記録を更新した後、前記歌手がPに前年に引き続いて出場して映画主題歌を歌唱した令和2年末の時点までに、それぞれ需要者において周知性を獲得していたことが認められる。
なお、「他人の商品等表示」に該当するといえるためには、他の出所とは区別された特定の出所からの商品であることを認識し得るような表示であれば十分であって、右特定の出所の具体的名称まで認識できなければならないものではない(東京高裁平成2年(ネ)第3264号平成3年11月28日判決参照)。また、「他人」には、特定の表示に関する商品化契約によって結束した同表示の使用許諾者、使用権者及び再使用権者のグループのように、同表示の持つ出所識別機能、品質保証機能及び顧客吸引力を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているものと評価することのできるようなグループも含まれるものと解するのが相当である(最高裁昭和56年(オ)第1166号昭和59年5月29日第三小法廷判決参照)。
そうすると、本件模様AないしDの4種類又はこれらに本件模様E及びFの2種類を加えた6種類の組合せの商品群がセットとして販売されている状況を目にした需要者の一般的な認識としては、上記のとおり認定した周知性に照らせば、当然に、これらの模様の衣装を着たキャラクターが登場する漫画又はアニメ作品としての「KMT」を連想し、(個々の商品の販売主体の正式名称までの認識が必ずしもないとしても)株式会社I及び株式会社J管理のライセンスグループに属する者が販売している、「KMT」のいわゆる公式グッズであるとの認識を抱くものと認められる。
⑵ 弁護人は、出所表示機能を有するのはあくまでキャラクターにすぎず、着物や羽織の柄については出所表示機能を有しない旨も主張する。しかしながら、本件各模様は、衣装の限られた一部の柄や服飾品の一部にとどまらず、主要登場人物6名の各衣装の大部分を占める柄であり、各種宣伝等の中で視覚的に印象に残る衣装の柄を強く記憶している需要者も相当数存在すると考えられる。そうすると、本件各模様のみを付された商品を認識した需要者において、同作品の登場人物としてのキャラクターを連想せずとも、本件各模様のみをもって「KMT」を連想する場合も少なくないものといえる。そもそも、仮にキャラクター自体が出所表示機能を有するとしても、そのことによってキャラクターの衣装の柄が出所表示機能を有しなくなるとの関係にはないから、弁護人の主張を採用することはできない。
3 小括
以上によれば、本件各模様AないしD又は本件各模様AないしFについて、本件模様等は、周知の商品等表示に該当すると認められる。
なお、弁護人は、公式ロゴ等が商品等表示に当たるのであるから、本件模様等は商品等表示に当たらない旨主張するが、前記第1記載のとおり、公式ロゴ等は、必ずしも公式グッズに表示や印字がされているわけではなく、商品のデザイン(見栄え)やサイズによって印字されないものもある上に、そもそも、一般的な需要者は、グッズ自体のデザインや用途に着目して当該グッズを購入するのであるから、公式ロゴ等の有無にかかわらず混同は生じ得るのであって、公式ロゴ等の有無によって、本件模様等の商品等表示該当性は左右されない。