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著作権判例セレクション

【地図図形著作物】系列店店舗の設計図の著作物性を否定した事例

▶令和5131日知的財産高等裁判所[令和4()10079](原審・横浜地方裁判所令和3年(ワ)第1498号等)
() 本件は、控訴人において、被控訴人が一審被告Cの管理運営する本件商業施設に本件店舗を出店するに際し、控訴人が本件店舗の内装工事に係る図面(原告設計図)を作成したところ、被控訴人が控訴人に無断で一審被告Cに対し原告設計図の利用を許諾し、一審被告Cが原告設計図に基づく内装工事を発注して本件店舗を完成させて、原告設計図に表現されている内装(原告内装)を複製し、本件店舗が開店した後は、本件店舗を経営する被控訴人らが、原告内装の複製物である本件店舗を公衆に提示すると共に、ウェブサイトに画像等を掲載して公衆送信して、控訴人の原告設計図ないし原告内装に係る著作権及び著作者人格権を侵害したなどと主張して、不法行為による損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき、被控訴人に対し、損害金等の支払を求めた事案である。
原判決が控訴人の本訴請求を棄却したところ、控訴人が、被控訴人に対する本訴請求を棄却した部分について、控訴を提起した。

1 当裁判所も、控訴人の請求にはいずれも理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
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2 当審における控訴人の補充主張に対する判断
⑴ 控訴人は、前記のとおり、設計図は、工事に携わる者の間の共通言語であり、特に、設計者と施工者が異なる場合は、設計図面以外での詳細な情報伝達手段はないから、原告設計図全体では創作性があると認められるべきである旨主張する。しかし、設計図が工事に携わる者に共通して利用されるものであることは、むしろ、多くの場合、様々な関係者が施工内容を理解することができるよう、作図上の表現方法や内装の具体的な表現は実用的、機能的でありふれたものにならざるを得ないことを示すものというべきであり、現に、原告設計図や原告設計図の具体的な表現内容が実用的、機能的でありふれたものであることは、引用に係る原判決における説示のとおりである。
また、控訴人は、前記のとおり、原告設計図作成時点において被控訴人運営に係る既存店は、第三者が経営する店舗を譲り受けたものにすぎず、デザイン構築上準備段階のものであり、本件店舗が、被控訴人の経営する系列店舗で初の旗艦店であるから、原告設計図は創作性を有する旨主張する。しかし、ここで問題となっているのは、被控訴人運営に係る各店舗に統一感を持たせる観点から、内装のデザインには一定の制約があったということであり、各店舗の具体的な内装の先後関係ではないから、上記主張は採用できない。
⑵ 前記(1)によれば、原告設計図や原告内装について著作物性が認められない以上は、その他の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないというほかないが、念のために、控訴人の前記記載の主張についても触れると、建物やその内装の完成のための手段であり、通常それ自体が鑑賞の対象となるものではない設計図の性質からして、設計に係る契約においては、特段の合意がない限り、設計報酬とは別に設計図ないし内装の著作権についての使用料請求権が設計者に留保されるとは認め難く、本件で特段の合意がされたと認めるべき証拠もない。これを裏返して言えば、控訴人は、本件設計等契約において、被控訴人に対し、原告設計図に基づき、自ら又は第三者をして本件店舗の内装工事を施工し、工事完了後は本件店舗で親子カフェの営業を行うこと等を当然に了承していたもので、著作権ないし著作者人格権を行使しないことが契約締結の前提となっていたものというべきである。
なお、原告設計図に基づき本件店舗の内装が施工されたことは事実であり、また、補正の上引用した原判決のとおり、一審被告Cと訴外Iとの間の本件店舗の内装工事に係る請負契約では、デザイン・設計料は別途とされたものであるところ、それにもかかわらず控訴人が誰からも設計図に係る報酬を得られないことについては同情すべき面もあるが、報酬請求権が時効消滅した以上、やむを得ないというほかない。
第4 結論
以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。