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著作権判例セレクション

【地図図形著作物】大阪市の地図に電車の路線図を組み合わせた「地図デザイン」の著作物性を肯定した事例

平成27924日大阪地方裁判所[平成25()1074]
(13) 争点7-1(本件地図デザインの著作物性)について
ア 別紙5の本件地図デザインは,大阪市の地図に電車の路線図を組み合わせたものである。地図は,著作物として挙げられているが(著作権法10条1項6号),既存の地理上の事象を図面に書き込んだものであることから,正確に描くほどその表現には創作性を認める余地が少なくなるものである。しかし,記載すべき情報の取捨選択や表記の方法に作成者の経験,個性が表れており,この点において作成者の思想又は感情が創作的に表現されている場合には,著作物に該当するものといえる。
イ 後掲証拠によれば,被告大阪市においては,次のとおりの各種地図が取り扱われていた事実が認められる。
() 被告大阪市土木局が,昭和62年に作成した「大阪市歩行者用サインシステム」には,公社地図と似通った全体案内図が使用された案内表示板が掲載されている。また,平成11年3月に作成された大阪市観光案内表示マニュアルにも,公社地図に似た地図が掲載されている。これらからすると,公社地図は,少なくともこれらの間に作成されたものと推認される。
() また,大阪市全図も,具体的作成時期は不明であるが,(証拠)によれば,別紙4案内図が作成される以前から存在していたものであると認められる。
ウ 本件地図デザインは,P1が,市販の地図等を参考に大阪市の地形を簡略にデザインしたものであるところ,その全体構成は,公社地図や大阪市全図とほぼ同じであり,大阪市の全体形状を再現したものにすぎず,例えば(証拠)のようにデフォルメされているものではない。したがって,本件地図デザインの創作性の有無は,細部の表現に基づいて検討する必要があるところ,そこでは,比較的詳細な地図である公社地図及び大阪市全図と比べると,全体的に,西側の海岸及び人工島,並びに多くの川の複雑な曲線をある程度簡略にし,大阪市の東側の境の部分も直線的なシンプルな線で描いており,また,河川については,一部の川の記載自体を省略するなどの取捨選択をし,全体的にすっきりとした表現がされていることが認められる。このように,そのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択にP1の個性が表れていることからすると,その点において,創作性が認められる。
エ よって,本件地図デザインは,P1の制作した著作物であるといえる。
(14) 争点7-2(別紙4案内図は,本件地図デザインの複製又は翻案か)について
ア 上記のとおり,本件地図デザインに著作物性が認められるとしても,観光案内を目的とする地図では,大阪地域の全体を分かりやすく見せる必要があるために,観光上重要でない部分を省略したり,地理上の入り組んだ部分を簡略化することはよく見られる表現であり,観光案内を目的とするものではない公社地図や大阪市全図でも相応に行われている。そうすると,本件地図デザインのシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択に創作性が認められるとしても,その創作性は,従来の地図には見られない細部の簡略化等を地図全体にわたって総合的に行うことにより一つの地図を創作した点にあるというべきであるから,その創作性の幅は狭く,その複製又は翻案と認められるためには,地図全体にわたって,ほぼ同一のシンプルな直線及び曲線の具体的表現及び取捨選択が行われることが必要であると解するのが相当である。
イ 本件地図デザインと別紙4案内図との共通点として原告が指摘する点
()
ウ 本件地図デザインと別紙4案内図との相違点として被告が指摘する点
()
エ 判断
以上の事実関係を前提に別紙4案内図が本件地図デザインの複製あるいは翻案かについて検討する。
別紙4案内図は,上記イ()及び()のとおり,本件地図デザインと,咲州の北側の形状,第二寝屋川から南方向に記載された二本の川の形状において共通し,この点は,被告大阪市が別紙4案内図を作成する際に参考したとする公社図面及び大阪市全図や昭和62年の全体案内図と異なっている。しかし,上記の二本の川の形状についても,一部については上記地図と似ているほか,同イ()及び()のとおり,別紙4案内図と本件地図デザインとは,淀川や木津川の川筋は似ているものの,これは他の公社地図及び大阪市全図においてもほぼ同様であり,地形的に存在する川筋を客観的に記載したためにすぎず,これを形状において共通すると評価することはできない。むしろ,その余の点については,両者は異なっている。さらに,別紙4案内図は,前記ウの点で,本件地図デザインとは異なっており,かえって公社地図あるいは大阪市全図と似通っている。
このように,原告が主張する共通点のうち,別紙4案内図が本件地図デザインの特徴と共通する部分は咲州及びごく一部の川の形状についてのみであるところ,他に多数の点で相違していること,本件地図デザインが全体的に直線的な線ですっきりと描かれているのに対し,別紙4案内図がある程度地理的な曲線を簡略にせず描いていることからすれば,本件地図デザインの表現において認められるP1の個性が,別紙4案内図においてこれを感得することはできないと言わざるを得ない。
そうすると,仮に,原告が指摘するように,ジェネシスが別紙4案内図を作成するにあたり,本件地図デザインの一部を参考にした事実があったとしても,別紙4案内図が,本件地図デザインの複製又は翻案ということはできないから,原告の本件地図デザインの著作権及び著作権侵害に基づく請求は理由がない。