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著作権判例セレクション
【登録制度】著作権取得の対抗要件(登録なしに被許諾者に対抗できるか、登録なしに不法行為者に対抗できるか)
▶平成27年9月24日大阪地方裁判所[平成25(ワ)1074]
(2)
争点1-2(原告は,被告らに対し,Iデザイン研究所から本件各使用許諾契約の許諾者たる地位を承継したとして,同契約上の権利を主張し得るか)について
ア 原告が,平成19年6月1日にIデザイン研究所の事業を統合する際に,P1がIデザイン研究所において作成したVIデザイン等の著作権全てをIデザイン研究所から包括的に譲り受ける合意をしたことについては,原告代表者とIデザイン研究所の代表であったP1との間で認識が合致しており,その後同年9月にIデザイン研究所が解散清算していること等からしても,当事者間において本件ピクトグラム等を含む著作権(後記争点のとおり本件ピクトグラム等は著作物性を有すると認められる。)が譲渡された事実が認められ,そうである以上,本件各使用許諾契約上の地位も譲渡されたと認められる。
被告らは,事業の全部譲渡に該当するとして,必要な株主総会特別決議がないことから譲渡はなく,仮に譲渡があったとしても総会決議がなく無効である旨主張するが,原告がIデザイン研究所における雇用関係や顧客を承継していないことからすれば,事業の全部譲渡には該当せず,被告の主張は採用できない。
イ そして,本件各使用許諾契約における許諾者の義務は,許諾者からの権利不行使を主とするものであり,本件ピクトグラムの著作権者が誰であるかによって履行方法が特に変わるものではないことからすれば,本件ピクトグラムの著作権の譲渡と共に,被許諾者たる被告都市センターの承諾なくして本件各使用許諾契約の許諾者たる地位が有効に移転されたと認めるのが相当である(賃貸人たる地位の移転に関するものではあるが最高裁判所昭和46年4月23日判決参照)。
ウ しかし,著作物の使用許諾契約の許諾者たる地位の譲受人が,使用料の請求等,契約に基づく権利を積極的に行使する場合には,これを対抗関係というかは別として,賃貸人たる地位の移転の場合に必要となる権利保護要件としての登記と同様,著作権の登録を備えることが必要であると解される(賃貸人たる地位の移転に関するものではあるが最高裁判所昭和49年3月19日判決参照)。
この点について,原告は,被告らは平成23年5月以降の協議において原告が著作権者であることを認めていたと主張するが,(証拠)に照らして採用できない。
したがって,原告は,被告らに対し,著作権の登録なくして本件各使用許諾契約上の地位を主張することはできない。
エ よって,その余の点について判断するまでもなく,本件各使用許諾契約の有効期間内に作成された本件ピクトグラム等について,原告の被告らに対する,本件各使用許諾契約による原状回復義務及びその違反に基づく請求は理由がない。
(略)
(9)
争点5-6(原告は,本件ピクトグラムの著作権を取得したとして,その著作権を被告らに対して主張し得るか)について
前記(2)アのとおり,原告は,本件ピクトグラムの著作権を取得したと認められるところ,著作権を取得した者は,著作権を侵害する不法行為者に対し,何ら対抗要件を要することなく自己の権利を対抗することができると解されるから,原告は,被告大阪市に対し,著作権侵害に基づく損害賠償を請求することができる。
[参考:最高裁判所昭和46年4月23日判決]
『ところで、土地の賃貸借契約における賃貸人の地位の譲渡は、賃貸人の義務の移転を伴なうものではあるけれども、賃貸人の義務は賃貸人が何ぴとであるかによつて履行方法が特に異なるわけのものではなく、また、土地所有権の移転があつたときに新所有者にその義務の承継を認めることがむしろ賃借人にとつて有利であるというのを妨げないから、一般の債務の引受の場合と異なり、特段の事情のある場合を除き、新所有者が旧所有者の賃貸人としての権利義務を承継するには、賃借人の承諾を必要とせず、旧所有者と新所有者間の契約をもつてこれをなすことができると解するのが相当である。』
[参考:最高裁判所昭和49年3月19日]
『しかしながら、本件宅地の賃借人としてその賃借地上に登記ある建物を所有する上告人は本件宅地の所有権の得喪につき利害関係を有する第三者であるから、民法177条の規定上、被上告人としては上告人に対し本件宅地の所有権の移転につきその登記を経由しなければこれを上告人に対抗することができず、したがつてまた、賃貸人たる地位を主張することができないものと解するのが、相当である(大審院昭和八年(オ)第六〇号同年五月九日判決参照)。』