Kaneda Legal Service {top}
著作権判例セレクション
【映画著作物の著作権の帰属】CM原版の映画著作物性を認定した事例/映画著作物の著作者及び著作権の帰属主体が争点となった事例/広告映像であっても法29条1項の適用は排除されないとした事例
▶平成23年12月14日東京地方裁判所[平成21(ワ)4753等]▶平成24年10月25日知的財産高等裁判所[平成24(ネ)10008]
1 本件各CM原版制作の特徴について
本件各CM原版を制作するについては,クライアントである広告主(ケーズデンキ及びブルボン)の希望が重視され,広告代理店は,制作開始当初に広告主との間で会議を開催し,そこで広告主からの制作内容についての希望を聞き,それに基づいて企画内容を検討している。また,企画内容を定めるに当たっては,CMの成功が起用するタレントによって大きく左右されるため,タレントとして誰を採用するか,採用を決定したタレントについてその所属事務所に対し,CMの企画内容を説明してその了解をとることが重要な作業として位置付けられていた。そして,企画内容が確定し,タレントの所属事務所が了解した段階で,演出コンテを基に広告代理店(電通)で会議が開催され,広告代理店の了解を得て,制作費が決定され,原版作成作業(撮影作業)が開始されることになった。
このように,本件各CM原版という著作物を制作するに当たっては,特に,広告主の意向が重視され,その意向を基に原版制作作業が進められているから,広告主の意向を把握した上で,原版制作作業を指揮できる立場にある者の役割が重要であり,また,CMの成否に影響を与えるタレントの手配,広告代理店への説明によりCM制作費の決定を得る手続を行う者の役割も重要であった。
したがって,このような役割を一貫して担う者があれば,その者がCM原版の制作,その内容決定に当たっても主導的な役割を果たすものとして作業が進められていった。
2 本件各CM原版の制作等について
(略)
3 本件各CM原版の著作権の帰属(争点(1))について
(1)
本件ケーズCM原版について
ア まず,本件ケーズCM原版が映画の著作物であるかについて検討するに,本件ケーズCM原版は,テレビCMの原版(新店舗名部分が空白の原版)であり,これを使用して新たなテレビCM(新店舗名を挿入した完成版)の制作ができるものであって,新店舗名部分の挿入がなくともそれ自体で特徴のある表現を有するものと認められることに照らすと,映像が動きをもって見えるという効果を生じさせる方法で表現され,ビデオテープ等に固定されており,創作性を有すると認めるのが相当である。
そうすると,本件ケーズCM原版は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物であるから,映画の著作物(著作権法2条3項)であると認められる。
原告は,本件ケーズCM原版については,映画の著作物についての著作権法の規定とは別個に著作者及び著作権者が決定されるべきであるとし,本件CM原版は原告,広告主,広告代理店の共同著作物であると主張するが,上記のとおり映画の著作物と認められる本件ケーズCM原版については,映画の著作物に関する規定に基づいて著作者,著作権者を認定するのが相当であって,原告の主張は採用することができない。
イ そこで,【少なくとも本件ケーズCM原版の著作者の一人】について検討するに,Bは,本件ケーズCM原版において,その全制作過程に関与し,CMのコンセプトを定め,出演タレントを決定するとともに,CM全体の予算を策定し,撮影・編集作業の指示を行っていたのであるから,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(著作権法16条本文)として,本件ケーズCM原版の著作者と認めるのが相当である。
原告は,本件ケーズCM原版の制作は,職務著作(著作権法15条)であって,著作権法16条ただし書により原告が著作者となると主張するが,Bが原告の業務に従事する者とは【認められず,その他原告の業務に従事する者が本件ケーズCM原版の著作者であるとも認められないから,】原告の主張を採用することはできない。また,本件ケーズCM原版は,テレビCMとして放映されることによって公表されたものであると推認されるところ(公表については著作権法4条1項参照),テレビCMの放映では広告主の商号等が示されることがあっても広告代理店や制作会社の商号等が示されることはないのが通常であることに照らすと,本件各CM原版が原告名義の下に公表されたものであったとは認められないから,この点においても上記主張は理由がない。
なお,Bは,被告Aの監査役であるものの,被告ADの業務に従事する従業員等であるとは認められないから,被告Aが職務著作により本件ケーズCM原版の著作者であるということもできない。
ウ 続いて,本件ケーズCM原版の著作権の帰属について検討する。
(ア) 著作権法29条1項は,映画の著作物の著作権(著作者人格権を除く。)は,その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属すると定めている。
そして,映画製作者の定義である「映画の著作物の製作に発意と責任を有する者」(著作権法2条1項10号)とは,その文言と著作権法29条1項の立法趣旨からみて,映画の著作物を製作する意思を有し,当該著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として当該著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者であると解するのが相当である。
【(イ) これを本件についてみるに,本件ケーズCM原版について,これを製作する意思を有し,当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり,かつ,当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては,広告主であるケーズデンキであると認めるのが相当である。】
原告は,本件ケーズCM原版について,CM制作に必要なコンテ,企画案,監督,撮影,照明,美術,編集等のスタッフや企業と契約しているのは原告であり,その製作に関する経済的な収入及び支出の主体となっているのも原告であり,原告は著作権法29条1項の映画製作者であると主張する。
確かに,前記のとおり,原告は,電通から,被告ADよりも多額の支払を受けており,制作作業を担当する者を手配し,その支払を電通から受ける窓口となっていたことが認められる。したがって,被告Aとの対比でみる限り,原告が中心的役割を担っていたようにも見える。
しかし,その支払内容の明細を見ると,原告の支払の大半を占めるのは,撮影,編集関係の費用である。前記CM原版制作の特徴に照らせば,CM原版制作に当たっては,広告主の意向を反映して企画案を練り,出演するタレントを確保し,最終的に広告会社から確定した企画の了承を得て,制作費を確定させるまでの作業が重要な意味を持ち,そこまでの作業に比較すれば,その後の,撮影,編集の具体的作業が寄与する程度は,相対的に低いものといわざるを得ない。
そうすると,原告は,本件ケーズCM原版制作の全体についてこれを請け負って作業をしていたと認められず,その製作過程の部分的な関与にとどまるのであって,原告が本件ケーズCM原版作成について,相対的に比重の低い撮影,編集作業について,電通からの支払の窓口となっていたからといって,本件ケーズCM原版の映画製作者であるということはできない。
【(ウ) 原告は,広告映像については,劇場用映画とは異なり,著作権法29条1項の適用は排除されるので,本件ケーズCM原版の著作者であるA[注:「B」のこと。以下同じ]がその著作権者であり,原告はAから同CM原版の著作権の譲渡を受けたと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。
著作権法29条1項は,「映画の著作物・・・の著作権は,その著作者が映画制作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは,当該映画製作者に帰属する。」と,また,同法2条3項は,「この法律にいう「映画の著作物」には,映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物を含むものとする。」旨規定する。
本件ケーズCM原版が映画の著作物である以上(当事者間に争いはない。),その製作目的が,商品の販売促進等であることを理由として,同CM原版について同法29条1項の適用が排除されるとする原告の主張は,その主張自体失当であり,採用の余地はない。
のみならず,以下のとおり,本件ケーズCM原版の具体的な製作目的,製作経緯等を検討してみても,本件ケーズCM原版について,映画の著作物の著作権に関して当該映画の製作者に帰属させる旨定めた同法29条1項の規定の適用を排除すべき格別の理由はない。
すなわち,同法29条1項は,映画の著作物に関しては,映画製作者が自己のリスクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと,多数の著作者全てに著作権行使を認めると,映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して,立法されたものである。
ところで,本件ケーズCM原版についてみると,同原版は,15秒及び30秒の短時間の広告映像に関するものであること,他方,製作者たる広告主は,原告及び被告ADに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮するならば,同CM原版について同法29条1項の適用が排除される合理的な理由は存在しないというべきである。広告映像が,劇場用映画とは,利用期間,利用方法等が異なるとしても,そのことから,広告映像につき同法29条1項の適用を排除する合理性な理由があるとはいえない。
原告は,本件のような広告映像の場合,制作会社が,CM原版のプリント(複製)を受注し,その収益により制作費の不足分を補うという商習慣が確立していることから,本件ケーズCM原版に係る複製権は原告に帰属すると解すべきである旨主張する。
しかし,制作会社がCM原版のプリント(複製)をする例があったとしても,本件において,原告が,当然に,そのプリント代で制作費の填補を受ける権利を有していると認定することはできない。
以上のとおり,本件ケーズCM原版について同法29条1項の適用が排除されることを前提として,原告が本件ケーズCM原版の著作権(複製権)を取得したとする主張は,失当である。】
【(エ)】したがって,原告が本件ケーズCM原版の著作権を有するとは認められない。
(2)
本件ブルボンCM原版について
ア 本件ブルボンCM原版は,テレビCMであって,そのプリント(テレビCM原版のコピー)ができるものであったことに照らすと,映像が動きをもって見えるという効果を生じさせる方法で表現され,ビデオテープ等に固定され,創作性を有していると認めるのが相当である。
そうすると,本件ブルボンCM原版は,映画の効果に類似する視覚的又は視聴的効果を生じさせる方法で表現され,かつ,物に固定されている著作物であるから,映画の著作物(著作権法2条3項)であると認められる。
なお,上記(1)アと同様に,上記のとおり映画の著作物と認められる本件ブルボンCM原版については,映画の著作物に関する規定に基づいて著作者,著作権者を認定するのが相当である。
イ そこで,【少なくとも本件ブルボンCM原版の著作者の一人】について検討するに,Bは,電通に勤務していた平成7年からブルボンのCM制作を担当し,撮影,編集等を担当する制作会社の選定を行い,本件ブルボンCM原版についても企画・制作を指揮していたのであるから,映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者(著作権法16条本文)として,本件ブルボンCM原版の著作者と認めるのが相当である。
なお,上記(1)イと同様に,原告又は被告ADが職務著作により本件ブルボンCM原版の著作者であるということはできない。
ウ 続いて,本件ブルボンCM原版の著作権の帰属について検討するに,上記(1)ウ(ア)のとおり,映画製作者とは,映画の著作物を製作する意思を有し,同著作物の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体であって,そのことの反映として同著作物の製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者である。
【これを本件についてみるに,本件ブルボンCM原版について,これを製作する意思を有し,当該原版の製作に関する法律上の権利・義務が帰属する主体となり,かつ,当該製作に関する経済的な収入・支出の主体ともなる者としては,製作者たる広告主であるブルボンであると認めるのが相当である。】
原告は,上記(1)ウと同様に,本件ブルボンCM原版について,原告が著作権法29条1項の映画製作者であると主張する。
確かに,前記2(3)のとおり,原告は,電通から,被告ADよりも多額の支払を受けているが,その中から原告の支払の大半を占めるのは,撮影,編集関係の費用である。前記CM原版制作の特徴に照らせば,本件ケーズCM原版と同様に,撮影,編集の具体的作業が寄与する程度は,相対的に低いものといわざるを得ない。
そうすると,原告は,本件ケーズCM原版と同様に,本件ブルボンCM原版についても,その製作過程の部分的な関与にとどまるのであって,本件ブルボンCM原版の映画製作者であるということはできない。
【また,原告は,広告映像については著作権法29条1項の適用は排除されるので,本件ブルボンCM原版の著作者であるBとCがその著作権者であり,原告はBとCから同原版の著作権の譲渡を受けたと主張する。
しかし,前記のとおり,映画の著作物である広告映像について同法29条1項の適用が排除されるべきであるとする理由はなく,これを前提とした原告の主張は,その主張自体失当である。】
したがって,原告が本件ブルボンCM原版の著作権を有するとは認められない。
4 被告らの損害賠償責任の成否(争点(2))について
(1)
被告ADの不法行為に基づく損害賠償責任の成否(争点(2)イ)について
【原告は本件各CM原版の著作権を有しないから,原告が著作権を有することを前提として,被告Aの行為が不法行為を構成するとする原告の主張は,採用の限りでない。
また,前記のとおり,制作会社が,CM原版のプリント(複製)をする例があったとしても,本件において,電通と原告間に,本件各CM原版のプリント業務について,原告に独占的に発注する旨の黙示の合意が成立していたと認めるに足りる証拠はない。原則としてプリント業務は制作会社に発注するという慣習法が存在すると認めるに足りる証拠もない。したがって,原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとは認められず,その余について判断するまでもなく,これを前提とした,被告ADの不法行為も認められない。】
したがって,原告の被告アドックに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
(2)
被告Aの不法行為又は債務不履行(取締役としての善管注意義務・忠実義務違反)に基づく損害賠償責任の成否(争点(2)イ)について
ア 不法行為に基づく損害賠償責任について
原告は,本件各CM原版の【著作権を有しておらず,また,電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたとも認められないから,】その余について判断するまでもなく,被告Aが原告に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うとは認められない。
したがって,原告の被告Aに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。
イ 債務不履行に基づく損害賠償責任について
原告は,被告Aについて取締役としての善管注意義務・忠実義務違反があった旨主張する。
しかしながら,上記主張のうち,原告が本件各CM原版の著作権を有することを前提とする主張【及び,原告が電通に対して本件各CM原版のプリント業務を独占的に受注できる権利を有していたことを前提とする主張】については,被告Aの善管注意義務・忠実義務違反の前提に欠けるから理由がない。また,原告は,被告Aが電通から依頼のあった仕事として原告において処理し代金を受け得る状況にあったものを被告ADに横流しした旨主張し,著作権侵害と離れた視点から考えても,善管注意義務・忠実義務違反がある旨主張するが,ここでいう代金を受け得る状況とは,本件ケーズ新CM原版制作とプリント作成の受注をいうものと解される。しかし,原告は,本件各CM原版の著作権を有せず,その著作権を有するのは広告主又は広告代理店である電通であるから,誰に発注するかは電通が自ら又は広告主の意を受けて任意に決定できる事項である。そうすると,原告において,法律上の利益として代金を受け得る状況があったとは認められないし,その他契約関係等の支払を受けうる地位を根拠付けるに足りる証拠もないから,これを前提とする善管注意義務・忠実義務違反の主張は理由がない。
そうすると,その余について判断するまでもなく,被告Aが原告に対して債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとは認められない。
したがって,原告の被告Aに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は理由がない。
(3)
結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。
[控訴審同旨]
1 次のとおり付加,訂正するほかは,原判決に記載のとおりであるから,これを引用する。
(略)
2 結論
以上のとおりであるから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,これと同趣旨の原判決は相当であり,本件控訴はいずれも理由がないので,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。