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著作権判例セレクション
【映画著作物の著作権の帰属】映像の著作権が組合員に合有的に帰属すると認定した事例/映像等の黙示の使用許諾を認定した事例
▶平成31年3月14日大阪高等裁判所[平成30(ネ)1709]
(注) 本件は,控訴人が,被控訴人らに対し,原判決目録(「本件目録」)記載の各映像(DVDに記録された映画)並びに各写真(以下,併せて「本件各著作物」)について,控訴人が著作権を有しているとした上で,被控訴人らが被控訴人会社のウェブサイトに掲載(公衆送信)するなどして控訴人の著作権を侵害していると主張して,著作権法112条に基づく本件各著作物の複製,使用の差止めなどを求めた事案である。原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したが,これを不服とした控訴人が控訴を提起した。
(前提事実)
控訴人は,放送番組の企画及び制作等を目的とする株式会社である。
被控訴人会社は,菓子,酒類,茶,清涼飲料水等の製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。被控訴人P1は,平成27年4月27日まで,被控訴人会社の代表取締役であった者である。
P2は,粘着テープの販売業及び印刷業を目的とする会社を経営している。
控訴人の代表者であるP3,被控訴人P1及びP2は,それぞれ出資をして,ゆず姫有限責任事業組合契約(「本件組合契約」)を締結し,平成21年8月6日にゆず姫有限責任事業組合(「本件組合」)が成立した。本件組合は,有限責任事業組合契約に関する法律に基づくものであり,法人格はない。
1 認定事実
前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(略)
2 争点1(本件各ゆずの里映像の著作権の帰属)について
前記1のとおり,被控訴人P1,P3及びP2は,それぞれの得意分野を持ち寄り,水尾の振興活動に係る事業を進めていくこととし,本件組合を成立させ,本件組合は,その事業活動の広報等のため,本件ゆずの里映像を製作することを企画し,これをP3に依頼した。そして,本件各ゆずの里映像を記録したDVDは,いずれもその内容から映画であると認められるところ,そのうち,第5版以降には,本件組合の名称がDVDの表面及び記録された映像に表示されており,また,第7版には「製作著作
ゆず姫有限責任事業組合」と記載されている。
これによると,本件各ゆずの里映像のうち,本件各ゆずの里映像の第5版以降は,本件組合が企画し,その責任をもって製作したものであって,P3は,その著作者として,その製作に参加したものということができる。したがって,本件各ゆずの里映像のうち第5版以降に係る著作権については,本件組合の組合員に合有的に帰属するというべきである。
また,第1版から第4版の内容からすると,これらの映像は,将来,本件組合による活動に活用するためのビデオを製作するための習作的なものであったことが認められ,上述したとおり,本件組合が成立し,第5版以降の本件各ゆずの里映像の著作権が本件組合の組合員に合有的に帰属することを考えると,第1版から第4版にかかる著作権は,本件組合成立前は,製作者であるP3あるいは控訴人に帰属していたとしても,本件組合成立後,第5版以降のものと同様に取り扱われることが想定されていたと考えられる。そうすると,第1版から第4版にかかる著作権についても,本件組合の成立に従い,組合員に合有的に帰属するよう了解されていたものと認めるのが相当である。
3 争点2(本件各ゆずの里映像等の著作権の譲渡の有無)について
被控訴人らは,仮に,本件各ゆずの里映像に関する著作権が控訴人に帰属するとしても,控訴人が,被控訴人P1に対し,本件各写真を含め,本件各ゆずの里映像等の著作権を譲渡したと主張する。
しかし,何らの対価を得ることもなく,控訴人が本件各ゆずの里映像等の著作権を他に譲渡するとは考えられず,これを認めるに足りる証拠もない。
4 争点3(本件各ゆずの里映像等の使用許諾の有無)について
(1)
はじめに
前記2のとおり,本件各ゆずの里映像にかかる著作権は本件組合の組合員に合有的に帰属することが認められる。しかし,仮に,これらが控訴人に帰属するとしても,以下に述べる理由により,控訴人は,被控訴人らに対し,本件ゆずの里映像等の使用を許諾したと認めるのが相当である。
(2)
被控訴人会社による本件各ゆずの里映像の使用態様
認定事実のとおり,被控訴人らは,本件各ゆずの里映像等を被控訴人会社のウェブサイトや通販サイトなどに掲載し,これらを公衆送信した。
なお,通販サイトでは,ゆず姫のロゴが大きく掲載され,その下に「『水尾のゆず姫』は,ゆず姫LLPのイメージキャラクターです。」との説明が記載されており,その左横に本件写真1の静止画像が掲載され,これらの下に本件各ゆずの里映像のいずれかの映像が動画で掲載されていたが,その後,上記動画は削除された。
(3)
本件各ゆずの里映像等の使用許諾の推定
前述したとおり,本件組合の事業は,水尾の振興活動を主たる目的とするもので,本件組合の組合員である被控訴人P1,P3及びP2において,それぞれ,得意分野を持ち寄って業務を行うことが予定されており,具体的には,水尾の産品(柚子)を利活用した加工食品(菓子)の製造販売等が予定されていた。また,本件各ゆずの里映像が記録されたDVDのうち第5版以降には,本件組合の名称が記載されており,第7版には「製作著作
ゆず姫有限責任事業組合」と記載されている。しかし,本件組合のウェブサイトを独自に製作することができず,被控訴人会社のウェブサイトと同一ドメインの下層ページを使用することになった。
以上によると,控訴人及び被控訴人らの間では,本件各ゆずの里映像等が,被控訴人会社のウェブサイト上に掲載されることは,当然の前提として認識されていたと認めることができる。
それだけでなく,P3は,平成21年10月5日に開催された被控訴人会社の企画会議において,ゆず姫シリーズの商品についての販売促進のため,ホームページ用DVD(本件各ゆずの里映像のうち第5版)及び商品画像データを被控訴人らに交付しており,P3は,本件組合と被控訴人らが一心同体であると認識していたとも供述している。
控訴人は,平成21年7月1日に,被控訴人会社から,水尾柚子の里PV(本件ゆずの里映像)の取材,編集一式20万円を含む,49万9800円の支払を受け,その後,通販サイトにおいて,本件ゆずの里映像が掲載されているのを確認したものの,平成28年2月に請求書を被控訴人会社に送付するまでの間,被控訴人会社に対し,本件ゆずの里映像等について,費用や報酬の請求をしていない。
上記各事実に照らすと,控訴人と被控訴人らとの間では,被控訴人らが,本件各ゆずの里映像等を前記(2)のとおり,通販サイトを含めて使用することが当然予定されており,控訴人は,前記(2)の使用を許諾していたことが認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(4)
まとめ
したがって,本件各ゆずの里映像等に係る著作権が控訴人に帰属するとしても,被控訴人らが,控訴人の上記著作権を侵害したということはできない。
5 争点4(本件貴船神社映像の複製,使用の有無)について
認定事実のとおり,P3が本件貴船神社映像を製作し,控訴人が,上記映像を記録したDVDを製作したこと,控訴人は,上記DVDを被控訴人らに交付し,貴船神社奉賛会において試写されたことが認められる。
しかし,被控訴人らが,本件貴船神社映像を複製し,もしくは公衆送信などにより使用したことを認めるに足りる証拠はなく,被控訴人らが本件貴船神社映像に係る著作権を侵害したということはできない。
6 争点5(本件P4さん映像の複製,使用の有無)について
前提事実のとおり,P3は,被控訴人会社の依頼に基づき,本件P4さん映像の素材となる映像を撮影し,これを編集して,中国語ウェブサイト用の本件P4さん映像を作成し,控訴人は,上記映像を記録したDVDを製作し,平成25年1月28日ころ,被控訴人P1に対し,これを納品したのであるから(完成版の日付は同年2月15日),その後,被控訴人会社が,本件P4さん映像をその目的の範囲内で複製し,もしくは公衆送信などにより使用したことが推認される。
7 争点7(本件P4さん映像の使用許諾の有無)について
本件P4さん映像の製作経過が前記6のとおりであることに加え,認定事実のとおり,被控訴人会社は,控訴人から,本件P4さん映像を記録したDVDを受領し,中国用ホームページ映像製作一式として18万円を支払ったことが認められる。以上によると,少なくとも,前記6の使用を控訴人が許諾していることが認められる。
なお,控訴人は,上記18万円について,映像製作の報酬でもないと主張するが,請求書や領収書の記載(「中国用ホームページ用映像制作」)に照らし,採用できない。
したがって,被控訴人らが本件P4さん映像に係る著作権を侵害したということはできない。
第4 結論
以上によれば,控訴人の本件各請求はその余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却すべきところ,これと同旨の原判決は結論において相当である。よって,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。